ガソリン価格高騰を契機に注目が集まるEV その経済性は?

近年、ウクライナ危機などによって原油価格が高騰し、上昇傾向にあるガソリン価格[*1]。

日本政府は、高騰するガソリン価格を抑えるため、燃料油価格激変緩和措置を実施しています。しかしながら、本事業は今のところ2024年4月末までとなっており、今後の先行きは不透明と言えます[*2]。

そのような中で近年、ガソリンを使用しないEV(電気自動車)の経済性に注目が集まっています。

それでは、EVはガソリン車と比較してどのような点で経済性に優れているのでしょうか。

ガソリン価格高騰の背景、海外におけるEVシフトの現状と併せて詳しくご説明します。

 

ガソリンを取り巻く国内外の動向
ガソリン価格高騰の背景

近年、ガソリン価格は上昇傾向にあります。日本国内における2021年度のレギュラーガソリン全国平均価格は、1リットル当たり162円でした。しかしながら、2023年には170円を超え、9月には一時期186.5円に達しています[*2, *3]。

しかも、185円というガソリン価格は政府による補助後の価格です。そのため、補助がない場合の小売価格はさらに上昇してしまいます[*2]。

このようなガソリン価格高騰の背景には、2022年から始まったウクライナ危機などがあります。これは、世界有数のエネルギー大国であるロシアからの原油輸出が滞るのではないかという懸念があったためです[*1]。

また、原油価格は産油国によって構成される「OPEC(石油輸出国機構)プラス」の方針等に大きく左右されます。

「OPECプラス」は各国の原油生産量を相談して決めていますが、産油国にとって原油は国家の大きな収入源であるため、原油価格下落を懸念して増産には慎重なスタンスです。

そのため、主要産油国はウクライナ危機以降も減産を実施しています。このような状況から、ガソリン価格がウクライナ危機以前の水準に戻らない状況が続いていると言えます[*4]。

ガソリン価格高騰に対する日本の対策

先述したように、国内におけるガソリン価格は上昇傾向にあります。特に2023年は、補助がない場合のレギュラーガソリンの全国平均価格は、1リットル当たり200円を超える時期があるなど高騰が続いています[*2], (図1)。

図1: レギュラーガソリンの全国平均価格(2023年1月17日~11月27日)
出典: 資源エネルギー庁「燃料油価格激変緩和補助金」
https://nenryo-gekihenkanwa.jp/

そこで政府は、原油価格高騰による国民生活や経済活動への影響を最小化するため燃料油価格激変緩和措置を開始しました。緩和措置期間中、政府は燃料油元売りに対して補助金を支給しています[*2], (図2)。

図2: 燃料油価格抑制の仕組み
出典: 資源エネルギー庁「燃料油価格激変緩和補助金」
https://nenryo-gekihenkanwa.jp/

その結果、2023年11月時点のレギュラーガソリン全国平均価格は170円台まで抑制されています。

 

ガソリン価格の高騰を契機に注目されるEV

緩和措置によって価格は抑えられている一方で、国際情勢が不安定な状況のなか、ガソリン価格は今後さらに高騰してしまう可能性があります。

また、政府による燃料油価格激変緩和措置の期間は2024年4月末までとなっており、今後の先行きは不透明です[*2]。

さらに、世界各国でもガソリン価格が高騰しています。2020年1月を基準としたガソリンの消費者物価指数は、主要国で上昇傾向にあります。特にイギリス、アメリカでは、2022年に一時期2倍近くまで上昇しました[*5], (図3)。

図3: 主要国におけるガソリン等料金の消費者物価指数の推移
出典: 資源エネルギー庁「第1節 世界的なエネルギーの需給ひっ迫と資源燃料価格の高騰」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/1-2-1.html

海外で進むEVシフト

このような状況のなか、海外では従来のガソリン車等からEVへの転換を目指すEVシフトが進んでいます[*6]。

産油国であるUAEでは近年、EVの販売が急速に伸び、EVが新車販売の3割を占めているとされます。元々中東湾岸の産油国は、石油を少しでも多く輸出に回すため、EV充電設備に大規模な投資を行うなど、自国でのガソリン消費を減らそうとしてきました。

加えて、2022年6月のガソリン価格はリットル当たり日本円で約146円と、2021年の同時期と比べて70%も上昇しています。このような背景もあり、ガソリン車の代替手段として、EV需要が高まっています。

東南アジアでも、ガソリン価格の高騰を背景に、EVシフトが進んでいます。例えば、インドネシアでは、2022年に国産のEVの商業生産が始まり、首都ジャカルタを中心にEVが導入されつつあります[*7]。

インドネシア工業省は、2035年に国内生産(想定台数400万台)のうち30%(120万台)をLCEV(低炭素排出車)にする方針を打ち出しており、EV導入施策を実施しています。具体的には、2023年3月29日に、EV購入時の付加価値税の税率を11%から1%に減免したり、同年3月20日には電動バイク購入時の補助金の支給を開始したりしています。

また、インドネシアでは、補助金や減税など購入時のメリットだけでなく、購入後の経済的メリットも注目されています。

最大航続距離を実現した場合、インドネシアにおける充電料金は1km当たり約373.8ルピアとなります。一方で、2023年2月時点のインドネシア国内におけるガソリン価格は1リットル当たり1万3,050ルピアでした。燃料1リットル当たり走行距離が11kmと仮定すると、ガソリン車が1km走行するために必要な燃料代は約1,186.4ルピアとなっています。

