東南アジアでも進むEVシフト 各国の市場動向と今後の展望は?

バッテリー(蓄電池)に蓄えた電気でモーターを回転させて走るEV(電気自動車)。地球温暖化問題をきっかけとして、現在、EVの導入が世界各国で急速に拡大しています[*1]。

従来のガソリン車やディーゼル車からEVへの転換を目指す動きを「EVシフト」と言い、近年は東南アジアの国々にも広がり始めています[*2, *3]。

それでは、東南アジアにおけるEV市場はどのような状況なのでしょうか。また、EVシフトによる各国の再生可能エネルギー分野への影響はどのようなものなのでしょうか。詳しくご説明します。

 

世界各国で進むEVシフト

現在、日本を含むEUやアメリカ、フランス等の主要国では、政府が自動車の動力源を電化する「電動化」目標を設定し、EVの導入を強力に推進しています[*4], (図1)。

図1: 各国の電動化目標
出典: 資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(前編)~日本の戦略は?電動車はどのくらい売れている?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now.html

例えば、EU理事会と欧州議会は2022年10月27日、2035年までに「全ての新車をゼロエミッション化」する規則の改正案に暫定合意しました。これによって、2035年以降は、エンジン車の生産が実質禁止になることが確定しています[*5]。

日本でも、「グリーン成長戦略」において、2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を実現するために、政府は包括的な措置を講じるとしています[*4]。

このような政府による積極的な施策等もあり、各国におけるEVの販売比率は増加傾向にあります[*4], (図2)。

図2: 主要国・地域におけるEVの販売比率の推移
出典: 資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(前編)~日本の戦略は?電動車はどのくらい売れている?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now.html

例えば、中国におけるEVの販売比率は、2022年第3四半期に21.7%まで増加しています。また、日本でも、他国と比較して緩やかではありますが、EVの販売比率は増加傾向にあります。

 

東南アジアでも進むEVシフト

EVシフトは、先進国のみならず、新興国でも広がりつつあります。新興国で特定の技術が先進国より速いスピードで進むことを「リープフロッグ(かえる跳び)現象」と言いますが、この現象が東南アジアでも起きています[*3]。

タイで進むEVシフト

タイでは近年、自動車市場において、政府による積極的な環境規制が行われています。例えば、国内の自動車メーカーと販売業者に対して、2019年に工業省は、2021年までに欧州排出ガス規制「ユーロ5」に適合する自動車の生産・販売を求める方針を発表しました[*6]。

「ユーロ5」はEU域内で導入された、環境に配慮した厳格な自動車の排出ガス規制のことです。

このような環境政策が推進されるなか、自動車のEV化推進も積極的に進められています。例えば、2020年3月に行われた国家電気自動車政策委員会では、2030年までに国内の自動車の総生産台数に占めるEVの割合を30%まで引き上げると発表しました。

EVの普及に向けてタイ政府は、補助金等の振興策も積極的に実施しています。具体的には、国内生産を条件として、部品の輸入関税を最大40%引き下げたり、対象となる車両の物品税率を8%から2%に引き下げたりなどです。

その結果、タイ国内におけるEV販売台数は年々増加しています。2022年のEVの登録台数は12月時点で8,000台余りと報告されており、2021年の同時期と比べて4倍以上に増加しました[*6, *7]。

脱炭素化に向けては、EVの普及と併せて、電力供給の再生可能エネルギー比率を高めることが重要です。そこでエネルギー省は、国家エネルギー計画を策定し、2030年までに再生可能エネルギー発電比率を50%以上にすると宣言しました(2021年の発電量に占める再生可能エネルギー比率は10.4%)[*8, *9]。

また、タイ国内の再生可能エネルギー事業者によるEV事業への参入も進んでいます。例えば、エナジー・アブソルート社は2021年に、リチウムイオン電池の生産から車体組み立てまでEVの一貫生産に乗り出すことを発表しました[*10]。

