電力の安定供給システムが確立されてからの長い間、日本ではいつでも不自由なく電気が使える生活が当たり前となっていました。
しかし近年では、電力不足による需給ひっ迫がメディアで報じられることが増えてきています。
2022年3月には、地震による発電所の停止と季節外れの寒波の到来によって、史上初となる電力ひっ迫警報が発令されました。
さらに2022年6月、異例の速さで梅雨があけ、例年よりも気温が上昇したことによって、電力需給ひっ迫注意報が出されています。
電力需給ひっ迫は、1年を通じて特に電力消費の多くなる夏季や冬季に供給力が追いつかなくなることで発生します。
では、夏季と冬季ではどちらが電力消費が多くなるのでしょうか。
この記事では、日本の夏季と冬季の電力需要の特徴と節電のポイントについて紹介します。
電力不足で需給バランスが崩れるとどうなる?
電気は性質上、大量に溜めておくことが困難であるため、その日に使用される電気はその都度発電して供給されています。
電力会社は需要予測に基づいて「発電計画」を作成し、毎日の発電量をコントロールしています。
電気の需給バランスは「同時同量」が原則であり、瞬時瞬時で使用量と供給量を一致させる必要があります[*1], (図1)。
図1: 電力の需要と供給(電力需給バランスが均等な時)
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「電気の安定供給のキーワード『電力需給バランス』とは? ゲームで体験してみよう」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/balance_game.html
需要と供給が一致していないと、電気の品質(周波数)が乱れていまい、場合によっては大規模停電を引き起こしてしまいます[*1], (図2)。
図2: 電力の需要と供給(需要>供給となった時)
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「電気の安定供給のキーワード『電力需給バランス』とは? ゲームで体験してみよう」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/balance_game.html
しかし、季節外れの寒波や例年よりも早い梅雨明け、発電機のトラブルなどのさまざまな要因によって、需要予測が外れてしまうことがあります。
このような事態でも需要と供給のバランスを崩さないように、発電計画では最低限3%の予備率を確保することで、供給力に余裕をもたせています[*2]。
夏季や冬季などの電力需要が多くなる季節は、供給力に余裕がなくなる可能性が高く、近年では政府が節電を呼びかけることも増えてきました。
供給力が足りなくなり、前々日にエリア予備率(エリア内のピーク電力需要に対する供給力余力)が5%を下回る場合は「需給ひっ迫準備情報」が発信されます。さらに前日の時点で他エリアからの供給などの対策が間に合わず、広域予備率が5%を下回る場合は「需給ひっ迫注意報」、3%を下回る場合は「需給ひっ迫警報」が政府から発令されます[*3]。
このような厳しい状態で需給バランスを保ち、大停電を引き起こさないためには、工場や企業などの大口の需要家だけでなく、家庭での節電も重要です。
夏季と冬季、電力消費が多いのはどっち?
家庭で使用される家電はテレビや冷蔵庫、洗濯機など季節による変動が少ないものもありますが、エアコンに関しては、暑い夏と寒い冬に顕著に使用量が増加します。
そのため、エアコンの使用が多くなる夏季と冬季は、他の季節と比較して電力需要が大きくなります。
次の図3は、夏季と冬季の家電製品別の電力消費割合です[*4]。
図3: 家庭における家電製品の1日での電力消費割合
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「家庭でできる省エネ」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/index.html#general-section
図3は、夏季と冬季の特に電力消費が多い日の家電の使用割合のグラフで、どちらの季節でもエアコンの使用が3割以上占めています。
では、エアコンの冷房と暖房では、どちらの方が消費電力量が多いのでしょうか。
エアコンは設定温度を目標にフル稼働し、エネルギーを消費するため、外気温と設定温度の差が開きやすい冬の方が消費電力量が大きくなります。
例えば、夏の外気温35℃から設定温度27℃に下げるより、冬の外気温7℃から設定温度20℃まであげる方がより多くのエネルギーを使います[*5], (図4)。
図4: 夏と冬の熱負荷の違い
出典: ダイキン工業「エアコン暖房を『つけっぱなし』にするのと『こまめに入り切り』するのでは、どちらの電気代が安くなるの?」
https://www.daikin.co.jp/air/life/issue/mission05/page02
エアコンの使用状況に関しては、お住まいのエリアやその年の気象条件によっても異なりますが、一般的に冷房を使用する夏より、暖房を使用する冬の方が電気代が高くなる傾向にあります。
総務省統計局が実施した2022年の家計調査でも、2人以上の世帯で1ヶ月にかかる電気代は1月から3月にかけて特に高くなっています。なお、2022年は燃料価格の高騰や円安の影響もあり、2021年と比較しても高い水準になっています[*6], (図5)。
図5: 月別支出金額の推移(2人以上の世帯)
出典: 総務省統計局「家計調査 第3章家計からわかる暮らしの特徴」
https://www.stat.go.jp/data/kakei/family6/03.html
夏季と冬季で異なる節電のポイント
夏季と冬季では需要カーブが違う?
