工場排熱や地中熱が再生可能エネルギーになる? 未利用熱エネルギーの種類や活用事例を紹介

未利用熱エネルギーとは、工場排熱や地中熱など、有効に利用できる可能性があるにもかかわらず、これまで利用されてこなかったエネルギーのことです[*1]。

現在、日本で消費されるエネルギーのうち、半分以上が熱として捨てられていると言われています。2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、これらの未利用熱を有効活用することが重要です[*2]。

それでは、未利用熱エネルギーにはどのような種類があるのでしょうか。また、日本ではどのように活用されているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

日本におけるエネルギーロスの現状

冒頭でも紹介したとおり、現在、日本で消費されるエネルギーの半分以上が熱(エネルギーロス)として捨てられています。具体的には、国内の一次エネルギー消費量に対して、6~7割ほどがエネルギーロスとなっています[*3], (図1)。

図1: 国内におけるエネルギーロスの現状
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「ここまで来た熱利用~脱炭素社会を切り拓く熱の3R」
https://www.nedo.go.jp/content/100943196.pdf, p.8

産業分野や民生分野、運輸分野など幅広い分野からエネルギーロスは発生していますが、これらを未利用熱エネルギーとして活用することで、省エネ化に貢献できると言えます。

未利用熱エネルギーの種類

未利用熱エネルギーには、工場排熱のほか、自動車の放熱やエアコンの排熱など様々なものがあり、排熱以外にも、河川や地下水、生活排水が持つ熱などが含まれます[*4, *5], (表1)。

表1: 未利用エネルギーの種類出典: 大阪府「18.未利用エネルギー~今まで利用されていなかったエネルギーを活用」
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6800/00028096/gijyutu_18_.pdf, p.1

このように、数多くの未利用熱エネルギーが存在しますが、今回は、主な未利用熱エネルギーとして、地中熱、工場等の産業排熱、下水熱の概要と活用事例を見ていきましょう。

 

主な未利用熱エネルギーの概要と活用事例
地中熱の活用事例

地中熱とは、深さ10mほどの浅い地盤中に存在する低温の熱エネルギーのことです。浅い地盤中に存在する熱の温度は、年間を通じて温度の変化が見られないため、外気との温度差を利用して効率的な冷暖房を行うことが可能です[*6, *7], (図2)。

図2: 地中熱とは
出典: 環境省「地中熱とは?」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_117.html

大地と熱を交換する方法は、ヒートポンプシステムや空気循環など、数種類あります[*7], (図3)。

図3: 地中熱利用の方法
出典: 環境省「地中熱とは?」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_117.html

例えば、ヒートポンプシステムとは、夏は外気より温度の低い地中熱を放熱し、冬は外気より温度の高い地中熱を採熱することで冷暖房や給湯に活用する仕組みのことです。

2021年度までの地中熱利用システムの累計設置件数は全国で8,761件でしたが、ヒートポンプの導入が最も多く、全体の36.7%を占めています[*8], (図4)。

図4: 利用方法別累計設置件数(2021年度末)
出典: 環境省 水・大気環境局水環境課 地下水・地盤環境室「令和4年度地中熱利用状況調査の集計結果」
https://www.env.go.jp/content/000141999.pdf, p.2

ヒートポンプは、CO2排出量の削減にも大きく貢献しています。例えば、広島県三次市では、庁舎の冷暖房にヒートポンプが導入されていますが、導入後の電力削減量は124GJ、CO2削減量は8.8t(比較対象設備と比べて20%削減)と報告されています[*9]。

ヒートポンプに次いで多く導入されている空気循環方式の2021年度までの累計設置件数は、全体の25.8%を占めています。空気循環方式では、地下に埋設したパイプを通じて地中で熱交換された外気を、住宅等の保温や換気に利用しています[*7, *8]。

また、水循環方式も広く普及しています。水循環方式とは、循環ポンプを使って水・不凍液を循環させる仕組みのことで、主に道路の融雪に利用されています。

工場等の産業排熱の活用事例

先述したように、工場等の生産工程で発生する排熱も、熱エネルギーとして有効活用することができます[*5]。

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)等が実施した調査によると、100~149℃の排熱は年間約300PJ(ペタジュール)、150~199℃の排熱は年間約200PJ発生しているといいます[*3], (図5)。

図5: 排ガス熱量(全国推計値)
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「ここまで来た熱利用~脱炭素社会を切り拓く熱の3R」
https://www.nedo.go.jp/content/100943196.pdf, p.10

一方で、20~200℃以下の領域における熱需要は1,200PJ超となっており、これまで捨てられていた排熱をこれらの熱需要に充てることで、省エネにつながります[*3], (図6)。

図6: 業種別熱需要
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「ここまで来た熱利用~脱炭素社会を切り拓く熱の3R」
https://www.nedo.go.jp/content/100943196.pdf, p.11

現在では、排熱の有効活用に向けた事業が各地で行われています。例えば、富士石油袖ヶ浦製油所は、石油精製の過程で生じた排熱を、隣接する住友化学千葉工場まで1.5kmの配管で輸送し、ボイラー給水の加温に活用しています[*10], (図7)。

