どうして重要? 「電力の地産地消」の意義と事例を紹介

ある地域で収穫した農林水産物を、その地域のなかで消費することを意味する「地産地消」[*1]。

もともとは、農林水産物に対して使われていた言葉ですが、近年では、エネルギー分野における地産地消の考え方も広まっています。

エネルギー分野における電力の地産地消にはどのようなメリットがあるのでしょうか。国内における電力の地産地消の現状や、各地の取り組みと併せてご説明します。

エネルギーの地産地消

エネルギーの地産地消とは、地域の特性を生かしたエネルギー源を効率的に活用し、その地域で必要なエネルギーをまかなう取り組みのことです[*2]。

うした取り組みは、非常時のエネルギーの確保や地球温暖化対策、地域経済の活性化など、様々な面での効果が期待されています。

エネルギー分野における地産地消の意義

現在、エネルギー自給率の低い日本は、火力発電所を稼働させるために必要な化石燃料のほとんどを海外に依存しています。そのため、国際情勢などによっては、エネルギーを安定的に確保できないといった問題が生じる可能性があります[*3]。
例えば、近年のウクライナ情勢の悪化を受け、一時燃料価格が高騰しました。その結果、2022年度には電気料金が上昇するなど、エネルギーを海外に依存することによるリスクが顕在化しています[*3], (図1)。

      

図1: 電気料金平均単価の推移
出典: 資源エネルギー庁「2023―日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2023_1.html?ui_medium=lpene

その対応策の一つとして、国内で再生可能エネルギーを活用することで、国際情勢による影響を軽減することができます。また、再生可能エネルギーを導入することで、脱炭素化につながります。さらに、エネルギーの地産地消は、地域経済にも貢献できるというメリットがあります[*4]。

現在、地方における再生可能エネルギーの供給ポテンシャルは、地域のエネルギー消費量を大きく上回っています[*4], (図2)。

図2: 地域類別・人口区分別の市区町村あたりの再生可能エネルギー導入ポテンシャル及びエネルギー消費量
出典: 株式会社野村総合研究所「地域で『循環する経済圏』をつくるための地域新電力の可能性」
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/region/2022/11/2_vol232.pdf?la=ja-JP&hash=E52AAA79BB4905B30DFEEA34BC4446EE017A3C96, p.3

一方で、地域内総生産に対するエネルギー代金の流出額の比率は、多くの地方自治体で約5~10%となっており、地域の外で生産されたエネルギーが使われています。

地方部における再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に引き出し、それらを域内で消費することで、地域外に流出していたエネルギー代金を取り戻すことができます。

また、電力の地産地消によって、地域内で経済が循環する体制を構築することができるため、地域における再生可能エネルギーの導入は、地域経済の活性化という面からも大きなメリットと言えるでしょう。

エネルギーの地産地消の現状

2022年度の水力発電を含む再生可能エネルギーによる発電電力量は2,189億kWh、発電電力量全体に占める再生可能エネルギーの電源構成比は21.7%。政府は、2030年までに再生可能エネルギーの構成比を36~38%に引き上げることを目標としています[*5], (表1)。

 表1: 再生可能エネルギーの導入状況


出典: 資源エネルギー庁「地域と共生した再エネ導入に向けて」
https://www.env.go.jp/content/000240724.pdf, p.2

主要な再生可能エネルギーの発電電力量を見ると、太陽光発電が最も多く926億kWh、次いで水力発電が768億kWh、バイオマス発電が372億kWhとなっています。

FIT制度(固定価格買取制度)による都道府県別の累積導入量を見ると、茨城県が最も多く、愛知県、千葉県、北海道と続きます。導入量が多い都道府県では太陽光発電の割合が高く、そのほとんどが80%を超えています[*6], (図3)。

 図3: FIT制度による都道府県別の累積導入量
出典: 特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所「国内の2021年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況(速報)」
https://www.isep.or.jp/archives/library/14041

エネルギー分野における地産地消の取り組み事例

地域によってその導入量に差がある再生可能エネルギーですが、多くの自治体が積極的に導入を進めています。先述したように、どの地域でも太陽光発電の導入量が多くなっていますが、地域単位で見ると、地域の特色を生かして太陽光発電以外の再生可能エネルギーの導入も行われています。

