はじめに―クリーン電力調達と24/7とは
企業の脱炭素を実現するうえで、再生可能エネルギー由来の電力を購入する取り組みはすでに広がっています。しかし近年では、単なる「年間ベース」で再エネを調達するだけでなく、「24時間×365日、すなわち時間ごとに需要と再エネ供給を一致させる取り組み(24/7 CFE)」が注目されています。これは、1年間を通して再エネを一定量確保するだけでなく、時間帯ごとの実際の電力使用量と再エネ発電量が合致するよう管理することをめざす方法です。世界的には、The Climate Groupが進める「24/7 Carbon-Free Energy Compact」にすでに100社を超える企業が参加しており、データセンターを保有するGoogleやMicrosoftなどの海外大手IT企業が牽引しています(参照*1)。
なぜここまで「24/7」が話題になるのでしょうか。その背景には、脱炭素化の目標が各国や企業で高度化し、従来より厳しい削減目標の達成が求められている点があります。さらに、再エネ導入量が増えても、実際の使用電力と合致しなければ「本当に再エネを使っているのか」と疑問が残る点が大きいからです。企業には、再エネと電力消費の時間帯を厳密に対応させることで、より高い透明性と実効性を備えたクリーン電力調達が求められています。そこでは、自社の消費ピークと再生可能エネルギーの発電ピークをマッチングさせるために、太陽光や風力に加えて蓄電池などの併用が重要になります。蓄電池や高度な証書管理がなければ、実際に24時間連続してクリーン電力のみで稼働させるのは実質困難です。
本記事では、24/7クリーン電力調達が生まれた背景と具体的な導入事例を元に、今後企業が実践していく方法を解説します。さらに、24/7を導入する際の壁や施策をご紹介します。24/7クリーン電力調達を導入し、脱炭素経営を実現する上での具体的な検討事項について解説。皆さまの戦略策定の一助としてご活用ください。
24/7クリーン電力調達の背景―気候目標の高度化と需給マッチング強化
気候目標の高度化と企業の対応
24/7クリーン電力調達が注目される理由の一つは、気候目標の急速な高度化にあります。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のレポートを通じて、気候変動が社会や経済に大きな影響を及ぼす懸念が深まり、世界各国がより厳しい目標を設定するようになりました。これを受け、企業の気候行動も年々先鋭化し、温室効果ガス排出量をゼロに近づける「カーボンニュートラル」が競争力の源泉とも言われています。多くの企業が、排出枠や単純なオフセットだけでなく、実際にクリーン電力をどれほど利用しているかを重視するようになっています。
需給マッチング強化と技術の進展
再エネと電力需要が時間ごとにズレる問題も拡大しています。日中の太陽光発電は伸びているものの、夜間需要をどのように再エネで支えるかは長年の課題でした。そこで再エネ利用の実効性を高めるため、「当該時間帯に再エネが発電している」あるいは「蓄電池を活用して再エネを溜め、必要なタイミングで利用できる」という仕組みが求められています。こうした24時間の需給マッチングは、情報通信技術や蓄電システムによる制御、高精度のデータ管理を伴うため、導入へのハードルは高いとされてきました。しかし、大手IT企業のGoogleやMicrosoftは、データセンターの稼働エネルギーを24/7クリーン電力で賄うため、発電事業者との時間マッチング型契約を積極的に締結し、周辺地域でも蓄電設備の投資を行っています。
国内外の先進事例と社会的要請
前章で紹介したように、国内でも京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が北海道石狩市で洋上風力発電から時間ごとの再エネを調達し、新設のゼロエミッション・データセンター(ZED)に24/7供給を目指すプロジェクトを始動しました。KCCSは、GPI(グリーンパワーインベストメント)が保有する石狩湾新港洋上風力発電所由来のトラッキング付きFIT非化石証書を活用し、物理的なマッチングと証書面のマッチングの双方を可能にしようとしています。これは、日本初の8,000kW級洋上風車を用いた大規模風力の運用実証であり、24/7をリアルに実践する注目の事例です(参照*2)。
