「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略」って? CO2排出削減の取り組みを紹介

2020年10月に菅元内閣総理大臣によって宣言された「2050年カーボンニュートラル」。2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするには、産業部門から家庭部門まで、幅広い分野におけるCO2排出削減の取り組みが不可欠です[*1]。

このような流れを受けて、2023年9月、「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略」の中間とりまとめが公表されました。同戦略は、道路分野におけるCO2排出削減の取り組みの方向性等を規定したものです。

それでは現在、道路分野からどれほどのCO2が排出されているのでしょうか。また、排出量の削減に向けて、どのような取り組みが実施されているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

道路分野におけるCO2排出量

日本国内において、インフラ分野(セメントなどの原材料や、鉄道、船舶、航空輸送等におけるインフラ整備など)からのCO2排出量は約6.4億トン-CO2(2020年度)。国内全体の総排出量に対して、3分の2近くを占めています[*2], (図1)。

図1: 日本国内におけるCO2排出量の内訳(2020年度)
出典: 国土交通省「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略 中間とりまとめ 概要」
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/utilization/datutannsoka/cn-outline.pdf, p.2

また、インフラ分野の中でも、道路分野(道路管理や道路利用、道路管理など)からのCO2排出量は年間約1.75億トン-CO2と、大きな比重を占めています。

道路分野のうち、道路を通行する自動車からの排出など道路利用からは約1.60億トン-CO2ものCO2が排出されました。次いで、道路工事等の道路整備による排出量は約1,330万トン-CO2、道路管理等にかかる排出量は約140万トン-CO2となっています[*1]。

インフラ分野におけるCO2排出削減目標

2050年カーボンニュートラルの実現には、政府が先頭に立ってCO2排出削減に向けた取り組みを進めていくことが求められています。そこで政府は、2021年10月22日に、「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました[*3]。

政府は本計画の中で、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することを目指すとし、さらには、50%削減に向けて取り組みを強化することを表明しました。

同計画において、道路インフラを所管する国土交通省は、インフラ分野における2030年度の削減目標値を約5,300万トン-CO2に設定しました[*2]

このうち、道路分野における削減目標値は約241万トン-CO2となっています。

 

道路におけるカーボンニュートラル推進戦略の中間とりまとめ

先述したように、道路分野におけるCO2排出量は年間約1.75億トン-CO2で、インフラ分野全体の約16%を占めています。一方で、「地球温暖化対策計画」に記載された道路分野単独でのCO2排出目標は約241万トン-CO2と、現在の排出量と比較して低い水準です[*1, *2]。

そこで国土交通省は、道路分野におけるCO2排出削減を加速させるため、「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略」の策定を進めています。

2023年9月には、同戦略の中間とりまとめが公表され、CO2排出量のさらなる削減に向けて、4つの柱で取り組みを実施すると発表しました[*2], (図2)。

図2: 道路分野のカーボンニュートラル推進戦略の4つの柱
出典: 国土交通省「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略 中間とりまとめ 概要」
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/utilization/datutannsoka/cn-outline.pdf, p.4

再生可能エネルギーの活用や道路ネットワークの整備などによって、道路分野におけるCO2排出量の削減を目指すとしています。以下、4つの柱について取り組み内容を紹介します。

道路交通の適正化

渋滞による自動車の走行速度低下は、CO2排出量増加の原因になると言われています。走行速度とCO2排出量の関係を見ると、走行速度の低下によって走行距離当たりのCO2排出量は増加する傾向にあります[*4], (図3)。

図3: CO2排出量と走行速度の関係
出典: 国土交通省「道路分野におけるカーボンニュートラルへの貢献」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001470072.pdf, p.7

また、世界58か国404都市を対象とした渋滞指数調査によると、東京は17位、大阪は34位、名古屋は49位となっています。自動車走行時のCO2排出量を削減するためには、都市における渋滞対策も不可欠です。

そこで国土交通省は、走行速度を高めるため、首都圏における道路ネットワークの構築や、路上工事縮減など渋滞の解消・緩和に向けた取り組みを進めています[*1, *4], (図4)。

図4: 道路交通の適正化
出典: 国土交通省「道路分野におけるカーボンニュートラルへの貢献」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001470072.pdf, p.11

例えば、三大都市圏の環状道路の重点的な整備や、ビックデータ等を活用して、渋滞の原因となっている箇所を洗い出し、ピンポイントで付加車線を設置するなどの対策が行われています。

低炭素な人流・物流への転換

「全国道路・街路交通情勢調査」によると、自動車を用いた移動の約7割が5km未満の移動と、短距離での利用割合が多くなっています。また、平日の自動車利用における乗車人数の約7割が1人乗りとなっており、移動効率が低いのが現状です[*4]。

そこで国土交通省は、新たなモビリティや公共交通、自転車など低炭素な交通手段の利用促進を進めています[*2], (図5)。

図5: 低炭素な人流・物流への転換
出典: 国土交通省「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略 中間とりまとめ 概要」
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/utilization/datutannsoka/cn-outline.pdf, p.7

新たなモビリティとしては、環境性能に優れた小型モビリティの導入が進められています。比較的短い距離の移動時に活用可能な小型モビリティは、既に全国で約6,000台導入されており、コンビニエンスストアや行政機関、観光利用など幅広い場面で活用されています[*5], (図6)。

図6: 小型モビリティ導入事例
出典: 国土交通省自動車局環境政策課「超小型モビリティの成果と今後」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001364961.pdf, p.16

