ネットゼロって? カーボンニュートラルと何が違うの?

温室効果ガスの排出量削減に向けて、現在、国内外で2050年ネットゼロに向けた取り組みが加速しています。

ネットゼロは、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギービル)などでもお馴染みの用語ですが、カーボンニュートラルという用語もあるなかで、その違いは何なのでしょうか。

また、脱炭素分野では、カーボンオフセットやゼロエミッションなど様々な用語がありますが、ネットゼロとどのような関連があるのでしょうか。国内外のネットゼロの最新動向と併せて、詳しくご説明します。

ネットゼロとは
ネットゼロの定義や注目を集める背景

ネットゼロ(Net zero)とは、温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり、正味の排出量をゼロにすることです。ネット(Net)には、英語で「正味の・最終的な」という意味があります[*1]。

要するに、温室効果ガス排出量を限りなくゼロに近づくよう削減し、削減できずに残った排出量と大気中からの除去量がつり合っている状態を表しています。

2015年のCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)においてパリ協定が成立し、2050年ネットゼロが世界共通の目標になったことを受けて、ネットゼロが注目されるようになりました[*1, *2]。

また、2018年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が公表した「1.5℃特別報告書」でも、地球温暖化を1.5℃未満に抑えるためには、2050年前後にネットゼロを目指す必要があるとしています[*1]。

以上のような背景から、2050年までのネットゼロを約束する国・地域・都市・企業は、世界の8割以上を占めるまで急増しました[*3], (図1)。

図1: ネットゼロを約束する国・地域・都市・企業の数
出典: 公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン「COP27企業が知っておきたい国連による『ネットゼロの定義提案書』~業界団体のロビー活動やクレジットにご注意~」
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20230127climate02_konishi.pdf, p.9

カーボンニュートラルとの違い

ネットゼロのほかに、温室効果ガス排出量の削減に向けた目標として、カーボンニュートラルという用語が使われることがあります。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることです[*4]。

2023年5月時点で2050年までのカーボンニュートラルを表明した国や地域は、日本を含む147か国。これらの国における世界全体のCO2排出量に占める割合は40%となっています。また、2070年までのカーボンニュートラルを表明する国を含めると、世界全体のCO2排出量に占める割合は90%と、世界の大部分の国や地域が表明しています[*4], (図2)。

図2: カーボンニュートラルを表明した国・地域
出典: 資源エネルギー庁「日本のエネルギー エネルギーの今を知る10の質問」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2023.pdf, p.5

資源エネルギー庁は、カーボンニュートラルを「排出量から吸収量を差し引いた合計をゼロにすること」としており、ネットゼロと同じとしています。そのため、カーボンニュートラルは国内でネットゼロとほぼ同義で使用されていると言えます[*1, *4]。

しかし、国際的には、ネットゼロとカーボンニュートラルは違う意味で使われています[*5]。

例えば、サプライチェーン(製品の原材料等の調達から販売に至るまでの一連の流れ)における排出量を計算する際の対象範囲が異なるという点が挙げられます[*6]。

SBT(Science Based Targets)が対象とするサプライチェーン排出量は、事業者自らによる直接排出(Scope1)、他社から供給された電気や熱等の使用に伴う間接排出(Scope2)、それら以外の事業者の活動に関連する他社の排出(Scope3)に分類されます[*7], (図3)。

図3: SBTが削減対象とするサプライチェーン排出量
出典: 環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ「SBT(Science Based Targets)について」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/files/SBT_syousai_all_20210810.pdf, p.6

このうち、カーボンニュートラルは自社の事業活動を通じて排出される温室効果ガスであるScope1とScope2のみを対象としているとされています。一方で、ネットゼロはScope3を含む全ての排出量を対象としているため、ネットゼロはカーボンニュートラルよりさらに一歩進んだ目標であると言えます[*6]。

ネットゼロに関連する用語
カーボンオフセットとは

ネットゼロに関連するものとして、カーボンニュートラル以外にも様々な用語が存在します。

まず、カーボンオフセットとは、人為的な活動によって排出される温室効果ガスを、他の場所での温室効果ガス削減・吸収活動で埋め合わせるという考え方のことです[*8]。

現在、温室効果ガスの排出を減らす取り組みが積極的に行われています。しかしながら、経済活動等から発生する温室効果ガスの排出を完全にゼロにすることは不可能と言えます。そこで、再生可能エネルギーの利用や植林・森林保護活動によるCO2の吸収によって、大気中のCO2量を相殺しようとするのがカーボンオフセットです。

日本ではJ-クレジット制度と呼ばれる取り組みが行われています。同制度は、再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。J-クレジットの購入者は、自社の製品・サービスに係るCO2排出量を相殺することができます[*9], (図4)。