また、アジア太平洋地域(APAC)でも24/7に挑戦する動きが盛り上がりつつあり、BloombergNEFやGlobal Renewables Allianceは「24/7調達にこそ、民間企業が大きく投資し、地域エネルギー転換を加速する可能性がある」と指摘しています(参照*3)。こうした世界的潮流のもとで、企業にとって年度単位の再エネ確保ではなく、時間帯要件を踏まえたクリーン電力調達へ踏み出すことが、真の脱炭素経営を示すうえで重要になっています。
導入事例から見る24/7の実務像—データセンターを中心とした先行企業の取り組み
データセンターにおける24/7導入の先進事例
24/7クリーン電力調達の具体像を考えるうえで、まず注目したいのはデータセンターです。世界規模で見ると、GoogleやMicrosoftといった企業が、サーバーの膨大な電力需要を24時間追跡し、可能な限り再エネで満たす実証に挑戦しています。たとえばGoogleは、特定の地域で大規模な風力や太陽光契約を結び、その時間帯ごとの発電量を自社データセンターの需要と突き合わせ、マッチ度合いを高精度に把握する仕組みを持っています。再エネ発電所の稼働実績と自社の電力負荷を同じ時系列データで管理し、時間ごとの消費と供給の推移を見ながら、購入契約や発電側の運用を調整しています。これは、従来の年単位合算調達とは異なる、リアルタイム感のある方法です。これによって「バーチャルPPA(Power Purchase Agreement)」だけでは不十分な、実際の需給調整を図っている点が特徴です。
国内データセンターの24/7実践例
前章で紹介したように、国内でも、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が石狩市に2024年秋開業予定のゼロエミッション・データセンター(ZED)を起点に取り組みを本格化させています。GPI(グリーンパワーインベストメント)が保有する石狩湾新港洋上風力発電所の再生可能エネルギーから、トラッキング付きFIT非化石証書を用いて24/7カーボンフリー電力を供給する構想が掲げられています。データセンターは常に電力需要が高く、そのため時間帯ごとのマッチングを実現させるには、大規模な風力発電や太陽光発電の組み合わせだけでなく、蓄電技術や高精度の証書管理が必要となります(参照*2)。
他業種への広がりと国際連携
データセンター以外の製造業や事務系オフィスでも、ピーク時とオフピーク時の電力使用量を分析し、蓄電池や契約モデルを組み合わせて24/7を実現する事例が増えています。これにあたっては、データの正確な計測と証書の適切な管理が欠かせません。たとえば時間ごとに発行されるエネルギー証書の仕組みも検討されており、それによりどの時間帯にどれだけクリーン電力を利用したか正確に可視化できるようになります。
24/7導入に踏み切る企業は、
①自社の電力使用時間帯・ピーク把握
②再エネ+蓄電+時間マッチ型契約モデルの棚卸し
③証書管理と各種データの整備
④社内外コミュニケーションを強化する
という流れで実務を進めています。エネルギー供給事業者や設備事業者との連携が重要であり、技術面と契約面の両輪から解決策を探る姿勢が求められます。
また、UAEなど海外との協力を進める日本の企業も増えています。2025年にアブダビで開催されたADNOC-JOGMECフォーラムでは、日本とUAEの長期パートナーシップを基盤としたクリーン電力調達の協力が深められました。AIやデジタル技術の活用、国際投資の推進など、両国の協業が今後の24/7クリーン電力調達の発展に寄与すると期待されています(参照*4)。
24/7を導入するための実務ステップとポイント
電力使用状況の把握とデータ管理
