水素ステーションが燃料自動車普及のカギ? その仕組みや設置に向けた課題を分かりやすく解説

FCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)の燃料となる水素を供給する水素ステーション。ガソリン車におけるガソリンスタンドのような存在であるため、FCVの普及には欠かせない存在です。

日本では、世界に先駆けたFCVの自立的な普及を目指すため、水素ステーションの整備費用の一部を補助するなどの取り組みを加速させています[*1]。

現在国内では、どの程度水素ステーションが普及しているのでしょうか。その仕組みや、普及に向けた課題を、官民による導入促進事例と併せて、詳しくご説明します。

 

FCV(燃料電池自動車)とは
FCVの仕組みと特徴

FCVとは、燃料電池で水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を作り、その電気でモーターを回して走行する自動車のことです[*2], (図1)。

図1: FCVの仕組み
出典: ENEOS株式会社「燃料電池自動車について」
https://www.eneos.co.jp/business/hydrogen/fcv.html

走行時に排出するのは水だけで、CO2や大気汚染物質を排出しないため、環境に優しい自動車として、近年注目を集めています。

FCVの水素の充填時間は、ガソリン車におけるガソリンの充填時間と同等の1回3分程度となっています。また、1回の水素充填で走行可能な距離は約650~750km(JC08モードのメーカーカタログ値)と、FCVには長距離走行が可能というメリットもあります。

なお、JC08モードとは、自動車の燃費測定方法の一種です。JC08モードでは、実際の使用状況に近づけるため細かい速度変化で運転するとともに、エンジンが冷えた状態から計測されています[*3]。

FCV普及の動向

韓国のある調査会社によると、2022年1月から11月までの世界のFCV販売台数は、前年同期比14.2%増の18,457台でした[*4]。

一方で、2023年の世界におけるEV(Electric Vehicle:電気自動車)の年間販売台数は約1,380万台であったため、販売台数に大きな差があると言えます[*5]。

日本では、全国各地でFCVの導入が進んでいます。例えば、北海道室蘭市は、市民に対してFCVを貸し出すカーシェアリング事業を行っています[*6], (図2)。

図2: 自治体によって行われているFCV普及施策
出典: 環境省「【燃料電池自動車の普及状況】FCVは全国各地にて、様々な方法で活用されている」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/PDF/application_fcv.pdf, p.1

また、東京都中野区は、トヨタモビリティサービス株式会社と協定を結び、区民向けのFCVレンタルサービスを提供するなど、各自治体がFCV の普及施策を実施しています。

一方で、国内におけるFCVの普及台数は2022年夏時点でおよそ7,000台にとどまり、世界の動向と同様に、EVと比較すると普及が進んでいないのが現状です[*7]。

 

水素ステーションの動向
FCV普及に重要な役割を果たす水素ステーション

日本におけるCO2排出量のうち、運輸部門から排出される割合は17.7%となっています。そのため、脱炭素化に向けては、運輸部門における早急な対応が不可欠です[*8], (図3)。

図3: カーボンニュートラル達成に不可欠な運輸部門における取り組み
出典: 経済産業省「燃料電池車の普及に向けた中間まとめ(案)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mobility_hydrogen/pdf/005_02_00.pdf, p.4

そこで、日本政府は、2030年までにFCVを80万台に増やす目標を掲げています。しかし、先述したように、FVCの普及台数は2022年夏時点で約7,000台と、目標台数と大きな開きがあります[*7]。

普及が進んでいない要因として、一つ目に、FCVは EVと比較して販売価格が高価格という点が挙げられます。EVは日産自動車の「サクラ」など200万円台の低価格帯の軽自動車の売れ行きが好調なのに対し、FCVであるトヨタ自動車の「ミライ」の価格は、国の補助金を活用しても500万円台からとなっています[*7, *9]。

また、水素ステーション設置数の少なさも課題です。2024年4月末時点で、首都圏に47か所、中京圏には45か所ありますが、中国地方や九州などでは、1つの県に1か所しかないところもあり、長崎県、宮崎県、沖縄県での設置数はゼロとなっています[*10, *11,*12], (図4)。

図4: 水素ステーションの運用数(2024年4月30日現在)
出典: 一般社団法人 次世代自動車振興センター「充電スポット/水素ステーション」
https://www.cev-pc.or.jp/lp_clean/spot/

そのため、FCVの普及に向けては、水素ステーションのさらなる設置が不可欠と言えます。

水素ステーションを構成する主要設備

現在、日本で商用ステーションとして運用されている水素ステーションは、「定置式」と「移動式」の2種類に大別されます[*11]。

「定置式」は、ステーション内で水素を製造する「オンサイト方式」と、製油所等で製造された水素をステーションに輸送する「オフサイト方式」の2種類に分けられます[*11], (図5)。