図4: J-クレジット制度の概要
出典: 経済産業省、環境省、農林水産省「J-クレジット制度について」
https://japancredit.go.jp/about/outline/

ゼロエミッションとは

ゼロエミッションとは、人為的活動から発生する排出(Emission)をできる限りゼロに近づけることを目指す理念や手法のことです[*10]。

具体的には、廃棄物が出にくい商品設計にしたり、今までごみとして廃棄処分していたものを資源として利活用したりする手法などが挙げられます。

また、自動車部門において、電気自動車等を「ゼロエミッション車(ZEV; Zero Emission Vehicle)」と言います。ゼロエミッション車は、走行時にCO2等の排出ガスを出さないなどのメリットがあるため、現在国や自治体がその普及を促進しています[*11]。

ネットゼロの実現に向けた国内外の動向
ネットゼロの実現に向けた海外の取り組み

先述したように、パリ協定を受けて、世界各国がネットゼロ目標を表明しています。

例えば、米国は2050年ネットゼロを表明するとともに、2030年目標として2005年比で排出量を50%から52%削減するとしています。中国は2060年までにCO2排出をネットゼロにするとし、2030年までに2005年比でGDP当たりCO2排出量を、65%以上削減すると表明しています[*12], (表1)。

表1: ネットゼロ実現に向けた各国の目標

出典: 外務省「日本の排出削減目標」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000121.html

一方で、各主体による目標の内容は様々で、グリーンウォッシング(見せかけの環境対策)も少なくないと言われています。そこでCOP27会議において、国連のグテーレス事務総長は、ネットゼロの定義を明確にする提言を発表しました[*2, *3], (図5)。

図5: COP27におけるネットゼロ宣言
出典: 公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン「COP27企業が知っておきたい国連による『ネットゼロの定義提案書』~業界団体のロビー活動やクレジットにご注意~」
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20230127climate02_konishi.pdf, p.8

企業によるネットゼロ目標の策定も進んでいます。例えば、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことをSBT(Science Based Targets)と言いますが、SBTに取り組む企業が近年増加しています[*13], (図6)。

図6: SBTのイメージ
出典: 環境省「SBT(Science Based Targets)について」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_syousai_all_20240301.pdf, p.5

SBTは、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)やWWF(世界自然保護基金)など4つの機関によって運営されています。企業がSBTの認定を受けるには、SBTに適合した目標を設定し、その妥当性をSBT事務局に認めてもらう必要があります。

SBTに参加する企業は、2015年3月時点でわずか17社でしたが、2024年3月には世界全体で認定企業が4,779社、コミット中企業(2年以内のSBT設定を表明している企業)は2,926社に増加しています[*13], (図7)。

図7: 世界全体でSBTに参加する企業の推移
出典: 環境省「SBT(Science Based Targets)について」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_syousai_all_20240301.pdf, p.42

SBTに取り組む企業として、米国でハードウェア・設備の製造等を行うDELLが挙げられます。DELLは、2020年までに施設及び物流事業からの温室効果ガス排出量を2010年比で40%削減することを目標として設定しました。また、DELLの活動に関連する他社からの間接排出に関しても、削減目標を策定しています[*13], (図8)。

図8: SBTに取り組む企業事例
出典: 環境省「SBT(Science Based Targets)について」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_syousai_all_20240301.pdf, p.28

さらに、現在はこれらの取り組みをさらに加速させ、2050年までにネットゼロを目指すとともに、2030年までの中間目標も設定しています[*14], (図9)。

図9: DELLにおけるネットゼロに向けた中間目標
出典: デル・テクノロジーズ株式会社「ビジネス、人類、地球環境のために、気候変動に取り組みます」
https://www.dell.com/ja-jp/dt/corporate/social-impact/advancing-sustainability/climate-action.htm?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

ネットゼロの実現に向けた日本の取り組み

日本政府も、諸外国と同様に2050年までにネットゼロを実現することを表明しました。また、中間目標として2030年度までに2013年度比で温室効果ガスの排出量を46%削減するとしています[*12]。

企業等の脱炭素化を促進するため、脱炭素化を資金面で支援する官民ファンドとして、株式会社脱炭素化支援機構が2022年に設立されました[*1]。

同社による投融資は、再生可能エネルギーや省エネ、資源の有効利用など、脱炭素社会の実現に資する幅広い事業が支援の対象となっています[*15], (図10)。

図10: 株式会社脱炭素化支援機構の概要
出典: 環境省「株式会社 脱炭素化支援機構の活用による民間投資の促進」
https://www.env.go.jp/content/000105241.pdf

企業独自のネットゼロ目標策定の動きも活発化しています。例えば、キリンホールディングス株式会社は、2022年7月に世界の食品企業として初めてSBTネットゼロの認定を取得しました[*16]。