図7: 二工場間の廃熱輸送配管の状況
出典: 資源エネルギー庁「未利用熱活用制度の創設について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kojo_handan/pdf/2015_002_03_00.pdf, p.11

本事業によって、住友化学千葉工場は年間4,900klの省エネ(CO2削減効果で年間28,000t)を達成するとともに、年間数億円もの燃料費を節減しています。

また、工場の未利用排湯を近隣温泉の加温に活用する取り組みも行われています。例えば、宝酒造株式会社島原工場では、これまでアルコール蒸留後の温水がほとんど利用されないまま海に排水されていました。

そこで同社は、工場と近隣の温泉給湯所を送湯管で結び、工場排湯を給湯所へ供給する取り組みを開始しました。その結果、現行の灯油ボイラーによる加温方式と比べて、原油換算で年間253klのエネルギー消費量の削減、3千万円以上ものコスト削減に成功しています。

下水熱の活用事例

下水熱とは、都市内に豊富に存在する下水が持つ熱のことです。下水は外気に比べて冬は暖かく、夏は冷たいという特徴があります。また、下水は、日常生活から発生するため、安定的かつ豊富に存在するという点も特徴です[*11]。

近年では、下水熱を活用した取り組みが行われています。例えば、名古屋市では、露橋水処理センターから再開発エリアである「ささしまライブ24地区」に再生した水を送水し、冷暖房の熱源等に活用しています[*12], (図8)。

図8: 名古屋市の大規模再開発エリアにおける下水利用
出典: 国土交通省「下水熱利用に係る取組事例集」
https://www.mlit.go.jp/common/001233624.pdf, p.16

下水熱利用によるCO2削減効果は年間600t-CO2(杉林約68haによるCO2年間吸収量に相当)と試算されており、温暖化対策にもつながっています。

また、下水熱は農業分野でも活用されています。愛知県にある豊川浄化センターでは、下水熱を、ミニトマトを栽培するハウスの空調等に利用しています[*12], (図9)。

図9: 豊川浄化センターの農業施設における下水利用
出典: 国土交通省「下水熱利用に係る取組事例集」
https://www.mlit.go.jp/common/001233624.pdf, p.18

豊川浄化センターの農業施設における下水熱の導入により、従来型の設備と比較して、化石燃料使用量が3割以上削減できたと試算されています。

 

未利用熱エネルギーのさらなる活用に向けて

ここまで、主な未利用熱エネルギーの活用事例を紹介してきましたが、さらなる導入促進に向けた研究開発も行われています。

例えば、工場や自動車等から排出された熱を広く活用するため、熱を貯めておくことができる蓄熱技術の研究です。具体的には、自動車の走行時の排熱を翌日の始動時に使用することを想定して、長期に蓄熱できるシステムの開発が行われています[*13]。

社会全体のエネルギー効率を向上させて省エネルギーを実現するためには、このような未利用熱を有効活用する技術を開発し、社会実装することが欠かせません。

 

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

\ 自然電力からのおしらせ /

1MW(メガワット)の太陽光発電所で杉の木何本分のCO2を削減できるでしょう?
答えは約5万2千本分。1MWの太陽光発電所には約1.6haの土地が必要です。

太陽光発電事業にご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

国内外で10年間の実績をもつ自然電力グループが、サポートさせていただきます。

▶︎お問い合わせフォーム

▶︎太陽光発電事業について詳しく見る

▶︎自然電力グループについて

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
一般社団法人 有明未利用熱利用促進研究会「未利用熱とは」
https://arimiri.com/energy-2/

*2
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「特集 省エネ・脱炭素への道をひらく 未利用熱エネルギー活用技術」
https://webmagazine.nedo.go.jp/pr-magazine/focusnedo87/sp1-1.html

*3
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「ここまで来た熱利用~脱炭素社会を切り拓く熱の3R」
https://www.nedo.go.jp/content/100943196.pdf, p.8, p.9, p.10, p.11, p.12

*4
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「Focus NEDO 2019 No.71」
https://www.nedo.go.jp/content/100887994.pdf, p.5

*5
大阪府「18.未利用エネルギー~今まで利用されていなかったエネルギーを活用」
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6800/00028096/gijyutu_18_.pdf, p.1

*6
資源エネルギー庁「地中熱利用」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/underground/index.html

*7
環境省「地中熱とは?」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_117.html

*8
環境省 水・大気環境局水環境課 地下水・地盤環境室「令和4年度地中熱利用状況調査の集計結果」
https://www.env.go.jp/content/000141999.pdf, p.1, p.2

*9
特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会「三次市庁舎」
http://www.geohpaj.org/wp/wp-content/uploads/achievement_107_202112.pdf

*10
資源エネルギー庁「未利用熱活用制度の創設について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kojo_handan/pdf/2015_002_03_00.pdf, p.11, p.12

*11
国土交通省「下水熱利用の推進に向けて」
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000458.html

*12
国土交通省「下水熱利用に係る取組事例集」
https://www.mlit.go.jp/common/001233624.pdf, p.15, p.16, p.17, p.18

*13
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「省エネルギーへのフロンティア」
https://www.nedo.go.jp/content/100957589.pdf, p.5, p.6

メルマガ登録