スタートアップが挑む! 電力の未来を支える新インフラ「スマートグリッド」を解説

持続可能な社会実現に向けて、エネルギー分野で注目を集める「スマートグリッド」。従来型の電力網と区別して「次世代送電力網」とも呼ばれ、国内外で導入が広がっています。また、スマートグリッドに関連する取り組みの一つとして、「マイクログリッド」も注目を集めています[*1]。

スマートグリッドおよびマイクログリッドとは、どのようなものなのでしょうか。また、同分野において、どのようなスタートアップの取り組みが注目を集めているのでしょうか。詳しくご説明します。

スマートグリッドとは
従来の電力網との違い

スマートグリッドとは、IT技術によって、供給側・需要側の双方から電力量をコントロールできる送電網のことです[*2, *3], (図1)。

図1: スマートグリッドの概念図
出典: 一般社団法人 日本電機工業会「スマートグリッド」
https://www.jema-net.or.jp/engineering/dispersed/evefa20000001du1-att/s07.pdf, p.2

従来の電力供給は、発電所から企業・家庭などに向けて、一方向に電力が流れるものでした。一方で、スマートグリッドでは、双方向的に電力が流れるほか、電力供給の過不足といった情報のやり取りも可能です。

スマートグリッド導入のメリット

スマートグリッドには、効率的な電力供給や再生可能エネルギーの効率的な導入など、様々なメリットがあります[*2]。

まず、スマートグリッドを活用することで、過剰な発電を防ぎ、余剰電力を別の需要家に回すなどの調整ができるため、効率的な電力供給が実現可能です。

スマートグリッドは、双方向でデータをやり取りできるため、需要家の消費電力情報や、電力会社からの電力抑制指示を送受信することができます。例えば、電力会社が企業や家庭の電気の消費量が減少したというデータを受け取った場合、それに合わせて電力供給を抑えることで、過剰な発電を防ぐことが可能です。

また、電力会社が電力消費のピーク時間を避けるよう需要家に働きかけたり、需要が少なく電気料金が安い時間帯に使用を促したりする仕組みが整備されているため、電力網の負荷が軽減され、電力の浪費が抑えられます。さらに、AI等を活用することで、精緻な天気予報とともに、エネルギー需要を正確に予測し、供給計画を最適化できるというメリットもあります[*1]。

二つ目のメリットは、スマートグリッドによって再生可能エネルギーの導入を促進できるという点です。

近年では、再生可能エネルギーが大量に導入され、電源の分散化が進行していますが、課題も山積しています。例えば、晴れた日に太陽光発電システムで余剰電力が発生した場合、その電力を他の家庭や地域に送電できれば効率的ですが、従来の電力網ではこのような対応が困難でした。

しかし、スマートグリッドを活用すれば、電力需給の最適化が可能となるため、再生可能エネルギーのさらなる導入も可能です。

三つ目のメリットは、停電リスクの低減に寄与できるという点です。

スマートグリッドは、後述するマイクログリッドにより、停電が広範囲に及ぶ場合でも地域単位で独立して稼働することで、地域の需要家に必要最低限の電力を供給できます。

また、スマートセンサー(温度や衝撃の大きさなどの情報を検出し数値化する処理機能が組み込まれた装置)や自動制御システムを活用することで、災害時に電力網の異常を即座に検知し、修復作業を素早く進められます。その結果、停電からの復旧にかかる時間を大幅に短縮することが可能となります[*1, *4]。

スマートグリッドの仕組み

スマートグリッドは、スマートメーターやエネルギーマネジメントシステム、分散型電源、エネルギー貯蔵システム、仮想発電所などから構成されます[*1]。

スマートメーターとは、通信機能を備えた電力計のことです。電気使用量を自動的に計測し、電力会社に送信することで、電力会社が電気使用状況をリアルタイムで把握することができます。

エネルギーマネジメントシステム(EMS:Energy Management System)は、住宅やオフィスでの電力使用を最適化するためのシステムです。例えば、EMSを活用することで、太陽光発電システムと連携し、自家消費を優先しながら余剰電力を売電することができます。

分散型電源(DER:Distributed Energy Resources)とは、小規模で地域密着型のエネルギー供給源のことです。住宅や工場の屋根などに設置された太陽光パネルや、地域単位で稼働する小規模な太陽光・風力・水力などの発電設備が分散型電源として機能します。

エネルギー貯蔵システム(ESS:Energy Storage System)は、蓄電池と電力制御システムを組み合わせた設備です。ESSは、電力需要が集中するピークタイムを緩和し、電力網の負荷を平準化できるとともに、蓄電池は停電や災害時のバックアップ電源としても機能します。

仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)とは、地域に点在するDERやESS等を統合管理し、あたかも一つの発電所のように機能させるシステムのことです。IoTを活用して発電量や蓄電量をクラウド上で一元管理できるため、需給バランスの調整が容易になります。

