GXがカギ! 運輸部門における最新動向を解説

化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のことを表す「GX(グリーントランスフォーメーション)」[*1]。

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、経済成長と温室効果ガスの排出削減を両立できるGXの推進が求められています。様々な分野におけるGXが進んでいますが、近年、運輸部門におけるGXが活発化しています。

それでは、運輸部門ではどのようなGXの取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

運輸部門における環境負荷

2022年度における日本のCO2排出量10億3,700万トンのうち、運輸部門からの排出量は1億9,180万トンと、全体の18.5%を占めています[*2], (図1)。

図1: 運輸部門におけるCO2排出量
出典: 国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

その内訳を見ると、自動車からの排出量が運輸部門の85.8%を占め、内航海運が5.3%、航空が5.1%、鉄道が3.8%となっています。

運輸部門におけるGXの実現に向けた国の動向

国内全体の18.5%を占めるCO2排出削減に向けて、政府は現在、運輸部門におけるGXを推進しています。

国土交通省は、2021年7月に「国土交通省グリーン社会実現推進本部」を設置するとともに、「国土交通グリーンチャレンジ」を作成しました。また、同年12月には、「国土交通省環境行動計画」を改定しています[*3], (図2)。

図2: 国土交通省におけるGXの実現に向けた取組について
出典: 国土交通省 総合政策局「GXの実現に向けた国土交通省の取組と政府の動きについて」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/content/001515491.pdf, p.2

「国土交通グリーンチャレンジ」では、運輸部門について、次世代自動車の普及促進、燃費性能の向上、ゼロエミッション船の研究開発・導入促進等を進めるとしています。

「国土交通省環境行動計画」においては、自動車について、事業用のバス・トラック・タクシー等への次世代自動車の普及促進、燃費性能の向上や、EV充電施設の道路内設置などを重点施策としています。自動車以外では、省エネ・省CO2排出船舶の普及や、燃料電池鉄道車両の開発推進、航空分野ではバイオマス原料等から製造されたSAF(持続可能な航空燃料)の導入促進を進めるとしています[*3], (図3)。

図3: 国土交通省におけるGXの実現に向けた取組について
出典: 国土交通省 総合政策局「GXの実現に向けた国土交通省の取組と政府の動きについて」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/content/001515491.pdf, p.5

各分野におけるGXの取り組み
自動車分野におけるGXの取り組み

国内の2023年電動車販売台数は前年比26.6%増の200万9,725台、電動車比率は50.3%と暦年ベースで初めて5割を超えるなど、その販売台数は拡大しています[*4]。

電動車は動力源に電気を使う自動車の総称で、HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)の4種類があります[*4], (表1)。

表1: 国内の電動車販売台数と電動車比率

出典: 一般社団法人 日本自動車会議所「23年の国内電動車販売比率、暦年初5割超 ラインアップ充実、燃料高も」
https://www.aba-j.or.jp/info/industry/21158/

自動車におけるGX推進に向けて、政府は2035年までに電動車の新車販売を100%にすることを目指しています。また、8トン超の大型トラック・バスについては、2020年代中に電動車を5,000台先行導入するとともに、8トン以下の小型トラック・バスについては、2030年までに新車販売の電動車比率を20~30%にする計画です[*5]。

民間企業による電動化推進も活発化しています。例えば、トヨタ自動車株式会社は2026年までのEVの販売目標を150万台、2030年までの販売目標を350万台に設定しています。目標達成に向けて、同社は2030年までに30車種ものEVを導入するとともに、EV関連へ5兆円の投資を行うとしています[*6]。

また、本田技研工業株式会社は、2030年までにEVの販売目標を200万台、2040年にはEV・FCV(燃料電池自動車)の新車販売割合100%を目指すとしています[*6], (表2)。

表2: 日系メーカーの電動化に向けた取り組み

出典: 経済産業省「参考資料(自動車)」
https://www.meti.go.jp/press/2023/12/20231222005/20231222005-05.pdf, p.13

