地域活性化に貢献! 「農業×再生可能エネルギー」の取り組み事例を解説

近年、日本国内の人口が減少するなかで、農業分野における生産者の減少・高齢化が急速に進んでいます。食料の安定的な供給に向けては、農業の振興が急務であり、農業を支える生産者の所得向上の取り組みの推進が求められています[*1]。

政府は、地域の所得向上等の手段の一つとして、地域の特色を生かしたバイオマスや水力、太陽光などの再生可能エネルギーの導入を推進しています。

農村地域において現在は、どのような再生可能エネルギー活用の取り組みが行われているのでしょうか。取り組みの背景や効果とともに、詳しくご説明します。

農業を取り巻く情勢

国内の農業を取り巻く環境は、年々厳しさを増しています。

日本の人口は2008年をピークに減少に転じており、今後も人口減少や高齢化により、国内の食料の総需要と1人当たりの需要が減少することが見込まれています[*2]。

人口減少は、特に農村地域で顕著であり、それに伴う農業者の減少・高齢化が進んでいます。主に自営農業に従事する基幹的農業従事者数は、2000年の約240万人から2023年には約116万人と半減し、58.7%が70歳以上の農業者となっています。

農業者の減少等により、手入れがなされなくなった荒廃農地の面積は2022年には25.3万haとなりました(2023年の農地面積は430万ha)。農業・農村は、国土の保全、水源の涵養、良好な景観の形成など様々な役割を有しているため、これらを維持していくことが大切です。

しかしながら、主業経営体(農業による収入が主で、自営農業に年間60日以上従事している65歳未満の者がいる個人経営体)一つ当たりの2022年の農業所得は363万円となっており、持続的な農業の実施に向けては厳しい状況と言えるでしょう。

 農村の活性化に向けた再生可能エネルギーの活用
「食料・農業・農村基本計画」における再生可能エネルギーの位置付け

良好な景観の形成など農業・農村が持つ様々な機能を維持し、国内における食料供給を安定化させるためには、農業者の所得向上等の施策が不可欠です。そこで政府は、2020年3月に、新たな「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定しました[*3], (図1)。


図1: 「食料・農業・農村基本計画」の全体像
出典: 農林水産省「食料・農業・農村基本計画(令和2年3月)」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-9.pdf

 

農村振興のため、政府は農泊や農家レストランのようなビジネス促進等の施策を推進するとしていますが、その一つとして再生可能エネルギーの導入を挙げています[*4], (図2)。

図2: 農村における再生可能エネルギーの地域内活用
出典: 農林水産省「食料・農業・農村基本計画の概要」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-42.pdf, p.35

具体的には、バイオマス発電や小水力発電、太陽光発電の導入に加え、新たなバイオマス製品の製造・販売の事業化に向けた技術開発や普及を目指しています。

農村における再生可能エネルギーの導入効果

これまで活用されてこなかった土地や水、バイオマス等の資源を活用することで、地域における収入の増加、経費の削減につながるとともに、雇用の創出も期待できます[*5], (図3)。

図3: 農村への再生可能エネルギーの導入効果
出典: 農林水産省「農山漁村における再生可能エネルギー発電をめぐる情勢」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/index-3.pdf, p.7

再生可能エネルギーの導入は、畜産等を含む農業の幅広い分野で行われています。例えば、株式会社ウェルファムフーズは、鶏糞を燃料とするバイオマスボイラーを導入し、温水熱を活用した温風暖房を鶏舎内に配置することで、暖房費を従来の4分の1に削減しました。

また、有限会社白神アグリサービスは、市民風車の見学ツアーの実施とともに、地元特産品を商品化して販売することで、2,000万円以上の売上増加を達成しています[*5], (図4)。

図4: 農村における再生可能エネルギー取り組み効果
出典: 農林水産省「農山漁村における再生可能エネルギー発電をめぐる情勢」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/index-3.pdf, p.8 

化石燃料から再生可能エネルギー由来の燃料に代替することで、温室効果ガス排出量の削減にも貢献できます。

例えば、株式会社土田鶏卵は2022年4月に、鶏卵の選別とパッキングを行うGPセンター屋根上に148.5kWの太陽光パネルを設置しました[*6], (図5)。

図5: 株式会社土田鶏卵下中GPセンター屋根上の太陽光パネル
出典: 環境省「②太陽光発電によるエネルギーコスト削減と、ブランド力向上」
https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/enetoku/case/pdf/2023/enetoku-jirei-2023-06.pdf, p.40