マイクログリッドとは
スマートグリッドの仕組みを活用したマイクログリッド

スマートグリッドに似た概念として、マイクログリッドという手法も近年注目を集めています。

マイクログリッドとは、平常時には再生可能エネルギーを効率よく利用し、非常時には送配電ネットワークから独立し、エリア内でエネルギーの自給自足を行う送配電の仕組みのことです[*5], (図2)。

図2: マイクログリッドのシステムモデル例
出典: NTT株式会社「マイクログリッドとは? エネルギーの地産地消に貢献! 停電被害も軽減する仕組み」
https://www.rd.ntt/se/media/article/0013.html

マイクログリッドは、スマートグリッドの仕組みを導入することで実現可能です。都市部でも導入可能ですが、山間部や離島など非常時に停電が長引きやすい地域などでの導入も期待されています[*5, *6]。

マイクログリッド導入のメリット

スマートグリッドを導入することで、停電や災害など非常時のエネルギー供給が可能になるというメリットがあります。また、ある電源がトラブルに見舞われたとしても、他の電源で電力を補うことができるため、リスク分散がしやすくなります[*5]。

需要地近くの再生可能エネルギーを活用することで、長距離送電による送電損失を抑えることができるというのも、マイクログリッドのメリットの一つです。

従来の電力システムでは、都市から離れたところに大規模発電所を置き、発電された電力を消費地まで送配電していました。しかし、発電所から送配電網を経由して利用されるまでの過程で、約3割の電力損失が発生することが課題となっていました[*6]。

送配電の距離が短くなるほど、電力変換の回数が少なくなり、電力損失を少なくできます。そのため、マイクログリッドにより再生可能エネルギーを地産地消できれば、電力損失を最小限に抑えることができるようになると言えます。

開発途上国におけるマイクログリッド導入事例

電力網の整備が十分に進んでいない未電化の地域が多い国や地域では、マイクログリッドは有効な解決策であり、その導入が活発化しています[*7]。

ケニアでは、同国の電力規制当局であるERC(Energy Regulatory Commission)が、2030年までにケニアを100%電化する目標を立てており、マイクログリッドをその有効な手段に位置づけています[*8]。

ERCは、キシイ郡の4つの村で、太陽光パネルを合計80kW設置し、約300の住宅及び事業者施設に電力を供給するマイクログリッドの実証プロジェクトを実施しました。

太陽光発電システムだけで電力を供給しており、夜間の電力供給と需給コントロールをするため、大型の蓄電池も設置しています。

同実証を通じて、電力網を建設するよりもマイクログリッドの方が低コストで電力インフラが整備できることが分かりました。また、地域住民の生活改善等に寄与したという評価を得られたことから、ERCは同プロジェクトに参画した事業者Powerhive East Africaに対し、電力事業者としてのライセンスを与えました。

同社は、2017年から無電化地域へのマイクログリッド構築を本格化させ、ケニアにおける電力供給を活発化させています。

スマートグリッド関連のスタートアップ
スマートグリッド分野への投資拡大

国内外で活発化するスマートグリッド分野に参入するスタートアップも増えており、また、スマートグリッドに対する投資も増加しています[*9]。

電力会社からの2022年における送配電テック企業への出資額は、2020年から5倍近く増加した87億米ドルに達しました。また、国際エネルギー機関によると、2030年までにスマートグリッドへの投資が世界全体で16兆米ドルに上ると試算されており、関連する企業にとっては大きなビジネスチャンスになると考えられています[*9, *10]。

エネルギー貯蔵システム(ESS)分野におけるスタートアップ

ESS分野におけるスタートアップとして、大型蓄電池の製造・販売、再生可能エネルギー等の電力供給を行う株式会社パワーエックスが挙げられます[*11]。

2025年には、トヨタ自動車東日本株式会社と岩手県金ケ崎町などが推進するマイクログリッド構築プロジェクト「金ケ崎レジリエンスグリッド」において、同社の定置用蓄電池が採用されるなど、マイクログリッド構築に貢献しています[*12, *13], (図3)。

図3: マイクログリッド構築プロジェクト「金ケ崎レジリエンスグリッド」
出典: トヨタ自動車東日本株式会社「金ケ崎レジリエンスグリッドコンソーシアム契約を締結」
https://www.toyota-ej.co.jp/images/news_pdf/20250213.pdf

同プロジェクトでは、地域の防災性向上を目的として、トヨタ自動車東日本岩手工場内に太陽光発電設備・蓄電池設備を設置し、非常時には隣接する公園や中学校、学校給食センターへ電力を供給できるようになっています[*13]。

仮想発電所(VPP)分野におけるスタートアップ

VPP分野におけるスタートアップとして、2023年10月に設立された株式会社Shizen Connectが挙げられます[*14]。

市場価格や発電・需要量の予測と最適な市場取引や制御をするAI・IoT基盤やハードウェアを開発する同社は、低圧VPPに関するサービスを提供しています[*14], (図4)。

図4: 株式会社Shizen Connectによる低圧VPP
出典: 株式会社Shizen Connect「エネルギーマネジメントシステム『Shizen Connect』のご紹介」
https://www.jpea.gr.jp/wp-content/uploads/sympo41_s5_doc5, p.5

