エネルギーの「今」を知る! 「エネルギー白書2023」から読み解く最新のエネルギー情勢

経済産業省の外局である資源エネルギー庁は、エネルギー政策基本法に基づき、毎年、エネルギー白書と呼ばれる年次報告書を発行しています[*1]。

エネルギー白書には、エネルギーをめぐる国内外の状況、日本の取り組みや今後の方針などがまとめられており、エネルギーの「今」を知ることができます[*2]。

2004年から毎年発行されており、2023年6月には、20回目の発行となる「エネルギー白書2023」が公開されました[*1]。

それでは、最新の「エネルギー白書2023」では、今のエネルギー事情についてどのようなことがまとめられているのでしょうか。そのポイントをご紹介します。

 

エネルギー白書2023の概要

エネルギー白書は例年、3部構成となっています。第1部でその年のエネルギーを取り巻く状況や主な対策、第2部で国内外のエネルギー動向、第3部ではエネルギー関連の施策等について記載されています[*1], (図1)。

図1: エネルギー白書2023の構成
出典: 資源エネルギー庁「エネルギー白書2023について」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/whitepaper2023.pdf, p.1

特にエネルギー白書2023の第1部では、福島復興の進捗状況に加えて、エネルギーセキュリティやGX(グリーントランスフォーメーション:化石エネルギーから、CO2を排出しないクリーンエネルギー中心の産業構造・社会構造に転換すること)に関するトピックがとりあげられています[*2]。今回は、この第1部の内容を詳しく見ていきます。

 

福島復興の進捗

第1章「福島復興の進捗」では、東日本大震災後の福島復興における取り組みを紹介しています。はじめに、福島県内の帰宅困難区域の避難指示解除に向けた取り組み等を発信しています[*2]。

次に、ALPS処理水の処分に向けた取り組みとして、その安全性のPRや水産物の需要対策のための基金の設置などの取り組みを紹介しています。ALPS処理水とは、東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです[*1, *3]。

第1章では、溶けた燃料が冷えて固まった燃料デブリの取り出しに向けた取り組みも発信しています。具体的には、水中ロボットを活用した調査や、福島県楢葉町で行われているロボットアームの試験などについて紹介されています[*2]。

そして、エネルギー分野に関しては、2016年9月に策定された「福島新エネ社会構想」における取り組みの進捗状況が紹介されています[*4]。

福島新エネ社会構想

「福島新エネ社会構想」は、福島復興を後押しするため、福島が再生可能エネルギーや水素などの新エネルギー導入のモデル創出拠点となることを目指した構想です[*4]。

第2フェーズとなる2021年度を迎えるに当たっては、2021年2月に同構想を改定し、再生可能エネルギーと水素を柱とした取り組みを推進しています。

例えば、再生可能エネルギーにおいては、「再生可能エネルギー発電設備等導入基盤整備支援事業」を活用して、避難解除区域等における約16万kWの太陽光発電設備等の導入が進められてきました。

また、風力発電の導入拡大に向け、2017年3月に送電線等の整備・運営を行う福島送電合同会社が設立されました。現在、風力発電所等の建設工事と並行して、送電網の工事も進められています。

利用段階でCO2を排出しない水素エネルギーは、クリーンなエネルギーとしてその利活用が期待されています[*4]。

水素を再生可能エネルギーの電力から製造するため、2020年3月、福島県浪江町に福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)が開所しました。

同フィールドでは現在、世界有数の規模となる1万kWの水電解装置を活用した実証事業が行われています[*4, *5], (図2)。

図2: 福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「再エネを利用した世界最大級の水素製造施設『FH2R』が完成」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101293.html

製造された水素は、福島県内の公共施設等において水素燃料電池の燃料や、水素ステーション等で活用されるなど、福島復興にも貢献しています[*4]。

 

エネルギーセキュリティを巡る課題と対応

世界的なエネルギーの需給ひっ迫と資源燃料価格の高騰

以前から世界では、エネルギーの供給力不足や価格高騰が問題となっていましたが、近年のウクライナ情勢によって、この問題がさらに深刻になっています[*2]。

特に、ロシア産の石油、天然ガスなどの化石燃料に大きく依存していた欧州などでは、影響が深刻化しており、エネルギーセキュリティの確保に向けた動きが活発化しています[*2], (表1)。

