どれほど低い? エネルギー自給率を上げるための日本の取り組みは?

エネルギー自給率とは、国民生活や経済活動に必要な一次エネルギーのうち、自国内で産出・確保できる比率のことです[*1]。一次エネルギーとは、自然から直接採取できるエネルギーのことです。

日本のエネルギー自給率は、他国と比べて低い水準となっています。エネルギー自給率を上げるためには、徹底した省エネや脱炭素エネルギーの導入促進が不可欠です[*2]。

現在、エネルギー自給率の向上に向けて、政府はどのような取り組みを行っているのでしょうか。詳しくご説明します。

エネルギー自給率の現状

エネルギー資源に乏しい日本は、一次エネルギーの大半を海外から輸入された化石エネルギーに依存しています。近年、政府は再生可能エネルギーの導入拡大などを推進していますが、2022年度のエネルギー自給率は12.6%と低水準にとどまっています[*3], (図1)。

図1: 一次エネルギー国内供給の構成及びエネルギー自給率の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf, p.42

2021年度のエネルギー自給率は13.3%であったため、2022年度よりも高い水準でしたが、それでも他のOECD(経済協力開発機構)諸国と比較して低い水準です[*1], (図2)。

図2: 主要国の一次エネルギー自給率比較(2021年)
出典: 資源エネルギー庁「エネルギー自給率の推移」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2023/01.html

OECD諸国でエネルギー自給率が最も高かったのがノルウェーの745.7%。日本と同じくアジアに位置する韓国は18.0%で、日本は韓国よりも低いのが現状です。

エネルギー自給率が低いことによるリスク

エネルギー自給率が低いと、エネルギー供給が海外情勢等に左右されてしまうというリスクがあります。特に、海外から輸入した化石エネルギーへの依存度が高いと、価格面での影響を受けやすくなります[*3]。

世界の化石エネルギーの価格は2021年頃から上昇傾向にありましたが、2022年2月にはロシア・ウクライナ情勢の悪化により急騰しました。

例えば、アジアのLNG(液化天然ガス)のスポット価格であるJKM(Japan Korea Marker)の平均価格について、2019年は1MMBtu(英熱量)当たり5ドル程度でしたが、2023年にはその3倍近い14ドルまで上昇しました。

また、石炭についても同様に、2019年の豪州産一般炭の価格は1トン当たり平均78ドルの水準でしたが、2023年にはその2倍以上となる173ドルの水準となりました。

このような世界的な化石エネルギー価格の高騰等により、日本における化石エネルギーの輸入金額は、輸入量が減少傾向にあるにも関わらず、2020年の11.3兆円から2022年には33.7兆円と、約3倍に急増しています[*3], (図3)。

図3: 日本の化石エネルギーの輸入金額・輸入量の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf, p.43

このような化石エネルギーの価格高騰の結果、多額の資金が国外へ流出しています。

また、インドや東南アジアなどの新興国におけるエネルギー需要が、各国の経済発展に伴い増加し続けているなかで、エネルギー価格がさらに上昇する可能性もあります[*4]。

国際機関のレポートによると、2050年のインドにおけるエネルギー需要は、2010年と比べて天然ガスが3.2倍、原油が2.8倍に増加すると予測されています。このようなエネルギー需要の高まりは、将来的な価格上昇に影響する可能性があり、事前に備えておく必要があると言えます。

エネルギー自給率を上げるための日本の取り組み

世界的にエネルギー需要が急増する一方で、日本でも今後、データセンターや半導体工場の新増設等によって電力需要が増加することが見込まれています[*2], (図4)。

図4: 電力広域的運営推進機関による日本の今後の電力需要の見通し
出典: 資源エネルギー庁「エネルギーに関するさまざまな動きの今がわかる!『エネルギー白書2024』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyhakusho2024.html

また、エネルギーの大半を海外に頼る構造が続くなかで、海外情勢等に左右されず安定的な電力供給を実現することが求められています。

そこで現在、政府は徹底した省エネや脱炭素エネルギーの導入促進などの取り組みを加速させています。

省エネの推進

化石エネルギーの資源に乏しい日本は、貴重なエネルギーを有効活用するため、様々な省エネの取り組みを進めています[*3]。

2013年度に原油換算で約3.6億klであった最終エネルギー消費について、政府は省エネ対策等により、2030年度には2.8億kl程度になるとの見込みを示しています[*3], (図5)。