民間企業の取り組みを後押しするため、政府は充電インフラ整備等を進めています。2022年3月時点で、充電器設置件数は全国で約3万基となっていますが、電動車の普及には、さらなる設置促進が不可欠です[*7], (図4)。

図4: 日本における充電器設置基数の推移
出典: 経済産業省 自動車課「充電インフラの普及に向けた取組について」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20221111/221111energy13.pdf, p.3

そこで、政府は現在、2030年までに15万基の公共充電器を整備することを目標として掲げ、充電インフラの整備補助事業を実施しています。

充電インフラの拡充に向けて、ワイヤレス充電など新たな技術の活用も検討されています。ワイヤレス充電とは、地面に敷設した送電コイルから電動車側の受電コイルにケーブルやプラグをつながず電力を供給する方法のことです[*8], (図5)。

図5: ワイヤレス充電の仕組み
出典: 株式会社三菱総合研究所「自動車のGX 電動車の『ワイヤレス充電』とは?」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20230919.html

ワイヤレス充電を設置することで、移動しながら充電できるようになるとともに、路面下に設置することで充電スペースが削減できるようになります。また、日中の走行中に充電することで、太陽光発電で発生した余剰電力を利用できるようになるなど、カーボンニュートラル効果も期待されています[*8], (図6)。

図6: ワイヤレス充電による再生可能エネルギーの有効活用イメージ
出典: 株式会社三菱総合研究所「自動車のGX 電動車の『ワイヤレス充電』とは?」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20230919.html

鉄道分野におけるGXの取り組み

電気使用量が多い鉄道業界の脱炭素化には、再生可能エネルギー電気の利用拡大が不可欠です[*3]。

現在、多くの鉄道会社が再生可能エネルギー由来の電気を活用しています。例えば、西武鉄道株式会社は、2024年1月1日から全線にて100%再生可能エネルギー由来の電力を使った電車の運行を開始しました[*9], (図7)。


図7: 西武鉄道株式会社による取り組み
出典: 西武鉄道株式会社「西武鉄道全線にて100%再生可能エネルギー由来の電力を使用し、実質CO2排出量ゼロで運行します」
https://www.seiburailway.jp/newsroom/news/20231107_seibuCO2zero/

同社は、東京電力エナジーパートナー株式会社の再生可能エネルギー電力メニューを導入することで、これまで年間約157,000トン(一般家庭約57,000世帯分の年間CO2排出量に相当)排出していたCO2の実質ゼロを実現しました。

鉄道の非電化区間では、水素燃料電池鉄道車両の導入も始まっています。例えば、東日本旅客鉄道株式会社は、2030年度の実用化を目指して、燃料電池を使った鉄道車両の研究開発を進めており、2024年2月には、神奈川県内の鶴見線で報道関係者を乗せた試験走行が行われました[*10]。

同車両は、屋根の上に水素タンクを設置し、車両の下の部分にある燃料電池で酸素と反応させて発電する仕組みで、走行中にCO2が排出されることはありません。

また、鉄道の非電化区間では通常、ディーゼル燃料を動力源とする気動車が走行していますが、脱炭素化に向けて、バイオディーゼル燃料を活用する動きも活発化しています[*11], (図8)。

図8: バイオディーゼル燃料活用に向けた取り組み
出典: 国土交通省 鉄道局技術企画課「脱炭素関連のR7年度予算要求状況および税制改正要望について」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001768385.pdf, p.7

バイオディーゼル燃料は、植物由来の廃食用油や微細藻類等の油脂などから製造される燃料です。運航時にCO2が排出されますが、植物由来のバイオマスは生育過程で大気中からCO2を吸収するため、排出と吸収が相殺されて実質排出ゼロの燃料と言えます。

国土交通省は、2022年度から「鉄道技術開発・普及促進制度」を活用して、技術開発を行っており、2025年度以降、本開発成果を鉄道事業者に広く展開することを目指しています。また、2024年度バイオディーゼル燃料を鉄道車両に使用するに当たっての安全性・安定性を確認するため、営業列車で長期走行試験を行っており、今後の実用化が期待されます。

