GX人材の育成に役立つ! 2024年に公表された「GXスキル標準」とは?

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のことです[*1]。

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、GXの推進が不可欠です。一方で、GX人材が不足しているため、その人材育成の促進が急務とされています[*2]。

そこで、GXリーグ内における市場ルール形成の取組の一環で組成されたGX人材市場創造WG(ワーキンググループ)が2024年5月に「GX標準スキル」を策定・公表しました。

GXスキル標準とはどのようなものなのでしょうか。策定の背景や内容について、詳しくご説明します。

GXとは
GXの意義

「温室効果ガスの排出量と吸収量を同じにする」という意味であるカーボンニュートラル。日本政府は、2050年にカーボンニュートラルを実現することを国際的に約束しています[*1]。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、社会の仕組みそのものを変える必要があります。そのために必要な取り組みがGXです。

GXはカーボンニュートラルの実現だけでなく、国内におけるエネルギーの安定供給や脱炭素に伴う産業活動の活性化の面でもメリットがあります[*3]。例えば、2022年2月のロシア・ウクライナ情勢の悪化により、原油価格が急上昇しました。この事例のように、GXの推進によって、海外からの輸入に頼らない再生可能エネルギーの普及が期待されます。

また、日本は省エネをはじめとするエネルギー資源の有効利用や脱炭素に関しては優れた技術を持っています。世界でGXが活発化すれば、新たな需要・市場が創出され、日本の産業競争力を強化できると期待されています。

企業によるGX取り組み事例

現在、様々な企業がGXに取り組んでいます。例えば、古河電気工業株式会社は、自治体や企業と連携してグリーンLPガスの合成技術の開発・実証を行っています[*4]。

グリーンLPガスとは、大気中のCO2を回収し、カーボンニュートラルなエネルギーを活用して合成されたプロパンガスやブタンガス、もしくは、カーボンニュートラルなエネルギーを製造する際に副産物として生じたプロパンガスやブタンガスを指します[*5]。

米国・南米におけるバイオLPガスの生産量能力は年95.5万トン、欧州では年365.5万トン、中国では年32万トンと、海外でのグリーンLPの生産能力は拡大しつつあります[*6]。

脱炭素化への貢献が期待されるグリーンLPガスですが、その合成技術は国内ではまだ発展段階であり、実用化に向けた研究開発を進めていく必要があります。そこで古河電気工業株式会社は、北海道鹿追町やアストモスエネルギー株式会社、岩谷産業株式会社と連携して、グリーンLPガスの普及に向けた実証試験を開始しました[*4], (図1)。

図1: グリーンLPガス普及に向けた実証試験
出典: 古河電気工業株式会社「事業戦略ビジョン」
https://green-innovation.nedo.go.jp/pdf/development-fuel-manufacturing-technology-co2/item-004/vision-furukawa-002.pdf, p.16

同実証試験では、鹿追町の環境保全センターに実証プラントを建設し、牛のふん尿由来のバイオガスを使って、2030年度に1,000トン(一般家庭約3,000軒の年間使用量に相当)のLPガスを製造する計画です。また、製造したグリーンLPガスの供給については、エネルギー供給等を行うアストモスエネルギー株式会社と岩谷産業株式会社との連携を計画しています[*7]。

GX推進に向けた現状と課題

経済産業省は、GXを推進するため2023年に「GXリーグ」を発足させました。GXリーグとは、カーボンニュートラルへの移行に積極的に取り組み、国際市場で競争力を高める企業群が、GXの推進役となるための枠組みです[*8], (図2)。

図2: GXリーグにおける活動概要
出典: 経済産業省「GXリーグ活動概要」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B0%E6%B4%BB%E5%8B%95%E6%A6%82%E8%A6%81%EF%BD%9EWhat%20is%20the%20GX%20League%EF%BD%9E.pdf, p.4

GXリーグでは、参画企業がGX投資や温室効果ガス削減等についての目標掲示や、将来のビジネス機会を踏まえ、新市場創造に向けたルール形成の議論などが行われています。

一方で、GXの促進に向けては、GX分野における人材不足などの課題もあります。株式会社リクルートが2023年8月に公表したGX求人と転職動向まとめでは、GX求人の伸び率は5.87であったのに対して、実際に転職を行った転職者数の伸び率は3.09と差がありました[*9], (図3)。