図5: 水素ステーションの種類
出典: 一般社団法人 次世代自動車振興センター「充電スポット/水素ステーション」
https://www.cev-pc.or.jp/lp_clean/spot/

「移動式」は、大型のトレーラーに設備を積んで水素を供給することが可能な方式です。複数の場所での運営が可能なため、FCVの普及の過渡期である現状に適した方式と言えます。

水素ステーションは、水素を圧縮する「圧縮機」や一時貯蔵のための「蓄圧機」、冷却を行う「プレクーラー」、水素を注入する「ディスペンサ」などから構成されています[*1, *11], (図6)。

図6: 水素ステーションの主要設備
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「今後の水素ステーション政策の方向性について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/027_02_00.pdf, p.4

水素ステーションの整備及び運用に向けた課題

先述したように、国内における商用水素ステーションは、2024年4月末時点で152か所と、設置場所が限られているのが現状です[*11]。

FCV普及に向けては、水素ステーションのさらなる普及が急務ですが、整備費や運営費等の低コスト化など、課題も山積しています。

まず、機器の購入や工事に係る費用の合計である整備費は、2019年の実績値が約4.5億円となっており、2013年時点と比較すると低減しています。しかしながら、水素ステーションの整備を行う際の工事費自体は、約1.4億円と高止まりしています[*13], (図7)。

図7: 水素ステーションの整備費の推移
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「FCV・水素ステーション事業の現状について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/024_01_00.pdf, p.6

また、技術開発や規制改革等によるコストダウン効果を加味しても、試算額は4.1億円となっています。2025年の目標値2.0億円と大きく乖離しているため、さらなる低コスト化の取り組みが不可欠です。

次に、水素ステーション設置後の人件費や定期検査費用、電気代、輸送費などの合計である運営費についてですが、こちらも整備費と同様にさらなる低コスト化が求められています。2019年の実績値は4,300万円と、2015年から比較してすでに一定程度の低コスト化は実現しています[*13], (図8)。

図8: 水素ステーションの運営費の推移
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「FCV・水素ステーション事業の現状について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/024_01_00.pdf, p.7

しかしながら、水素輸送費や電気代等の増加が予想されるなかで、2025年目標値である1,500万円をどのように達成するかが今後の課題と言えます。

整備費や運営費などコスト面以外にも、規制等での課題もあります。現行法体系下では、水素ステーションの整備等に際して、高圧ガス保安法、電気事業法、ガス事業法等の多くの法律を考慮する必要があり、分かりにくい保安規制になっています[*14]。

また、事業者が新たな技術導入を図る際、安全基準が明確化されていない場合は自治体レベルで判断できず、許認可に多くの時間を要することがあります。

 

水素ステーションの普及に向けて
国による取り組み

製造時にCO2を排出しない「CO2フリー水素」を推進するため、政府はこれまで、「水素基本戦略」や「水素・燃料電池ロードマップ」を策定してきました[*15, *16]。

また、FCVの利用拡大に向けて、2025年までに320か所、2030年までに1,000か所の水素ステーションを設置することを目標として掲げています。

一方で、先述したように、水素ステーションの導入には、多大なコストがかかります。

そこで政府は、2024年度に約100億円の予算を投入し、水素ステーションを含む充電インフラの整備費用等の一部を補助する施策を実施しています[*15], (図9)。

図9: クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充填インフラ等導入促進補助金の概要
出典: 環境省「日本の水素基本方針」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/PDF/overseas-trend_japan_202403.pdf, p.30

また、現在、水素ステーション設置等にあたっては、多くの法規制に対応する必要がありますが、設置促進に向けては、保安検査や適用法令の一元的かつ体系的な整備が不可欠です。

そこで政府は、水素ステーションの安全な普及に向けた技術基準整備や安全性検証のための調査を支援する「新エネルギー等の保安規制高度化事業」の実施を予定しています[*15], (図10)。

図10: 新エネルギー等の保安規制高度化事業概要
出典: 環境省「日本の水素基本方針」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/PDF/overseas-trend_japan_202403.pdf, p.31

民間企業による取り組み

民間企業による取り組みも活発化しています。2018年には、民間各社によって日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)が設立されました[*17], (図11)。

図11: JHyMによる水素ステーションの建設・運営スキーム等
出典: 資源エネルギー庁「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金について」
https://www.meti.go.jp/information_2/publicoffer/review2021/kokai/overview6.pdf, p.4

