はじめに
再エネの地産地消は、地域で発生した電気などをその地域内で使い、支出や利益をできるだけ地元に残す考え方です。この記事では、様々な実例をもとに再エネ地産地消モデルの考え方を検証していきます。
再エネ地産地消モデルの定義
モデルとは、「仕組みのひな形」を指します。したがって、再エネ地産地消モデルは、どの範囲を地産地消とみなすか、地産地消率をどう高めるか、地域への還元をどう設計するかまでをその中に含めます。
脱炭素先行地域の考え方でも、地域裨益(ひえき)を最大化するために地産地消率を高めることが目安とされ、複数の自治体に渡る取り組みについても、「地産地消」の定義が定められています(参照*1)。
事例1:横浜市立学校屋上発電所
屋根上太陽光と余剰電力の域内融通
東急不動産とリエネは、横浜市立学校15校の屋上に設置した太陽光発電設備による電力供給を開始しました。各学校で発電した再エネ電力は、まず平日の校内で自家消費されます。休日などに発生する使い切れない余剰電力については、リエネを通じて市内の各需要地へ供給される仕組みです。
このモデルの要点は、公共施設の屋根という「場所の確保」と、域内の需要家へ届ける「使い道の確保」を同時に進めている点です。
横浜市は「横浜市地球温暖化対策実行計画(市役所編)」において、設置可能な公共施設814か所を対象にPPA事業を活用し、2035年度までに太陽光発電設備の導入割合100%を目指す方針です。
防災拠点機能と蓄電池活用
横浜市の学校屋根モデルは、平時の電気だけでなく、非常時の備えも組み込まれています。太陽光に加えて蓄電池を導入し、停電を伴う非常時には防災用電源として活用でき、学校の地域防災拠点としての防災力向上につながると期待されています。電気代やCO2に加えて、災害対応という価値が説明できる形です。
同発表では、定格容量が1.6MWで、複数の需要家へ供給予定とされています。また、市内で約824t-CO2のCO2削減が見込まれます。(参照*2)

図1:今回のスキームの概念図
出典:東急不動産「横浜市の大型商業施設「ノースポート・モール」に 横浜市内の学校で発電した再エネ電力をオフサイト型 PPA で導入 ~「都市型地産地消モデル」で、横浜市の『Zero Carbon Yokohama』の実現へ貢献~」
https://www.tokyu-land.co.jp/news/uploads/d678967fd50bc62ff72dd8fbdb252135278b6c81.pdf,p1
事例2:千葉県リソルの森
自営線と自己託送の組み合わせ
千葉県のリソルの森では、自営線(電力会社を介さず自前で引いた専用の送電線)と自己託送(既存の電力会社の送配電網を使って、離れた自社関連施設へ電気を送る仕組み)を組み合わせて、太陽光の電気を地産地消で供給する仕組みが紹介されています。敷地内に1MWの太陽光発電設備を設置し、電力を自営線で関連施設へ供給し、余剰電力は自己託送を使ってゴルフ場へ送るエネルギーシステムです。
ここでのポイントは、届け方を1つに固定しないことです。近い施設には自営線で届け、余剰は自己託送で別の需要へ回す。発電場所と需要場所が一致しない状況でも、電気を使い切る工夫ができます。
EMSによる需給管理と逆潮流対策
リソルの森のモデルでは、エリア全体にEMS(エネルギーマネジメントシステム、電気の「つくる・使う」を見える化して調整する仕組み)を導入し、需給バランスをとっています。燃料削減と電化推進を両立させた地産地消型先行モデルとして、2020年4月から運用を開始しました。結果として、2020年度の再エネ自家発電比率は30.6%、液化石油ガスの消費は前年度比で28.7%削減したと報告されています。
再エネは天候で発電量が変わり、地域の電力網の信頼性に影響し得るという課題があり、供給の中断を防ぐには柔軟性を高めることが重要になります(参照*4)。

