注目を集める洋上風力発電―普及に向けた低コスト化の取り組みの動向は?

海の上に風車を持っていき、そこで発電を行う洋上風力発電は、近年国内外で急速に導入が進む再生可能エネルギーの一つです[*1]。

国内でも、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーの主力電源化の切り札として注目を集めています。一方で、諸外国と比較すると、日本ではまだ導入コストが高いという課題があります[*2]。

それでは、コスト低減に向けて、国内ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。また、洋上風力発電の導入が進むと、社会へどのような好影響がもたらされるのでしょうか。詳しくご説明します。

 

洋上風力発電とは
洋上風力発電の仕組み

洋上風力発電設備には、海底に固定した基礎に風車を設置する着床式と、海上に浮かぶ浮体物に風車を設置する浮体式があります[*3], (図1)。

図1: 主な洋上風力発電設備の形式とその特徴
出典: 国土交通省「令和4年版 国土交通省白書」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/pdf/kokudo.pdf, p.76

着床式は、浅い海域を持つ欧州を中心に導入が進んでいます。他方、海底の地形が急に深くなる日本では、深い海域でも導入可能な浮体式の導入が期待されています[*2]。

洋上風力発電が注目される背景

陸上に風車を設置するほうが洋上に設置するよりも安価なため、現在の日本では、陸上での風力発電設置が主流となっています。2021年末時点の日本の風力発電の累積導入量は2,574基(4,581MW)ですが、洋上風力発電はわずか26基(51.6 MW)のみです[*1, *4]。

一方で、洋上では、山などの地形の影響を受けて風向や風の強さが頻繁に変化することが少ないため、陸上と比較して安定的な発電が可能というメリットがあります[*5]。

また、陸上に風力発電を設置するとなると、土地や道路などによる設置の制限がありますが、洋上ではそういった制限が少ないため、大型発電機の導入が容易です。

さらに、洋上風力発電の設置場所は生活エリアから離れるため、騒音や景観による人々への影響が少ないことも大きなメリットと言えるでしょう[*1]。

以上のような点に加え、日本は四方を海に囲まれているため、洋上風力発電の導入ポテンシャルが高いと言われています[*6], (図2)。

図2: 日本周辺の洋上風力発電の適地とエリア別の導入イメージ
出典: 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構「洋上風力発電って何がすごい? 日本における再生可能エネルギーのメリットを解説!」
https://www.jogmec.go.jp/publish/plus_vol10.html?mid=wn230301

北海道や九州周辺の海域には、洋上風力発電の適地が多くあります。具体的には、2030年までに北海道で124~205万kW、九州で222~298万kW、2040年までに北海道で955~1,465万kW、九州では775~1,190万kWの導入が見込まれています[*7]。

 

洋上風力発電の普及に向けた政府の取り組み
洋上風力産業ビジョン(第1次)の策定

日本政府は、洋上風力発電の導入を促進するため、2020年12月に「洋上風力産業ビジョン(第1次)」を発表しました[*8], (図3)。

図3: 「洋上風力産業ビジョン(第1次)」の概要
出典: 経済産業省資源エネルギー庁、国土交通省港湾局「洋上風力発電の導入促進に向けた取組」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210921/210921energy05.pdf, p.1

同ビジョンでは導入目標を明示しており、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万~4,500万kWの洋上風力発電を導入するとしています。

再エネ海域利用法の施行

また、洋上風力発電の導入促進に向けては、海域利用におけるルール整備も不可欠です。政府は、2019年4月1日に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」を施行しました[*8], (図4)。

図4: 「再エネ海域利用法」とは
出典: 経済産業省資源エネルギー庁、国土交通省港湾局「洋上風力発電の導入促進に向けた取組」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210921/210921energy05.pdf, p.2

これまでは、海域利用に関する統一的なルールがなく、都道府県ごとの許可は通常3~5年と短いものでしたが、洋上風力発電事業を実施可能な促進区域が指定され、30年間の長期占有を可能とする制度が創設されました。

2023年10月3日時点で促進区域は10か所指定されており、有望区域は9か所、準備区域も8か所となっています[*9], (図5)。

図5: 「再エネ海域利用法」に基づく促進区域・有望な区域・準備区域の状況
出典: 資源エネルギー庁「洋上風力発電関連制度」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/index.html

「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトの推進

国内での洋上風力発電の推進に向けては、導入にかかるコストの低減も不可欠です。そこで政府は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)にグリーンイノベーション基金事業を立ち上げ、「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクト(総額1,195億円)に着手しています[*10]。

2030年までに着床式の発電コストを1kWhあたり8~9円、浮体式を国際競争力のあるコスト水準で商用化する技術を確立することを目標としており、具体的には、2つのフェーズに分けた段階的な取り組みが行われています[*2, *11], (図6)。

図6: 「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトの概要
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/洋上風力発電の低コスト化  2022年度 WG報告資料」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/green_power/pdf/004_05_00.pdf, p.2