同社は、2030年に2019年比でScope1とScope2の合計排出量を50%減らすとともに、Scope3については30%減少させることを目指しています[*17], (図11)。

図11: キリンホールディングス株式会社におけるネットゼロ目標
出典: キリンホールディングス株式会社「気候変動の取り組み」
https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/3_4a/

これらの目標達成に向けて、国内の9工場にて大規模太陽光発電設備を導入しました。例えば、メルシャン藤沢工場で導入された太陽光発電によって年間約124トンの温室効果ガス排出量が削減されています[*17], (図12)。

図12: キリンビール工場における太陽光発電の利用
出典: キリンホールディングス株式会社「気候変動の取り組み」
https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/3_4a/

製造工程においては、キリンビールの6工場の排水処理場にヒートポンプ・システムを導入しました。ヒートポンプとは、捨てられる熱を活用して熱や電気などのエネルギーを生み出す仕組みのことです。同システムの導入によって、キリンビール全体の温室効果ガス排出量は2023年11月時点で前年比3%(約4,800トン)削減されました[*17], (図13)。

図13: キリンホールディングス株式会社におけるヒートポンプの活用
出典: キリンホールディングス株式会社「気候変動の取り組み」
https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/3_4a/

さらに、飲料製品の容器を軽量化することで、輸送時の温室効果ガス排出量の削減も推進しています。キリンビールとキリンビバレッジの容器包装の軽量化によって、容器製造の温室効果ガス排出量は、1990年から2022年までの累計で507万トンと削減されました[*17], (図14)。

図14: 容器の軽量化による輸送時の温室効果ガス排出量削減
出典: キリンホールディングス株式会社「気候変動の取り組み」
https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/3_4a/

このように、同社は、様々な事業活動から温室効果ガス排出量削減の取り組みを加速させることで、ネットゼロ目標の達成を実現させようとしています。

まとめ

日本ではカーボンニュートラルと同じ意味合いで使われることが多いネットゼロですが、今回紹介してきたように、厳密には対象範囲等が異なっています。

企業等がネットゼロ目標を掲げている場合には、どの範囲が温室効果ガス排出量の削減対象となっているのかを意識して見ていくのが良いでしょう。

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

※参考URLはすべて執筆時の情報です

*1
株式会社朝日新聞社「ネットゼロとは? 実現に向けた方法や取り組み、企業事例を紹介」
https://www.asahi.com/sdgs/article/14937445?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

*2
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン「【COP27】国連がネットゼロを定義」
https://www.wwf.or.jp/staffblog/activity/5179.html

*3
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン「COP27企業が知っておきたい国連による『ネットゼロの定義提案書』~業界団体のロビー活動やクレジットにご注意~」
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20230127climate02_konishi.pdf, p.5, p.6, p.8, p.9

*4
資源エネルギー庁「日本のエネルギー エネルギーの今を知る10の質問」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2023.pdf, p.5

*5
株式会社日経BP「カーボンニュートラルからネットゼロへ
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00461/110100072/

*6
ソフトバンク株式会社「カーボンニュートラル、ネットゼロとは? 脱炭素社会を実現するべき理由や世界の動き、企業の取り組みを専門家が解説」
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20210622_01?page=04#page-04

*7
環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ「SBT(Science Based Targets)について」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/files/SBT_syousai_all_20210810.pdf, p.6

*8
株式会社朝日新聞社「カーボンオフセットとは? 仕組みや考え方、事例、問題点を解説」
https://www.asahi.com/sdgs/article/14665819

*9
経済産業省、環境省、農林水産省「J-クレジット制度について」
https://japancredit.go.jp/about/outline/

*10
株式会社朝日新聞社「ゼロエミッションとは 国・自治体・企業の具体的な取り組み事例を紹介」
https://www.asahi.com/sdgs/article/15091130?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

*11
大阪府「ゼロエミッション車(ZEV)を中心とした電動車の普及促進について」
https://www.pref.osaka.lg.jp/o120020/kotsukankyo/haigasu/zeroemissionvehicle.html

*12
外務省「日本の排出削減目標」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000121.html

*13
環境省「SBT(Science Based Targets)について」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_syousai_all_20240301.pdf, p.4, p.5, p.8, p.15, p.28, p.42

*14
デル・テクノロジーズ株式会社「ビジネス、人類、地球環境のために、気候変動に取り組みます」
https://www.dell.com/ja-jp/dt/corporate/social-impact/advancing-sustainability/climate-action.htm?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

*15
環境省「株式会社 脱炭素化支援機構の活用による民間投資の促進」
https://www.env.go.jp/content/000105241.pdf

*16
キリンホールディングス株式会社「世界の食品企業として初めてSBTネットゼロの認定を取得」
https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2022/0805_03.html

*17
キリンホールディングス株式会社「気候変動の取り組み」
https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/3_4a/

メルマガ登録