このように、EVはガソリン車と比較して同じ距離を走行するのに3倍以上も割安となっており、その経済性にも注目が集まっていると言えます。

日本国内でも注目が集まるEVの経済性

先述したように、日本政府はガソリン価格を抑える取り組みを行っていますが、ガソリン補助金は脱炭素化に逆行してしまう側面があります。そこで日本国内でも近年、経済性の高さからEVを導入する動きが加速しています[*8]。

例えば、政府はEVを含む環境負荷が少ない自動車の購入費の一部を補助する事業を実施しており、現在はEVを通常より安価に購入することができるようになっています[*9], (図4)。

図4: EV補助金活用による車両購入費の軽減
出典: 環境省「あなたのドライブから脱炭素の未来へ」
https://www.env.go.jp/air/zero_carbon_drive/

また、ガソリン車と比較した際の購入後の維持費の安さも魅力の一つです。環境省の試算によると、EVの燃料費はガソリン車と比較して安く、年間走行距離が5,000kmの場合は年間22,500円、10,000kmの場合は45,000円を節約できると試算されています[*9], (図5)。

図5: EVとガソリン車の年間走行ごとの燃料費の比較
出典: 環境省「あなたのドライブから脱炭素の未来へ」
https://www.env.go.jp/air/zero_carbon_drive/

さらに、EVのバッテリーを蓄電池として活用することで、電気料金の安い深夜における充電や、昼間発電した太陽光発電の電力を夜間に活用できるようになるため、電気代の削減も期待できます[*10]。

このようなEVにためる電気を住宅等に活用する取り組みをV2H(Vehicle to Home)と言います。V2Hシステムによっては、導入していない家庭と比べて電気代を6割ほど安く抑えられるとされます[*10, *11]。

以上のように、EVにはガソリン車と比較して様々なメリットがあり、これらのメリットが近年一般にも知られるようになっています。

国内におけるEV導入の動向

EVの経済性に注目が集まる中で、国内におけるEV販売比率は少しずつ上昇しています[*12], (図6)。

図6: 主要国・地域におけるEVの販売比率の推移
出典: 資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(前編)~日本の戦略は?電動車はどのくらい売れている?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now.html

しかしながら、中国や欧州、北米など他国と比較すると日本のEV販売比率は低いのが現状です。そこで政府はEVのさらなる普及を促進するため、充電インフラの強化やEV購入にかかる補助金交付等の施策を実施しています。

まず、充電インフラについて、これまで政府は2023年までに約3万基の整備を進めてきました。これらの取り組みをさらに加速させるため、2030年までに充電設備の口数(充電器が持つコネクターの数)を30万口まで増やす方針を示しています[*13]。

また、政府が実施する「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」事業では、EV等を購入した個人、法人、地方公共団体へ補助金を交付しています[*14]。

令和4年度補正予算事業において、EVは最大で85万円もの補助を受けることができるため、購入者にとって魅力的な制度と言えるでしょう。

 

まとめ

EVには、走行時のCO2排出量が大幅に少ないという環境へのメリットとともに、今回紹介してきたように経済的なメリットもあります。

ガソリン価格の先行きが不透明な今こそ、環境性のみならず、経済性という観点からEVに目を向けてみてはいかがでしょうか。

 

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参照・引用を見る

*1
NHK「【詳しく】ロシア軍事侵攻と原油価格 なぜ価格は下がらない?」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220323/k10013546781000.html

*2
資源エネルギー庁「燃料油価格激変緩和補助金」
https://nenryo-gekihenkanwa.jp/

*3
ENEOS株式会社「第29表 石油製品小売価格(全国平均)の推移」
https://www.eneos.co.jp/binran/document/data/pdf/29.pdf

*4
独立行政法人 日本貿易振興機構「OPECプラス加盟国複数が追加減産を発表、5月から日量110万バレル以上」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/04/7a2222607c4fcfe9.html

*5
資源エネルギー庁「第1節 世界的なエネルギーの需給ひっ迫と資源燃料価格の高騰」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/1-2-1.html

*6
NHK「産油国UAEでも急速に進むEVシフト その背景は?」
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/ohabiz/articles/2022_0616.html

*7
独立行政法人 日本貿易振興機構「生産・販売が勢いづくEV産業(インドネシア)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2023/0401/92cb7fbb8f471e77.html

*8
NHK「高値続くガソリン価格 補助金延長の陰で」
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4835/

*9
環境省「あなたのドライブから脱炭素の未来へ」
https://www.env.go.jp/air/zero_carbon_drive/

*10
パナソニック株式会社「『V2H』とは? 仕組みや機器などの基礎知識と導入のメリットをご紹介」
https://sumai.panasonic.jp/v2h_chikuden/v2h_navi/v2h_about/

*11
NHK「電気代削減への動き 電気自動車を蓄電池として活用 広がる」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230206/k10013971741000.html

*12
資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(前編)~日本の戦略は?電動車はどのくらい売れている?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now.html

*13
経済産業省「充電インフラ整備促進に向けた指針」
https://www.meti.go.jp/press/2023/10/20231018003/20231018003-1.pdf, p.5

*14
経済産業省「令和4年度補正予算・令和5年度当初予算『クリーンエネルギー自動車導入促進補助金』」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/cev/r4hosei_cev.html

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