図3: GX分野の人材市場における求職者と求人のギャップ
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)-検討概要と活用方法-」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89%EF%BC%8D%20%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E6%A6%82%E8%A6%81%E3%81%A8%E6%B4%BB%E7%94%A8%E6%96%B9%E6%B3%95.pdf, p.13

企業が脱炭素製品の開発・販売等を行うためには、脱炭素コストを加味した収益計画の立案が重要です。一方で、その立案は難易度が高いため、GX分野における人材育成が不可欠と言えます。

GX人材育成に向けた「GXスキル標準」の公表

GX人材市場の拡大に向けて、GXリーグでは、2023年11月に「GX人材市場創造ワーキング・グループ(WG)」が設立されました[*2]。同WGは、今後のGX人材市場拡大に向けた、GX人材の標準化に関するとりまとめと提言を行っており、2024年5月に検討成果を「GXスキル標準」として公表しました。

GXスキル標準とは

GXスキル標準は、GXに関するリテラシーとして身につけるべき知識や学習が期待される項目を定義したGXリテラシー標準と、GXに必要な人材類型やロールを定義したGX推進スキル標準から構成されています[*2, *10], (図4)。

図4: GXスキル標準の構成
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.2

GXリテラシー標準は、GXに関わる全ての人材を対象としています。一方で、GX推進スキル標準は、GXを推進する人材を対象としたものです[*10], (図5)。

図5: GXスキル標準の対象
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.3

GXリテラシー標準とは

GXリテラシー標準は、GXに関わる全ての人がGXリテラシーを身につけることで、社会全体での変革を目指すことを目的として策定されました[*10], (図6)。

図6: GXリテラシー標準の全体像
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.5

本標準は、GXの背景、GX実現のために企業がすべきこと、GXで活用される手法や制度について記載されています。先述したように、本標準は経営者から新入社員、消費者まで幅広い層が対象となっています[*10], (図7)。

図7: GXリテラシーを身に付けた人材イメージ
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.6

企業は、社員に対してGXリテラシーを身につけさせるうえで、その育成体系を検討するための指針として本標準を活用することができます。本標準は、Why(GXの背景)、What(何をすべきか)、How(どうするべきか)、Mind/Stance(マインド・スタンス)という4つの学習項目で構成されています[*10], (図8)。

図8: GXリテラシー標準が定義する学習項目
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.9

例えば、「Why(GXの背景)」において、自然環境の変化という項目があります。本項目の学習項目例として、温暖化の仕組みや地球上におけるCO2循環などの気候変動問題、気候変動による影響など気候変動とカーボンニュートラルの関係が提示されています[*10], (図9)。

図9: 自然環境の変化における学習項
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.11

次に、「What(何をすべきか)」では、サプライチェーン全体の排出量の算定や削減対策の実行などの項目が盛り込まれています。サプライチェーン排出量の算定に関する学習項目例としては、GHGプロトコル(温室効果ガスの排出量を算定し、報告するための統一的な基準・規格のこと)に基づき、自社のサプライチェーン全体の排出量を算定する方法等が規定されています[*10], (図10)。

図10: サプライチェーン排出量の算定における学習項目
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.16

「How(どうするべきか)」では、省エネの推進方法や再生可能エネルギーの調達方法などが盛り込まれています。例えば、再生可能エネルギーの調達方法では、再生可能エネルギーの概要から、再生可能エネルギー証書(再生可能エネルギーから生産された電力の環境価値を証明するための証書)を通じた調達方法まで、様々な学習項目が規定されています[*10], (図11)。

図11: 再生可能エネルギーの調達方法における学習項目
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.23

最後に、「Mind/Stance(マインド・スタンス)」では、社内外の多様な主体とのコラボレーションやGXの実現に向けた変化への挑戦など、行動例が記載されています。例えば、コラボレーションの項目では、サプライチェーンにおけるサプライヤー等とのサステナビリティ目標共有や、顧客とのワークショップの開催などが行動例として規定されています[*10], (図12)。

  