また、自転車の利用促進に向けては、自動車道の整備や、シェアサイクルのサービスが広がっています[*4] 。

また、ネットショッピングの普及やコロナ禍による在宅ニーズの高まりで、宅配便取扱個数は年々増加しており、物流における低炭素化の取り組みも重要です。そこで現在、国土交通省は「ダブル連結トラック」の普及拡大を目指しています[*4], (図7)。

図7: 物流の効率化を進める取組
出典: 国土交通省「道路分野におけるカーボンニュートラルへの貢献」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001470072.pdf, p.13

ダブル連結トラックとは、1台で通常の大型トラック2台分の輸送が可能なトラックのことです。車両の大型化により、通常の大型トラックと比較して約4割のCO2排出量が削減できると期待されています。

道路交通のグリーン化

近年活用が進む太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは道路分野の脱炭素化にも重要です。次世代自動車の普及促進や、道路交通のグリーンエネルギーへの転換が進められています[*2]。

2021年6月に策定された「グリーン成長戦略」では、2035年までに、乗用車新車販売でEV

(電気自動車)などの電動車を100%にするとしています。しかしながら、諸外国と比べると、国内の次世代自動車の保有率や新車販売率、EV充電器普及率は依然として低いのが現状です[*4], (図8)。

図8: 諸外国と比較した次世代自動車の普及状況及びEV充電器の普及状況
出典: 国土交通省「道路分野におけるカーボンニュートラルへの貢献」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001470072.pdf, p.5

そこで国土交通省は、経済産業省等の関係機関と連携し、次世代自動車の開発を促進するとともに、道路内での発電・送電・給電・蓄電の取り組みを進めています[*1, *2], (図9)。

図9: 道路交通のグリーン化
出典: 国土交通省「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略 中間とりまとめ 概要」
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/utilization/datutannsoka/cn-outline.pdf, p.9

EVは一般的なガソリン車と比較して、走行距離に課題があると言われています。EVでも安心して移動できる環境を実現するために、走行中給電システムの開発が行われています。

例えば、大成建設株式会社は、国立大学法人豊橋技術科学大学、大成ロテック株式会社と共同で、走行中のEVに無線給電できる道路「T-iPower Road」の実証実験を行っています[*6], (図10)。

図1 無線給電道路「T-iPower Road」のイメージ

図10: 無線給電道路「T-iPower Road」のイメージ
出典: 大成建設株式会社「高速道路に実装可能な無線給電道路『T-iPower Road』の実証を開始」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2022/220921_8962.html

また、道路における再生可能エネルギー発電量は、電力消費量に対してわずか0.4%と、普及が進んでいませんが、導入に向けた取り組みも行われています[*4]。

具体的には、高速道路のトンネル坑口付近や無線中継局、路面への太陽光発電設備の設置が検討されています。

路面太陽光発電とは、路面に太陽電池を組み込んで発電する仕組みのことで、フランスやオランダなどで既に導入されています[*7], (図11)。

図11: 海外における路面太陽光発電
出典: 国土交通省「路面太陽光発電技術に関する公募を開始します」
https://www1.mlit.go.jp/report/press/content/001590152.pdf, p.2

国内でも実現可能性について性能等を確認するため、新たな技術公募が行われており、将来的な設置が期待されています。

道路のライフサイクル全体の低炭素化

先述したように、道路整備と道路管理におけるCO2排出量はそれぞれ約1,330万トン-CO2、約140万トン-CO2であり、これらの分野における排出削減も求められています[*2]。

そこで国土交通省は、道路の計画・建設・管理の各段階において、道路インフラの長寿化や低炭素材料の活用等を通じたCO2排出量の削減を目指すとしています[*2], (図12)。

図12: 道路のライフサイクル全体の低炭素化
出典: 国土交通省「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略 中間とりまとめ 概要」
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/utilization/datutannsoka/cn-outline.pdf, p.10

例えば、低炭素材料の活用では、セメントに火力発電所から発生した石炭灰を混ぜることで、セメント使用量を低減させ、CO2排出量を抑える取り組みが行われています[*4]。

また、道路照明については、省エネ効果の優れたLED照明の導入も進んでいます。LEDは、従来の高圧ナトリウム灯と比較して消費電力が約4割に留まり、寿命が2.5倍に伸びます。

特に、国が管理する直轄国道においては、2030年度までに道路照明のLED化概成を目指すとしています[*2]。

 

今後の展望

今回は、「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略」の中間とりまとめ内容を紹介してきました。今後は、2023年度中を目途に、CO2排出量の数値目標の設定も含め、ロードマップの作成など最終とりまとめが行われる予定です[*1]。

道路分野では、再生可能エネルギーの活用やCO2排出量の削減にまだまだ大きな余地があります。私たちの生活に欠かせない道路での取り組みが広がることが、国内全体のカーボンニュートラル実現のカギになると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
国土交通省 道路局「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略 中間とりまとめ」
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/utilization/datutannsoka/cn.pdf, p.1, p.2, p.3, p.5, p.6, p.10, p.14

*2
国土交通省「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略 中間とりまとめ 概要」
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/utilization/datutannsoka/cn-outline.pdf, p.2, p.3, p.4, p.10

*3
環境省「地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定)」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/211022.html

*4
国土交通省「道路分野におけるカーボンニュートラルへの貢献」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001470072.pdf, p.5, p.7, p.8, p.10, p.11, p.12, p.13, p.19, p.20, p.24, p.26, p.27

*5
国土交通省自動車局環境政策課「超小型モビリティの成果と今後」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001364961.pdf, p.16

*6
大成建設株式会社「高速道路に実装可能な無線給電道路『T-iPower Road』の実証を開始」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2022/220921_8962.html

*7
国土交通省「路面太陽光発電技術に関する公募を開始します」
https://www1.mlit.go.jp/report/press/content/001590152.pdf, p.2

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