東京駅の床が発電機に? エネルギー収穫の考え方とは

私たちが歩くと、微力であっても床は振動します。また、運動をすれば体から熱が発せられますし、音楽をかければ音が空気を振動させます。

そう考えると、わたしたちは日常生活の中でわずかながら「ものを動かす」エネルギーを生み出し続けていることになります。

また、自然界にも、集めればエネルギー源になる現象が存在しています。

微弱なエネルギーを集めて機械などを動かす電力に変える「エネルギーハーベスティング」の技術開発が進んでいます。

 

「猫発電」で節約できる電気代は?

ヤマトグループが面白い実験をしています。

「猫がキャットホイールを走ったときの運動エネルギーを発電に使ったら、1か月の電気代をどれだけ節約できるか」というものです[*1], (図1)。

図1: 実験に挑戦するベンガル猫のムファサちゃん
出典: YouTubeヤマトグループ公式チャンネル「【検証】キャットホイールで発電したら1ヶ月あたりいくら電気代をまかなえるの!?【猫発電】」
https://www.youtube.com/watch?v=Sixbnpzo-94, 3:34

比較対象としてハムスターも挑戦しました。

その結果、猫による発電では1か月あたり約0.3円、ハムスターは約1円、となりました。

ハムスターよりはるかに体の大きい猫がハムスターに負けた理由は、猫が気まぐれであることです。飼い主さんの思ったようには走ってくれず、すぐに飽きてしまい飼い主さんのいうことをあまり聞いてくれませんでした。
おやつなどで促しても、思うようにはいきませんでした。

一方でハムスターは、一心不乱に回し車の中を走っていました。

私たちは日々微力のエネルギーを生産している

さて、これはあくまでヤマトグループのサステナブル経営を紹介するためのジョーク実験ですが、実際、猫やハムスターが走ることでホイールが回転するということは、猫やハムスターがホイールを回す「エネルギー」を生み出しているということです。

私たちが歩いて床を振動させることで生まれるエネルギーもありますし、工事現場では機械が地面を振動させるだけでなく、空気を振動させるエネルギーも生み出しています。

これらのエネルギーを「収穫」し、電力に変換する技術を「エネルギーハーベスティング(エナジーハーベスティング)」と呼びます。新しい電力にするために、世界で技術開発が進められています[*2]。

 

駅の改札を通る人を利用した発電実験

国内で実施された大きな実験のひとつが、JR東日本の「床発電システム」で、改札などに「発電床」を設置し、通過する人のエネルギーで発電する試みです[*3], (図2)。

実験は2回にわたって行われました。1回目は2006年10月16日~12月8日まで、東京駅の丸の内北口改札通路に約6平方メートルの発電床を設置したもの、2回目は2008年1月19日~3月初旬に東京駅の八重洲北口改札とコンコース、階段部分に約90平方メートルの発電床を設置したものです。

図2: 床発電システムのしくみ
出典: JR東日本「『床発電システム』の実証実験について」
https://www.jreast.co.jp/development/theme/pdf/yukahatsuden.pdf, p.3

人が歩くと、床が振動します。その振動を電圧に変換する素子で電力に変換して蓄電装置に送るというのが「床発電」の原理であり、そこから各種設備に電力を供給するしくみです。

1回目と2回目の実験の間に発電床の性能向上などをはかった結果、1回目の実験では改札1人通過あたりの発電量は約0.1W秒、2回目の実験では約1W秒でした[*3]。

エネルギーハーベストでは振動や衝撃だけでなく、人間や動物、自然現象で生まれるエネルギーを電力として利用できるようになると期待されています[*2]。

樹液から発電

ほかにも、様々なところにエネルギー源があります。

立命館大学などのチームが実施しているのは、「樹液」を利用した発電方法です[*4]。植物の中(導管)を通る水分、つまり樹液と、導管に刺した針電極の亜鉛が反応して微力な電力を発生させます。

こうして生まれた電力を使えば、電池なしで、植物の健康状態をモニタリングするシステムを動かすことが可能です。植物の健康状態を遠隔で把握できることは、農業の効率化につながるため、ガーナなどの貧困農業国での利用が期待されています。

また、微生物を利用した「微生物燃料電池」にも関心が寄せられています。

微生物電池とは、微生物の代謝を利用して有機物を電気エネルギーに変換する装置のことで、岐阜大学の研究チームが排水から電気とリンを回収することに成功しています[*5], (図3)。

図3: 微生物燃料電池のしくみ
出典: 岐阜大学「世界初! 廃水から『発電+リン回収』。微生物燃料電池が水処理の未来を変える。」
https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/g_lec/special/201411.html

