洋上風力発電と漁業の共存のために 欧州における先進事例と日本の取り組み

近年、EUを中心に導入量が伸びている洋上風力発電は再生可能エネルギーの一種です。海上に設置できるため、四方を海に囲まれている日本は普及のポテンシャルが高いと期待されています。

一方で、洋上風力発電は、海洋生態系や周辺で漁業を営む人々に配慮した形での設置が求められます。

国内での設置促進に向けては、既に広く普及している欧州での取り組みが参考になります。

本記事では、洋上風力発電の海外における設置事例を紹介するとともに、漁業との共存に向けた国内の取り組みをみていきます。

 

洋上風力発電とは

洋上風力発電とは、海の上に風車を設置して電気を作る発電方法であり、海に囲まれた日本では大きなポテンシャルを持つ再生可能エネルギーです[*1], (図1)。

図1: 洋上風力発電の仕組み
出典: ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社「洋上風力発電事業」
https://www.jre.co.jp/business/offshore-wind-power/

陸上と比べて海上は風が強く障害物がないため、安定した風を得ることができるとともに、広い海上に設置できるため、より発電効率の高い大型風車の設置も可能です。

また、風力発電全般の課題として景観や騒音問題が挙げられますが、居住地から離れて設置できるためトラブルになりにくいというのも大きなメリットと言えるでしょう。

国内外の導入状況

2010年には世界全体で2.9GWだった洋上風力発電の導入量は、2020年には35GWに達し、年々着実に増加しています[*2], (図2)。

図2: 世界全体における洋上風力発電の導入実績
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電に関する世界の動向 [第2版]」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202106_OffshorewindInfo.pdf, p.2

国別に見ると、35GWのうちイギリスと中国がそれぞれ約10GW導入、次いでドイツが約7.7GW導入しています。その他、オランダやベルギーなどで導入が進み、特に欧州での実績が顕著と言えます[*2], (図3)。

図3: 2020年における国別の洋上風力発電導入割合
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電に関する世界の動向 [第2版]」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202106_OffshorewindInfo.pdf, p.3

一方で、日本では長崎県五島や福岡県北九州市、千葉県銚子市沖などで既に洋上風力発電が稼働していますが、2021年12月末時点の累計は51.6MWとまだまだ導入が進んでいないのが現状です[*3]。

 

導入量の今後の見通し

国際再生可能エネルギー機関によると、洋上風力発電の世界市場は今後30年間でさらに成長すると予測されており、2050年には累計導入量が1,000GWに迫るとされています[*2], (図4)。

図4: 2050年までの世界全体の洋上風力発電の導入見込み
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電に関する世界の動向」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202106_OffshorewindInfo.pdf, p.8

地域別の導入見通しを見ると、現在最も導入が進んでいる欧州では、19GW(2018年)から215GW(2050年)まで増加すると見込まれていますが、アジアでは5GW(2018年)であったのが、613GW(2050年)にまで達すると予測されており、飛躍的な導入拡大が見込まれています[*2], (図5)。

図5: 2050年までの地域別の洋上風力発電の導入見込み
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電に関する世界の動向」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202106_OffshorewindInfo.pdf, p.9

日本でも、洋上風力発電の更なる普及を目指して「再エネ海域利用法」が制定され、風車の設置における促進区域や有望な区域の指定が進められています [*2], (図6)。

図6: 再エネ海域利用法下の促進区域等指定状況
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電に関する世界の動向」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202106_OffshorewindInfo.pdf, p.23

また、2020年12月に「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」が公表した「洋上風力産業ビジョン(第1次)」では、2030年までに10GW、2040年までに30~40GWの導入を目指すことで合意されるなど、設置促進に向けて着実に前進していると言えます。

 

洋上風力発電設置に関する課題

導入が進む洋上風力発電ですが、設置に伴い、周辺海域の漁業活動や海洋生態系に及ぶ様々な影響が懸念されており、それらへの配慮が欠かせません[*4]。

まず、陸上と異なり海上には所有権を設定できないため、海域を購入して風車を勝手に設置するなど排他的に利用することができません[*5]。

そのため、風車の設置には海域を運航する海運業者や漁業関係者の利益への配慮が求められます。しかしながら、設置海域を利用する全ての利害関係者を把握し、意見を調整するためには膨大なコストがかかります [*6]。

また、海上設置によって海洋生態系が破壊される可能性もあります。例えば、風車建設前の探査や建設時の掘削で発生する騒音は、魚類の出血や浮き袋の破裂につながり、場合によっては死に至ることもあります。また、風車の回転による騒音も、魚類同士の音声コミュニケーションを阻害することがあります[*4], (表1)。

表1: 洋上風発が魚類へおよぼす潜在的影響
出典: 風間 健太郎「洋上風力発電が海洋生態系におよぼす影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/17/1/17_KJ00008045259/_pdf, p.111