同社は、2006年の設立後、再生可能エネルギー発電事業に着手し、太陽光と風力を合わせた発電能力は約66万kWと、水力を含む再生可能エネルギーの設備容量が311.7万kWであるタイにおいて、国内有数の規模を有しています。今後は、EV生産と併せて再生可能エネルギー設備を有効活用するとしています[*10, *11]。

ラオスで進むEVシフト

ラオスにおける温室効果ガス排出量自体は全世界の0.1%に過ぎませんが、一人当たり排出量ベースは発展途上のアジア諸国平均を超える国です[*12]。

一方でラオスでは、水力を含めた再生可能エネルギー発電比率が7割を超えています。また、発電された電力のうち、8割以上がタイやベトナムなどの周辺国に輸出されるなど、電力輸出国と言えます[*13]。

このような強みを持つラオスでは、余剰電力をさらに有効活用するため、EV普及を推進しています。

政府は2021年10月4日、2030年までに国内で利用される全車両の30%以上をEVにする目標を掲げました。また、翌11月の党会議では、2022~2025年の間に輸入する全車両の30%をEVにし、2030年までに50%以上にする方針が提案されています。

目標達成に向けて、政府公用車の原則EV化や、EV等に対する減税措置も実施されています。例えば、ガソリン等を使用する自動車には、排気量に応じて26~102%の物品税率が課されていますが、EV等については、2022年1月から3%になっています。

その結果、ラオス国内では中国メーカーを中心にEVの販売代理店が増加しており、販売台数も2023年2月時点で約1,400台となっています[*14]。

事業者によるEV導入も進んでいます。例えば、ラオスの若手実業家によるスタートアップLOCA社は、アプリによるタクシー配車サービスを展開しており、現在提携する710台のタクシーのうち85台がEVです。同社は、2025年までに1,000台、2030年までに提携する全てのタクシーをEVにするとしています。

また、同社は、一般のEV利用者も利用できる充電ステーションの設置を進めています。2023年2月までに7か所での設置が完了しており、2025年までに全国で少なくとも40か所の充電ステーションを設置する予定です。

さらに、EVの普及によるエネルギー市場の変化も見込まれています。政府が発表した「国家グリーン成長戦略」によると、輸入した化石燃料の80%は自動車燃料などの輸送用に使用されています[*13]。

しかしながら、2022~2025年に輸入する車両の30%をEVとすることで、2025年までに化石燃料の輸入量を1億4,000万リットル削減できる可能性があります。2020年の化石燃料の輸入量は13億4,000万リットルであり、削減量は輸入量の1割に相当するため、EVの普及促進は、脱炭素化に大きく貢献できると言えるでしょう。

マレーシアで進むEVシフト

脱炭素化や温室効果ガス排出削減に向け、マレーシアでもEVシフトが進んでいます。

マレーシア政府は、早い段階からEVを含む省エネ車(EEV: Energy Efficient Vehicle)の生産に力を入れてきました。例えば、2014年には、EV関連政策として「2014年国家自動車計画」を発表し、省エネ車の生産増加等を目指すことを表明しました[*15]。

その結果、2014年以降、新車販売台数に占める省エネ車比率は年々上昇しており、2019年には88%となっています[*15], (図3)。

図3: マレーシアの新車販売台数に占めるEEV比率の推移
出典: 独立行政法人 日本貿易振興機構「2030年までのEV普及を目標、充電網の拡充など事業者の動き加速(マレーシア)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2022/0302/ce952d5135233931.html

また、マレーシア政府は2021年5月、段階的なEV普及に向けた「低炭素モビリティー・ブループリント2021~2030」を発表しました。同計画では、温室効果ガスの排出抑制の取り組みとして4つの重点分野が挙げられ、そのうちの一つでEV導入を規定しています。

EVの普及に向けた具体的な行動計画として、例えば、公用車の新規調達分に占めるBEV(バッテリー式電気自動車)の割合を2021~2022年に10%、2023~2025年に20%、2026~2030年には50%と段階的に引き上げるとしています[*15], (表1)。