JHyMによる整備スキームでは、水素ステーションはJHyMが保有しつつも、運営はインフラ会社に委託しています。また、先述したような国や自治体による建設費・運営費支援に加えて、JHyMが運営費を支援することで、インフラ会社の事業負担を軽減しています。

JHyMは、2018年度以降、参画企業と共同で水素ステーションを整備しています。例えば、2023年9月15日、参画企業の一つである岩谷産業株式会社は足柄サービスエリア(下り)において水素ステーションを開所しました[*18, *19], (図12)。

図12: イワタニ水素ステーション 足柄SA
出典: 中日本高速道路株式会社「E1 東名 足柄SA(下り)水素ステーションが9月15日にオープン! ~高速道路のSA・PAへの設置は全国初~」
https://www.c-nexco.co.jp/corporate/pressroom/news_release/5764.html

当ステーションはオフサイト型のステーションで、充填口が2か所あります。また、供給能力は1時間に平均300Nm3と、大型トラックにも短時間で充電が可能です。さらに、高速道路のSA・パーキングエリアでの設置は全国で初であり、今後は別のSA等への設置も期待されています[*19]。

 

まとめ

カーボンニュートラル社会の実現に向けて、CO2排出量の多い運輸部門における取り組みが求められています[*8]。

運輸部門におけるCO2排出量削減には、FCVの導入が有効ですが、FCVの普及にあたっては水素ステーションの充実化が不可欠です。

整備費や運営費の低コスト化、法令等の整備が必要と言えますが、現在それらの課題への対応が進んでいます。民間企業による取り組みも活発化するなかで、官民一体となって水素ステーションの最適配置を検討し、導入促進施策を実施することがFCV普及に繋がるでしょう。

 

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
経済産業省 資源エネルギー庁「今後の水素ステーション政策の方向性について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/027_02_00.pdf, p.2, p.4

*2
ENEOS株式会社「燃料電池自動車について」
https://www.eneos.co.jp/business/hydrogen/fcv.html

*3
一般社団法人 日本自動車連盟「[Q]燃費表示が10・15モード、JC08モード、WLTCモードと変化したのはなぜですか?」
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-construction/subcategory-engine/faq064

*4
株式会社聯合ニュース「世界FCV販売 現代自がシェア58%で1位=22年1~11月」
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20230104002500882

*5
独立行政法人 日本貿易振興機構「2023年の世界のEV販売台数は35%増の1,380万台、IEA見通し」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/04/f0dff21dad9207ff.html

*6
環境省「【燃料電池自動車の普及状況】FCVは全国各地にて、様々な方法で活用されている」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/PDF/application_fcv.pdf, p.1

*7
株式会社日本経済新聞社「FCVの特徴は? なぜEVより普及遅い?」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL1529U0V11C23A0000000/

*8
経済産業省「燃料電池車の普及に向けた中間まとめ(案)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mobility_hydrogen/pdf/005_02_00.pdf, p.4, p.6

*9
日産自動車株式会社「価格・グレード」
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/sakura/specifications.html

*10
株式会社日本経済新聞社「水素ステーションとは  1県に1カ所のみの地域も」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA151YO0V11C23A0000000/

*11
一般社団法人 次世代自動車振興センター「充電スポット/水素ステーション」
https://www.cev-pc.or.jp/lp_clean/spot/

*12
一般社団法人 次世代自動車振興センター「九州圏の水素ステーション一覧」
https://www.cev-pc.or.jp/suiso_station/area04.html

*13
経済産業省 資源エネルギー庁「FCV・水素ステーション事業の現状について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/024_01_00.pdf, p.5, p.6, p.7

*14
水素バリューチェーン推進協議会「水素バリューチェーン構築に向けた保安規制・制度の課題と提案」
https://www.meti.go.jp/shingikai/safety_security/suiso_hoan/pdf/002_05_00.pdf, p.9

*15
環境省「日本の水素基本方針」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/PDF/overseas-trend_japan_202403.pdf, p.2, p.12, p.30, p.31

*16
ENEOS株式会社「『CO2フリー水素』を低コストで製造する世界初の技術検証に成功」
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/2018/20190315_01_2011051.html

*17
資源エネルギー庁「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金について」
https://www.meti.go.jp/information_2/publicoffer/review2021/kokai/overview6.pdf, p.4

*18
日本水素ステーションネットワーク合同会社「営業情報・整備計画」
https://www.jhym.co.jp/jhyms-stations/

*19
中日本高速道路株式会社「E1 東名 足柄SA(下り)水素ステーションが9月15日にオープン! ~高速道路のSA・PAへの設置は全国初~」
https://www.c-nexco.co.jp/corporate/pressroom/news_release/5764.html

メルマガ登録