ゼロカーボン・ドライブとは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って発電した電力と、EV(電気自動車)等を活用した走行時のCO2排出量がゼロのドライブのことです[*1]。
環境省は2021年3月、再生可能エネルギー電源とEV等をセットで導入する消費者を対象とした補助制度を開始するなど、ゼロカーボン・ドライブの普及に向けた取り組みを加速させています[*2]。
それでは、ゼロカーボン・ドライブにはどのようなメリットがあるのでしょうか。普及に向けた国や自治体の取り組み等と併せて、詳しくご説明します。
ゼロカーボン・ドライブとは
ゼロカーボン・ドライブに使用される自動車
ゼロカーボン・ドライブは、再生可能エネルギー電源を使って走行するEVやPHEV(プラグインハイブリット車)、FCV(燃料電池自動車)等のクリーンエネルギー自動車よって実現可能なドライブです[*1], (図1)。
図1: 走行時のCO2排出量がゼロになる自動車
出典: 環境省「あなたのドライブから脱炭素の未来へ」
https://www.env.go.jp/air/zero_carbon_drive/
EVは、バッテリー(蓄電池)に蓄えた電気でモーターを動かす自動車です。一方、PHEVは、EVと同様に電気でモーターを動かすことができますが、EVと異なりガソリンでエンジンを動かして走行することもできる自動車です。
そして、FCVは、車体に搭載された燃料電池で発電を行い、その電気でモーターを回転させて走る自動車です。
ゼロカーボン・ドライブの環境性
EV等の自動車は、従来のガソリン車と比較して、走行時のCO2排出量が大幅に少なく、LCA(Life Cycle Assessment:商品の製造時から廃棄までの工程における環境負荷)も小さくなっています[*1], (図2)。
図2: ガソリン車とEVのLCAにおけるCO2排出量の比較
出典: 環境省「あなたのドライブから脱炭素の未来へ」
https://www.env.go.jp/air/zero_carbon_drive/
EVのLCAにおけるCO2排出量はバッテリー容量によって異なりますが、ガソリン車と比べて20~30%少ないという調査結果もあります。
また、通常、太陽光発電は昼間に多く稼働しているため、晴天の昼間と石炭火力発電が多く稼働する夜間では、電力消費に伴うCO2排出量に2倍以上の差が生じることがあります[*3], (図3)。
図3: ガソリン車とEVのLCAにおけるCO2排出量の比較
出典: 株式会社PR TIMES「EVの『昼充電』やV2Gのタイムシフトによる環境価値を創出し取引する技術の特許を取得」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000119617.html
そのため、再生可能エネルギーが多く稼働する昼間に充電することで、CO2排出量の削減に貢献できます。さらに、充電する電気をすべて再生可能エネルギー電源から調達することで、走行時におけるCO2排出ゼロを実現できます。
再生可能エネルギー電力の調達活用
先述したように、再生可能エネルギー由来の電力を使うことでゼロカーボン・ドライブを実現できますが、どのように電力を調達すればよいのでしょうか。
ゼロカーボン・ドライブを推進する環境省は、調達方法について以下の3つを紹介しています[*4], (図4)。
図4: 再生可能エネルギー100%電力調達の方法
出典: 環境省水・大気環境局自動車環境対策課「『再エネ100%電力調達』要件の解説」
https://www.env.go.jp/air/saiene/saiene_kaisetsu.pdf, p.4
一つ目が、屋根上や駐車場などの敷地内や敷地の近くに設置した再生可能エネルギー電源から直接電力を調達する方法です。
しかしながら、「設置場所や費用の問題で、自分で再生可能エネルギー電源を設置するのは難しい」という方もいるかもしれません。そのような場合には、二つ目として、小売電力事業者等が提供する「再生可能エネルギー電力メニュー」を購入する方法があります。
最後に、三つ目として、環境価値だけを「再生可能エネルギー電力証書」という形で購入する方法もあります。環境価値とは、再生可能エネルギー電源が持つCO2を排出しないという価値のことです。「グリーン電力証書」と「再エネ電力由来J-クレジット」があり発電事業者からだけでなく、小売電気事業者や仲介事業者からも購入可能です[*1, *4, *5]。
需要家は、これらの手法を組み合わせることも可能です。
ゼロカーボン・ドライブ普及に向けた国や自治体による取り組み
クリーンエネルギー自動車購入補助の実施
ゼロカーボン・ドライブの普及に向けて、政府はEV等の購入補助を実施しています。例えば、経済産業省と環境省は、クリーンエネルギー自動車及び再生可能エネルギー100%電力の導入をセットで支援する補助事業を、令和2年度補正予算で実施しました[*6]。
本補助金は終了しましたが、クリーンエネルギー自動車の導入にかかる補助事業は2023年度も引き続き実施されています[*7], (図5)。
図5: クリーンエネルギー自動車の補助金の概要
出典: 経済産業省「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)の概要」https://www.meti.go.jp/policy/automobile/CEV/r4hosei_CEV_gaiyou_r.pdf
地方自治体によるゼロカーボン・ドライブ普及支援も活発化しています。例えば、宮城県では、県内の法人等がカーシェアリングを行いながらゼロカーボン・ドライブを実現するために、クリーンエネルギー自動車や充放電設備、太陽光発電設備の導入費用の補助を行う「ゼロカーボン・ドライブ普及促進事業費補助金」を実施しています[*8]。
