「全固体リチウムイオン二次電池」とは? その仕組みとメリット・デメリットを解説

現在、温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す動きが世界全体で活発化しています[*1]。

日本においても、2020年10月、政府が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました[*2]。

カーボンニュートラルの実現には、太陽光や風力など再生可能エネルギーの推進が不可欠です。しかしながら、太陽光や風力は発電量が気候や天候に左右されるため、生み出した電力を蓄えておく高性能な二次電池(バッテリー)が欠かせません[*1]。

現在、最も普及している二次電池はリチウムイオン二次電池(LIB)ですが、LIBには軽量化や小型化、安全性の向上など克服すべき課題が山積しています。

そこで、これらの課題をクリアするため、近年「次世代二次電池」と呼ばれる新たな二次電池の研究開発が進んでいます。

それでは現在、どのような種類の次世代二次電池の開発が進められているのでしょうか。次世代二次電池として特に注目を集めている「全固体電池」の特徴を、課題と併せて、詳しくご説明します。

 

現在主流のリチウムイオン二次電池
リチウムイオン二次電池の特徴

二次電池とは、充電して繰り返し使える電池のことを言い、スマートフォンやEV(電気自動車)、エレベーター、人工衛星など日常の様々な場面で活用されています[*1, *3], (図1)。

図1: 様々な場面で使われるリチウムイオン二次電池
出典: 株式会社村田製作所「第2回 リチウムイオン電池のメリットや充電時の注意点とは?スマホから自動車まで、さまざまなシーンで活用される理由を解説」
https://article.murata.com/ja-jp/article/basic-lithium-ion-battery-2

二次電池には、蓄電電池やニッケル水素電池など様々な種類がありますが、リチウムを含んだ化合物を使用したリチウムイオン二次電池が、現在主流となっています[*1]。

電池にはプラス電極(正極)とマイナス電極(負極)があり、電子が負極から正極へ移動することで電流が生まれ、電気が作られます[*4]。

リチウムイオン二次電池では、正極にリチウムを含ませた金属化合物を使用し、負極にはリチウムを貯めておけるカーボンを使用しています[*4], (図2)。

図2: リチウムイオン電池で電流が生まれる仕組み
出典: 株式会社村田製作所「第1回 リチウムイオン電池とは?専門家が語る、その仕組みと特徴」
https://article.murata.com/ja-jp/article/basic-lithium-ion-battery-1

このような構造のおかげで、従来の電池のように電極を溶かすことなく発電でき、電池自体の劣化を抑えることができます。

リチウムイオン二次電池の課題

様々なメリットがあるリチウムイオン二次電池ですが、課題も多く存在しています。

まず、リチウムイオン二次電池には、発火のリスクがあります[*5]。

リチウムイオン二次電池は、水に溶けると電気を通す物質である電解質に、可燃性の有機化合物を使用しています。そのため、何らかの形で電池への負荷が大きくなり電池の温度が上昇すると、最悪の場合、燃えてしまいます。

また、リチウムイオン二次電池内には電気が流れる電解液があり、有機化合物を含んでいます。そのため、温度が低くなると電解質の粘度が上がり、イオンの動きが悪くなることから、充放電性能の劣化が生じることがあります。一方で、高温では変形や発火のリスクが高まるため、安全性への懸念もあります。

さらに、リチウムイオン二次電池の充電に時間を要することが、EV普及の阻害要因となっています。リチウムイオン二次電池は急速充電も可能ですが、通常よりも電流を大きくするため電池が発熱し高温になります。その結果、電池の早期の劣化につながってしまいます。

 

研究が進む次世代二次電池

以上のような課題を克服するため、現行のリチウムイオン二次電池に代わる新たな二次電池の開発が進んでおり、それらは総称して「次世代二次電池」と呼ばれます[*1], (表1)。

表1: 次世代二次電池研究の例 出典: 国立研究開発法人産業技術総合研究所「次世代二次電池とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20231025.html