電力は「同時同量」で需要と供給のバランスを取る必要があるため、ピークに合わせて発電設備を建設し、供給力を準備しておく必要があります。
そのため供給力が足りないときは、もっとも電気が使われる時間帯である「ピーク時間帯」の電力需要を減らすことが、電力ひっ迫を解消することにつながります。
電力需要のカーブをゆるやかにするには、電気がもっとも多く使われる時間帯の使用量を減らす「ピークカット」と、電気を使う時間帯をずらす「ピークシフト」の2つの方法があります。
2018年9月に北海道胆振東部地震が原因で大規模停電が発生し、節電が呼びかけられたときも、この時期の北海道でもっとも電気が使用される時間帯である朝8時半から夜8時半の間が節電タイムとして設定されました[*7], (図6)。
図6: 北海道胆振東部地震における節電の呼びかけ
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「北海道のみなさまへの節電のお願い」(2018)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/hokkaido_setsuden.html
多くの人が電力需要が高まる時間帯の使用量を減らしたり、その時間帯を避けて、ドライヤーや洗濯機などを使用することで、ピークカット・ピークシフトが可能です。
時間帯を問わず、節電を心がけることは、地球温暖化の緩和や電気代の節約などに効果があります。
しかし、電力不足の解消を目的とした節電に関しては、ピーク時間帯以外に行っても大きな効果は得られません。
そのため、夏季や冬季の需給ひっ迫時の節電には、需要カーブを意識することが必要です。
夏季と冬季では電力の需要カーブに違った特徴があります。
次の図7は、日本の夏の一般的な電力需要パターンです[*8]。
図7: 日本の夏の一般的な電力需要パターン
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「これからの需給バランスのカギは、電気を使う私たち~『ディマンド・リスポンス』とは?」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/dr.html
エリアによって需要カーブの形に違いはあるものの、気温が高くなりエアコンの使用が多くなる日中に電力需要が高まるパターンは共通しています。
家庭における需要パターンに注目すると、仕事などから帰宅して在宅率が高まる夕方以降にピークになることがわかります。
一方で日本の冬の電力需要パターンは、夏と比較するとカーブがゆるやかです[*8], (図8)。
図8: 日本の冬の一般的な電力需要パターン
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「これからの需給バランスのカギは、電気を使う私たち~『ディマンド・リスポンス』とは?」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/dr.html
冬の家庭用の電力需要パターンでは、暖房や照明の使用が増える日中に需要が高まる傾向があります。
このように、夏季と冬季で需要カーブが異なるため、その点を意識して家電の使用を抑えることで、電力の安定供給に貢献することができます。
夏季に効果的な節電ポイント
夏季は電力需要のピークが日中に高まりますが、電力不足のリスクが高まるのは太陽光発電の出力が減少し、家庭の電力需要が高まる17時から20時の点灯帯です[*9], (図9)。
図9: 夏の電力需要と太陽光発電カーブ
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「夏季の省エネ・節電メニュー」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/media/data/2023_summer/setsudenmenu_katei02.pdf, p.2
電力需給がひっ迫しているときは、夕方から夜にかけて、意識して節電・省エネに取り組むことが効果的です。
電力消費の多くを占めるエアコンの使用を控えれば節電に効果的ですが、暑い夏には熱中症などのリスクも考慮する必要があります。
エアコンは扇風機やサーキュレーターを併用することで、室内を快適な温度に保ったまま電力消費を抑えることができます。
冷房の冷たい空気は下に溜まりやすいため、部屋の下部分だけ冷えてしまい、「空気むら」ができてしまいます。エアコンが設置されている部屋の上部はいつまでも冷えないので、エアコンは設定温度に達していないと判断し、無駄なエネルギーを消費してしまいます。
扇風機やサーキュレーターの風によって室内の空気を循環させることで、エアコンを効率的に使用することができます[*10], (図10)。
図10: 扇風機・ サーキュレーターの併用による効果
出典: 政府広報オンライン「節電をして電気代を節約しよう! 手軽にできる節電方法とは?」(2023)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202208/1.html