表1: EV導入に対応する具体的な行動計画出典: 独立行政法人 日本貿易振興機構「2030年までのEV普及を目標、充電網の拡充など事業者の動き加速(マレーシア)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2022/0302/ce952d5135233931.html

同行動計画では、電気バスの導入にも力を入れるとしています。例えば、クアラルンプール市内を巡回する路線バス「GoKLシティバス」では、2021年11月から電気バスの運行が開始されていますが、2023年中に全車両を電気バスに切り替える予定です。

また、政府は2022年9月に、「国家エネルギー政策2022-2040」を発表しました。同計画では、EV導入目標を定めており、2040年までにEVの普及率を2018年時点の1%未満から38%まで引き上げるとしています[*16]。

さらに、再生可能エネルギーについては、再生可能エネルギー発電比率を2022年12月時点の25%から2050年までに70%にするという目標を掲げています[*17]。

2022年1月からは、マレー半島に住む同国の消費者は再生可能エネルギー由来の電力を購入できる「グリーン電力タリフ」が始まっています[*18]。

消費者が再生可能エネルギーを選択できるような環境が整備されるなかで、EVの普及に伴い、再生可能エネルギー由来の電力需要がさらに高まる可能性があります。

 

東南アジアにおけるEVシフトの展望

今回紹介した国以外にも、インドネシアやフィリピン、ベトナムなど多くの東南アジア諸国でEVシフトが始まりつつあり、今後もEV導入が進むと予想されます[*19]。

しかしながら、EV普及に向けては、課題も山積しています。まず、EVの普及に伴い、充電ステーションなどのインフラ整備が不可欠ですが、東南アジアでは充電インフラが十分に整備されているとは言えないのが現状です。

例えば、マレーシアでは、農村部における急速充電ステーションが足りないと報告されています。そこで、マレーシア自動車輸入業者協会とマレーシア自動車・ロボティクス・IoT研究所は、2025年までに全土に981か所の急速充電ネットワークを構築する計画を発表しました[*15]。

また、EVの部品の一つであるリチウムイオン電池が現状では高価なため、庶民の手に届きづらい点も課題として指摘されています[*19]。

国によって、EV普及に向けた課題は異なります。各市場環境に応じた対応をとりながら施策を進めていくことがEV普及に必要です。

 

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参照・引用を見る

*1
東芝テック株式会社「電気自動車(EV)と環境問題。脱炭素化と電気自動車(EV)の関係を改めて考える」
https://www.toshibatec.co.jp/products/office/loopsspecial/blog/20230901-100.html

*2
三井物産株式会社「今話題のEVシフトとは?日本と海外の現状や今後の取り組みを解説!」
https://www.mitsui.com/solution/contents/solutions/storage/42

*3
NHK「EVシフト加速する東南アジア “リープフロッグ(かえる跳び)”を目指して」
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/ohabiz/articles/2023_0323.html

*4
資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(前編)~日本の戦略は?電動車はどのくらい売れている?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now.html

*5
独立行政法人 日本貿易振興機構「EU、2035年の全新車のゼロエミッション化決定、合成燃料に関する提案が焦点に」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/10/5537b3d18e6e2315.html

*6
独立行政法人 日本貿易振興機構「EVシフトに向け新たなプレーヤーも(タイ)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2022/0302/a107d779a17534d7.html

*7
NHK「“日本車が9割”タイで激化する中国との競争 EVか多車種展開か」
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/ohabiz/articles/2022_1222.html

*8
独立行政法人 日本貿易振興機構「国家エネルギー計画枠組み採択、2070年までにカーボンゼロ目指す」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/08/dc2290a9449596a7.html

*9
山田コンサルティンググループ株式会社「タイで拡大する 再生エネルギー市場の最新動向」
https://www.ycg-advisory.jp/seminar/article/gl2307b/

*10
株式会社 日本経済新聞社「タイ再生エネEA、EV参入 発電から充電まで一貫提供も」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS094G60Z01C21A2000000/

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