表1: ウクライナ情勢以前のG7各国のエネルギー自給率とロシアへの依存度出典: 資源エネルギー庁「激動するエネルギーの『今』を知る! 『これから』を考える! 『エネルギー白書2023』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyhakusho2023.html

資源エネルギー庁の定義によると、エネルギーセキュリティとは、「国民生活、経済・社会活動、国防等に必要な量のエネルギーを受容可能な価格で確保できること」です[*6]。

2022年には、EUやG7等による原油禁輸などロシアへの経済制裁が行われる一方で、代替エネルギー確保のため、欧州ではLNG(液化天然ガス)の供給が急増しました[*2, *4], (図3)。

図3: 主要地域におけるLNG輸入量の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/pdf/whitepaper2023_all.pdf, p.34

経済制裁や欧州におけるLNG供給の急増等により、世界のエネルギー情勢は一変し、エネルギー価格がさらに高騰する事態となっています[*2]。

例えば、アジアのLNGスポット価格であるJKM(Japan Korea Marker)は、ウクライナ情勢を受けて2022年3月7日に、これまでで最も高い価格となる約85ドル /MMBtuとなりました。この1年前の価格は約6ドル/MMBtuであったため、約14倍上昇したことになります[*4]。

LNGの需給ひっ迫・価格高騰を受けて、アジアでは輸入を減らし、計画停電を実施した国もありました。また、LNG需給は2025年頃にかけてさらにひっ迫する見込みであり、世界的なLNG争奪戦は短期間では終わらないとされています[*1], (図4)。

図4: 世界のLNG供給余力
出典: 資源エネルギー庁「エネルギー白書2023について」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/whitepaper2023.pdf, p.5

LNG確保に向けて、各国政府は積極的な動きを見せています。例えば、EUは2022年3月に、「Re Power EU計画」と呼ばれるLNGの調達等に関するエネルギー政策方針を発表しました。また、中国や韓国は、エネルギー安定供給のための国家戦略に基づき、国営企業を中心にLNGの長期契約の交渉・締結を進めています[*4], (図5)。

図5: 各国のLNG確保に向けた状況
出典: 資源エネルギー庁「令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/pdf/whitepaper2023_all.pdf, p.36

日本の経済・社会に与える影響と対応

世界におけるエネルギー問題の深刻化は、日本にとって対岸の火事ではありません。世界的なエネルギー価格の高騰によって、天然ガスの輸入物価が上昇したことで、日本でも電気料金等が高騰するなどの影響が生じました[*2]。

天然ガスの輸入物価が一時期10倍近く急増したドイツ等と比較すると、日本はLNGの多くを長期契約で調達していたため、国内への影響は小さかったと言えます[*1], (図6)。

図6: 世界的なエネルギーの価格高騰による各国への影響
出典: 資源エネルギー庁「エネルギー白書2023について」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/whitepaper2023.pdf, p.6

しかしながら、エネルギー価格の高騰は家庭や企業への大きな負担になります。そこで日本政府は、電気・都市ガス・ガソリン等の価格上昇の影響を受ける家庭・企業への支援を行っています[*1], (図7)。

図7: エネルギー価格高騰に対する日本の対応
出典: 資源エネルギー庁「エネルギー白書2023について」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/whitepaper2023.pdf, p.8

例えば、電気料金について、政府は低圧契約の家庭や企業に対して1kWh当たり7円、高圧契約の企業に対しては1kWh当たり3.5円の支援を行いました。都市ガスについては、1,000万m3未満の家庭や企業などに対して1m3当たり30円の支援を実施しました。

さらに、ガソリンについても補助を行うなど、家庭や企業の負担軽減のための取り組みを積極的に実施しています。

 

GXの実現に向けた課題と対応
脱炭素社会への移行に向けた世界の動向

前述のとおり、GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石エネルギーから、CO2を排出しないクリーンエネルギー中心の産業構造・社会構造に転換することを言います[*2]。

以前から、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが進められてきましたが、近年はCO2の排出削減と、産業競争力の強化・経済成長を同時に実現するGXへの投資が増えています[*2, *4], (表2)。

表2: カーボンニュートラル実現に向けた各国の政策の方向性出典: 資源エネルギー庁「令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/pdf/whitepaper2023_all.pdf, p.53

アメリカでは、2022年8月に「インフレ削減法」が成立しました。同法に基づき、エネルギーセキュリティと気候変動対策に対して3,690億ドル(約50兆円)規模の投資を促進するとしています[*4]。