次世代二次電池の研究開発は、大きく3つのカテゴリーに分類されます。

1つ目は、現行のリチウムイオン二次電池をベースに高性能化を図る先進リチウムイオン二次電池です。

例えば、近年、正極にリチウムを多く含む「リチウム過剰系」と呼ばれる材料を用いて電池を高容量にする研究が行われています。

リチウム過剰系を使うことで性能の劣化を防ぎ、従来の2倍ほどの容量を持つ二次電池の開発に役立つと期待されています[*6]。

また、通常よりも電解質塩を多く溶解させた濃厚電解液を使って充電サイクルの寿命を延ばす研究も行われています[*1]。

2つ目は、正極・負極材料に現行のリチウムイオン二次電池と全く異なる物質を使った二次電池です。

現行のリチウムイオン二次電池の正極には、コバルトと呼ばれる原料が用いられています。しかし近年、コバルトは資源不足が深刻化しており、埋蔵地が偏在しているという課題があります。

そこで、正極材料に硫黄やフッ素化合物を使ったものが開発されています。また、資源制約の少ないナトリウムやカリウムを用いたナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池などの研究も行われています。

3つ目は、安全面でのメリットがある全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)です。全固体電池は、後述するように、温度変化に強い、発火リスクが小さい、急速充電が可能といった特徴があります。

 

全固体電池とは
全固体電池の特徴

ここまで代表的な次世代二次電池を紹介してきましたが、そのなかでも特に注目を集めているのが全固体電池です。

全固体電池が電気を取り出す仕組みは、従来のリチウムイオン二次電池とほとんど同じですが、大きな違いは、電解質が液体ではなく固体である点です[*7], (図3)。

図3: リチウムイオン二次電池と全固体電池の違い
出典: 株式会社村田製作所「第4回 全固体電池とは?基礎知識や従来の電池との違い、実用化の可能性について専門家が解説」
https://article.murata.com/ja-jp/article/basic-lithium-ion-battery-4

固体にすることで発火のリスクが少なくなり、安全面のメリットもあるため、EVへの搭載が期待されています。

全固体電池は、製造方法によって「バルク型」と「薄膜型」に大別されます[*7], (表2)。

表2: 全固体電池の種類出典: 株式会社村田製作所「第4回 全固体電池とは?基礎知識や従来の電池との違い、実用化の可能性について専門家が解説」
https://article.murata.com/ja-jp/article/basic-lithium-ion-battery-4

バルク型は、電極や電解質の材料に粉体(粉や粒などが集まったもの)が使われており、蓄えられるエネルギーが多いという特徴があります。そのため、バルク型は、主にEVなど大きな機器への使用に適しています。

一方で、薄膜型は、真空状態で電極の上に薄い膜状の電解質を積み上げるという方法で製造される電池です。蓄えるエネルギーの量は小さく、大きな容量は出せませんが、リサイクル寿命が長い、製造しやすいなどのメリットがあるため、センサーなど小型の機器での使用に向いています。

実用化に向けた課題

従来のリチウムイオン二次電池と比較して優れた点も多い全固体電池ですが、実用化に向けた課題は山積しています[*5]。

固体電解質として有望な材料には、硫化物系と酸化物系の2種類がありますが、両者ともにイオン伝導率について課題があります[*5], (表3)。

表3: 硫化物系と酸化物系の比較出典: 国立研究開発法人産業技術総合研究所「全固体電池とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20220720.html#tid-7

イオンとは、電子をやりとりすることで電荷を帯びたもののことです[*8]。

一般的に、固体内ではイオンは動きにくく、イオン伝導率が低いため、イオンが動きやすい材料を探すことが不可欠です[*5]。

また、電池が高い性能を発揮するには電極と電解質が常に密着している必要がありますが、固体の場合、常に密着させることが難しいという課題もあります[*7]。

電解質が液体であれば形状が多少変化しても隙間などはできませんが、固体の場合には、膨張、収縮によって電極に亀裂が入ったりすることがあります[*5]。

さらに、製造工程における課題も存在します。例えば、硫化物系の全固体電池に使用されている固体電解質は、大気中の水分に触れても変質するくらい、水分に弱いという性質があります[*7]。

そのため、硫化物系の全固体電池の製造には、ドライルームなどの専用設備が不可欠です。

実用化に向けた研究開発の動向

全固体電池の普及には多くの課題がありますが、それらの課題を解決するため、大学や民間企業等で研究開発が行われています。

実用化に向けた課題のひとつは、イオン伝導率を高めることです。東京工業大学の研究者等から構成される研究グループは、2023年、世界最高の伝導率を持つ固体電解質の超リチウム(Li)イオン伝導体を開発しました[*9]。

