ウクライナ情勢等を契機に、エネルギーの価格高騰や需給ひっ迫など、近年、世界のエネルギーを取り巻く情勢は複雑化しています[*1]。
世界のエネルギー情勢が大きく変化するなかで、エネルギーの安定供給確保に向けては、一国の取り組みだけでなく、多国間・二国間での協力関係を構築することが不可欠です。
また、世界的な気候変動問題に対処するためには、各国の連携が求められています。
それでは、日本は現在、多国間・二国間でどのようなエネルギー国際協力体制を構築しているのでしょうか。エネルギー分野における国際協力の重要性と併せて、詳しくご説明します。
エネルギーを取り巻く国際情勢
世界の一次エネルギー(石油、天然ガス、水力、太陽光など自然から直接採取できるエネルギー)消費量は、経済成長とともに増加し続けています。石油換算では、1965年の37億トンから年平均2.4%で増加し続け、2021年には142億トンに達しました[*1], (図1)。
図1: 世界のエネルギー消費量の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和4年度 エネルギーに関する年次報告」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/pdf/whitepaper2023_all.pdf, p.115
また、2000年代以降は、先進国(OECD諸国)におけるエネルギー消費量の伸び率が鈍化する一方で、中国やインドなどでの伸び率が高くなっています。
IEA(国際エネルギー機関)は、公表政策シナリオ(各国が表明済の具体的政策を反映したシナリオ)の場合、2050年の世界の一次エネルギー消費量が2021年比で約1.19倍の177億トンまで増加すると予測しています。
エネルギー分野における国際協力の重要性
気候変動対策実施に向けた連携
このように、エネルギー消費量が高まるなかで、温暖化などの問題が懸念されています。特に、先進国以外でのエネルギー消費量が急増するなかでは、途上国も含めた全ての国による取り組みが不可欠です[*2]。
現在の気温は、産業革命前の水準から約1.2℃上昇しています。公表政策シナリオでは、エネルギー関連のCO2排出量は2020年代半ばにピークに達するとされ、2100年には世界平均気温が約2.4℃まで上昇する見込みです。
IEAによると、気温上昇を抑えるためには、2030年までに再生可能エネルギーの発電設備容量を3倍にする必要があります。また、エネルギー効率の改善や、電化の加速、化石燃料事業から温室効果の高いメタン排出を75%削減するなどの対策が求められています。
一方で、限られた資金や能力では十分な気候変動対策を実施できない途上国もあります。そのため、先進国と途上国が連携した国際協力体制の構築が求められていると言えます[*3]。
エネルギーの安定供給に向けた連携
エネルギー需給の安定化に向けても、多国間・二国間での国際的な協力の拡大が求められています[*1]。
2022年以降、ウクライナ情勢を契機に、各国がロシア産エネルギーの禁輸などロシアへの経済制裁を実施したことにより、エネルギー価格が高騰しました[*1], (図2)。
図2: エネルギー市場価格の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和4年度 エネルギーに関する年次報告」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/pdf/whitepaper2023_all.pdf, p.25
また、ロシア産エネルギーの代替エネルギーとして近年、LNG(液化天然ガス)の需要が急増しています。
一方で、LNGには、原油と比べて備蓄・貯蔵が難しいといった課題や、取引に関与する企業等が少ないことからマーケットが構築されていないといった課題があります[*4]。
LNGの安定供給に向けては、以上の課題を克服する国際的なルール整備が不可欠であり、多国間・二国間でのエネルギーにおける国際協力の推進が求められています。
多国間枠組みを通じた協力体制
気候変動対策の連携やエネルギーの安定供給の確保に向けて、多国間による枠組みを通じた協力体制が展開されています[*1]。
具体的には、IEAなど国際機関を通じた連携や、G7エネルギー大臣会合を通じた先進国間の連携、アジア諸国など地域内における協力の枠組みなどがあります。
IEA(国際エネルギー機関)
IEA(国際エネルギー機関)は、1974年に石油消費国間の協力組織として設立された国際機関です。現在は、低炭素技術の開発促進や、国際石油市場や世界エネルギー需給等の見通しの策定、新興国や産油国等との協力関係の構築等を行っています[*1]。
IEAを通じて開催される閣僚会議では、世界の様々なエネルギー課題が議論され、各国からの提案等に基づき様々な施策が実施されています。
