揚水発電とは? 電力の安定供給に貢献する注目の再生可能エネルギーを紹介

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、国内で急速に導入が進む再生可能エネルギー。その中でも太陽光発電や風力発電は、季節や天候によって発電量が大きく変動するため、需給調整が難しいという課題があります[*1]。

このような課題を克服し、電力の需給バランスの調整に適した発電方法として、揚水発電が近年注目を集めています。

それでは、揚水発電とはどのような再生可能エネルギーなのでしょうか。また、カーボンニュートラルの実現に向けて、揚水発電にはどのような役割が期待されているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

再生可能エネルギー導入の現状と課題
再生可能エネルギー導入の現状

日本は現在、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを推進しています[*2]。

再生可能エネルギー発電の設備導入容量は世界第6位で、特に太陽光発電の設備導入容量は世界第3位となっています。一方で、2020年度時点の日本の再生可能エネルギー電力比率は約19.8%にとどまり、さらなる導入の余地があると言えます[*3]。

そこで政府は、再生可能エネルギーの導入拡大を加速させるため、2030年度までに3,300億~3,500億kWhの導入を目指しています[*3], (図1)。

図1: 2030年度における再生可能エネルギー導入目標
出典: 資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2022年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2022/007/

再生可能エネルギーのさらなる導入拡大に向けた課題

再生可能エネルギーのさらなる導入拡大に向けては、課題も山積しています。

例えば、太陽光発電は、土砂崩れなど災害によって発生する被害への不安や、景観や環境影響評価への見解をめぐり、地元との多くの調整を要します[*3]。

また、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、季節や天候によって発電量が変動します。電力の安定供給に向けては、蓄電池などのエネルギーを蓄える手段の確保が不可欠です。

蓄電池とは、1回限りではなく、充電を行うことで電気を蓄え、繰り返し使用することができる電池(二次電池)のことです[*8]。日本における蓄電池のコストは諸外国と比較して高く、家庭用蓄電システムの1kWhあたりのコスト(工事費なし)は、アメリカのカリフォルニア州で7.9万円、オーストラリアで9.3万円なのに対し、日本は市場平均で14万円にのぼります[*4]。

また、蓄電池の一つであるリチウムイオン電池を製造するためには、リチウム、コバルト、ニッケルなどの原材料が必要になります。しかしながら、これらの原材料は産出国が偏在しているため、産出国で生産・輸出できなくなった際にリチウムイオン電池を製造できなくなるリスクがあります[*5]。

さらに、IEA(国際エネルギー機関)によると、2040年のリチウム需要は2020年比で約13倍、ニッケルやコバルトで約6倍に増加するなど、獲得競争が激化することが予想されます。

 

近年注目を集める揚水発電

再生可能エネルギーの導入拡大に向けて以上のような課題があるなかで近年、揚水発電が注目を集めています。

揚水発電の仕組み

揚水発電とは、下の貯水池から水をくみ上げ、その水を落下させることで発電する方法のことです[*6], (図2)。

図2: 揚水発電と水力発電の違い
出典: 資源エネルギー庁「電力のピンチを救え! 大活躍する『揚水発電』の役割とは?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/yousuihatuden.html

水を使った発電方法としては水力発電が一般的ですが、水力発電は川の流れを利用して水を貯めるのに対し、揚水発電は高い場所へ水をくみ上げる必要があります。

水のくみ上げには揚水ポンプを動かすため、電気が必要です。一般的には、火力発電等の電力が使われますが、需要の少ない夜間の余剰電力を使って揚水ポンプを動かしています。

そして、昼間の電力需要の多い時間帯に水を落とすことで、電気を生み出します[*7], (図3)。

図3: 揚水発電の仕組み
出典: 内閣官房内閣広報室「揚水発電の仕組み」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/yousui.html

揚水発電に期待される2つの役割

夜間の余剰電力を有効活用し、需要の多い昼間に電気を供給できる揚水発電は、政府が目指す「カーボンニュートラルの実現」と「電力供給の安定」という重要な目標を達成するうえで、大きな役割を担います[*6]。

再生可能エネルギーの電気を貯める

揚水発電は、夜に電気を使って水の位置エネルギーを蓄え、昼に水の位置エネルギーを使って電気を生み出せることから、大きな意味で蓄電施設と考えることができます[*9]。

先述したように、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、その発電量が天候に左右されるため、電力需給の調整が難しいという課題があります[*6]。

太陽光等によって必要以上に発電され電気が余った場合には、揚水発電のくみ上げに利用し、他方、電気が足りなくなった場合には、くみ上げられた水を利用して揚水発電を行うことで、電力供給をカバーすることが可能です[*6], (図4)。

図4: 余った再生可能エネルギーの電気を蓄える揚水発電使用のイメージ
出典: 資源エネルギー庁「電力のピンチを救え! 大活躍する『揚水発電』の役割とは?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/yousuihatuden.html