航空分野におけるGXの取り組み

航空業界では、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、輸送量が減少したことから、2019年から2020年にかけて国際線・国内線ともに排出量は大きく減少しました。しかしながら、先述したように、2022年度の航空分野の排出量は運輸部門の5.1%を占めているため、CO2の排出削減対策が求められています[*2, *12]。

政府は、2021年12月に航空脱炭素化の工程表を策定するなど、航空事業者等による脱炭素化を計画的に推進しています。具体的な取り組みとしては、SAFの利用拡大や、航空機材・装備品等の新技術開発等を進めています[*3]。

SAF(Sustainable aviation fuel)とは、日本語では「持続可能な航空燃料」と言い、廃食油、微細藻類、木くずなどの原料から製造される燃料のことです。バイオディーゼル燃料と同様に、燃料させるとCO2が排出されますが、バイオマスはCO2を吸収して再生産されるため、実質的なCO2排出がゼロの燃料です[*13], (図9)。

図9: SAFのライフサイクル排出量
出典: 資源エネルギー庁「飛行機もクリーンな乗り物に! 持続可能なジェット燃料『SAF』とは?」
thtps://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/saf.html

海外では既に商用化が進むSAFですが、2030年までに燃料使用量の10%にSAFを導入することを目指す国内企業もあります[*3]。

このような背景から、大規模なSAF製造等の取り組みを開始する日本企業も増えつつあります。例えば、石油元売り企業のENEOS株式会社はフランスのTotal Energies社と連携し、廃食油などを用い、和歌山製油所跡地でのSAF製造の事業化を進めています。2026年時点で年間約40万キロリットルの製造、CO2と水素を原料とする合成燃料については、2040年までの自立商用化を目指しています[*14]。

また、SAFの原料調達を行う日揮ホールディングス株式会社は、様々な企業と連携し、「Fry to Fly Project」を実施しています。廃棄されている家庭や店舗の廃食油を回収・利用できるようにする事業で、SAF製造を検討している企業を後押しする取り組みと言えます。

船舶分野におけるGXの取り組み

内航海運(国内貨物の海上運送)の2022年度のCO2排出量は約1,021万トンと、運輸部門の排出量の約5.3%を占めています。政府は、内航海運2030年度の温室効果ガス排出量を、181万トン2013年度比約17%減)削減することを表明しました[*15, *16], (図10)。

図10: 内航海運のCO2排出削減目標
出典: 国土交通省 海事局「船舶の脱炭素化」
https://www.mlit.go.jp/common/001447792.pdf, p.6

国境を越えて活動する国際海運については、船国籍や運航国による区分けが難しく、国別の削減対策になじまないため、国連の専門機関であるIMO(国際海事機関)に検討が委ねられています[*15]。

国際海運におけるCO2排出量は世界全体の約2.0%(6.3億トン。ドイツ一国分に相当)となっており、排出削減対策が求められています。そこで各国は、IMOの会議において、2050年頃までにゼロ排出を世界共通の目標とすることに合意しました[*17]。

船舶の脱炭素化に向けた具体的な取り組みとして、水素・アンモニア等を活用したゼロエミッション船の研究開発が進んでいます[*3]。

例えば、東京海洋大学は、2024年7月に、水素燃料電池と蓄電池のみで運航する船としては国内で初めて、船舶の実用化に重要な検査証を得たと発表しました。同検査証は自動車における車検に相当するとされ、船を建造・運航するのに重要なものです。現在、東京海洋大学の技術提供や支援を受け、岩谷産業株式会社が大阪万博において水素燃料船の旅客運航を計画しているなど、今後の実用化が期待されています[*18]。

従来は肥料などとして使用されていたアンモニアを燃料とする船舶の開発も行われています。例えば、日本郵船株式会社は、2024年1月に、株式会社ジャパンエンジンコーポレーションなど4社で連携して、世界初となる国産エンジンを搭載したアンモニア燃料アンモニア輸送船の建造に関わる契約を締結しました[*19], (図11)。