2023年2月に開催された臨時閣僚会合において、日本は、ウクライナ情勢を契機に起こったガス危機について、中長期的な議論が必要であることを提唱しました。IEA加盟国と天然ガス・LNGの生産国及び消費国との対話の場を設けることを提案し、2023年7月には、日本とIEAの共催で「LNG産消会議2023」が開催されました[*4], (図3)。
図3: LNG産消会議2023
出典: 資源エネルギー庁「LNGの未来に向けて、安定供給や環境対応の取り組みを日本が主導」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lng_conference2023.html
先述したように、LNGには原油と比べて備蓄・貯蔵が難しいといった課題があります。本会議では、各国の地域特性に応じた備蓄・貯蔵方法の導入を支援するため、IEAによる提言・アドバイス機能の強化等について議論されました。
また、LNGの主成分であるメタンは温室効果ガスの一種で、生産過程で排出されています。本会議では、このメタン排出削減に取り組むため、「Coalition for LNG Emission Abatement toward Net-zero(CLEAN)」の立ち上げが発表されました[*4], (図4)。
図4: CLEANの仕組み
出典: 資源エネルギー庁「LNGの未来に向けて、安定供給や環境対応の取り組みを日本が主導」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lng_conference2023.html
CLEANは、日本の株式会社JERAと、韓国ガス公社が立ち上げたイニシアティブです。本イニシアティブでは、日韓のLNGバイヤーが中心となり、メタン排出削減をLNG生産者に働きかけることで、LNGの生産や流通などバリューチェーンのクリーン化を目指しています。
G7(先進国首脳会議)
日本、アメリカ、カナダ、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアの7か国で構成されるG7においても、エネルギーの国際協力体制の強化に向けた議論が行われています[*1]。
2023年4月には、「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」が開催され、近年のエネルギー危機への対応等について議論されました[*5], (図5)。
図5: G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合概要
出典: 経済産業省、環境省「G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合」
https://www.env.go.jp/content/000117649.pdf
また、パリ協定の締約国に対し、2025年までの世界全体の排出量を下落に転じさせるなど目標への協力を呼びかけ、各国の連携を強調しています[*6]。
ASEAN+3(アジア太平洋地域)
アジア地域でのエネルギー需要の急増を踏まえ、アジア太平洋地域の国や地域との多国間協力も拡大しています[*1]。
2023年8月には、日本、中国、韓国、ASEAN諸国によるASEAN+3エネルギー大臣会合が開催されました。
アジア規模でのエネルギー安全保障の確保のため、「アジア・ゼロエミッション共同体」の構想等を進めながら、各国の事情に即した脱炭素技術の導入に向けた具体的な案件を形成していくとしています[*7, *8], (図6)。
図6: アジア・ゼロエミッション共同体とは
出典: 産業技術環境局・資源エネルギー庁「カーボンニュートラル実現に向けた国際戦略」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/004_03_00.pdf, p.22
また、アジア太平洋地域の21の国と地域が参加する経済協力の枠組み、APECでも、エネルギー大臣会合が度々開催され、エネルギーの国際協力体制の強化が図られています[*9, *1]。
2023年8月に開催された会合では、電力セクターの脱炭素化、メタン排出削減、公正なエネルギー移行(労働者や地域が取り残されることなく、公正かつ平等な方法によってクリーンエネルギー等を導入すること)の3点を中心に議論がなされました。特に、メタン排出削減については、先述した「CLEAN」の取り組みを日本が紹介し、世界のLNGのクリーン化等に関する議論が行われています[*10, *11]。
日本の二国間協力の枠組み
先進諸国との協力
エネルギーの国際協力体制の強化に向けて、日本は現在、アメリカやカナダ、フランス、ドイツなど先進諸国との二国間協力関係の構築を進めています[*1]。
日米間では、クリーンエネルギー技術に関するイノベーションや第三国の脱炭素化など、幅広い分野での協力関係が深化しています。2022年には、クリーンエネルギーとエネルギー安全保障についての定期的な対話を行うため、「CEESI(日米クリーンエネルギー・エネルギーセキュリティ・イニシアティブ)」が設立されました。