そこで、再生可能エネルギーを活用して電力の地産地消を推進する、3つの自治体の取り組みを紹介します。

静岡県浜松市における取り組み

静岡県浜松市は、市区町村の中で全国2位の広大な面積を有する政令指定都市として、市内総電力消費量は年間約500万MWh。市域の7割が森林面積であったり、市域内に7,500本の河川、農業・工業用水があったり、日照時間が日本トップクラスであるなど、高い再生可能エネルギーのポテンシャルを有しています[*7]. (図4)。

 図4: 浜松市における再生可能エネルギーポテンシャル
出典: 株式会社浜松新電力「『浜松新電力における地産地消の取組み』」
https://www.chubu.meti.go.jp/d12cn/02_gururin/gururin/2shiryo1.pdf, p.3

このポテンシャルを有効活用するため、2012年に「新エネルギー推進事業本部」を立ち上げ、その翌年にはより具体的な目標を掲げた「浜松市エネルギービジョン」を策定しました。さらに、2015年10月には、NTTファシリティーズ、NECキャピタルソリューション等と共同で、政令指定都市としては全国初となる浜松新電力を立ち上げました[*7, *8], (図5)。

 図5: 浜松新電力の概要
出典: 株式会社浜松新電力「『浜松新電力における地産地消の取組み』
https://www.chubu.meti.go.jp/d12cn/02_gururin/gururin/2shiryo1.pdf, p.14

10kW以上の太陽光発電については、2019年9月時点で全国一を誇る設備導入件数8,787件であり、10kW未満と合わせた設備導入量は485,128kWとなっています。特に浜名湖周辺は太陽光発電が集中しています。これは、浜松の特産物であるウナギの養鰻業がハウス化による集積化、中国産ウナギの台頭で縮小傾向にあり、使われなくなった養殖池の跡地を太陽光パネルの設置場所として活用するようになったためです[*8], (図6)。

 図6: 浜名湖周辺に集中する太陽光発電
出典: 資源エネルギー庁「電力の地産地消率80%! 全国一の太陽光の街」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/solar-2019after/regional/regional01.html 

浜松新電力が供給している発電量の40%を占めるバイオマス発電も、浜松市の再生可能エネルギーの特色の一つです。市内2カ所の清掃工場で発電されており、市民へ供給しています。バイオマス発電は太陽光発電と異なり24時間発電できるため、その発電量は太陽光発電よりも多くなっています。

このような取り組みもあり、浜松市の電力の地産地消率は約80%と、地域の電力需要に大きく貢献しています。

北海道鹿追町における取り組み

十勝平野の北西部に位置する北海道鹿追町は、酪農が盛んな地域です。年間約80万人もの観光客が訪れる地域でもありますが、市街地と牧場が近く、家畜排せつ物のにおいが市街地に来てしまうなどの課題がありました[*2]。

このような課題に対処するとともに、地域資源を有効活用するため、町では2007年10月に、「鹿追町環境保全センター 中鹿追バイオガスプラント」の運転を開始しました[*2], (図7)。

 図7: 中鹿追バイオガスプラント
出典: 農林水産省「バイオマス発電で実現! エネルギーの地産地消でまちを元気に!」
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2112/spe1_02.html

バイオガスプラントとは、家畜ふん尿などのバイオマスを分解することで発生するバイオガスを製造・収集する施設のことです。バイオガスは発電時の燃料として活用できるほか、液肥の製造など様々な用途で活用できます[*9], (図8)。

 図8: バイオガスプラントとは
出典: 鹿追町「鹿追町環境保全センターバイオガスプラント」
https://www.town.shikaoi.lg.jp/introduce/Zerocarbon/biogasplant/

中鹿追バイオガスプラントでは、1日に約135トン、乳牛約1,300頭分の排せつ物の処理が可能です。稼働後、市街地では悪臭がなくなったほか、酪農家が排せつ物を処理する手間も軽減されました[*2]。