同設備の導入によって、エネルギーコストの削減だけでなく、年間約57トンものCO2排出量の削減につながっており、企業のブランド力向上に貢献しています。

このように、農村において再生可能エネルギーを導入することで、地域の活性化とともに、環境への貢献及びブランド価値の向上にもつながると言えます。

農村における再生可能エネルギーの活用

国内における2022年度の再生可能エネルギーの発電電力量は2,189億kWh、総発電量に占める再生可能エネルギー電気の割合は21.7%でした。再生可能エネルギーの中でも太陽光発電の割合が最も高く、総発電量の9.2%(926億kWh)を占めています。次いで水力発電が7.6%(768億kWh)、バイオマス発電が3.7%(372億kWh)となっています[*7]。

都道府県別のFIT制度(固定価格買取制度)による再生可能エネルギー累積導入量を見ると、茨城県が最も多く、愛知県、千葉県、北海道と続いています[*8], (図6)。

図6: FIT制度による都道府県別の累積導入量
出典 : 特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所「国内の2021年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況(速報)」
https://www.isep.or.jp/archives/library/14041

このように、全国各地で導入が進む再生可能エネルギーですが、農村地域では農業と再生可能エネルギーを組み合わせた取り組みが行われつつあります。

バイオマスを活用した取り組み

バイオマスとは、動植物に由来する有機物である資源(化石燃料資源を除く)のことであり、大気中のCO2を増加させないカーボンニュートラルの特性を持っています[*9]。

バイオマスには、家畜排せつ物や食品廃棄物などの廃棄物系バイオマスや、林地残材等を活用した未利用系バイオマスなど、様々な種類が存在します。これらの資源はプラスチックや樹脂等の素材として活用されるほか、電気や熱などエネルギーとして利用することも可能です[*9], (図7)。

図7: バイオマスとは
出典: 農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-170.pdf, p.3

主要なバイオマスの一つである木材は、木質バイオマス発電の燃料として活用されており、その導入件数は年々増加しています。2012年のFIT制度開始以降、木質バイオマス発電施設が増加しており、2023年には全国で219件もの発電施設が導入されています[*9], (図8)。

図8: 木質バイオマスの利用拡大
出典: 農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-170.pdf, p.21 

農業分野におけるバイオマス活用も広がっています。例えば、富山県射水市にあるJAいずみ野もみ殻循環施設※1 は、精米した際に発生するもみ殻から燃焼灰を製造し、肥料や工業資材、食品添加物等として活用しています[*9], (図9)。

図9: JAいずみ野もみ殻循環施設※1 におけるバイオマス活用
出典: 農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-170.pdf, p.54

もみ殻は、地域内で年間3,000トンも排出されており、野焼きの制限や臭気等の問題のため有償処理する農家もあり、射水市でも1トン当たり12,000円かかっていました。そこで同市は、2010年に「もみ殻循環プロジェクトチーム」を形成し、もみ殻の有効利用のための技術開発、実用化の取り組みを進めてきました[*10]。

同チームの研究開発により2018年5月に竣工したもみ殻循環施設では、毎時120kgのもみ殻を処理することができます。また、同施設で発生した熱やCO2は、近隣の農業用ハウスの加温等にも利用されており、農業との相乗効果をもたらしています[*9]。

農村における小水力発電

農村にある農業用水には、小規模な水力発電を行うことのできる流量と落差のある場所が多く残されています。そこで、農村の活性化に向けた取り組みとして、現在、農業用水等を活用した1,000kW未満の小水力発電の導入が進んでいます[*11], (図10)。

図10: 農業水利施設を活用した水力発電
出典: 農林水産省農村振興局水資源課、国土交通省水管理・国土保全局水政課「農業水利施設等を活用した小水力発電施設導入の手続き・事例集」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/shousuiryoku/attach/pdf/rikatuyousokushinn_teikosuto-105.pdf, p.2

2022年3月末時点で、国内における1,000kW未満の開発済みの小水力発電は611地点。工事中の小水力発電は35地点、未開発の小水力発電は349地点となっており、今後も増加が期待されています[*12]。

農業用水を活用した発電は全国各地で広がっています。例えば、県内有数の農業地帯を有する青森県十和田市では、総水位差9.1mの急流工を活用した小水力発電が行われています[*13], (図11)。

図11: 青森県十和田市の稲生川小水力発電所
出典: 農林水産省「自然の恵みを活かす! 再生可能エネルギーを知る」
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2112/spe1_01.html

同発電所は、2014年7月にFIT制度による売電を開始しました。その収入は同地区が管理する農業水利施設の維持管理費や補修費として活用されており、組合員の負担軽減が図られています[*14]。

