IoT×再生可能エネルギーの可能性は? IoTは脱炭素社会実現の鍵となるのか

IoT(Internet of Things)は、住宅や家電、自動車などの現実世界の「モノ」がインターネットを通じて情報交換する仕組みで、日本語では「モノのインターネット」と表現されます。

IoTは、私たちの生活を豊かにするだけではなく、脱炭素社会の実現に不可欠な再生可能エネルギーの普及を後押しする存在です。

エネルギー分野におけるIoTには、スマートメーターやHEMS(住宅エネルギー管理システム)などがあります。太陽光発電や風力発電、蓄電池などの分散電源をまとめ、需給バランスを調整するVPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)もIoTの技術を活用しています。

この記事では、エネルギー分野におけるIoTの役割とIoTの活用が再生可能エネルギー普及にどのように貢献するのかを解説します。

IoT(Internet of Things)とは?

IoTとは、Internet of Thingsの頭文字をとった言葉で、日本語では「モノのインターネット」と訳されます。

ITU(国際電気通信連合)が定めた国際標準では、「情報社会のために、既存もしくは開発中の相互運用可能な情報通信技術により、物理的もしくは仮想的なモノを接続し、高度なサービスを実現するグローバルインフラ」とされています[*1]。

以前はインターネットにつながっているモノといえばパソコンだけでしたが、現代の社会では、身の回りにあるさまざまなモノがインターネットにつながっています。

IoTは、自動車や家電、産業機器などの現実世界におけるモノからセンサーなどで収集したデータを、通信によりインターネット空間に送信する仕組みです[*2], (図1)。

図1: IoTとは
出典: 総務省講習会テキスト IoT機器等の電波利⽤システムの適正利⽤のためのICT⼈材育成事業
https://smartiot-forum.jp/application/files/4215/7317/2428/iot-jinzai-text_verR0110.pdf, p.3

IoTによってインターネット空間に蓄積されたデータを分析、活用することで新たな価値を創造することができます。

IoTの活用は、データ収集の自動化や既存業務の可視化、人の手では集めることのできなかった新しいデータ収集による業務改善、データ分析や新たな手法を考案することによる新事業の創出などさまざまなメリットがあります[*2]。

近年、IoTは急速に普及しており、さまざまなIoTデバイスが登場しています。

たとえば、ウェアラブルデバイスによって測定された心拍数や体温などのデータをクラウドで蓄積・分析し、生活習慣のアドバイスをおこなうサービスもあります[*2], (図2)。

図2: IoTの導⼊・利活⽤の例(ヘルスケア)
出典: 総務省講習会テキスト IoT機器等の電波利⽤システムの適正利⽤のためのICT⼈材育成事業
https://smartiot-forum.jp/application/files/4215/7317/2428/iot-jinzai-text_verR0110.pdf, p.9

収集されたデータから1日の運動量や仕事中の作業負荷、睡眠の深さなどが把握可能で、運動や睡眠に関する生活改善や、作業員の負荷軽減につながります。

IoT×再生可能エネルギーの事例

多様な分野で導入され始めているIoTですが、エネルギー分野では再生可能エネルギーの導入を支援する役割も担っています。

IoT×再生可能エネルギーの代表的な事例として、スマートメーターやHEMS(Home Energy Management System:住宅エネルギー管理システム)、VPP(Virtual Power Plant)などがあります。

家庭に導入されるスマートメーター・HEMS

全国の各家庭で設置が進むスマートメーターは、従来の電力量だけを計測するメーターではなく、通信による遠隔検針や遠隔開閉などの機能をもった次世代型電力メーターです。

30分ごとに電気の使用量を計測し、電力の使用者や電力会社に情報を提供します[*3]。

スマートメーターと家庭内のエネルギーを制御するHEMSを組み合わせることで、エネルギーの見える化や省エネが可能になります[*4], (図3)。

図3: HEMS導入イメージ図
出典: 国立環境研究所HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=17

