デマンドレスポンスとは、電力供給事業者からの要請を受けて、需要家側が電力の使用量を変化させることです。電力の需要と供給のバランスを保つことを目的としており、企業だけでなく一般家庭でも取り組むことができます。
デマンドレスポンスを実施することで、限られたエネルギー資源を効率的に利用できるようになり、CO2排出量の削減や電気代の節約にもつながります。さらに、出力調整が難しい再生可能エネルギーの導入拡大を後押しすることもできると考えられています。
この記事では、デマンドレスポンス導入の意義や、デマンドレスポンスを推進するために自治体や企業がおこなっている取り組みについて解説します。
デマンドレスポンスとは?
電力の安定供給には、刻々と変化する電力の使用量と発電量を、同じ時に同じ量にする「同時同量」が不可欠です[*1]。電力の使用量と発電量が一致せず、需給バランスが乱れると、大規模停電が発生する恐れがあります[*2], (図1)。
図1: 電力の需要と供給
出典: 経済産業省「ディマンド・レスポンスってなに?」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/dr/dr.html
これまでの電力システムでは、電力会社側が発電量を調整することによって、需給バランスを調整していました。大量の電気を貯めておくことはできないため、あらかじめ発電計画を作成し、季節や天候などのさまざまな要因によって変動する電力需要に対応して発電量を一致させ続ける必要がありました。
しかし、天候によって出力変動する再生可能エネルギーの導入が進んできたことで、これまで通りの方法では同時同量を実現することが難しくなってきています[*2, *3]。
そこで、期待が高まっているのが、デマンドレスポンス(DR)です。
デマンドレスポンスとは、消費者が賢く電力使用量を制御することで、電力需要パターンを変化させることを意味しています[*2]。
デマンドレスポンスには、電力需要を増やす「上げDR」と電力需要を抑える「下げDR」の2種類があります[*3], (図2)。
図2: 上げDRと下げDR
出典: 経済産業省「これからの需給バランスのカギは、電気を使う私たち~『ディマンド・リスポンス』とは?」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/dr.html
電気の需要量を増やす上げDRをおこなうときは、再生可能エネルギーの過剰出力分を需要機器を稼働することで消費したり、蓄電池や電気自動車のバッテリーに充電することで吸収します。上げDRは、春や秋の昼間など、太陽光発電の発電量が多いにもかかわらず、エアコンなどの電力需要が比較的少ない時期に必要となります[*2, *3]。
夏場などの電気が足りない時期に実施される下げDRは、需要ピークのタイミングで需要機器の出力をおとしたり、冷房の設定温度を上げるなどの節電に取り組むことで実施できます。電力会社から供給される電気を使用せずに、蓄電池に充電された電気を使ったり、コージェネレーションシステムなどの自家発電設備を稼働させたりすることも、下げDRに含まれます[*2, *3]。
デマンドレスポンスに取り組む効果とは
電気を使用する家庭や企業側におけるデマンドレスポンスのメリットとして挙げられるのは、電気代の節約です。電力需要を抑える下げDRのために節電をおこなうと、その分電気料金を削減することができます。
さらに、電力需要の抑制量に応じたインセンティブを設定するインセンティブ型デマンドレスポンスという方法もあります。電力会社と契約を結んだ需要家が、電力会社からの要請に応じて節電をすると、ポイントなどの報酬を受け取ることができます[*2], (図3)。
図3: インセンティブ型デマンド・レスポンス
出典: 経済産業省「ディマンド・レスポンスってなに?」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/dr/dr.html
電力ネットワーク全体でみると、電力需要ひっ迫を未然に防ぐことが、デマンドレスポンスの重要な役割です。猛暑となった2022年夏に東京エリアで「需給ひっ迫注意報」が発令された際は、電力需要を抑える下げDRが実施され、需給バランスの確保に貢献しました[*4]。
一般送配電事業者は10年に一度起こるような猛暑、厳寒に備え、需要の急増に対応して稼働できる電源を公募しています。この公募には、発電事業者だけでなく、「アグリゲーター」などのデマンドレスポンスを実施している事業者も参入できます。アグリゲーターとは、デマンドレスポンスによって生まれたエネルギーをたばね、最大限活用できるようにサポートする事業者のことです[*5]。
公募によって落札された電源リソースのうち、2022年度はデマンドレスポンスの割合が約6割を占めています。デマンドレスポンスが占める割合は年々増加しており、需給バランス調整におけるデマンドレスポンスの重要性が高まっていることが窺えます。
さらに、電力需要を増やす上げDRが機能することで、再生可能エネルギーの余剰電力をあますことなく活用できるようになります。結果として、CO2を排出しない再生可能エネルギーの導入促進につながり、カーボンニュートラルの実現にも貢献します。
企業や自治体によるデマンドレスポンスを支援する取り組み
東京都の家庭の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業
東京都では、デジタル技術を活用し、タイムリーに節電要請及びポイント付与等を行う電気事業者を支援する「家庭の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業」を実施しています。この事業は、電気事業者が節電キャンペーンを実施するために必要なシステム構築などにかかる経費を一部助成する取り組みです[*6]。
各家庭で契約している電気事業者の節電キャンペーンに登録すれば、節電の成功日数に応じて契約者に特典が付与されます[*7], (図4)。
図4: 家庭の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業