図12: コラボレーションにおける学習項目
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.33

本標準で定義された項目を通じて人材育成を行うことで、GXリテラシーを持った人材がいる各組織での連携が深まり、組織全体のGXの加速につながると言えます。

GX推進スキル標準とは

GX推進に向けた知識等を有する人材育成のため、GXスキル標準では、GXリテラシー標準のほか、GX推進スキル標準が策定されました。GXリテラシー標準の達成水準としては、GXの重要性を理解し、基礎知識を有していることとしています。一方で、GX推進スキル標準では、達成水準のレベルを3段階に分けています[*10], (図13)。

図13: GX推進スキル標準のレベル定義
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.52

また、GX推進スキル標準では、GXを推進する主な人材を4つの類型に定義しています[*10], (図14)。

図14: GX推進スキル標準における人材類型の定義
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.55

GXアナリストとは、GX推進において、目的設定・方針設定・分析実施を行うことができる人物のことです。同人材は、GHGプロトコルに基づく排出量算定や、どのような算定を行うべきかの立案などが求められています[*10], (図15)。

図15: GXアナリストとは
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.56

次に、GXストラテジストは、GX推進において、情報の分析を行い、環境指標と経済指標を踏まえた計画の立案と承認を得ることができる人材と定義されています。同人材は、排出量算定結果を分析するとともに、経済指標等を踏まえてどのような削減を行うべきか立案と承認を得ることが求められています[*10], (図16)。

図16: GXストラテジストとは
出典: GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.58

GXインベンターとGXコミュニケーターについては、今回公表されたGX推進スキル標準では詳細定義が未着手となっています。そのため、本Ver1.0では参考として定義されていますが、GXインベンターは、GX推進において環境指標と経済指標の両面において大きく推進する重要なビジネスや技術を発見・開発できる人材とされています。また、GXコミュニケーターとは、社内外の各主体との対話・交渉を通じて、自社の計画の実現を推進できる人材のことです。

まとめ

今回紹介してきたように、GX分野における人材が不足しているなかで、自社でGX人材を育成することも人材確保の方法の一つです。今回公表されたGX標準スキルは、企業にとってGX人材育成を計画するうえで重要な指針になります。

また、GX標準スキルは、個人がGX分野について学習する際の指針としても有効です。GX分野について、どのようなスキルが求められており、何を学ぶ必要があるのか整理できるGX標準スキルを活用してみてはいかがでしょうか。

参照・引用を見る

※参考URLはすべて執筆時の情報です

*1
経済産業省「知っておきたい経済の基礎知識~GXって何?」
https://journal.meti.go.jp/p/25136/

*2
経済産業省「『GX人材市場創造WG』がGXスキル標準を公表いたしました」
https://gx-league.go.jp/news/20240514/

*3
株式会社朝日新聞社「GX(グリーントランスフォーメーション)とは 政府や企業の取り組みを解説」https://www.asahi.com/sdgs/article/15029672?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

*4
古河電気工業株式会社「事業戦略ビジョン」
https://green-innovation.nedo.go.jp/pdf/development-fuel-manufacturing-technology-co2/item-004/vision-furukawa-002.pdf
, p.16

*5
株式会社野村総合研究所「グリーンLPGの社会実装を見据えた国内外の動向調査」https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/000289.pdf, p.1, p.2

*6
日本LPガス協会「グリーンLPG生産技術の整理」
https://www.j-lpgas.gr.jp/data/GreenLPG_Presen_METI_20210325.pdf, p.3

*7
株式会社日本経済新聞社「古河電工、北海道でLPガスプラント建設 原料に牛ふん尿」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC06BNW0W4A800C2000000/?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

*8
経済産業省「GXリーグ活動概要」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B0%E6%B4%BB%E5%8B%95%E6%A6%82%E8%A6%81%EF%BD%9EWhat%20is%20the%20GX%20League%EF%BD%9E.pdf, p.2, p.3, p.4

*9
GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)-検討概要と活用方法-」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89%EF%BC%8D%20%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E6%A6%82%E8%A6%81%E3%81%A8%E6%B4%BB%E7%94%A8%E6%96%B9%E6%B3%95.pdf, p.13, p.14, p.15

*10
GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E6%A8%99%E6%BA%96%EF%BC%88GXSS%EF%BC%89.pdf, p.2, p.3, p.5, p.6, p.7, p.9, p.11, p.14, p.16, p.21, p.23, p.30, p.33, p.46, p.47, p.52, p.55, p.56, p.57, p.58, p.61

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