24/7クリーン電力調達を実際に検討する際は、まず自社の電力使用時間帯とピーク需要を把握することが重要です。時間別の電力消費パターンが分からなければ、その時間帯に合わせた再エネ調達量を見積もることができません。1時間単位、あるいは15分単位といったきめ細かいデータが望ましく、部署ごとや施設ごとに計測体制を整える必要があります。製造業などでは特定ラインの稼働時間がずれるケースも多く、複数の稼働パターンを束ねて総和を捉えることがカギとなります。
契約モデルの選定と蓄電池活用
発電事業者との直接契約(PPA)や小売電気事業者との特別プランなど、多様な方式を比較検討します。特に、再エネ発電所が発電していない夜間や天候不良の時期にどう対応するかが重要です。蓄電池を導入して自前で補う方法や、複数の電源を契約してミックスする方法もあります。近年は、サブスクリプション型再エネサービスなど、時間帯連動の証明を部分的に担保するプランも登場しています。
証書・属性証明の整備と報告基準
24/7調達においては、データ・証書・属性証明の整備が決定的に重要です。物理的には太陽光や風力で夜間も含めた電力を確保しても、その証拠を示す仕組みがなければ実際に24/7クリーンで使っていると認められにくくなります。トラッキング付きのFIT非化石証書や、1時間単位のエネルギー証書を活用できる仕組みが開発され始めています。GHGプロトコルScope2の改定動向も大きく影響し、今後は年次マッチングから時間単位での報告基準が厳格化される可能性があります。早い段階から適切な証書管理を確立しておくことが求められます(参照*5)。
社内外コミュニケーションと情報開示
設備投資やデータ管理などのコスト面への理解を得るため、経営層への丁寧な説明が必要です。さらに、顧客や株主など外部ステークホルダーに対しても、「時間当たりの需要を再エネでどう満たしているのか」を示す具体的な情報公開が、企業価値向上につながります。24/7は企業の信頼性を高める新たな指標となり、責任ある環境経営と見なされるようになっています。
24/7導入における“2つの壁”と“3つの突破施策”
製造業やオフィス機器、サービス事業領域など、さまざまな業種で24/7を導入する際に直面する“2つの壁”と、それを乗り越える“3つの突破施策”を整理します。
24/7導入の2つの壁
一つ目の壁は、契約の流動性が低いことです。企業が24/7のために夜間や需要ピークに対応できる再エネ電源を確保しようとしても、国内に蓄電を組み合わせた確立済みのオファーや柔軟な受給調整プランが少ないという現実があります。単なる年間ベースのFIT非化石証書の調達だけでは間に合わないため、企業が時間別の契約を確保するのが難しい状況です。二つ目の壁は、時間マッチ市場の確立段階がまだ十分ではないことです。1時間単位の証書を取り扱う市場整備が進んでいなかったり、電力系統運用上の制約が多かったりという課題があり、企業の管理工数が大きくなることもあります。
3つの突破施策と国内実証例
これらの壁を乗り越える3つの突破施策として
①サブスクリプション型再エネサービスの活用
②蓄電池併設PPAの拡充
③電力消費時間帯のシフト
が挙げられます。サブスクリプション型再エネでは、電力小売事業者がまとめて発電所を契約し、ユーザー企業に対して時間ごとの再エネ利用を保証する枠組みが整備されつつあります。蓄電池併設型PPAは、従来の再エネ購入契約に加えて、発電所側で蓄電設備を設置する事業モデルであり、夜間や需要変動時にも電力を供給可能になります。消費時間帯のシフトとは、就業時間や生産スケジュールを調整するなど、電力消費のピークを意図的にずらす施策です。
これらの対策を組み合わせることで、契約面の柔軟性や市場整備の未熟さをある程度補うことができ、企業が24/7クリーン電力調達を実現する道が見えてきます。たとえば日本では、新潟大学カーボンニュートラル融合技術研究センターが太陽光を24時間活用するために蓄熱や水電解を組み合わせる実証に取り組んでいます。時間帯のシフトやストレージ技術を駆使することで、実効性のある24/7ソーラー電力を確保することが目標となっています(参照*6)。今後も技術進歩とともに、24/7が拡大し産業界の脱炭素を強く後押しすることが期待されます。