具体的には、新たに開発した伝導率を高めたイオン伝導体を活用して、電極面積当たりの容量が従来の1.8倍となる厚膜正極を作製しました。

同研究グループは、作製した厚膜正極を土台に、全固体電池の開発を進めていくとしており、今後の展開が期待されています。

民間企業による取り組みも活発化しています。例えば、三菱マテリアル株式会社は、2023年に、xEV(電動車)用全固体電池の硫化物系固体電解質について、量産性に優れた新たな製造技術の開発に成功したと発表しました[*10]。

硫化物系固体電解質は、他の材料と比較すると比較的イオン伝導率が高く、その性能の高さから自動車の航続距離の延長や充電時間の短縮が期待されています。

しかしながら、取り扱いの難しさが、量産化・実用化のハードルとなっていました。そこで同社は、非鉄金属材料に関するノウハウを活用し、新たな製造技術として、硫黄を含む原料を混合し、加熱炉で燃成するだけで硫化物系固体電解質を作るシンプルなプロセスを開発しました[*10], (図4)。

図4: 三菱マテリアル株式会社による硫化物系固体電解質の製造プロセス
出典: 三菱マテリアル株式会社「xEV用全固体電池向け材料の新たな製造技術開発に成功」
https://www.mmc.co.jp/corporate/ja/news/press/2023/23-1221.html

同製法の強みは、硫化物系固体電解質を量産化しやすい点です。同社は今後、サンプル出荷で性能評価等を進め、2030年前後の量産開始を目指すとしています[*11]。

 

今後の展望

全固体電池が普及すれば、EVが抱える課題の克服に加え、多方面への波及効果も期待できます[*5]。

例えば、EVを住宅の電源としても活用するV2H(Vehicle to Home)の構想では、EVの充放電を繰り返すことで電池の劣化が進行することが懸念されていましたが、それが解決する可能性があります。

また、全固体電池は不燃性であるため、ドローンなど空中を移動する機器への搭載も可能になります。

酸化物系の普及は2050年頃でまだ先とされていますが、硫化物系については、トヨタ自動車株式会社が2025年までの普及を目標に掲げるなど、近い将来の実用化が期待されます。

しかしながら全個体電池は、まだ産業界で実際に電池として仕上げるためのプロセス開発段階であり、産学官が連携して取り組みを進めていくことが、実用化のカギになると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
国立研究開発法人産業技術総合研究所「次世代二次電池とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20231025.html

*2
環境省「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

*3
株式会社村田製作所「第2回 リチウムイオン電池のメリットや充電時の注意点とは?スマホから自動車まで、さまざまなシーンで活用される理由を解説」
https://article.murata.com/ja-jp/article/basic-lithium-ion-battery-2

*4
株式会社村田製作所「第1回 リチウムイオン電池とは?専門家が語る、その仕組みと特徴」
https://article.murata.com/ja-jp/article/basic-lithium-ion-battery-1

*5
国立研究開発法人産業技術総合研究所「全固体電池とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20220720.html#tid-7

*6
株式会社日本経済新聞社「『リチウム過剰』の電池正極材、高電圧でも安定動作」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC18COH0Y2A510C2000000/

*7
株式会社村田製作所「第4回 全固体電池とは?基礎知識や従来の電池との違い、実用化の可能性について専門家が解説」
https://article.murata.com/ja-jp/article/basic-lithium-ion-battery-4

*8
NHK「イオンの形成」
https://www.nhk.or.jp/kokokoza/kagakukiso/contents/resume/resume_0000002022.html?lib=on

*9
東京工業大学「伝導率が世界最高のリチウムイオン伝導体が示す全固体電池設計の新しい方向性」
https://www.titech.ac.jp/news/2023/067120

*10
三菱マテリアル株式会社「xEV用全固体電池向け材料の新たな製造技術開発に成功」
https://www.mmc.co.jp/corporate/ja/news/press/2023/23-1221.html

*11
株式会社日本経済新聞社「全固体電池の電解質、混ぜて焼くだけ 三菱マテが量産へ」
https://www.nikkei.com/prime/mobility/article/DGXZQOUC227P30S4A420C2000000

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