折り曲げても発電できる厚さ0.003mmの太陽電池 その可能性と課題とは

今や太陽電池は一般住宅にも設置され、珍しいものでは無くなってきました。民間企業や地方自治体でも設置している事例は多く見られます。

太陽電池の普及率は伸びているものの、もちろん課題もあります。

そのひとつが重さと厚さです。現在主流の太陽電池は厚さが30~40mmのものがほとんどで、重さも1枚あたり20kg前後のものが主流です。そのため、数多く設置する場合は、屋根やベースに強度が求められます。

太陽電池の軽量化は各研究機関やメーカーが取り組んでいる課題ですが、近年超薄型の太陽電池が日本で開発されたことをご存知でしょうか。

その厚さはなんと0.003mmです。くしゃくしゃにしても発電可能で、様々な分野への応用が期待されています。

今回は、超薄型の太陽電池の特徴と、その特性を生かした活用方法や今後の課題について解説します。

 

太陽電池の種類

太陽電池は、太陽光のエネルギーを吸収して電気的なエネルギー(電力)に変えることができます[*1]。日本では、太陽電池を使う太陽光発電は再生可能エネルギーのなかで、水力に次ぐ発電量を生み出しており、重要なエネルギー源です[*2]。

太陽電池には大きく分けて、シリコン系、化合物系、有機系の3つの種類があります(図1)。


図1: 主な太陽電池の材料による分類
出典: 国立研究開発法人産業技術総合研究所「太陽電池の分類」(2018)
https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/about_pv/types/groups2.html

 

シリコン系

現在市場に流通している太陽電池の大部分はシリコン系で、最も古くから使われている太陽電池です[*3]。細かく分けていくと、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、リボンシリコン太陽電池など様々な種類があります[*4]。現在もっとも普及しているタイプであるため、性能 も優れています。

日本はシリコン系太陽電池の技術が発達しています。

海外製のシリコン系太陽電池のモジュール単位の変換効率が20%前後であるのに対し[*5, *6]、日本製の太陽光電池の変換効率は24.4%です[*7]。モジュールとは、セル(太陽電池の最小単位の素子)を連結して板(パネル)状にしたものを指します。

現在主流のシリコン系太陽電池は、長期間の使用に耐えられるようにフレームやガラスを使用した非常に強固な構造をしています(図2)。そのため変換効率は高いものの、重い、折り曲げられない、製造工程が複雑なためコストが高いなどのデメリットがあります[*8]。

図2: 太陽光モジュールの構造
出典: 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト」(2019)
https://www.nedo.go.jp/content/100901845.pdf, p.6

 

化合物系

化合物系の太陽電池にはCIS系太陽電池、III-V族太陽電池の2つがあります。

CIS系太陽電池はシリコン系太陽電池より薄いため、フレキシブル化が可能、大面積にすることが簡単などの特徴があります[*7], (図3)。

図3: 結晶シリコン系太陽電池とCIS系太陽電池の厚さの違い
出典: 資源エネルギー庁「変換効率37%も達成!『太陽光発電』はどこまで進化した?」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/taiyoukouhatuden2017.html

III-V族太陽電池は、原料の組み合わせが異なる複数の材料(層)から構成されています。

そのため、異なる波長の光を各材料が吸収することができ、多くの光を電気に変換して高い変換効率を達成することが可能です[*7], (図4)。このタイプの発電効率は一般的に約30~32%程度ですが[*9]、日本企業の中にはセル変換効率37.9%、モジュール変換効率31.7%を達成している会社もあります[*7]。

図4: III-V族太陽電池の層構造
出典: 資源エネルギー庁「変換効率37%も達成!『太陽光発電』はどこまで進化した?」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/taiyoukouhatuden2017.html

 

有機系

シリコン系や化合物系の太陽電池は無機物を原料としていますが、有機系の太陽電池は文字通り有機物を利用しています。

無機物を原料とする場合、製造行程で温度を上げる、真空装置を使うなどの作業が必要になるため、製造コストが高くなってしまいます。その点、有機系太陽電池は上記のような複雑な製造工程が不要で、その分コストダウンが可能になります[*10]。