HEMSはスマートメーター以外にも、エアコンや照明などの家電や太陽光発電、給湯器、蓄電池などからもデータを収集し、エネルギー機器を最適に制御します。

再生可能エネルギーである太陽光発電の自家消費を最大化させ、快適に暮らしながら省エネを実現することができます[*5]。

スマートメーターやHEMSを活用したエネルギー自動制御だけではなく、IoT技術によるセキュリティ監視や見守り、節水、健康管理、メンテンナンスなどをおこなうIoT住宅も登場しています。IoT住宅は幅広いIoT技術を導入した次世代の住宅で、快適で安心・安全な豊かな暮らしを提供します[*6]。

次世代電力システム構築を担うVPP

太陽光発電や蓄電池、電気自動車などの分散された小規模な電源を、IoT(モノのインターネット)を活用した高度なエネルギーマネジメント技術により束ねて制御することで、あたかも一つの大きな発電所のように機能させる仕組みを、VPP(Virtual Power Plant)つまり「仮想発電所」と呼んでいます。

さまざまなエネルギーリソースをIoT技術によって遠隔で制御できるため、天候によって発電量が左右される太陽光発電や風力発電の調整力として期待されています[*7, *8]。

VPPの需給バランス調整によって、急速に導入が拡大している再生可能エネルギーを、安定的に有効活用することができます[*7], (図4)。

図4: VPPとは
出典: 一般社団法人日本電機工業会VPP
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/res/hems/data/hems_018.pdf

VPPは、従来の一極集中型の電力システムから、再生可能エネルギーを主力とする分散型の電力システムに変革していくために、重要な役割を担う技術です。

IoTやAI(人工知能)などのデジタル技術による保守管理の高度化や、発電所の最適運転、精度の高い需要予測などが可能になれば、より高度な電力システムを構築することができます[*8], (図5)。

図5: 将来の電力システムの可能性
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁2019年、実績が見えてきた電力分野のデジタル化②~バーチャルパワープラント編」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/digitalization2019_2.html

 

IoTによって再生可能エネルギーがもっと活躍する社会に?

全国の自治体や研究機関では、IoTと再生可能エネルギーを組み合わせた意欲的な取り組みを実施しています。

離島での波力発電を稼働監視するIoTセンサ

沖縄県の離島である久米島町では、高コストで環境負荷も高いディーゼル発電機に依存した現状から脱却するべく、自然の波の力で発電する波力発電の導入を検討しています。

出力予測が難しい波力発電の導入にあたり、その稼働監視をIoT技術で実現する実証を行っています[*9], (図6)。

図6: 実証内容のイメージ
出典: 総務省IoT利用環境構築事例集」(2021)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000750546.pdf, p.23

海上に設置される完全自立式メンテナンスフリーの「自己発電型IoTセンサ」によって、波力発電の稼働状況の遠隔監視を行い、安定供給を実現させる取り組みです。

地熱発電と温泉の共生を目指したIoT技術

地熱発電は、季節や時間帯、気象条件に左右されにくく、安定して発電できるベースロード電源として期待されている再生可能エネルギーの一種です。

福島再生可能エネルギー研究所では、地熱エネルギーの適正利用を目指し、さまざまなプロジェクトを実施しています。

その一つが、NEDOなどと協同で取り組む温泉と地熱発電の共生を目指した「AI-IoT温泉モニタリングシステム」です[*10]。

温泉システムに設置したモニタリング装置を通じて温泉の泉質データを送信し、クラウド上でAIが分析することで、地熱発電が温泉に与える影響を科学的に検証できます[*11], (図7)。

図7: 温泉モニタリング装置と温泉モニタリング装置設置例
出典: NEDO地熱発電と温泉との共生を目指した温泉モニタリングシステムの実証試験を開始」(2019)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101200.html

