カーボンマイナスとは? 実現を目指す国内企業と政府の取り組みを紹介

2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを発表しました[*1]。

多くの国や地域でカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが行われていますが、さらに、大気中の温室効果ガスの総量を減らす「カーボンマイナス」を目指す動きも増えつつあります。

それでは、カーボンマイナスとは具体的にどのような概念なのでしょうか。カーボンマイナスを目指す国内の取り組み事例と併せて、詳しくご説明します。

 

カーボンマイナスとは

カーボンマイナスとは、地球上の温室効果ガスの総量を減少に導く取り組みのことで、カーボンネガティブと呼ばれることもあります[*2], (図1)。

図1: カーボンニュートラルとカーボンマイナスの違い
出典: 立命館大学「カーボンマイナス」
https://www.ritsumeikan-carbon-minus.org/%E3

先述したように、カーボンニュートラルは、温室効果ガス排出量と吸収量・除去量が同じになるようにする取り組みです。一方で、カーボンマイナスとは吸収量・除去量が排出量を上回るようにする取り組みのことです。

 

カーボンマイナスを達成するための主な手段

企業が行う植林活動などで植物が吸収するCO2量が、その企業の活動によって排出されるCO2の量を超える場合、その企業はカーボンマイナスを達成していると言えます[*3]。

このように、CO2を除去する技術のことを「ネガティブエミッション技術」と言い、植林活動以外にもバイオ炭やDACCSなど様々な方法があります[*3, *4], (表1)。

表1: 主なネガティブエミッション技術出典: 資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語〜大気中からCO2を除去する『CDR(二酸化炭素除去)』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cdr.html

バイオ炭とは

バイオ炭とは、木炭や竹炭のように生物由来の資源(バイオマス)を炭化させたものです。木材や家畜のふん尿、もみ殻、下水汚泥などを原料として作られるバイオ炭は、農地の透水性を改善する土壌改良材として活用できます[*3, *5], (図2)。

図2: バイオ炭による炭素貯留の仕組み
出典: 農林水産省「バイオ炭をめぐる事情
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/attach/pdf/biochar-1.pdf, p.1

バイオ炭は土壌中でも長期間分解されずに残るため、農地へ使用することで土壌へ炭素を貯めておくことが可能です[*3]。

DACCSとは

DACCSとは、「Direct Air Carbon Dioxide Capture and Storage」の略で、大気中から直接CO2を分離・回収するDACと、地中に貯留するCCSを組み合わせた技術のことです[*4]。

DACには、膜を使って大気からCO2のみを回収する膜分離法などの方法があり、現在、実用化に向けた研究が進められています[*6], (図3)。

図3: 膜分離法によるCO2の回収
出典: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所「DAC(直接空気回収技術)とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20230830.html

DACによって回収したCO2は、CCS技術によってCO2を通さない遮へい層の下の砂岩などの層に貯留されます[*7], (図4)。

図4: CCSの流れ
出典: 資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html

2023年6月には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構によって全国7地域のCCS事業が「先進的CCS事業」に選定されました。今後は、同事業等を通じて、2030年までにCO2の年間貯留量約1,300万トンの確保を目指すとしています[*8]。

 

カーボンマイナス実現に向けた国内での取り組み

現在、カーボンマイナス実現に向けた取り組みが、企業や政府など幅広い主体によって展開されています。

民間部門における事例

セイコーエプソン株式会社

セイコーエプソン株式会社は2050年までのカーボンマイナス実現を目指し、資源循環の取り組みや再生可能エネルギーへの転換を進めています[*9], (図5, 図6)。

図5: セイコーエプソン株式会社が掲げる「環境ビジョン2050」
出典: セイコーエプソン株式会社「方針・ビジョン」
https://corporate.epson/ja/sustainability/environment/vision/

 

図6: 2050年カーボンマイナスに向けた排出量削減イメージ
出典: セイコーエプソン株式会社「方針・ビジョン」
https://corporate.epson/ja/sustainability/environment/vision/

OECD(経済協力開発機構)のレポートによると、人口成長等に伴い、2011年から2060年にかけて世界の資源消費は2倍以上(79ギガトンから167ギガトン)になるとされています。セイコーエプソン株式会社では、使用済み製品をリサイクル・リユースすることで、製品の原料となる地下資源の消費を減らす取り組みを進めています[*9], (図7)。

図7: エプソンの資源循環と社会全体での資源循環のイメージ
出典: セイコーエプソン株式会社「方針・ビジョン」
https://corporate.epson/ja/sustainability/environment/vision/

