再生可能エネルギーの主力電源化や電力の安定供給を実現するために、出力変動に応じて柔軟に充放電ができる蓄電池の導入拡大は不可欠と考えられています。
2025年に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」でも、蓄電池の活用促進が重要な施策として位置づけられています[*1]。
定置用蓄電池には、家庭用・産業用・系統用などの種類があり、いずれも年々市場規模が拡大しています。
とくに家庭用蓄電池は、技術の進化により導入コストが低下し、電池性能も大きく向上しています。
さらに、家庭用蓄電池はクラウドと接続することで、AIによって賢く制御することができます。
AIが日々の生活パターンや気象予報、電力料金プラン、災害情報などを学習し、最適なタイミングで充放電をおこなうことで、エネルギー利用の効率化を図ることができます。
この記事では、家庭用蓄電池の重要性と導入量やコストなどの現状、そして蓄電池のAI制御について詳しく解説します。
普及が進んでいる家庭用蓄電池とは
蓄電池は大きく分けて「車載用蓄電池」と「定置用蓄電池」の2種類があります。
そして定置用蓄電池は、送電網に直接接続される系統用、工場や商業施設などで使用される業務・産業用、そして家庭に設置される家庭用の3つに分類されます。
それぞれの用途や設置環境に応じて、蓄電容量や出力特性、制御方法が異なります[*2], (図1)。

図1: 蓄電池を活用したエネルギーシステムのイメージ
出典: 経済産業省「蓄電池産業戦略」(2022)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy/battery_saisyu_torimatome.pdf, p.1
家庭で太陽光発電を導入する場合、蓄電池は必須の設備ではありません。
太陽光発電のみを設置した場合でも、昼間の電力をまかなったり、余った電力を電力会社に売電することは可能です。
しかし、家庭用蓄電池を導入すれば、余剰電力を充電して夜間に使用できるほかに、電力の使い方やタイミングを選択できることで、売電による収入が増える可能性もあります。
家庭内でエネルギーを自給自足することで、環境にやさしい暮らしを実現するだけでなく、電気代の節約にもつながります。
さらに、家庭用蓄電池には、「レジリエンス機能」と呼ばれる災害対策の仕組みも備わっているものもあり、予期せぬ停電に備えてあらかじめ停電用容量を設定することもできます。
設定できる範囲はメーカーや機種によって異なりますが、ライフスタイルに合わせて停電用容量の割合を自由に設定できるところもレジリエンス機能の特徴です。
台風が接近して気象警報が発令している場合など、事前に停電のリスクが高いことがわかっているときには、充電を優先してあらかじめ電力を確保する機能が搭載されている機種もあります[*3], (図2)。

図2: レジリエンスを優先して蓄電池へ充電する機能
出典: 経済産業省「家庭用蓄電池(蓄電システム)について DRready勉強会」(2025)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/dr_ready/pdf/004_05_00.pdf, p.6
家庭用蓄電池は電気代の削減といった経済的なメリットに加え、災害時の備えや環境配慮などの面でも、これからの暮らしを支える重要な設備といえます。
家庭用蓄電池に再び注目が集まっている理由
家庭用蓄電池は、2011年に発生した東日本大震災を契機に、震災後の深刻な電力不足への不安を背景として、再生可能エネルギーへの関心の高まりとともに普及が進みました。
家庭用蓄電池の販売数を大きく伸ばした要因のひとつが、政府による導入支援のための補助金制度です。非常用電源の確保や電力不足の解消を目的に、多くの家庭で導入が進みました。
この制度は2015年に廃止されましたが、その後、太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)の買取期間満了に伴い、発電した電力を自家消費する動きが広がったことで、再び家庭用蓄電池の需要が高まっています[*4]。
次の図3は、家庭用蓄電池システムの導入実績と今後の見通しを示しています。
2019年の実績は年間約11万台でしたが、2030年には年間約35万台、累計で約314万台規模まで拡大することが予測されています[*4]。