有機系太陽電池には大きく分けて色素増感太陽電池と有機薄膜太陽電池の2つがあります。

色素増感太陽電池は光を吸収する色素と、イオンが移動する電解質の層から構成されています。散乱光や屋内照明のような弱い光でも効率よく発電でき、色素の色を変えることでカラーや絵柄模様の太陽電池の製作も可能です[*10, *11]。

図5: 色素増感太陽電池の構造
出典: 富士フイルム和光純薬株式会社「色素増感太陽電池用色素(DSC色素)」
https://specchem-wako-jp.fujifilm.com/dye_sensitized_solar_cell/

有機薄膜太陽電池は、2種類の異なる材料(p型およびn型の有機半導体材料)を混ぜて作られていることが特徴です(図6)。有機半導体のバリエーションが豊富で、有機半導体の分子構造は無限に設計することができるとまで言われています[*10, *11]。

「塗って作る」ことが可能で、非常に低コストで製造できます。軽くて薄いため、湾曲した外壁や窓ガラスにも導入できるというメリットもあり「次世代型太陽電池」として注目されています[*8]。

 図6: 有機薄膜太陽電池の構造
出典: 国立研究開発法人産業技術総合研究所「有機系太陽電池太陽電池」(2018)
https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/about_pv/types/Organic2.html

 

超薄型有機太陽電池の登場

次世代型太陽電池として注目されている有機薄膜太陽電池ですが、通常の厚みは0.1mm程度でした[*8]。0.1mmという厚さは日本の紙幣とほぼ同じです[*13]。

0.1mmでも十分薄いと感じますが、近年さらに薄い「超薄型有機太陽電池」が登場しました。前述したように、その厚さは0.003mmで、食品用ラップフィルム(約0.011mm)を上回る薄さです[*14], (図7)。さらに、クシャクシャに曲げても発電できるという特性を持っています[*8]。

図7: 折り曲げられた超薄型有機太陽電池
出典: 国立研究開発法人理化学研究所「厚さ0.003mm!未来を変える次世代の太陽電池」(2022)
https://www.riken.jp/pr/closeup/2022/20220328_1/index.html?msclkid=a044282bcec311ec9d10390d6fd88fea

これまでの有機太陽電池は、ガラスの上にポリマー(高分子)で超薄型の基板を形成して、その上にいくつもの層を重ねた後、ガラスから剥がしてつくられていました。しかし、有機太陽電池は非常に薄いため、剥がす工程で破れやすいという課題がありました。

そこで、ガラスに塗布しやすく、剥がれやすい樹脂を使用することで0.003mmという超薄型有機太陽電池が製造可能になったのです[*8]。

 

ウェアラブル太陽電池実現の可能性

超薄型有機太陽電池はその特性を活かして、様々な利用用途が検討されています。

心電計測デバイス

超薄型有機太陽電池を微細に波打った形状にすることで、様々な角度から入る光を捉え発電することができる心電計測デバイスが開発されました。皮膚や衣類の動きにもフレキシブルに対応しつつ発電できるため、電力の消費や人体への装着時の負荷を気にせずにデータを取得することが可能になります[*15]。

図8: 超薄型有機太陽電池で動く超薄型心電計測デバイス
出典: 国立研究開発法人理化学研究所「厚さ0.003mm!未来を変える次世代の太陽電池」(2022)
https://www.riken.jp/pr/closeup/2022/20220328_1/index.html?msclkid=a044282bcec311ec9d10390d6fd88fea

 

e-テキスタイル

超薄型有機太陽電池は衣服に貼り付けることも可能です。さらに洗濯もできる伸縮性と耐水性を兼ね備えています。洗剤を使って太陽電池を洗った実験でも、エネルギー変換効率の低下は見られませんでした[*16]。

この特性を活かして、e-テキスタイル(電気回路を持つ布)への応用も期待されています。

e-テキスタイルとは、センサやマイクロチップを衣料やテキスタイル(布地)資材に植え込んだ繊維素材です。情報収集や伝達が可能で、着用者や資材の状況を遠隔管理して必要により制御をする事ができます[*17, *18]。

例えば、熱傷・切り傷・熱・中毒などのリスク回避のためのベストや手袋・ヘルメット、静脈不全を計測する計測器付きソックスなどが検討されています。

e-テキスタイルを活用することで、低コストで、かつ信頼性の高いデータ収集や監視が可能になるのです[*19]。

図8: 超薄型有機太陽電池を白いワイシャツ(綿100%)に貼り付けて中性洗剤液に漬けて洗っている様子
出典: 国立研究開発法人科学技術振興機構「衣服に貼って洗濯もできる超薄型有機太陽電池の工夫に迫る」(2017)
https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20171030_01/index.html