同プラントの成果を受けて町は、2016年に2基目となる「瓜幕(うりまく)バイオガスプラント」の稼働を開始しました。1基目のプラントと比較して処理能力と発電能力は約2.5倍以上となり、地域の電力需要を賄う重要な拠点となっています[*2], (図9)。

 図9: 瓜幕バイオガスプラント
出典: 農林水産省「バイオマス発電で実現! エネルギーの地産地消でまちを元気に!」
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2112/spe1_02.html

岡山県真庭市における取り組み

森林面積割合が市面積の約79%を占める岡山県真庭市。林業・木材産業が盛んで、素材生産業者は約20社、製材所は約30社あるなど西日本有数の木材集散地です[*10]。

一方で、近年は木材価格の低下等があり、木材産業は衰退傾向にあります。そのような背景から、地域の木材消費を高めるため、行政と民間事業者が連携して真庭バイオマス発電株式会社を設立し、木材資源の活用を進めています[*11], (図10)。

 図10: バイオマス発電事業の実施体制
出典: 資源エネルギー庁「バイオマス産業杜市“真庭”における発電事業」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/guide/pdf/jirei_03.pdf, p.18 

2015年4月に稼働を開始した真庭バイオマス発電所は、その規模が10,000kWであり、22,000世帯の需要に対応しています[*10], (図11)。

図11: 真庭バイオマス発電所の稼働状況
出典: 真庭市「『里山資本主義』真庭の挑戦」
https://kikonet.org/wp/wp-content/uploads/2021/03/210312_maniwa.pdf, p.10

2019年7月から2020年6月までの1年間の売上は約23.1億円となっており、稼働による石油代替効果は約2.8万KL(約23.5億円相当)でした。また、同発電所の稼働により、これまで産廃処理されていた木質資源が有価で取り引きされるようになったため、地域の事業者の利益向上につながっています。

さらに、エネルギー自給率は、稼働以前の約11.6%から約32.4%まで上昇しています。CO2削減量も同発電所のみで約54,000トンとなるなど、エネルギーの地産地消は様々な面で良い効果をもたらしていると言えるでしょう。

まとめ

エネルギーの地産地消は、地域のエネルギー確保だけでなく、地球温暖化対策や地域活性化など様々な面での効果が期待できます。

今回詳しくご紹介した3つの地域以外にも、全国各地で様々な取り組みが行われています。お住まいの地域の取り組みに目を向けてみてはいかがでしょうか。

 

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参照・引用を見る

*1
株式会社朝日新聞社「地産地消とは? メリットやデメリット、政策や取り組み事例を解説」
https://www.asahi.com/sdgs/article/15302555

*2
農林水産省「バイオマス発電で実現! エネルギーの地産地消でまちを元気に!」
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2112/spe1_02.html

*3
資源エネルギー庁「2023-日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2023_1.html?ui_medium=lpene

*4
株式会社野村総合研究所「地域で『循環する経済圏』をつくるための地域新電力の可能性」
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/region/2022/11/2_vol232.pdf?la=ja-JP&hash=E52AAA79BB4905B30DFEEA34BC4446EE017A3C96, p.1, p.2, p.3

*5
資源エネルギー庁「地域と共生した再エネ導入に向けて」
https://www.env.go.jp/content/000240724.pdf, p.2

*6
特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所「国内の2021年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況(速報)」
https://www.isep.or.jp/archives/library/14041

*7
株式会社浜松新電力「『浜松新電力における地産地消の取組み』」https://www.chubu.meti.go.jp/d12cn/02_gururin/gururin/2shiryo1.pdf, p.3, p.1

*8
資源エネルギー庁「電力の地産地消率80%! 全国一の太陽光の街」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/solar-2019after/regional/regional01.htm

*9
鹿追町「鹿追町環境保全センターバイオガスプラント」
https://www.town.shikaoi.lg.jp/introduce/Zerocarbon/biogasplant/

*10
真庭市「『里山資本主義』真庭の挑戦」
https://kikonet.org/wp/wp-content/uploads/2021/03/210312_maniwa.pdf, p.1, p.3, p.10

*11
資源エネルギー庁「バイオマス産業杜市“真庭”における発電事業」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/guide/pdf/jirei_03.pdf, p.18

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