また、同社は2023年12月、エプソングループ全世界の拠点における全ての使用電力を、再生可能エネルギーへ転換したことを発表しました。年間使用電力量約876GWhを再生可能エネルギーへ転換したことで、年間40万トンのCO2が削減されるとしています[*10]。

コニカミノルタ株式会社

コニカミノルタ株式会社は、長期環境ビジョン「エコビジョン2050」において、従来の計画より5年前倒しの2025年までにカーボンマイナスを達成すると発表しました[*11], (図8)。

図8: 「エコビジョン2050」におけるCO2削減貢献量
出典: コニカミノルタ株式会社「エコビジョン2050」
https://www.konicaminolta.jp/about/csr/environment/policy/vision2050.html

本ビジョンでは、自社製品のライフサイクルにおけるCO2排出量を、2025年までに2005年度比で61%削減すると同時に、自社製品以外においても、CO2削減ノウハウや技術等を提供することで80万トン以上のCO2削減に貢献することを掲げています

目標の達成に向けて、調達先における生産性向上等を支援することによりエネルギー効率を高めるとともに、電力調達における再生可能エネルギーの活用を進めています。例えば、同社は中国生産拠点2拠点及び欧州の販売会社43拠点で再生可能エネルギー100%を達成しました[*12], (図9)。

図9: 生産拠点や販売拠点における太陽光発電など再生可能エネルギーの利用
出典: コニカミノルタ株式会社「『カーボンマイナス』実現を2050年から2030年に前倒し」
https://www.konicaminolta.com/jp-ja/newsroom/2020/0731-01-01.html

具体的には、工場のエネルギー診断活動のデジタル化を支援したり、工場における再生可能エネルギーの導入ノウハウを提供したりすることで、CO2削減に貢献しています[*12]。

国土交通省における事例

民間部門だけでなく、政府によるCO2削減の支援も拡充しています。例えば、国土交通省は、住宅における脱炭素化を促すため、LCCM住宅(ライフサイクルカーボンマイナス住宅)を推進しています[*13]。

LCCM住宅とは、建設時等におけるCO2削減に取り組むとともに、再生可能エネルギーを活用することでライフサイクル全体のCO2排出量をマイナスにする住宅のことです[*13], (図10)。

図10: LCCM住宅の累積CO2排出量
出典: 国土交通省「国土交通白書 2022 第1節 わたしたちの暮らしの脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/n1211000.html

LCCM住宅を推進するため、国土交通省は、整備費用の一部を補助する「LCCM住宅整備推進事業」を実施しています。令和5年度事業では、LCCM住宅を新築した際、1戸当たり140万円までを上限に費用を補助しており、LCCM住宅の普及が期待されています[*14]。

 

まとめ

以上のように、カーボンニュートラルからさらに一歩進んだカーボンマイナスの取り組みは増えつつあります。

今回紹介してきたように、カーボンマイナス達成に向けては、達成を目指す企業当事者だけでなく、調達先や顧客など様々な主体と共に排出量削減に取り組むことが求められています。

今後は、ネガティブエミッション技術等の研究開発やその活用を含めた産学官の連携が、カーボンマイナス達成のカギと言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
環境省「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

*2
立命館大学「カーボンマイナス」
https://www.ritsumeikan-carbon-minus.org/%E3

*3
日本電信電話株式会社「カーボンネガティブとは? 概要と背景・CO2削減を実現するためのネガティブエミッション技術を解説」
https://www.rd.ntt/se/media/article/0063.html

*4
資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語〜大気中からCO2を除去する『CDR(二酸化炭素除去)』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cdr.html

*5
農林水産省「バイオ炭をめぐる事情」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/attach/pdf/biochar-1.pdf, p.1

*6
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「DAC(直接空気回収技術)とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20230830.html

*7
資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html

*8
経済産業省「日本のCCS事業への本格始動」
https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230613003/20230613003.html

*9
セイコーエプソン株式会社「方針・ビジョン」
https://corporate.epson/ja/sustainability/environment/vision/

*10
セイコーエプソン株式会社「エプソングループ、グローバル全拠点の使用電力を100%再生可能エネルギー化」
https://corporate.epson/ja/news/2024/240109.html

*11
コニカミノルタ株式会社「エコビジョン2050」
https://www.konicaminolta.jp/about/csr/environment/policy/vision2050.html

*12
コニカミノルタ株式会社「『カーボンマイナス』実現を2050年から2030年に前倒し」
https://www.konicaminolta.com/jp-ja/newsroom/2020/0731-01-01.html

*13
国土交通省「国土交通白書 2022 第1節 わたしたちの暮らしの脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/n1211000.html

*14
国土交通省「令和5年度 LCCM住宅整備推進事業」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/shienjigyo_r5-04.html

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