また、日独間では、2019年に締結された「日本国経済産業省とドイツ連邦共和国経済エネルギー省とのエネルギー転換における協力宣言」等に基づき、水素とエネルギー転換に関するワーキンググループが設置され、実務的な議論が行われています。
アジア諸国との協力
日本はインドや中国、マレーシアなどアジア諸国との協力関係の構築も進めています[*1]。
世界第3位のエネルギー消費国であるインドとは、「日印エネルギー対話」を立ち上げ、閣僚間の対話を深めています。
また、省エネについては、日本の支援で2018年に成立したインド版省エネガイドラインの普及に向け、専門家派遣等の協力を継続しています。
さらに、水素分野では、2019年に水素及び燃料電池に関するワークショップを開催し、両国の水素政策等について情報交換を行っています。
エネルギー供給国との関係強化
石油の大部分を海外からの輸入に頼る日本にとって、産油国との関係強化は重大な課題です。そこで、日本は、サウジアラビアやUAEなどエネルギー供給国との関係強化も進めています[*1]。
例えば、日本とサウジアラビアは、2017年に二国間協力の基本的な方向性と具体的なプロジェクトをまとめた「日・サウジ・ビジョン2030」に合意しています。
日本にとって第2位の原油供給国であるUAEとは、2022年の閣僚級会談において、増産を含めた原油供給等による国際原油市場の安定化に向けた協力を働きかけました。また、クリーンエネルギー等の新たな分野での二国間協力を深化させていくことで一致しました。
まとめ
日本における多国間・二国間の協力体制は、今回紹介してきた取り組み以外にも数多く存在します。
先述したように、エネルギー価格の高騰やエネルギーの需給ひっ迫など、世界のエネルギー情勢は複雑化しており、一国だけの取り組みでは限界があります。
今後も引き続き、各国とのエネルギー国際協力体制を拡大・深化させることが求められていくでしょう。
参照・引用を見る
*1
資源エネルギー庁「令和4年度 エネルギーに関する年次報告」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/pdf/whitepaper2023_all.pdf, p.25, p.33, p.115, p.116, p.244, p.245, p.246, p.249, p.250, p.251, p.252, p.253, p.254
*2
一般社団法人 日本原子力産業協会「IEA『2023年版世界エネルギー見通し』(WEO 2023)を発表、低排出電源としての原子力拡大を予測」
https://www.jaif.or.jp/information/weo2023
*3
外務省「気候変動分野における途上国支援」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page23_001646.html
*4
資源エネルギー庁「LNGの未来に向けて、安定供給や環境対応の取り組みを日本が主導」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lng_conference2023.html
*5
経済産業省、環境省「G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合」
https://www.env.go.jp/content/000117649.pdf
*6
資源エネルギー庁「『G7』で議論された、エネルギーと環境のこれからとは?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/g7_2023.html
*7
経済産業省「中谷副大臣がASEAN+3エネルギー大臣会合及びEAS(東アジアサミット)エネルギー大臣会合等に出席しました」
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230825005/20230825005.html
*8
産業技術環境局・資源エネルギー庁「カーボンニュートラル実現に向けた国際戦略」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/004_03_00.pdf, p.22
*9
外務省「APECの概要」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/apec/soshiki/gaiyo.html
*10
経済産業省「太田副大臣がAPEC(アジア太平洋経済協力)エネルギー大臣会合に出席しました」
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230817002/20230817002.html
*11
株式会社朝日新聞社「公正な移行とは|産業にもたらす影響や日本の現状・課題を解説」
https://www.asahi.com/sdgs/article/15004883