図5: 日本における最終エネルギー消費の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf, p.62

2023年7月に閣議決定された「GX推進戦略」でも、徹底した省エネを推進していくことが明記されています。具体的な取り組みとして、2023年度補正予算において、省エネ設備への更新支援や中小企業への省エネ診断支援を措置するとともに、家庭向けには断熱窓への改修支援や高効率給湯器の導入支援等の住宅省エネ化支援を実施しています[*3], (図6)。

図6: 省エネ支援パッケージの概要
出典: 資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf
, p.62

また、2023年4月には「改正省エネ法」を施行しました。従来の省エネ法では、エネルギーとは化石エネルギーのことを指しており、化石エネルギーを使用する事業者等に対して、エネルギーの使用状況を報告させ、取り組みが不十分な場合には、指導・助言や合理化計画の作成指示などを行うものでした[*5], (図7)。

図7: 省エネ法の枠組み
出典: 資源エネルギー庁「2023年4月施行の『改正省エネ法』、何が変わった?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/shoene_houkaisei2023.html

改正省エネ法では、再生可能エネルギーの導入拡大が進む現状に即し、エネルギーの定義を拡大し、非化石エネルギーを含む全てのエネルギーの使用の合理化を求めることとしています[*5], (図8)。

図8: 改正省エネ法における対象範囲の拡大
出典: 資源エネルギー庁「2023年4月施行の『改正省エネ法』、何が変わった?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/shoene_houkaisei2023.html

政府は、ZEHなど家庭向けの省エネを促進する施策も実施しています。ZEHとは、「ネット・ゼロ・エネルギーハウス」の略で、住宅で使う一次エネルギーの年間消費量が、おおむねゼロの住宅のことです[*6, *7], (図9)。

図9: ZEHとは
出典: 資源エネルギー庁「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について – 省エネ住宅」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/index03.html

ZEHの普及に向けて、経済産業省、国土交通省、環境省の3省が連携して支援を行っており、その普及が期待されています[*7], (図10)。

図10: ZEH等の推進に向けた政府の取り組み(2023年度予算)
出典: 資源エネルギー庁「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について – 省エネ住宅」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/index03.html

脱炭素エネルギーの促進

2022年度の発電電力量は2,188億kWhと、全体の21.7%を占める再生可能エネルギー。そのなかでも太陽光の発電電力量が最も多く、水力、バイオマス、風力、地熱と続きます[*8], (表1)。

表1: 日本における再生可能エネルギー導入の推移

出典: 資源エネルギー庁「日本の多様な再エネ拡大策で、世界の『3倍』目標にも貢献」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cop28_saiene.html

政府は、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」において、2030年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合について36~38%まで上昇することを見込んでおり、目標達成を目指しています。

太陽光については、住宅などへの太陽光パネル設置のための補助を実施しています。例えば、市場価格に連動して一定のプレミアムが上乗せされる「FIP制度」では、集合住宅の屋根への設置について一定の緩和要件を設けるなどの施策によって導入を促進しています。

また、「オフサイトPPA」など電気を使う需要家による再生可能エネルギー電源開発を促進しています。オフサイトPPAとは、企業などの需要家が、自分の敷地から離れた場所(オフサイト)において発電した再生可能エネルギー由来の電気を、小売電気事業者を通じて供給されるモデルのことです[*8], (図11)。

図11: オフサイトPPAの概要
出典: 資源エネルギー庁「日本の多様な再エネ拡大策で、世界の『3倍』目標にも貢献」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cop28_saiene.html

「民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業」等で企業の導入を支援しており、将来的なオフサイトPPAの普及を目指しています[*9]。

さらに、これまで設置が困難だった場所への太陽光パネルの設置を促進するため、「ペロブスカイト太陽電池」など次世代太陽電池の研究開発を支援しています。ペロブスカイト太陽電池とは、従来のシリコン系太陽電池と異なり、軽く柔軟であり、主原料のヨウ素が日本で生産できる太陽電池です[*10], (図12)。