図3: 家庭用蓄電池システム導入台数実績及び見通し(フロー)
出典: 国立環境研究所「環境技術解説 蓄電池」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=110
新築住宅や太陽光発電新設時にあわせて導入されるケースに加え、固定価格買取制度の満了、いわゆる「卒FIT」によって新たに蓄電池を導入する家庭が今後さらに増加する見通しです。
ほかにも、家庭用蓄電池の普及が進んでいる理由として、初期費用の低減が挙げられます。
家庭用蓄電池システムは2019年度から2023年度のわずか数年の間に、およそ35%も価格が低減しており、以前よりも導入のハードルが下がっていると言えます[*5], (図4)。

図4: 家庭用蓄電池システムの価格推移
出典: 経済産業省「定置用蓄電システムの現状と課題」(2025)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy2/shiryo06.pdf, p.4
政府は、家庭用蓄電池の導入費用について、2030年までに1kWhあたり7万円を目標としており、今後もさらに低減していく見込みです。
さらに政府は、蓄電池やその部素材の製造基盤の強化を図るため、2021年度の補正予算で1,000億円を計上し、車載用・定置用蓄電池の製造体制の拡充を進めました。
翌年には、経済安全保障推進法にもとづき、蓄電池を「特定重要物資」として位置づけ、GX予算を活用して補正予算3,316億円を投入しています。
政府の支援の成果もあり、蓄電池の生産能力は今後も増加していく見込みです[*6], (図5)。

図5: 電池セルの生産能力の伸びの見通し
出典: 経済産業省「参考資料(蓄電池)」
https://www.meti.go.jp/press/2024/12/20241227006/20241227006-7.pdf, p.8
政府は2030年までに年間150GWhの製造基盤の構築を目指し、今後も民間投資を後押ししながら生産体制を拡大していく計画です。
家庭用蓄電池は、停電時の備えや電気代の節約、再生可能エネルギーの活用、そして導入コストの低下といったさまざまな要因によって、今後も普及がさらに進むことが期待されています。
家庭用蓄電池のAI制御とは?
家庭用蓄電池をより効率的に活用するために、AIと組み合わせて自動で充放電を最適化する制御技術も注目されています。
AI技術を活用するためには、蓄電池をクラウドに接続する必要があります。
2024年時点で、市場に出荷されている家庭用蓄電池約90万台のうち、クラウド機能を搭載しているのは約74万台で、全体の8割以上を占めています。
しかし、実際にクラウドへ接続して運用されている蓄電池は約47万台にとどまっており、AI技術の普及は途上にあると言えます[*3], (図6)。

図6: 家庭用蓄電システムのストック台数とクラウド接続のイメージ
出典: 経済産業省「家庭用蓄電池(蓄電システム)について DRready勉強会」(2025)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/dr_ready/pdf/004_05_00.pdf, p.7
一方で、AI制御を搭載した蓄電池は続々と開発されています。
伊藤忠商事とNFブロッサムテクノロジーズが共同で開発したAI搭載の次世代蓄電システム「SMART STAR」は、AIが家庭の電力使用パターンを学習し、曜日や時間帯ごとの傾向から翌日に必要な電力量を予測します。
さらに、刻々と変化する気象予報を合わせて太陽光パネルの発電量を予測し、それらの情報を組み合わせることで、翌日に向けて蓄電池にどれだけ深夜電力を充電するかを自動で最適化します[*7], (図7)。

