グリーンジョブってどんな仕事?そのポテンシャルは?

現在、各国は気候変動対策に積極的に取り組んでおり、産業への投資や税制優遇など社会全体での脱炭素化の取り組みは既に多く実施されています[*1]。

一方で、脱炭素化の取り組みを展開するためには、それらに従事する労働者の育成も不可欠です。そこで近年、先進国では、「グリーンジョブ」の創出を支援する取り組みを活発化させています。

グリーンジョブとは、どのようなものなのでしょうか。また、それを取り巻く現状はどうなっているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

グリーンジョブとは

冒頭でも紹介したとおり、近年、脱炭素化の実現に向けて、国内外でグリーン産業やグリーンイノベーションを目指す企業への補助など、マクロ的な施策が実施されています。しかし、脱炭素化の実現に向けては、実際に取り組みを行う労働者の育成などミクロ的な施策も不可欠です[*1]。

そこで近年、各国は環境問題の解決に貢献する業務をグリーンジョブと位置づけ、その創出や実際に従事する労働者の育成に向けた施策を進めています。グリーンジョブの定義は様々ですが、ILO(国際労働機関)が発表した「グリーンジョブ報告書」では、グリーンジョブを「農業、産業、サービス、そして行政の分野は問わず、環境の保全と復元に寄与するあらゆる仕事」と定義しています[*2]。

様々な分野が対象となりうるグリーンジョブですが、同報告書では、特に重要な産業部門として、エネルギー供給業(特に再生可能エネルギー部門)、建設業、運輸業、基幹産業、農業、林業の6分野を挙げています。

例えば、建設業においては、ビル建設などで多くのグリーンジョブを創出することが可能です。最新の技術を駆使してエネルギー効率の高いビルを建てることで、エネルギー消費を削減できます。

これらの業務の多くは、主に同業界で働いてきた人々が担うことが想定されますが、最新の技術を活用するためには、新しいスキルの習得が不可欠です。一方で、グリーンジョブの新たな需要に対しては、必要とされる技能を持つ労働者が足りていないという指摘もあります。

このような背景もあり、各国ではグリーンジョブへの投資の拡大や労働者の新たな技能等の習得に向けたミクロ的な施策を進める機運が高まっています。

 

グリーンジョブを取り巻く海外の現状
世界の現状

近年、世界のグリーンジョブ関連の雇用は増え続けています。IEA(国際エネルギー機関)によると、2022年の世界のエネルギー部門で働く労働者の数は約6,700万人であり、増加傾向にあります[*3], (図1)。

図1: 世界のエネルギー部門における雇用の推移及び各部門における成長率
出典: IEA「World Energy Employment 2023」
https://iea.blob.core.windows.net/assets/ba1eab3e-8e4c-490c-9983-80601fa9d736/World_Energy_Employment_2023.pdf, p.14

2019年から2022年にかけての部門別の雇用者数の増加率を見ると、世界経済全体は減少していますが、エネルギー部門は増加しています。エネルギー部門のなかでも特にクリーンエネルギー部門の伸び率が高く、年5%の増加率を記録しました。

地域別に見ると、全ての地域でクリーンエネルギー部門の雇用者数が増加しています。特に中国では、2019年から2022年にかけて200万人もの雇用が新たに創出されました[*3], (図2)。

図2: 各地域のエネルギー部門における雇用者数の増減
出典: IEA「World Energy Employment 2023」
https://iea.blob.core.windows.net/assets/ba1eab3e-8e4c-490c-9983-80601fa9d736/World_Energy_Employment_2023.pdf, p.19

しかしながら、グリーンジョブの急激な増加に伴う課題もあります。ビジネス特化型SNSを運用するLinkedInによると、2022年から2023年にかけて求人数は22.4%増加しました。一方で、グリーンジョブの業務スキルに合致する労働者の増加率は12.3%と、供給が需要に追い付いていないのが現状です[*4]。

また、IEAによると、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするためには、2030年までに新たに1,700万人もの雇用を創出する必要があります[*3], (図3)。

図3: 2022年から2030年にかけてのエネルギー部門における雇用創出シナリオ
出典: IEA「World Energy Employment 2023」
https://iea.blob.core.windows.net/assets/ba1eab3e-8e4c-490c-9983-80601fa9d736/World_Energy_Employment_2023.pdf, p.24

しかしながら、現行政策を引き継いだ場合のSTEPS (Stated Policies Scenario)シナリオ下では570万人の雇用創出にとどまるため、さらなる取り組みを実施する必要があると言えます。