同システムによって需要家の蓄電池等を最適制御し、電気料金の市場価格を勘案した調達が可能となります。すでに東京ガス株式会社や東京電力エナジーパートナー株式会社などが導入を開始しており、今後の展開が期待されています[*15]。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)分野におけるスタートアップ

EMS分野における大学発スタートアップとして、東京大学の研究成果から事業化されたエクセルギー・パワー・システムズ株式会社が挙げられます[*16]。

太陽光・風力発電など変動性再生可能エネルギーの増加により、現在、短時間の急峻な電圧・周波数変動が課題となっています。現在の日本の需給調整市場の応動時間の要件は、最速でも10秒以内に設定されています。応動時間とは需給バランスの乱れを検知してから、電源が実際に調整動作を開始するまでの時間を指します。しかしながら、2020年に再生可能エネルギー比率40%を実現したアイルランドでは、最速数十ミリ秒単位の高速応動が求められており、それに対応するEMSの開発が求められています[*17]。

そこで同社は、高速化を実現したEMS技術を開発し、柏の葉スマートシティや山梨県の水力発電所等の実環境を活用して、実証研究を行っています[*17], (図5)。

図5: エクセルギー・パワー・システムズ株式会社による実証のシステム構成
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「デマンドレスポンス対応型次世代UPSのためのEMS実証研究」
https://www.nedo.go.jp/content/800031916.pdf

今後は、2026年度に一部サービスの実現を目指すとともに、2027年度以降の事業拡大フェーズに向けて、事業のスケール化にかかる検証・実証を計画しています。

まとめ

再生可能エネルギーの導入促進や電力送配電にかかる損失の低減など、脱炭素に有効なスマートグリッド。

今回紹介してきたように、多くのスタートアップがすでに事業を展開するともに、今後も投資の拡大が見込まれる有望な分野です。

国内外のスマートグリッドの取り組みについて、注目してみてはいかがでしょうか。

 

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参照・引用を見る

※参考URLはすべて執筆時の情報です
*1
株式会社朝日新聞社「スマートグリッドとは? 具体例や仕組みを図解付きでわかりやすく解説」
https://www.asahi.com/sdgs/article/15579051?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

 

*2
三井物産株式会社「スマートグリッドとは? 仕組みやメリット、日本での取り組みも紹介
https://www.mitsui.com/solution/contents/solutions/re/174?utm_source=chatgpt.com

 

*3
一般社団法人 日本電機工業会「スマートグリッド」
https://www.jema-net.or.jp/engineering/dispersed/evefa20000001du1-att/s07.pdf, p.1, p.2

 

*4
株式会社キーエンス「スマートセンシング」
https://www.keyence.co.jp/ss/general/iot-glossary/smart-sensing.jsp?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

 

*5
NTT株式会社「マイクログリッドとは? エネルギーの地産地消に貢献! 停電被害も軽減する仕組み」
https://www.rd.ntt/se/media/article/0013.html

 

*6
株式会社村田製作所「再生可能エネルギーの地産地消を推し進める“マイクログリッド”」
https://article.murata.com/ja-jp/article/microgrid-local-consumption

 

*7
株式会社日経BP「未電化対策に災害対応、世界規模で拡大するマイクログリッド」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/03738/

 

*8
株式会社日経BP「第17回 ケニア・キシイ郡–未電化地域に太陽光と蓄電池で電力供給」
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/080200047/021800025/

 

*9
株式会社日本経済新聞社「次世代送電網を開発する新興70社 再エネ普及の黒子
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC08CJQ0Y3A600C2000000/?msockid=0a6597da993b6dd20eac85b298416c64

 

*10
株式会社日立総合計画研究所「スマートグリッド」
https://www.hitachi-hri.co.jp/research/researchreport/short/k050.html

 

*11
株式会社パワーエックス「会社概要」
https://power-x.jp/about

 

*12
株式会社パワーエックス「トヨタ自動車東日本と岩手県金ケ崎町のマイクログリッドプロジェクトに定置用蓄電池が採用」
https://power-x.jp/newsroom/2025-02-14

 

*13
トヨタ自動車東日本株式会社「金ケ崎レジリエンスグリッドコンソーシアム契約を締結」
https://www.toyota-ej.co.jp/images/news_pdf/20250213.pdf

 

*14
株式会社Shizen Connect「エネルギーマネジメントシステム『Shizen Connect』のご紹介」
https://www.jpea.gr.jp/wp-content/uploads/sympo41_s5_doc5, p.3, p.4, p.5

 

*15
株式会社Shizen Connect「機器制御型DR支援サービス」
https://www.se-digital.net/flexibility-for-retailers/

 

*16
エクセルギー・パワー・システムズ株式会社「2050年カーボンニュートラルに向けて」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/002_04_00.pdf, p.1

 

*17
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「デマンドレスポンス対応型次世代UPSのためのEMS実証研究」
https://www.nedo.go.jp/content/800031916.pdf

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