リンは農業用の肥料として広く使われている一方で、枯渇が心配されている貴重な資源です。発電と同時に、資源を回収できるという画期的な技術でもあります。

現状のエネルギーハーベスティング技術ではまだ高出力の技術がありませんが、こうしたシステムは今後需要が高まり、アメリカ・シカゴの調査会社Report Ocean社によれば、2021年から2027年の間に市場規模は年平均で7.3%の成長を続けると予想されています[*6]。

実際、JR東日本の実験で生み出された電力は、1回目の実験でも1日最大約 10,000W秒(100Wの電球が100秒点灯する電力量)というものでした[*3]。まだ電球を灯せるかどうかのわずかな発電量であることは事実です。しかし技術革新が進めば、十分利用できると期待されています。

 

世界で模索されるさまざまなエネルギー源

世界では、ユニークな発電技術の研究もあります。

そのうちの一つが、タイピングで生まれる摩擦エネルギーを発電に使い、自ら電源を生み出すワイヤレスキーボードです[*7]。

また、村田製作所では、色素の化学反応を使って光を電気に変換する技術開発がされています。光が当たると、半導体膜に吸着させた色素が励起状態(原子や分子がより高いエネルギー状態になること)になり、この反応で生まれる電子を放出します[*8]。

ほかには音波、心拍、体温、浸透圧など、身の回りの多くのものが利用可能なエネルギーとして研究対象になっています。

ミシガン大学では、心臓ペースメーカーの電源を心拍で発生するエネルギーで補うという研究があるほか、携帯電話端末などを扱うノキアでは、携帯電話のアンテナやテレビのアンテナマストまで、放出された無線波を発電に使うという研究もあります[*2]。

私たちの日常生活だけでなく、生命活動で生まれるエネルギーも、逃すことなく電力化しようという考え方です。

その意味では、太陽光や、海に自然に発生する波の力による発電もエネルギーハーベスティングの一部と考えられるでしょう。

 

電力供給だけでなくIoT機器の利便性向上にも

それぞれの研究の成果物から得られる電力はわずかなものかもしれません。しかしクリーンな電力であることは注目に値します。

例えば、駅のような場所に集中して発電施設を設置し、効率的にエネルギーを集めることも可能になるでしょう。

また、エネルギーハーベスティングはセンサー技術との相性が良いことも注目されています[*2]。

たとえば、山奥に土砂災害を検知するためのIoTデバイスを設置し、常時作動させるとします。しかし、場所的には電力ケーブルなどの配線を引くことが難しく、電池を使えばメンテナンスやコストが課題となります。

そうしたとき、周囲の環境からエネルギーを収穫するエネルギーハーベストを活用すれば、配線が困難な場所でも自ら電力を生み出し、IoTデバイスを半永久的に作動させることができる、というわけです[*9]。

わたしたちの周囲には、エネルギー源が溢れているともいえます。ものを動かすということは、エネルギーを発生していることでもあるからです。

「動くものは全てエネルギーを発生させている」と言っても過言ではありません。

エネルギーハーベスティングはわずかな電力さえ見逃さないクリーンな発電方法として、今後普及していくかもしれません。

 

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参照・引用を見る

*1
YouTubeヤマトグループ公式チャンネル「【検証】キャットホイールで発電したら1ヶ月あたりいくら電気代をまかなえるの!?【猫発電】」
https://www.youtube.com/watch?v=Sixbnpzo-94, 3:34

*2
三菱総合研究所「エネルギーハーベスティングが拓くIoTの世界」(2017)
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20170120.html

*3
JR東日本「『床発電システム』の実証実験について」
https://www.jreast.co.jp/development/theme/pdf/yukahatsuden.pdf, p.1, p.2, p.3

*4
立命館大学など「産学農共同プロジェクト ガーナ等の貧困農業国における持続可能な農業を支援 樹液発電を用いたワイヤレス植物モニタリングセンサシステム 沖縄県宮古島で実証実験を開始」(2021)
https://www.ritsumei.ac.jp/file.jsp?id=511657&f=.pdf, p.1, p.2

*5
岐阜大学「世界初! 廃水から『発電+リン回収』。微生物燃料電池が水処理の未来を変える。」
https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/g_lec/special/201411.html

*6
Report Ocean「世界のエネルギーハーベスティングシステム市場は、2021年から2027年までの予測期間中、7.3%の複合年間成長率を記録すると予想されています。」(2021)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003094.000067400.html

*7
ACS Publications「Personalized Keystroke Dynamics for Self-Powered Human–Machine Interfacing」(2015)
https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/nn506832w

*8
村田製作所「エネルギーハーベスティングとワイヤレスセンサネットワーク」
https://corporate.murata.com/ja-jp/more_murata/techmag/metamorphosis16/appnote/02

*9
村田製作所「エネルギーハーベストが実現する電力の未来」(2022)
https://article.murata.com/ja-jp/article/the-future-of-electricity-realized-by-energy-harvest

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