地球温暖化が進むなか、CO2など温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す動きが世界的に広がっています[*1]。
日本でも、2050年までに達成するという目標を表明していますが、達成に向けては様々な分野での取り組みが求められています。特に、自動車を含む運輸部門からのCO2排出量は、日本全体の排出量の17.7%を占めているため、同部門での取り組みが重要です。
自動車の脱炭素化の方法としては、まず、ガソリン車からEV(電気自動車)など電動車への転換が挙げられます。そこで現在、日本を含む多くの国が電動車の普及を目指した電動化目標を策定しています。
一方で、EUは2023年3月、2035年以降エンジン車の新車販売を認めないという当初の案を修正し、合成燃料を活用したエンジン車については販売を認めることに合意しました[*2]。
このように近年では、EVだけでなく、脱炭素化に貢献できる自動車の普及も含めた電動化等の目標が各国で策定されています。
現在、各国で自動車電動化等に関してどのような目標が策定されているのでしょうか。目標達成に向けた最新動向と併せて、詳しくご説明します。
自動車における脱炭素化の方法
自動車の脱炭素化は様々な方法で実現可能です。例えば、冒頭でも紹介したように、電気を自動車の動力源として使う「電動化」を推進することで温室効果ガス排出量の削減を図ることができます[*1], (図1)。
図1: 電動車の種類
出典: 資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(前編)~日本の戦略は? 電動車はどのくらい売れている?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now.html
電動車には、動力源の100%を電気とするEVのほか、ガソリンと電気の両方を使うHV・HEV(ハイブリッド自動車)やPHV・PHEV(プラグイン・ハイブリッド自動車)があります。また、水素を使って電気を作るFCV・FCEV(燃料電池自動車)も電動車の一種です。
電動車以外の脱炭素化の推進の方法としては、エンジン車の燃料をガソリンからバイオ燃料や合成燃料など環境に優しい燃料へ代替することも手段の一つと言えます。
バイオ燃料とは、動物や植物から生まれるバイオマスを原料とした燃料のことです。バイオ燃料は分解される際に安全に環境のなかへ還元することが可能であり、繰り返し利用することができます[*3]。
次に、合成燃料は、CO2と水素を合成して製造される燃料です。製造過程でCO2が排出されることがない再生可能エネルギー由来の電力で作った水素と、大気中のCO2を資源として利用することで、脱炭素燃料とみなすことができます。合成燃料は、ガソリンや軽油などと同様にエネルギー密度が高いため、少ない資源量でも多くのエネルギーに変換できるという特徴があります。また、合成燃料を製造する設備自体の導入は必要となりますが、製造された合成燃料を自動車などで使用する際、従来のエンジンを活用できるため、EVのように新たな機器を整備する必要がなく、導入コストを抑えることが可能です[*4]。
国内外における自動車電動化等の目標
近年、世界各国のEVの販売台数比率は上昇傾向にあります。2022年の自動車世界販売台数約7,870万台のうち、EVの販売台数は約774万台と、全体の約10%を占めています。地域別に見ると中国におけるEV販売比率が高く、中国国内での販売比率は25.2%となっています。また、欧州ではEV優遇策の強化により、特に新型コロナウイルス感染症拡大以降、その販売台数が堅調に増加しています[*5], (図2)。
図2: EVの販売台数及び比率推移
出典: 製造産業局、商務情報政策局「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/014_04_00.pdf, p.5
既に普及しつつあるEVですが、さらなる促進に向けて、主要な国や地域は、自動車の電動化等に関する目標を策定しています[*5], (図3)。
図3: EVの販売台数及び比率推移
出典: 製造産業局、商務情報政策局「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/014_04_00.pdf, p.6
EU、中国、日本など多くの国・地域が2035年を目途とした電動化100%を目指しています。次章では、各国の電動化等の目標を取り巻く動向を解説します。
各国・地域における動向
中国における電動化等の動向
新車販売台数に対するEV比率が4分の1以上を占める中国は、2025年までにEV・PHV・FCVの販売比率を20%にするとしています。また、2035年までにEV・PHV・FCVの販売比率を50%、HEVを50%とすることで自動車の電動化を達成するとしています[*5]。
EVの製造には車載用蓄電池が不可欠ですが、中国ではその製造が盛んです。2020年の世界における車載用リチウムイオン電池の国別シェアは中国が最も高く、37.4%でした[*5]. (図4)。
図4: 国別車載用リチウムイオン電池シェア
出典: 製造産業局、商務情報政策局「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/014_04_00.pdf, p.8
中国における電動車市場の急速な発展の理由は、中国政府が産業政策を強力に推進したことが挙げられます。中国政府は2009年に発表した「省エネルギー・新エネルギー自動車のモデル地域応用実験に関する通達」に基づき、2009年から2012年までの間の早い段階から、年間1,000台の電動化したバスやタクシーを公共部門に導入するなどの施策を実施しました[*6]。
2009年に電動車普及政策を本格化させて以降、中国政府は様々な自動車産業政策を打ち出しています。例えば、2014年7月にはEVの充電設備整備や消費者向け補助金の支給、車両購入税の免除をスタートさせました[*6], (表1)。
表1: 中国の主な自動車産業政策の推移
出典: 独立行政法人 日本貿易振興機構「調整期を迎えた中国NEV産業、政策転換は市場拡大前の2020年」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2023/1201/71e72eba5037b468.html
2023年9月には、「自動車産業の着実な発展に関する作業プラン」を策定し、農村部へのEV普及等の方針を示しています。具体的な施策として、農村部での充電ステーションの建設や、地方政府に対する消費者への充電クーポンの配布等も求めています。自動車メーカーに対しては、農村部の消費者ニーズに合わせて、ミニバンや小型トラックなどの製品を開発することを推奨しています[*7]。
2024年1月に中国政府は、2027年までにEV等の新車販売比率を45%まで高めるという新たな目標を発表するなど、今後も電動車の拡大が見込まれます[*8]。
欧州における電動化等の動向
販売台数が2022年時点で世界の約25%を占めるなど、EV導入が拡大している欧州。その背景には、新型コロナウイルス感染拡大によって打撃を受けた自動車業界の救済策として、ドイツやフランスなどがEV購入支援策を拡充したことが挙げられます[*9], (図5)。