さらに、外出から帰宅して部屋の温度が上がっているときは、エアコンのスイッチを押す前に換気をすれば、室内の熱を逃して効率的に部屋を冷やすことができます。
冬季に効果的な節電ポイント
冬季は夏季と比較して需要カーブがゆるやかですが、暖房は冷房よりも電力消費が多く、さらに日照時間が短いので、照明をつける時間も長くなります。
冬季はエアコン以外にも、ガスヒーターや床暖房、こたつなどのさまざまな暖房器具を使用します。
暖房器具は次の図11のように使い方を工夫することで、節電の効果を得ることができます[*11], (図11)。
図11: 暖房器具(エアコン、ガスヒーター、床暖房、こたつ)の使用方法
出典: 政府広報オンライン「省エネのポイントを部屋別にご紹介! 高くなりがちな冬の光熱費を抑えましょう」(2023)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202211/1.html
夜が長くなり使用が増える照明に関しては、「省エネ性能の高いLEDランプに取り替える」、「掃除をして本来の明るさを取り戻す」、「こまめにオンオフをして使用時間を減らす」などの取り組みが効果的です[*11], (図12)。
図12: 照明器具の効果的な節電方法
出典: 政府広報オンライン「省エネのポイントを部屋別にご紹介! 高くなりがちな冬の光熱費を抑えましょう」(2023)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202211/1.html
まとめ
電力ひっ迫が懸念されるのは、1年間の中でも特に電力消費が大きくなる夏季と冬季です。
夏季と冬季ではどちらもエアコンの使用が多くなりますが、暖房の方が電力消費が多くなるため、家計へのダメージも増大します。
電力需要が大幅に増えることで電力不足が起こりやすい季節の節電においては、ピークカット、ピークシフトに取り組むことが重要です。
夏季と冬季では電力需要のピーク時間帯が異なり、さらに使用する家電の種類も異なります。
これらのポイントを意識して節電・省エネに取り組むことで、電力ひっ迫時の安定供給に貢献することができるでしょう。
参照・引用を見る
*1
経済産業省 資源エネルギー庁「電気の安定供給のキーワード『電力需給バランス』とは? ゲームで体験してみよう」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/balance_game.html
*2
経済産業省 資源エネルギー庁「電力需要状況」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/dr/jokyo.html
*3
電力広域的運営推進機関「需給ひっ迫等が懸念される緊急時の余力活用契約電源の運用について」(2023)
https://www.occto.or.jp/iinkai/chouseiryoku/2023/files/chousei_88_01_2.pdf, p.12
*4
経済産業省 資源エネルギー庁「家庭でできる省エネ」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/index.html#general-section
*5
ダイキン工業「エアコン暖房を『つけっぱなし』にするのと『こまめに入り切り』するのでは、どちらの電気代が安くなるの?」
https://www.daikin.co.jp/air/life/issue/mission05/page02
*6
総務省統計局「家計調査 第3章家計からわかる暮らしの特徴」
https://www.stat.go.jp/data/kakei/family6/03.html
*7
経済産業省 資源エネルギー庁「北海道のみなさまへの節電のお願い」(2018)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/hokkaido_setsuden.html
*8
経済産業省 資源エネルギー庁「これからの需給バランスのカギは、電気を使う私たち~『ディマンド・リスポンス』とは?」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/dr.html
*9
経済産業省 資源エネルギー庁「夏季の省エネ・節電メニュー」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/media/data/2023_summer/setsudenmenu_katei02.pdf, p.2
*10
政府広報オンライン「節電をして電気代を節約しよう! 手軽にできる節電方法とは?」(2023)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202208/1.html
*11
政府広報オンライン「省エネのポイントを部屋別にご紹介! 高くなりがちな冬の光熱費を抑えましょう」(2023)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202211/1.html