農村における営農型太陽光発電

農業と組み合わせた太陽光発電の導入も進んでいます。営農を継続しながら農地に太陽光パネルを設置する事業を営農型太陽光発電と言い、その導入件数は年々増加しています[*15], (図12)。

図12: 営農型太陽光発電とは
出典: 農林水産省「営農型太陽光発電について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-30.pdf, p.2

営農型太陽光発電設備を設置するための農地転用許可件数は、2021年度までに4,349件で、その規模は1,007.4haに拡大しました。太陽光発電設備下部の農地で生産されている農作物は、野菜が最も多く全体の32%で、観賞用植物が31%、果樹が14%となっています[*15], (図13)。

図13: 営農型太陽光発電の取組状況
出典: 農林水産省「営農型太陽光発電について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-30.pdf, p.4

営農型太陽光発電はどのように運用されているのでしょうか。例えば、千葉県いすみ市でブルーベリー等を栽培している五平山農園では、2015年から営農型太陽光発電を稼働させています。建設費は約1,500万円で、その発電電力量は年間5万3千kWhとなっています。同発電設備の運営は、同農園の営農者が設立した株式会社いすみ自然エネルギー※2 が行っており、年間200万円の売電収入を得ています[*15], (図14)。

図14: 五平山農園の収支
出典: 農林水産省「営農型太陽光発電について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-30.pdf, p.12

同設備を設置したことで、日陰が生まれ、真夏の収穫作業や乾燥を防げるようになったことで散水作業が軽減されたなど、売電収入以外のメリットも得られるようになりました。一方で、発電設備の支柱によって除草時の作業が煩雑になるなどの課題もあるため、設置による農作業への影響も考慮する必要があるでしょう。

まとめ

今回紹介してきたように、全国の農村地域において、農業と組み合わせた再生可能エネルギー導入が進みつつあります。

 その一方で導入に関しては、課題も山積しています。例えば、営農型太陽光発電の場合、下部農地での営農に支障が生じるケースも発生しています。農林水産省によると、2021年度末時点で存続している取り組みのうち、約2割で下部農地の管理が適切に行われず営農に支障が生じているとされています[*2]。

 農村地域における再生可能エネルギーのさらなる導入にあたっては、農業・農村が持つ重要な機能に支障をきたさないよう、地域の方々の理解も得ながらその導入を進めていくことが重要となるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r5/pdf/zentaiban.pdf, p.1, p.154

*2
農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書 概要」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r5/pdf/r5_gaiyou_all.pdf, p.7, p.9, p.10, p.18, p.44, p.47, p.53, p.65

*3
農林水産省「食料・農業・農村基本計画(令和2年3月)
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-9.pdf

*4
農林水産省「食料・農業・農村基本計画の概要」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-42.pdf, p.34, p.35

*5
農林水産省「農山漁村における再生可能エネルギー発電をめぐる情勢」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/index-3.pdf, p.7, p.8

*6
環境省「②太陽光発電によるエネルギーコスト削減と、ブランド力向上」
https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/enetoku/case/pdf/2023/enetoku-jirei-2023-06.pdf, p.40, p.41

*7
資源エネルギー庁「地域と共生した再エネ導入に向けて」
https://www.env.go.jp/content/000240724.pdf, p.2

*8
特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所「国内の2021年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況(速報)」
https://www.isep.or.jp/archives/library/14041

*9
農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-170.pdf, p.3, p.21, p.54
筆者注※1:正確な施設名は「いみず野もみ殻循環施設」ですが、本文中にはこの資料にあるとおりに記しました。

*10
近畿経済産業局「『行政・JA・大学・企業の連携による“もみ殻”の有効活用プロジェクト』」
https://www.kansai.meti.go.jp/3-6kankyo/H31R1fy/biomass_report30/07imizu.pdf, p.1

*11
農林水産省農村振興局水資源課、国土交通省水管理・国土保全局水政課「農業水利施設等を活用した小水力発電施設導入の手続き・事例集」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/shousuiryoku/attach/pdf/rikatuyousokushinn_teikosuto-105.pdf, p.2, p.3

*12
資源エネルギー庁「日本の水力エネルギー量」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/hydroelectric/database/energy_japan006/

*13
農林水産省「自然の恵みを活かす! 再生可能エネルギーを知る」
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2112/spe1_01.html

*14
青森県再生可能エネルギー産業ネットワーク会議「稲生川小水力発電所」
https://www.aomori-saiene.jp/approach_case/approach_case-12/

*15
農林水産省「営農型太陽光発電について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-30.pdf, p.2, p,4, p.11, p.1
筆者注※2:正確な社名は「いすみ自然エネルギー株式会社」ですが、本文中にはこの資料にあるとおりに記しました。

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