フェーズ1では、コスト低減を図るため、風車、浮体製造・設置、電気システム、運転保守という4つのテーマの研究開発が行われています。フェーズ2では、風車や浮体、ケーブル等の一体設計を行い、システム全体として統合した浮体式洋上風力発電の実証事業を実施予定です。

こうしたコスト低減の取り組みによる洋上風力発電の導入拡大によって、経済及び環境への波及効果も期待できます。国際再生可能エネルギー機関の試算に基づくと、2030年の洋上風力発電プロジェクト全体の投資額は、世界で約6.6兆円となります。また、2030年の世界の洋上風力の導入容量は228GWと試算されています。さらに国内では、日本政府が開催した委員会等において、2030年の洋上風力発電量(導入見込み)は168~368万kWとされています。

以上の試算を踏まえつつ、アジア市場全体の25%のシェアと日本市場全体のシェアを獲得したと仮定すると、その経済効果は約1兆円となります。

また、2050年には、経済波及効果のさらなる増加が見込まれます。国際再生可能エネルギー機関の試算に基づくと、約2兆円になると推計されており、洋上風力発電は今後さらに魅力的な市場になると言えるでしょう[*2]。

また、CO2削減効果も期待できます。先述したように、火力発電由来の電力の代わりに、168~368万kW分の洋上風力発電由来の電力が導入されたと仮定すると、2030年の年間CO2削減量は約300~700万トンとなります。導入がさらに拡大し、4,500万kW分導入された場合、2050年には、CO2削減量は年間約0.9億トンまで増加すると言われています。

NEDOによる「洋上風況観測ガイドブック」の公開

洋上風力発電設備を実際に設置する場合、その安全性や発電量を事前評価するため、最低1年間は風を実測することが必要です。そのため、風車や浮体自体のコストのみならず、適地を判断するための調査コストもかかります[*1]。

洋上の風況観測において、現在普及している最も精度の高い方法は「洋上風況観測マスト(洋上の風速、風向を計測するために設置する自立型のマスト)」と言われています。しかしながら、同手法には一般的に地元との調整や許認可手続きに長い時間を要するほか、多大な建設コストを要するという課題があります[*12]。

そこでNEDOは2023年4月に、従来の観測手法よりも低コストで精度の高いリモートセンシング機器を活用して陸から観測する洋上風況観測手法を確立しました[*12], (図7)。

図7: NEDOによる低コストで精度の高い洋上風況観測手法の確立
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO、国内初となる『洋上風況観測ガイドブック』を公開」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101630.html

同手法は、風車設計に必要な風況観測等を実施する実務者が参照できるよう「洋上風況観測ガイドブック」としてまとめられ、NEDOのホームページで公開されています。今後、同手法が普及すれば、さらなるコスト低減が期待できると言えるでしょう。

 

洋上風力発電のコスト低減による影響

コスト低減によって経済効果やCO2削減効果などのメリットがある洋上風力発電には、雇用への波及効果も期待できます[*13]。

公益財団法人自然エネルギー財団の試算によると、洋上風力発電の建設によって2050年までに140万人の雇用創出が見込まれるとしています。また、洋上風力発電の運営によって、2050年時点で年間約3万人の雇用創出が期待されています。

現状ではまだまだコストの高い洋上風力発電ですが、低コスト化の実現によって、様々な好影響が期待できると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「洋上風力発電とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20221109.html

*2
経済産業省 資源エネルギー庁「『洋上風力発電の低コスト化』プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画」
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211001004/20211001004-2.pdf, p.3, p.6, p.7, p.8

*3
国土交通省「令和4年版 国土交通省白書」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/pdf/kokudo.pdf, p.76

*4
一般社団法人 日本風力発電協会「2021年末日本の風力発電の累積導入量:458.1万kW、2,574基」
https://jwpa.jp/information/6225/

*5
三井物産株式会社「洋上風力発電とは?陸上風力発電との違いやメリット・デメリットを解説!」
https://www.mitsui.com/solution/contents/solutions/re/34

*6
独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構「洋上風力発電って何がすごい? 日本における再生可能エ
ルギーのメリットを解説!」
https://www.jogmec.go.jp/publish/plus_vol10.html?mid=wn230301

*7
洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次) 概要」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/002_02_01_01.pdf, p.7

*8
経済産業省資源エネルギー庁、国土交通省港湾局「洋上風力発電の導入促進に向けた取組」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210921/210921energy05.pdf, p.1, p.2

*9
資源エネルギー庁「洋上風力発電関連制度」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/index.html

*10
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業、『洋上風
発電の低コスト化』に着手」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101505.html

*11
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/洋上風力発電の低コスト化  2022年度 WG報告資料」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/green_power/pdf/004_05_00.pdf, p.2

*12
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO、国内初となる『洋上風況観測ガイドブック』を公開」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101630.html

*13
公益財団法人 自然エネルギー財団「日本における洋上風力発電導入の社会経済分析」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_OSW_SocioEconomicAnalysis_JP.pdf, p.8, p.9

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