図5: 2018年から2022年にかけてEUで新車登録された乗用車の燃料タイプ別割合
出典: 独立行政法人 日本貿易振興機構「EV普及支援に本腰」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/e16ac7211362d2cc.html
また、EV施策を積極的に展開する欧州委員会は、2021年、乗用車・小型商用車に関して、2035年以降、内燃機関(エンジン)搭載車の生産を実質禁止にする規則改正案を提案しました。
一方で、EVのシェアが高い国では、支援策削減の動きが始まっています。例えば、スウェーデンは、2022年11月に、2023年以降の購入支援金の給付廃止を発表しました。また、ドイツやオランダも給付額を段階的に減らしています。
さらに、合成燃料によるエンジン車など、EV以外のゼロエミッション車の普及を促す動きも活発化しています。冒頭でも紹介したように、EUはエネルギー相理事会において2023年3月、2035年以降も温室効果ガス排出をゼロとみなす合成燃料の利用に限り販売を認めることで合意しました[*1]。
これは、フォルクスワーゲンなど自動車大手を抱えるドイツが合成燃料の容認を強く主張したためです。また、ドイツは合成燃料の普及に積極的であり、2023年には、合成燃料を大規模に製造する国内初の大型設備に約600万ユーロ出資しました。同設備では、バイオマスによって生成したCO2を使用するほか、将来的には再生可能エネルギー由来の電力によって生み出された水素(グリーン水素)での稼働を目指しています[*10]。
日本における電動化等の動向
日本は、中国や欧州と比較してEV販売比率の上昇は緩やかですが、各国と同様に2035年までに電動車販売比率を100%にする電動化目標を策定しています[*5]。
政府が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、重要分野の1つとして自動車・蓄電池産業が位置付けられています。電動化目標を達成するため、同戦略に基づき、政府は各種施策を実施しています[*1, *5], (図6)。
図6: 電動化社会の構築に向けた取り組み
出典: 製造産業局、商務情報政策局「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/014_04_00.pdf, p.25
例えば、現在電動車の導入を加速させるため、電動車購入時に購入者に最大85万円を支給する補助事業を実施しています。また、電動車普及に向けて不可欠な充電インフラ整備のため、2030年までに充電インフラを現在の5倍である15万台まで拡大する目標を定め、機器の導入支援を行っています。
さらに、電動車には不可欠な蓄電池産業育成を支援するとともに、ガソリンスタンドなど既存の自動車産業が電動化に対応できるよう業態転換の支援も進めています。
民間企業による取り組みも活発化しています。トヨタやホンダ、日産など自動車メーカー各社は、カーボンニュートラル実現に向けて電動車比率を高めていくことを表明しました[*11], (図7)。
図7: カーボンニュートラルに向けた各社の目標(2022年6月時点)
出典: 資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(後編)~購入補助も増額! サポート拡充で電動車普及へ」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now_2.html
一社を例に挙げると、トヨタは2030年までにEV・FCVの販売台数を350万台まで増やすとともに、新たに30車種のEVを投入するとしています。また、本田は2030年までに電動車比率100%を目指すと表明しています。
まとめ
本記事では、国内外の自動車電動化に関する目標と、その達成に向けた各国の動向を紹介しました。新車販売に占めるEVなど電動車の販売割合を高めると同時に、合成燃料を活用したエンジン車など、脱炭素化に資するゼロエミッション車普及の動きも近年活発化しています。
目標の達成に向けて、充電インフラの整備や電動車購入に係る補助金など、今後も政府による支援が継続されることが見込まれます。電動車の購入等を検討する場合には、政府の動向にも注目してみてはいかがでしょうか。
参照・引用を見る
*1
資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(前編)~日本の戦略は? 電動車はどのくらい売れている?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now.html
*2
株式会社日本経済新聞社「EU、エンジン車容認で合意 合成燃料限定で35年以降も」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA27BN30X20C23A3000000/
*3
株式会社朝日新聞社「脱炭素化に向けて注目のバイオ燃料 原料や問題点、作り方などを解説」
https://www.asahi.com/sdgs/article/14661874
*4
資源エネルギー庁「エンジン車でも脱炭素? グリーンな液体燃料『合成燃料』とは」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html
*5
製造産業局、商務情報政策局「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/014_04_00.pdf, p.5, p.6, p.8, p.10, p.25, p.26
*6
独立行政法人 日本貿易振興機構「調整期を迎えた中国NEV産業、政策転換は市場拡大前の2020年」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2023/1201/71e72eba5037b468.html
*7
独立行政法人 日本貿易振興機構「中国、農村部における新エネ車普及策を発表」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/05/c6bfe0106a137070.html
*8
株式会社日本経済新聞社「中国、27年にEVなど新エネ車45%に 従来目標を前倒し」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM11DS30R10C24A1000000/
*9
独立行政法人 日本貿易振興機構「EV普及支援に本腰」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/e16ac7211362d2cc.html
*10
独立行政法人 日本貿易振興機構「政府、合成燃料の設備に600万ユーロを出資、生産拡大を目指す」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/01/14d1376da268c0c1.html
*11
資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(後編)~購入補助も増額! サポート拡充で電動車普及へ」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now_2.html