また、EUは、2020年1月に「欧州グリーン・ディール投資計画」を発表しました。脱炭素社会の実現に向けて、官民合わせて10年間で1兆ユーロ相当(約140兆円)の投資動員を目指しています。

GXの実現に向けた日本の対応

2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されるなど、GXの実現に向けた取り組みが日本でも進んでいます[*1, *4], (図8)。

図8: 「GX実現に向けた基本方針」とは
出典: 資源エネルギー庁「エネルギー白書2023について」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/whitepaper2023.pdf, p.9

同方針では、エネルギー安定供給の確保を前提としたGXの取り組みとして、徹底した省エネの推進、再生可能エネルギーの主力電源化を進めていくとしています[*2]。

例えば、再生可能エネルギーの主力電源化に向けては、次世代型太陽電池(ペロブスカイト)の普及に向けた研究開発等の推進や、浮遊式洋上風力の導入拡大等を目指しています[*4]。

特に、太陽光発電に適した平地の少ない日本では、厚さわずか1マイクロメートルのペロブスカイトに大きな期待が寄せられています。フィルム状で柔軟性に優れており、これまで太陽光発電の設置が困難であったビルの壁面等でも運転が可能です[*7]。

また、同方針では、化石燃料との混焼によって火力発電からのCO2排出量削減が期待できる水素・アンモニアの導入拡大を目指すとしています[*4]。

さらには、官民が協調してGX実現に向けた投資を実現していくため、「成長志向型カーボンプライシング構想」を速やかに実行する方針が示されています。

カーボンプライシングは、企業などが排出するCO2に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法です。カーボンプライシングには、企業等が排出したCO2に対して課税する「炭素税」や、企業ごとに排出量の上限を決め、それを超過する企業と下回る企業との間で排出量を取引する「排出量取引」と呼ばれる手法があります[*8]。

「成長志向型カーボンプライシング構想」とは、これらのカーボンプライシングの手法等を活用して、GX投資を促進することを目指す構想のことです[*9], (図9)。

図9: 成長志向型カーボンプライシング構想とは
出典: 経済産業省 産業技術環境局、内閣官房 GX実行推進室「成長志向型カーボンプライシング構想について」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20231225/231225energy04.pdf, p.5

同構想では、2028年度以降、化石燃料ごとのCO2排出量に応じて、輸入事業者等に負担を課す「化石燃料賦課金制度」の導入を検討しています。また、2033年度以降には、電源の脱炭素化を加速させるため、排出量の多い発電事業者に対する「有償オークション」を段階的に導入するとしています。

 

エネルギーのこれからを考えるために「エネルギー白書」を読んでみよう

以上のように、エネルギー白書には、エネルギーの最新動向を知ることができるトピックが多く紹介されています。

エネルギー資源の約9割を輸入に頼る日本では、脱炭素社会の実現に向けて、世界の動向を踏まえつつ、再生可能エネルギーの導入等を進めていく必要があります[*2]。

これからのエネルギーについて考えるきっかけとして、エネルギーの「今」を知ることができる「エネルギー白書」を読んでみてはいかがでしょうか。

 

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「エネルギー白書2023について」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/whitepaper2023.pdf, p.1, p.4, p.5, p.6, p.8, p.9

*2
資源エネルギー庁「激動するエネルギーの『今』を知る! 『これから』を考える! 『エネルギー白書2023』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyhakusho2023.html

*3
経済産業省「ALPS処理水って何? 本当に安全なの?」
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/no1/

*4
資源エネルギー庁「令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/pdf/whitepaper2023_all.pdf, p.20, p.21, p.28, p.34, p.36, p.52, p.53, p.56, p.61, p.62, p.66

*5
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「再エネを利用した世界最大級の水素製造施設『FH2R』が完成」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101293.html

*6
資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/pdf/1_3.pdf, p.69

*7
NHK「日本発の太陽電池『ペロブスカイト』どこがすごい?」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230525/k10014076631000.html

*8
資源エネルギー庁「脱炭素に向けて各国が取り組む『カーボンプライシング』とは?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_pricing.html

*9
経済産業省 産業技術環境局、内閣官房 GX実行推進室「成長志向型カーボンプライシング構想について」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20231225/231225energy04.pdf, p.5, p.20

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