図2:リソルの森のSDGs
出典:ソリルの森「地産地消エネルギーシステム」
https://www.resol-no-mori.com/sdgs/
事例3:営農型太陽光発電
営農型太陽光の事業スキーム
営農型太陽光は、農地の上部空間に太陽光設備を置き、発電と営農を両立させる考え方です。
遊休農地や農地の活用は、地産地消モデルの選択肢を広げます。フジサービス株式会社は2025年に、浜松市中央区三幸町と浜松市浜名区細江町で、大規模な営農型太陽光発電施設による発電事業を開始しました。
三幸町の発電所はAC1,600.0kW、DC2,012.685kW、農地面積は23,141.29㎡で、細江町の発電所はAC500.0kW、DC622.39kW、農地面積は7,372㎡です。このモデルは、電気をつくる場所が農地で、電気を使う場所が別にある前提で組み立てられています。
需要家・小売・発電の役割分担
フジサービスの事業は、UDA(User-Driven Alliance)モデル(需要家・小売・発電事業者の3者が連携して再エネ導入を進める仕組み)を活用したオフサイトPPAの仕組みで成立しているとされています。オフサイトPPAは、電気をつくる場所と使う場所が離れていても、契約により再エネ電気(環境価値を含む)を確保するやり方です。この事例では、電力需要家がローム浜松株式会社、電力小売事業者が中部電力ミライズ株式会社、発電事業者がフジサービス株式会社となっています。(参照*5)

図3:営農型太陽光発電とは
出典:農林水産省「営農型太陽光発電について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-64.pdf,p1
事例4:苫東GX HUB
自営線マイクログリッドの段階整備
マイクログリッドは、地域の中で電気を融通できる小さな電力網です。北海道の苫東(とまとう)地域では、再エネの需要量・導入量の推計から需給バランスの検討、地域マイクログリッド構築の検討、再エネを活用した産業振興の検討を行い、「苫東GX HUB構想」を提言しました。
構想の骨格は段階整備です。苫東地域内に新設した再エネ電源と需要家を自営線で接続して地産地消を進め、将来的にそれらを連結して地域全体に供給網を広げることで、事業性のある大規模マイクログリッドを整備する想定です。最初から地域全体を一気につなぐのではなく、つなぐ単位を増やしていく発想です。
再エネ・水素・CCUS連携の産業モデル
構想では、電気だけでなく、産業で必要なエネルギー全体をどう脱炭素化するかまで描いています。苫小牧地域で進められている余剰再エネによる水素サプライチェーン、CCUS(二酸化炭素を回収して貯めたり活用したりする考え方)事業との連携により、企業活動に必要なエネルギーを再エネ・水素・CCUSの3つのインフラで供給する方針です。
国土交通省の別資料でも、地産地消型エネルギーシステムとして、自営線を設置し、再エネ発電設備・蓄電池・EMSを導入し、外部電力の購入量を抑え、災害時には自営線グリッド内に電力を供給するモデルが示されています(参照*7)。産業拠点での地産地消は、平時のコストや安定供給に加えて、非常時の事業継続にも関わります。(参照*6)

図4:カーボンニュートラルを実現する3つのインフラ
出典:苫小牧東部地域におけるカーボンニュートラルの推進等に関する調査業務
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-64.pdf,p1
実例5:やまなしモデルP2G
P2Gシステムとパイプライン供給
山梨県では、再エネの電気から水素をつくり、地域で使うモデルが動いています。2025年10月11日、山梨県北杜市白州に「グリーン水素パーク-白州-」がオープンし、再生可能エネルギー由来の電力から水素を作る「やまなしモデルP2G(パワートゥーガス、電気を水素に変える仕組み)システム」が稼働し、約2kmのパイプラインで水素が供給されました。
供給先の使い方も具体的です。サントリーホールディングスの天然水工場の敷地に水素燃焼用ボイラーが設置され、天然水の殺菌工程での充填用設備の洗浄に、水素をエネルギー源とする蒸気が活用されています。
サントリーHDによると、この工程で使用する水素量は年間約400トンで、将来はウイスキー蒸留に水素を用いることも検討されています。
変動再エネと貯蔵の設計選択肢
やまなしモデルP2Gは、設備規模の大きさも特徴です。水の電気分解による水素製造装置の能力が16MWで、日本最大であり、24時間365日フル稼働した場合、年間2,200トンのグリーン水素を製造できます。
変動する再エネをどう使い切るかは、地産地消モデルの共通課題です。余剰エネルギーを水素に変換して貯蔵し、必要時にエネルギーへ戻すことで需給バランスを取る考え方が示されており、安定した供給につながる一方で、規制の複雑さ、資金調達、データ管理、専門技術の確保といった課題も挙げられています(参照*4)。
なお、海外でも水素の目標が示されており、JETROによる整理では、中国は2022年末時点で水素製造プロジェクトが全国で52件着工・稼働し、2030年にグリーン水素比率15%、2060年に75%到達の見通しです。また、米国は2030年に1,000万トン、2050年に5,000万トンのグリーン水素生産目標、EUは2030年までにグリーン水素比率42%へ引き上げる方針を示しています(参照*9)。