 

さらなる技術革新が期待される超薄型有機太陽電池

有機薄膜太陽電池は低コストで製造可能で薄いといい事ずくめのように見えますが、シリコン系に比べて発電効率が低いことが最大の課題でした[*8]。

しかし、その問題も解決する日が近いかもしれません。

2000年代前半の有機系電池の発電効率は10%程度でした。しかし、近年開発された超薄型有機太陽電池は発電効率15.8%を達成しており、シリコン系太陽電池の変換効率24.4%(モジュール単位)に徐々に迫りつつあります[*7]。

さらに、超薄型有機太陽電池も研究が進められており、理化学研究所の研究員によると、今後は「伸びる」超薄型有機太陽電池の開発も視野に入れているそうです[*8]。

有機薄膜太陽電池は目覚ましい進歩をとげてきました。今後は0.003mmの超薄型有機太陽電池以上の驚きをもたらしてくれるかもしれません。

 

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参照・引用を見る

*1
国立研究開発法人産業技術総合研究所「太陽電池の原理」(2008)
https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/about_pv/principle/principle_1.html

*2
資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html

*3
国立研究開発法人産業技術総合研究所「結晶シリコン太陽電池」(2008)
https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/about_pv/types/c-Si.html

*4
国立研究開発法人産業技術総合研究所「太陽電池の分類」(2018)
https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/about_pv/types/groups2.html

*5
LONGi Green Energy Technology Co., Ltd.「LR4-60HPH」
https://longisolar.co.jp/wp-content/uploads/2022/06/DS_LR4-60HPH-365385M_20220312cp.pdf, p.2

*6
JA SOLAR Technology Co.,Ltd.「JAM60S10 330-350 MR」
https://www.jasolar.com/uploadfile/2022/0512/20220512052036498.pdf, p.2

*7
資源エネルギー庁「変換効率37%も達成!『太陽光発電』はどこまで進化した?」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/taiyoukouhatuden2017.html

*8
国立研究開発法人理化学研究所「厚さ0.003mm!未来を変える次世代の太陽電池」(2022)
https://www.riken.jp/pr/closeup/2022/20220328_1/index.html?msclkid=a044282bcec311ec9d10390d6fd88fea

*9
シャープ株式会社「『Ⅲ-Ⅴ化合物3接合型太陽電池』とは?人工衛星の次は電気自動車へ!(1/2) ― 世界最高水準の高効率『化合物太陽電池』で目指すもの」(2020)
https://blog.sharp.co.jp/2020/11/10/25554/

*10
国立研究開発法人産業技術総合研究所「有機系太陽電池太陽電池」(2018)
https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/about_pv/types/Organic2.html

*11
富士フイルム和光純薬株式会社「色素増感太陽電池用色素(DSC色素)」
https://specchem-wako-jp.fujifilm.com/dye_sensitized_solar_cell/

*12
公益社団法人応用物理学会「有機薄膜太陽電池の展望」(2022)
https://www.jsap.or.jp/columns/gx/e1-7

*13
日本銀行「お札はどのくらいの大きさですか? 厚さや重さはどうなっていますか?」
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/money/c15.htm/

*14
旭化成ホームプロダクツ株式会社お客様相談室

*15
国立研究開発法人理化学研究所「太陽電池駆動の皮膚貼付け型心電計測デバイスを開発」(2018)
太陽電池駆動の皮膚貼付け型心電計測デバイスを開発 | 理化学研究所 (riken.jp)

*16
国立研究開発法人科学技術振興機構「衣服に貼って洗濯もできる超薄型有機太陽電池の工夫に迫る」(2017)
https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20171030_01/index.html

*17
日本経済新聞「衣服に貼り付け可能な太陽電池 理研,東レなど開発」(2018)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29522910Y8A410C1000000/

*18
あいち産業科学技術総合センター「スマートテキスタイルについて」
https://www.aichi-inst.jp/other/up_docs/no124_05.pdf

*19
経済産業省「スマートテキスタイルの日仏共同開発に関する関連規制等調査」(2017)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H29FY/000341.pdf,p.12

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