イギリスにおける取り組み

以上のような課題に対処するため、各国は業務スキルに合致する労働者の確保に向けた取り組みを加速させています。

例えば、イギリス政府は、2030年までに200万人分のグリーンジョブ創出を支援するため、2020年に「グリーンジョブ・タスクフォース」を立ち上げました[*5]。

本タスクフォースは、低炭素経済への移行に必要な高度なスキルを持った労働者の提供に関する課題に焦点をあてています。具体的には、洋上風力発電や住宅の改修など、環境に配慮した取り組みが早急に必要とされるスキルの確保や、石油やガス関係の温室効果ガス排出量の多い部門の労働者が新しいグリーン技術を獲得するための支援などを提言しています。

 

グリーンジョブを取り巻く日本の現状

世界では需要の増加が著しいグリーンジョブですが、日本ではまだなじみの薄い概念であり、大規模な調査等はほぼ行われていないのが現状です[*1]。

しかしながら、日本もカーボンニュートラルの実現を目指すうえで、グリーンジョブの創出及び労働者の必要なスキルの習得に向けた支援が不可欠です。また、支援に向けては現状を把握する必要があります。

そこで、NIRA総合研究開発機構と慶応義塾大学の大久保敏弘研究室は、テレワークに関する実態調査を共同で実施した際に、グリーンジョブについての質問項目を含めました。

アンケート調査結果を見ると、国内では就業者の31%が何らかのグリーンジョブをしており、そのうち17%が就業時間の50%以上をそれにあてていると回答しました。また、就業者全体にたいして、労働時間の10%以上をグリーンジョブにあてている就業者は約16%となっており、OECD加盟国平均である約18%とほぼ同水準と言えます。

職種別に見ると、研究者、管理的職業従事者、農林水産技術者によるグリーンジョブ従事者が多く、それぞれ半数以上を占めます[*1], (表1)。

表1: 職種別にみたグリーンジョブの割合

出典: 公益財団法人 NIRA総合研究開発機構「脱炭素社会実現に向けたグリーンジョブの推進」
https://www.nira.or.jp/paper/opinion-paper/2023/73.html

 

一方で、飲食業接客サービスやデザイナーなど環境と関係が薄い職種は、グリーンジョブ比率が低くなっています。

また、職業別に見たグリーンジョブの割合と年収の関係を見ると、割合が高いほど、年収も高くなる傾向にあり、両者には正の相関関係があることが分かります[*1], (図4)。


図4: 職業別に見たグリーンジョブの割合と年収の関係
出典: 公益財団法人 NIRA総合研究開発機構「脱炭素社会実現に向けたグリーンジョブの推進」
https://www.nira.or.jp/paper/opinion-paper/2023/73.html

 

なお、学歴別の割合を見ると、大学卒以上の割合が37%であるのに対し、そうでない就業者の割合が25%と、学歴による違いがあります。つまり、日本では、グリーンジョブに従事するためには、教育を必要とすることがうかがえます。

 

まとめ

本記事では、グリーンジョブの定義や、国内外の現状を紹介してきました。カーボンニュートラルの実現に向けては、実際に現場を動かす人材の働きが重要となります。

一方で、今回紹介してきたように、グリーンジョブの需要増加に対して労働供給が追い付いていないなど課題は山積です。[*2]。

今後は、グリーンジョブに関わる新たな技術に精通する労働者の育成などの取り組みを加速させていくことが、官民に求められていると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
公益財団法人 NIRA総合研究開発機構「脱炭素社会実現に向けたグリーンジョブの推進」
https://www.nira.or.jp/paper/opinion-paper/2023/73.html

*2
長谷川真一「グリーン・ジョブ 持続可能な経済社会と新たな雇用」
https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio236-1.pdf, p.4, p.5

*3
IEA「World Energy Employment 2023」
https://iea.blob.core.windows.net/assets/ba1eab3e-8e4c-490c-9983-80601fa9d736/World_Energy_Employment_2023.pdf, p.13, p.14, p.19, p.24

*4
LinkedIn「Global Green Skills Report 2023」
https://economicgraph.linkedin.com/content/dam/me/economicgraph/en-us/global-green-skills-report/green-skills-report-2023.pdf, p.3

*5
国立研究開発法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター「2030年までに200万のグリーン・ジョブ創出を支援するタスクフォースが発足」
https://crds.jst.go.jp/dw/20201120/2020112025199/

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