図12: ペロブスカイト太陽電池の活用範囲
出典: 資源エネルギー庁「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/perovskite_solar_cell_01.html

軽量で柔軟なタイプはビルの壁面や耐荷重の小さい工場の屋根などにも設置可能なため、太陽光発電の導入量の増加が見込まれます。また、小型タイプは、IoT(モノのインターネット)デバイスにも貼ることができるため、新たな市場への展開が期待できます。

次世代エネルギーとして注目を集める水素の実用化に向けた取り組みも活発化しています。水素は、使用してもCO2を排出しない、環境負荷の低いエネルギーです。また、国内の再生可能エネルギー等から作ることができるため、エネルギー自給率の向上にもつながることが期待される次世代エネルギーでもあります[*11]。

現在、政府は水素社会の実現に向けて、水素サプライチェーンの構築を進めています[*11], (図13)。

図13: 水素等サプライチェーンの構築
出典: 資源エネルギー庁「目前に迫る水素社会の実現に向けて~『水素社会推進法』が成立 (前編)サプライチェーンの現状は?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suisohou_01.html

しかし、水素は既存の燃料と比べてコストが高いのが現状です。また、水素を大規模に活用していくためには、事業者の初期投資や運営費もかかります。そこで政府は、2024年5月、「水素社会推進法」を成立させました[*12]。

同法は、水素等と既存燃料の「価格差」に注目した支援を行うものです。具体的には、水素等の国内製造や、海上輸送等にかかるコストと既存燃料のコスト差に対して支援を行う施策です[*12], (図14)。

図14: 価格差支援と拠点整備支援の範囲
出典: 資源エネルギー庁「目前に迫る水素社会の実現に向けて~『水素社会推進法』が成立 (後編)クリーンな水素の利活用へ」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suisohou_02.html

また、事業者が水素製造等の拠点を整備する際の支援として、低炭素水素等を輸送・貯蔵する際に新たにタンクやパイプラインを設置する際の助成金を交付しています。

これらの施策によって、低炭素水素等を活用する事業の活発化が期待されています。

まとめ

エネルギーの価格高騰リスクを軽減するためには、エネルギー自給率の向上が不可欠です。今回紹介してきたように、政府は省エネや脱炭素エネルギーの推進などによってエネルギー自給率の向上を図ろうとしています。

家庭では、太陽光パネルの設置や節電のような省エネの取り組みを行うことで、エネルギー自給率の向上に貢献できます。会社や家庭でできる取り組みについて、考えてみてはいかがでしょうか。

 

参照・引用を見る

※参考URLはすべて執筆時の情報です

*1
資源エネルギー庁「エネルギー自給率の推移」https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2023/01.html

*2
資源エネルギー庁「エネルギーに関するさまざまな動きの今がわかる!『エネルギー白書2024』」https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyhakusho2024.html

*3
資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告」https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf, p.41, p.42, p.43, p.60, p.61, p.62

*4
資源エネルギー庁「エネルギー危機の今、あらためて考えたい『エネルギー安全保障』」https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/anzenhosho2023.html

*5
資源エネルギー庁「2023年4月施行の『改正省エネ法』、何が変わった?」https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/shoene_houkaisei2023.html

*6
株式会社朝日新聞社「ZEH(ゼッチ)とは? 定義や種類、メリット、補助金などを解説」
https://www.asahi.com/sdgs/article/14616190?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

*7
資源エネルギー庁「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について – 省エネ住宅」https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/index03.html

*8
資源エネルギー庁「日本の多様な再エネ拡大策で、世界の『3倍』目標にも貢献」https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cop28_saiene.html

*9
環境省「民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業」https://www.env.go.jp/content/000156332.pdf, p.3

*10
資源エネルギー庁「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/perovskite_solar_cell_01.html

*11
資源エネルギー庁「目前に迫る水素社会の実現に向けて~『水素社会推進法』が成立 (前編)サプライチェーンの現状は?」https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suisohou_01.html

*12
資源エネルギー庁「目前に迫る水素社会の実現に向けて~『水素社会推進法』が成立 (後編)クリーンな水素の利活用へ」https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suisohou_02.html

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