出典: 東京都「家庭の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業のご案内」
https://www.tokyo-co2down.jp/wp-content/uploads/2024/07/demares_fam_r06_leaf_240722.pdf
再生可能エネルギー100%の電気事業者と契約をしている場合は、より多くのポイントが付与されるため、再生可能エネルギーの導入を促進することにもつながります。
日本気象協会によるAIを活用したデマンドレスポンス支援サービス
日本気象協会では、電力事業者向けに、デマンドレスポンスを支援する「DR最適発動支援のためのエリア需要予測サービス」を提供しています。電力需要のピークをAIによって高い精度で予測することで、デマンドレスポンス発動判断を支援する取り組みです。
2024年5月から開始された新しいサービスでは、エリア需要の短期・2週間・長期予測データをオンラインで配信しており、最大需要量とその発生日時の予測データ(30分値)が利用できます。長期予測から段階的に予測を見直していくことで、最大需要日時を事前に把握でき、適切なタイミングでのデマンドレスポンス発動指令が可能になります[*8], (図5)。
図5: 長期予測・2週間予測・短期予測を用いたピーク需要の事前把握イメージ
出典: 日本気象協会「日本気象協会、『DR最適発動支援のためのエリア需要予測サービス』を開始 ~電力事業者の節電要請と容量拠出金の負担軽減などを支援~」(2024)
https://www.jwa.or.jp/news/2024/05/23042/
Shizen Connectとダイキン、大手電力3社による再エネ余剰電力の有効活用に向けた共同実証
株式会社Shizen Connectとダイキン工業株式会社は、大手電力3社と共同で、再生可能エネルギーを有効活用するために需要を創出する需要創出DR(上げDR)に関する共同実証をおこなっています。
この共同実証は、エコキュートの沸き上げ時間を再生可能エネルギーの発電量が多い時間帯にシフトさせることによる技術性、経済性、及びCO2削減効果を評価し、余剰電力の有効活用が可能かを検証するものです。
再生可能エネルギー発電設備や蓄電池・EV・エコキュートなどのエネルギーリソースを集合的に制御するアグリゲート・エネルギー管理システム「Shizen Connect」が制御指示を出し、遠隔制御システム「ダイキンクラウド」によってエコキュートへの沸き上げ制御を実施します[*9], (図6)。
図6: 共同実証の概要
出典: Shizen Connect「Shizen Connectとダイキン、大手電力3社と再エネ余剰電力の有効活用に向けた共同実証を実施」
https://www.shizenenergy.net/2024/07/31/daikin_sc_eq_demo/
再生可能エネルギーの余剰電力を有効活用をすることで脱炭素社会の実現に貢献する取り組みとなり、今後は社会実装を目指しています。
まとめ
電気を賢く活用するデマンドレスポンスは、地球規模での環境問題の解決や日本国内における電力の安定供給を支えるだけでなく、企業や一般家庭などの需要家側にもメリットをもたらします。
また、再生可能エネルギーが主力となる新しい電力ネットワークにおいて、電力の需給バランスを調整するという重要な役割を担っています。
再生可能エネルギーをはじめとした電源の多様化によって、今後ますますデマンドレスポンスの重要性が高まっていくでしょう。
参照・引用を見る
※参考URLはすべて執筆時の情報です
*1
経済産業省「電気の安定供給のキーワード『電力需給バランス』とは?ゲームで体験してみよう(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/balance_game.html
*2
経済産業省「ディマンド・レスポンスってなに?」https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/dr/dr.html
*3
経済産業省「これからの需給バランスのカギは、電気を使う私たち~『ディマンド・リスポンス』とは?」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/dr.html
*4
経済産業省「ディマンド・リスポンスの活用で広がる、電力需給調整の新ビジネス」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/dr_business.html
*5
経済産業省「節電される電気を価値化!?ディマンド・リスポンスの取引」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/dr_market.html
*6
クール・ネット東京「家庭の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業」
https://www.tokyo-co2down.jp/subsidy/demand_response
*7
東京都「家庭の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業のご案内」
https://www.tokyo-co2down.jp/wp-content/uploads/2024/07/demares_fam_r06_leaf_240722.pdf
*8
日本気象協会「日本気象協会、『DR最適発動支援のためのエリア需要予測サービス』を開始 ~電力事業者の節電要請と容量拠出金の負担軽減などを支援~」(2024)
https://www.jwa.or.jp/news/2024/05/23042/
*9
Shizen Connect「Shizen Connectとダイキン、大手電力3社と再エネ余剰電力の有効活用に向けた共同実証を実施」
https://www.shizenenergy.net/2024/07/31/daikin_sc_eq_demo/