図11: アンモニア燃料アンモニア輸送船イメージ図
出典: 日本郵船株式会社「アンモニア燃料アンモニア輸送船の建造決定」
https://www.nyk.com/news/2024/20240125_02.html

アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないため、次世代燃料としてその需要が今後国内外で急拡大すると考えられています。同プロジェクトでは、アンモニアを重油と一緒に燃焼させる混焼を行うことを検討しており、主機のアンモニアの混焼率は最大95%、補機の混焼率は80%を目指しています。同エンジンを活用することで、本船全体として従来と比べて80%以上の温室効果ガス削減を目指すとしています。

まとめ

本記事では、運輸部門におけるGXの取り組みを解説してきました。運輸部門でGXを実現するためには、政府と民間企業が連携し、計画的・戦略的にGXを推進することが重要です[*3]。

また、今回紹介してきたように、自動車や鉄道など私たちの生活に身近なところでも、GXに向けた取り組みが始まっています。GX実現に向けては、消費者の理解や協力も欠かせません。GXの実現に貢献するために、そういった商品・サービスを提供している企業を応援したり、意識して使うことを検討してみてはいかがでしょうか。

 

参照・引用を見る

※参考URLはすべて執筆時の情報です

*1
経済産業省「知っておきたい経済の基礎知識~GXって何?」
https://journal.meti.go.jp/p/25136/

*2
国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

*3
国土交通省 総合政策局「GXの実現に向けた国土交通省の取組と政府の動きについて」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/content/001515491.pdf, p.2, p.3, p.5, p.6, p.14, p.15

*4
一般社団法人 日本自動車会議所「23年の国内電動車販売比率、暦年初5割超 ラインアップ充実、燃料高も」
https://www.aba-j.or.jp/info/industry/21158/

*5
国土交通省 自動車局「自動車DX・GX及び担い手確保の現況・取組について」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001610823.pdf, p.6

*6
経済産業省「参考資料(自動車)」
https://www.meti.go.jp/press/2023/12/20231222005/20231222005-05.pdf
, p.13

*7
経済産業省 自動車課「充電インフラの普及に向けた取組について」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20221111/221111energy13.pdf, p.2, p.3, p.6

*8
株式会社三菱総合研究所「自動車のGX 電動車の『ワイヤレス充電』とは?」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20230919.html

*9
西武鉄道株式会社「西武鉄道全線にて100%再生可能エネルギー由来の電力を使用し、実質CO2排出量ゼロで運行します」
https://www.seiburailway.jp/newsroom/news/20231107_seibuCO2zero/

*10
NHK「JR東日本 燃料電池を使った鉄道車両 試験走行の様子を公開」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240228/k10014373471000.html

*11
国土交通省 鉄道局技術企画課「脱炭素関連のR7年度予算要求状況および税制改正要望について」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001768385.pdf, p.7

*12
国土交通省 航空局「航空の脱炭素化推進に係る工程表の見直し」
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001736421.pdf, p.1, p.2

*13
資源エネルギー庁「飛行機もクリーンな乗り物に! 持続可能なジェット燃料『SAF』とは?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/saf.htm

*14
資源エネルギー庁「SAF製造に向けて国内外の企業がいよいよ本格始動」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/saf_2024.html

*15
国土交通省 海事局「海事レポート2024 第2章 総合的な安全対策・環境対策の推進」
https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001753370.pdf, p.17

*16
国土交通省 海事局「船舶の脱炭素化」
https://www.mlit.go.jp/common/001447792.pdf, p.6

*17
国土交通省「参考資料(船舶)」
https://www.meti.go.jp/press/2023/12/20231222005/20231222005-09.pdf, p.3

*18
株式会社日本経済新聞社「水素燃料船の実用化へ前進 東京海洋大、国内初の検査証」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG238930T20C24A7000000/?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

*19
日本郵船株式会社「アンモニア燃料アンモニア輸送船の建造決定」
https://www.nyk.com/news/2024/20240125_02.html

メルマガ登録