本事業において、EVは1台当たり最大100万円(補助率1/3)、PHEVは最大60万円(補助率1/3)の補助を受けられます。また、充電設備は1箇所当たり最大50万円(補助率1/2)、太陽光発電設備は1者当たり最大100万円(出力1kw当たり5万円)受給することができます。
また、市町村による補助制度も実施されています。福島県いわき市では、ゼロカーボン・ドライブ促進のため、EVやFCVに対し従来の補助額からさらに10万円の補助を上乗せした「令和5年度いわき市ゼロカーボンドライブ等導入促進補助制度」を実施しています[*9], (表1)。
表1: 令和5年度いわき市ゼロカーボンドライブ等導入促進補助制度における補助額
出典: いわき市「令和5年度 いわき市ゼロカーボンドライブ等導入促進補助制度」
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1679635551239/index.html
このように、クリーンエネルギー自動車の購入に伴い、企業や団体、消費者は、国や自治体の補助制度を活用することができます。
国立公園における駐車場無料キャンペーンの実施
ゼロカーボン・ドライブ普及に向け、環境省は、全国12の国立公園・国民公園を対象にしたEVやFCVの駐車料金無料キャンペーンを実施しています[*10], (表2)。
表2: 駐車料金無料キャンペーンの対象となる国立公園・国民公園
出典: 環境省「ゼロカーボン・ドライブで国立公園に行ってみよう!」
https://www.env.go.jp/nature/nationalparks/pick-up/zero-carbon-drive/
また、国立公園内のマイカー規制区間である富士山の3路線(富士スバルライン、富士山スカイライン、ふじあざみライン)では、EVやFCVの通行が可能となっています。
このように、ゼロカーボン・ドライブに取り組むことで、個人にも様々なメリットがあると言えるでしょう。
ゼロカーボン・ドライブを取り入れてみよう
ゼロカーボン・ドライブ普及に向けては、EVや充電設備等の購入費用などコスト面のハードルがあります。しかしながら、今回紹介したように、導入を検討する企業等や消費者は、様々な補助制度を活用できるとともに、ゼロカーボン・ドライブに取り組むことで様々なメリットを享受できます。
また、環境省は2022年度から、地方自治体や民間企業等が導入した公用車や社用車を地域住民がシェアできるシェア用車と呼ばれる取り組みを支援しています[*2], (図6)。
図6: シェア用車普及に向けた取り組み
出典: 環境省「ゼロカーボン・ドライブ第2弾」
https://www.env.go.jp/air/car/zero_carbon_drive02.pdf, p.2
例えば、石川県加賀市は2021年12月から、平日の夜・土日・祝日に公用EVを誰でも利用できるサービス「OFFON(オフォン)」を開始しました。同サービスは、登録から利用まで全てスマホで手続き可能なため、手軽に利用できると言えます[*11]。
シェア用車は、自身で所有しなくても個人がゼロカーボン・ドライブに取り組めるような仕組みを作ることが狙いです。全国で普及すれば、ゼロカーボン・ドライブがより身近なものになると言えます[*2]。
国や自治体の支援制度やシェア用車などを活用して、ゼロカーボン・ドライブに取り組んでみるのはいかがでしょうか。
参照・引用を見る
*1
環境省「あなたのドライブから脱炭素の未来へ」
https://www.env.go.jp/air/zero_carbon_drive/
*2
環境省「ゼロカーボン・ドライブ第2弾」
https://www.env.go.jp/air/car/zero_carbon_drive02.pdf, p.1, p.2
*3
株式会社PR TIMES「EVの『昼充電』やV2Gのタイムシフトによる環境価値を創出し取引する技術の特許を取得」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000119617.html
*4
環境省水・大気環境局自動車環境対策課「『再エネ100%電力調達』要件の解説」
https://www.env.go.jp/air/saiene/saiene_kaisetsu.pdf, p.4
*5
一般社団法人 REアクション推進協会「環境価値の売買で再エネを有効活用! 非化石証書・各証書の概要・メリット・デメリットを解説」
https://re-action.jp/environmental-value-2/re-action-join-
*6
一般社団法人 次世代自動車振興センター「令和2年度第3次補正予算 CEV補助金の申請」
https://www.cev-pc.or.jp/hojo/r02hosei-cev.html
*7
経済産業省「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)の概要」
https://www.meti.go.jp/policy/automobile/CEV/r4hosei_CEV_gaiyou_r.pdf
*8
宮城県「『ゼロカーボン・ドライブ普及促進事業費補助金』のご案内」
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/jidousha/zero-carbon-drive.html
*9
いわき市「令和5年度 いわき市ゼロカーボンドライブ等導入促進補助制度」
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1679635551239/index.html
*10
環境省「ゼロカーボン・ドライブで国立公園に行ってみよう!」
https://www.env.go.jp/nature/nationalparks/pick-up/zero-carbon-drive/
*11
加賀市「EVシェアリングの新しいスタイル『OFFON(オフォン)』」
https://www.city.kaga.ishikawa.jp/ijyu/4/8185.html