図7: AIによる充放電制御
出典: 伊藤忠エネクス株式会社「Smart Star(次世代蓄電システム)」
https://www.itcenex.com/ja/business/detail/smartstar/index.html
2025年9月には、シャープが業界で初めて、新しいFIT制度に対応したエネルギーマネージメントサービスとして、AIを活用した蓄電池制御を提供開始しました。
新FIT制度では、太陽光発電の設置後4年間は、従来より高い価格で電力買取をおこなうことで初期投資回収を支援し、その後の6年間は市場価格に連動した買取価格に移行する「2段階制」が導入されます。
この制度に合わせて、最初の4年間はAIが家庭の電気の使用状況を学習することで日中の消費電力を予測し、必要な分だけ充電したうえで、可能な限り売電するように制御します。
5年目以降は買取価格が下がるため、AIが自動で自家消費を優先するモードに切り替え、より経済的で最適な運転を実現します[*8]。
また、家庭用蓄電池などの分散型エネルギーリソースは、VPP(仮想発電所)として集合制御することで、電力安定化に貢献する調整力としても活用されます。
東北電力や北陸電力などの大手電力会社では、株式会社Shizen Connectが開発したエネルギー管理システム「Shizen Connect」を採用し、家庭用蓄電池やエコキュートのAI制御によって需給バランスを調整する需要創出DRサービスを提供しています。
「Shizen Connect」は、家庭用蓄電池やエコキュート、EVなどをAIで制御し、マイクログリットやVPP(仮想発電所)の構築を可能にするエネルギー管理システムです[*9],[*10]。
AIを活用した「Shizen Connect」のエネルギー管理システムを通じて、家庭用蓄電池やエコキュートを最適化することで、夜間の電力需要を発電量が多い日中にシフトすることができます[*9], (図8)。

図8: エコキュートによる需要創出DRのイメージ
出典: 自然電力株式会社「北陸電力株式会社と株式会社Shizen Connectによるエコキュートを活用した需要創出DRサービスの開始」
https://www.shizenenergy.net/2025/06/23/sc-rikuden-start-demand-creation-dr-service/
需要創出DRによって、再生可能エネルギーの出力制御を抑制でき、地域の電力安定性向上と脱炭素社会の実現に貢献します。
まとめ
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、蓄電池は重要な役割を担う技術として期待されています。
電力系統の需給バランス調整に活用できる蓄電池は、出力が変動しやすい太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの安定的な利用を支えるために重要な存在です。
家庭用蓄電池は、卒FITに伴う需要増や初期費用の軽減によって普及が進んでおり、今後も市場が拡大していくことが見込まれています。
さらに、AIを搭載した蓄電池の登場により、各家庭や地域の電力需要に応じた最適な充放電が可能となり、電力の効率的な利用と再生可能エネルギーの主力電源化に大きく貢献することが期待されています。
参照・引用を見る
※参考URLはすべて執筆時の情報です
*1
経済産業省「エネルギー基本計画」(2025
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20250218_01.pdf, p.28
*2
経済産業省「蓄電池産業戦略」(2022)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy/battery_saisyu_torimatome.pdf, p.1
*3
経済産業省「家庭用蓄電池(蓄電システム)について DRready勉強会」(2025)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/dr_ready/pdf/004_05_00.pdf, p.5, p.6, p.7
*4
国立環境研究所「環境技術解説 蓄電池」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=110
*5
経済産業省「定置用蓄電システムの現状と課題」(2025)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy2/shiryo06.pdf, p.4
*6
経済産業省「参考資料(蓄電池)」
https://www.meti.go.jp/press/2024/12/20241227006/20241227006-7.pdf, p.8
*7
伊藤忠エネクス株式会社「Smart Star(次世代蓄電システム)」
https://www.itcenex.com/ja/business/detail/smartstar/index.html
*8
SHARP「業界初(※1)、新FIT制度に対応したエネルギーマネジメントサービスを提供開始」(2025)
https://corporate.jp.sharp/news/250924-a.html
*9
自然電力株式会社「北陸電力株式会社と株式会社Shizen Connectによるエコキュートを活用した需要創出DRサービスの開始」
https://www.shizenenergy.net/2025/06/23/sc-rikuden-start-demand-creation-dr-service/
*10
PR TIMES「東北電力がShizen Connectのサービス利用拡大で需要創出DRを開始 低圧VPP制御対象にエコキュートを追加し電力需要を平準化」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000168657.html