図5:「やまなしモデルP2Gシステム」について
出典:環境省『~ カーボンニュートラル社会の実現に向けた 「やまなしモデル」P2G事業への取り組み ~』
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einhttps://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/events/PDF/240925_3-A.pdfou-64.pdf,p5
地域経済循環と参画機会
自治体と事業者のマッチング機構
地産地消モデルは、設備の開設が決定しても、運営する事業者探しで止まることがあります。そこで必要なのが、自治体と事業者をつなぐ仕組みです。
FOURE(再生可能エネルギー地域活性協会)は2021年6月に地域と再エネの共生や相互発展を目指し設立されました。2022年2月時点で東急不動産などの発電事業者、小売電気事業者、設備メーカー、金融機関、自治体など計23団体が加盟しています(参照*10)。
再エネ導入を何から始めたらよいか分からない自治体と、地域社会と関係を深めたい再エネ事業者の間をつなぐことで、自治体は脱炭素化や地域活性に必要なリソースやアイデアの提供、円滑な自走化に向けた支援を受けられます。(参照*10)。
地域還元の設計と電力流通モデル
地産地消は、同じ自治体の中だけで完結しない場合があります。再エネ発電所は立地できる地域が限られるため、地域に負担が生じても、事業の経済効果や環境価値が地域に戻りにくいという課題が残ります。
その対策の一つが、株式会社エナーバンクの取り組みです。同社は業務提携先である、まち未来製作所の「e.CYCLE」について、地域貢献を求める再エネ発電所の電力を買い取り、小売電気事業者へ卸販売して、再エネの地産地消と都市間流通を進める仕組みを公表しています。
さらに、卸先の小売電気事業者の選定にエナーバンクの「エネオク」を使い、需要家へ適正な価格で再エネ電力を届ける仕組みです。
また今回の業務提携では、流通で生じる資金の一部を地域活性化資金として、八峰町と風力発電事業者へ戻すエコシステムの構築を進めています。(参照*11)
効果測定指標と合意形成プロセス
モデルを回し続けるには、効果を測って説明できることが必要です。指標の例として、域内分配率・再エネ自給率・CO2排出量・コストの4つをランキング形式で可視化し、地域の特性に応じて重みづけを変えて施策を比較する方法があります。
宮崎県高原町の事例では、センサ設置などでデータを収集し、太陽光・小水力・蓄電池を組み合わせたモジュールを入れ替えて地域モデルを構築しました(参照*12)。
おわりに
再エネの地産地消モデルは、再エネ発電だけではなく、電気の融通、蓄電や水素、運用の管理、地域還元、効果測定までを1つの仕組みとして組み立てねばなりません。横浜市の公共施設屋根、リソルの森の運用型、浜松の営農型太陽光、苫東の産業拠点、山梨のP2Gは、入口は違っても「地域で回す設計」を共通に持っています。
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参照・引用を見る
(*1)脱炭素地域づくり支援サイト|環境省 – 脱炭素地域づくり支援サイト|環境省
(*2) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – ~横浜市における「再エネ電力の地産地消」の取り組み~横浜市立学校屋上発電所からの再エネ供給開始
(*3) 新エネルギー財団会長賞 | 令和3年度 受賞事例 | 新エネ大賞
(*4) https://www.theregreview.org/2025/10/16/conrad-the-viability-of-local-energy-communities/
(*5) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – レモン畑×太陽光発電 浜松での大規模な営農型太陽光発電によって再エネ普及・地域振興を実現
(*7) インフラ運営等に係る民間提案型「官民連携モデリング」 シーズの公表|PPP
(*8) 東洋経済オンライン – 水素ビジネス「離陸」への苦闘・第1回/「やまなしモデル」が切り開く、地産地消の可能性/県外へセールス、インドなど海外展開も
(*9) ジェトロ – 中国、北部地域のグリーン水素で工業分野の脱炭素化を加速 | 地域・分析レポート – 海外ビジネス情報
(*10) 「再エネ スタート」はじめてみませんか 再エネ活用 – 地域と再エネの共生と相互発展を目指し、自治体に包括的な支援を提供
(*11) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 再エネの地産地消・都市間流通を通じた地域活性化支援に取り組む ㈱まち未来製作所との業務提携のお知らせ