需要ピーク時の発電を助ける

二つ目に、電力需要が少ない時間に水をくみ上げ、需要のピーク時に稼働させることで、夜間から昼間へ電気を移動させるような役割もあります[*6]。

揚水発電はこれまでも、需要のピーク時に発電を行うことで電力の安定供給に貢献してきました。

例えば、東京電力管内において2022年3月に「電力需給ひっ迫警報」が発令された際に、揚水発電が活躍しています。厳しい寒さによって電力需要が急増することが予想されるなか、家庭や事業者等への節電要請とともに、東京電力は管内の8つの揚水発電設備を稼働させ、結果として停電を回避することができました[*10]。

 

揚水発電導入の現状

揚水発電は全国各地に設置されており、2020年時点で、日本国内における揚水発電の設備容量は27.4GWあるとされます(2020年時点の日本の太陽光発電導入容量は72GW)[*3, *11]。

太陽光発電等の導入拡大に伴い、揚水発電における揚水回数も増加しています。例えば、九州電力管内では、昼間の揚水回数が年々増加傾向にあります[*11], (図5)。

図5: 九州電力における昼間・夜間帯の揚水回数の推移
出典: 京都大学大学院 経済学研究科「No.384 揚水発電所の現状と今後のあり方」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0384.html

また、北海道にある京極発電所は、プール形式の上部調整池と、下部調整池である京極ダムの総落差約400mを利用した大規模揚水発電所で、最大出力60万kW(20万kW×3台)を発電可能です[*12], (図6)。

図6: 京極発電所
出典: NPO法人 国際環境経済研究所「巨大揚水発電所を探訪する」
https://ieei.or.jp/2023/09/yoshikawa_20230915/

なお、20万kWで約7万世帯分の電力使用量をカバーできるため、多くの電力需要を賄える揚水発電所と言えます。

また、長野県と群馬県のダムを結ぶ神流川発電所は、上部ダムと下部ダムの落差653mを利用して、発電電動機2台によって最大出力94万kWを発電できる揚水発電所です。現在計画中の3~6号機を加えると、世界最大級の揚水発電所になるとされます[*12], (図7)。

図7: 神流川発電所
出典: NPO法人 国際環境経済研究所「巨大揚水発電所を探訪する」
https://ieei.or.jp/2023/09/yoshikawa_20230915/

深度約500mの地下発電所は、発電・変電施設を収めるため大規模な空洞となっており、最先端の岩盤力学を応用し、卵形の断面形状が採用されています[*12], (図8)。

図8: 神流川発電所において掘削中の地下発電所
出典: NPO法人 国際環境経済研究所「巨大揚水発電所を探訪する」
https://ieei.or.jp/2023/09/yoshikawa_20230915/

 

揚水発電の今後の展望

再生可能エネルギーの導入拡大に伴い重要性が増している揚水発電ですが、その維持と機能強化には採算性などの課題もあります。

建設後60年経過する発電所は、2030年に約2.5GW、2050年には約17.5GWにのぼり、廃止・休止の危険性が高まっています[*11]。

また、揚水発電はくみ上げ時に約3割のエネルギーロスが発生するため、費用を回収するためには、くみ上げ時に使った電気料金の約1.4倍以上の価格で販売する必要があります[*6]。

現在政府は「揚水発電の運用高度化および導入支援補助金」などの取り組みを実施しています。再生可能エネルギーのさらなる拡大に必須の電源である揚水発電の今後の動向に注目していきましょう。

 

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参照・引用を見る

*1
株式会社朝日新聞社「再生可能エネルギーとは? メリット・デメリットや種類、課題を紹介」
https://www.asahi.com/sdgs/article/14648543

*2
環境省「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

*3
資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2022年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2022/007/

*4
株式会社三菱総合研究所「蓄電システムをめぐる現状認識」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/storage_system/pdf/001_05_00.pdf, p.15

*5
経済産業省「蓄電池産業の現状と課題について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/chikudenchi_sustainability/pdf/001_s01_00.pdf, p.14, p.16

*6
資源エネルギー庁「電力のピンチを救え! 大活躍する『揚水発電』の役割とは?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/yousuihatuden.html

*7
内閣官房内閣広報室「揚水発電の仕組み」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/yousui.html

*8
資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~『蓄電池』は次世代エネルギーシステムの鍵」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/chikudenchi.html

*9
電気事業連合会「揚水式水力発電」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/hatsuden/water/yousuishiki/

*10
NHK「停電の危機 緊迫の舞台裏」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220324/k10013548771000.html

*11
京都大学大学院 経済学研究科「No.384 揚水発電所の現状と今後のあり方」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0384.html

*12
NPO法人 国際環境経済研究所「巨大揚水発電所を探訪する」
https://ieei.or.jp/2023/09/yoshikawa_20230915/

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