地熱発電開発において懸念される、温泉湧出量の減少や泉質の変化を検証するためのシステムで、温泉との共生が可能であることを実証することで、地熱発電の導入拡大を目指します。

IoTを利用したクリーンモビリティの普及

神奈川県川崎市では、ゼロカーボンシティを目指して運輸部門の脱炭素化に取り組んでいます。

そのプロジェクトの一環として、ソーラーカーポートで充電した自転車やスクーター、小型EVなどのマルチモビリティをアプリなどでシェアし、CO2削減を目指すサービスを提供しています[*12], (図8)。

図8: シェアサービス&ソーラーマルチモビリティパッケージ
出典: 川崎市「再エネ×IoTを利用したクリーンモビリティによるCo2削減に関する研究」(2024)
https://www.city.kawasaki.jp/300/cmsfiles/contents/0000157/157293/sunautus.pdf, p.8

ソーラーカーポートに設置されたIoT情報を取りまとめる機器によって、再生可能エネルギーの稼働状況を把握し、CO2削減量の見える化が可能になります。

まとめ

IoTはAIやロボット、ビックデータなどと並んで、日本が目指すべき未来の社会である”Society 5.0”の主役となる技術です。”Society 5.0”とは、サイバー空間とフィジカル空間を融合させた社会で、フィジカル空間から収集したセンサー情報などのデータをサイバー空間で解析することで、フィジカル空間に新たな価値を提供します[*13], (図9)。

図9: これまでの情報社会(4.0)とSociety 5.0の違い
出典: NEDO次世代のIoT社会に向けたナノテクノロジー・材料分野の技術戦略策定に向けて」(2021)
https://www.nedo.go.jp/content/100926429.pdf, p.2

IoTの活用は、太陽光発電や風力発電といった既に普及が進んでいる再生可能エネルギーだけでなく、可能性を秘めた新たな再生可能エネルギーの導入拡大にも貢献します。

再生可能エネルギーの主力電源化を後押しするIoTは、持続可能な社会の実現に欠かせない技術と言えるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
総務省IoT セキュリティガイドライン ver 1.0」(2016)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000428393.pdf, p.7

*2
総務省講習会テキスト IoT機器等の電波利⽤システムの適正利⽤のためのICT⼈材育成事業
https://smartiot-forum.jp/application/files/4215/7317/2428/iot-jinzai-text_verR0110.pdf, p.3, p.4, p.9

*3
JEMIC「くらしと検定」(2016)
https://www.jemic.go.jp/wp-content/themes/jemic/kihon/kk17.pdf, p.1, p.2*4

*4
国立環境研究所
HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=17

*5
一般社団法人日本電機工業会HEMS
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/res/hems/data/hems_015.pdf

*6
一般社団法人日本電機工業会IoT住宅
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/res/hems/data/hems_016.pdf

*7
一般社団法人日本電機工業会VPP
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/res/hems/data/hems_018.pdf

*8
経済産業省 資源エネルギー庁2019年、実績が見えてきた電力分野のデジタル化②~バーチャルパワープラント編」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/digitalization2019_2.html

*9
総務省IoT利用環境構築事例集」(2021)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000750546.pdf, p.23

 

*10
産総研 福島再生可能エネルギー研究所地熱適正利用のための技術
https://www.aist.go.jp/fukushima/ja/unit/GET.html

*11
NEDO地熱発電と温泉との共生を目指した温泉モニタリングシステムの実証試験を開始」(2019)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101200.html

*12
川崎市「再エネ×IoTを利用したクリーンモビリティによるCo2削減に関する研究」(2024)
https://www.city.kawasaki.jp/300/cmsfiles/contents/0000157/157293/sunautus.pdf, p.8

 

*13
出典: NEDO次世代のIoT社会に向けたナノテクノロジー・材料分野の技術戦略策定に向けて」(2021)https://www.nedo.go.jp/content/100926429.pdf, p.2

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