さらに、海底に敷設される送電ケーブルは周辺の電磁場を変化させ、魚類の筋肉の収縮運動や餌探索などに影響することが報告されています。

このように、洋上風力発電の設置は、発電設備周辺での漁業が規制されるだけでなく、周辺の生態系に悪影響を及ぼす可能性もあるため、慎重に推進する必要があります。

 

洋上風力発電と漁業の共存

欧州における取り組み

洋上風力発電が既に多く導入されている欧州では、様々な方法で漁業との共存が図られています。

例えば、イギリスのThanet漁業協同組合では、燃料購入契約を一括で行い、発電所の船に燃料供給を行うとともに、漁業者へ燃料を安く提供するなど、漁業者の負担を軽くするための取り組みを行っています[*7]。

また、設置した発電施設を利用して新たな漁場を人工的に作り上げるなど、漁業者の漁獲量が減少しないような環境づくりも積極的に行われています。例えば、オランダでは、洋上風力発電設備の海底にある基礎周辺にエコ・コンクリート製の人工漁礁を設置し、イカやサメ、エイなどが産卵可能な場所を作ったり、コンクリートパイプを設置し、大型魚類の隠れ場所や餌場を提供するなど様々な生き物の生息環境を創出しています[*7], (図7)。

図7: オランダにおける発電設備周辺の漁礁創出例
出典: 経済産業省資源エネルギー庁「洋上風力発電による地域・漁業振興策事例集」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/kyougi/akita_oga/02_docs06.pdf, p.6

さらに、洋上風力発電事業の株式ファンドを立ち上げ、漁業者や漁業協同組合が利益を得る機会を提供する取り組みもあります。例えば、オランダでは、Westermeer洋上風力発電所株式ファンドが設立され、参加者が配当金を受け取ることができます。

このように、漁業者含む地域住民が出資・参画できる仕組みを創出することで、欧州では漁業との共存が上手く図られています。

 

国内における取り組み

一方で、日本においても漁業との共存を目指した洋上風力発電事業が進んでいます。

例えば、再エネ海域利用法の促進区域に指定されている千葉県銚子市沖では、4,000haの遠浅の海に、三菱商事グループをはじめとする企業の連合体が発電事業者として31基の風車を建設し、2028年以降発電を開始する予定です[*2, *8]。

地元の銚子市漁業協同組合は、洋上風力発電計画に漁業活性化案を反映させるため、2022年5月に「銚子漁業共生センター」を立ち上げ、三菱商事グループと連携して、建設される風車の足元を漁礁に活用するなど新たな漁場づくりや調査・研究に取り組んでいます[*9]。

また、銚子市沖の他にも、洋上風力発電事業が計画されている各地で漁業者等を補償するための基金などが設立されるおり、本格的な洋上風力発電の推進に向けて漁業を配慮した様々な施策が行われています[*10], (表2)。

表2: 国内各地の基金設立状況
出典: 株式会社野村総合研究所「洋上風力事業における地域共生のあり方」
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/region/2021/06/2_vol215.pdf?la=ja-JP&hash=68B8C101CEE50ABA20A1D2D96AE0D4BAF5C6632A, p.7

設立された基金に基づき、銚子市漁業協同組合には90億円、旭市にある海匝漁業協同組合には10億円支出されるなど、洋上風力発電と漁業の共存に向けた取り組みが国内でも加速しています[*11]。

 

まとめ

洋上風力発電には、海洋生態系や漁業者の収入源への影響など、今回紹介してきたように様々なリスクが伴います。

青森県が行ったアンケートでは、大規模な洋上風力発電の導入に反対した漁業者の反対理由として、漁場の消滅や海中騒音、潮の変化等など、漁業に与える影響への懸念が挙げられています[*12]。

一方で、基金や投資ファンドの設立や漁業者との連携による雇用の創出、漁礁の設置による新たな漁場の創出など、取り組み方によっては地域の漁業にとってもプラスとなるため、洋上風力発電の設置を進める際には、漁業関係者も納得した形で進めることが不可欠です。

発電施設の設置・運用時には、漁業への影響を最小限に留める取り組みの実施、漁業関係者等への真摯な説明・周知とともに、損害発生分については補償を行うことが、今後の漁業との共存や洋上風力発電発展のカギとなるでしょう[*10]。

 

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参照・引用を見る

*1
ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社「洋上風力発電事業」
https://www.jre.co.jp/business/offshore-wind-power/

*2
公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電に関する世界の動向」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202106_OffshorewindInfo.pdf, p.2, p.3, p.4, p.8, p.9, p.23

*3
一般社団法人 日本風力発電協会「2021年末日本の風力発電の累積導入量: 458.1万kW、2,574基」
https://jwpa.jp/information/6225/

*4
風間 健太郎「洋上風力発電が海洋生態系におよぼす影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/17/1/17_KJ00008045259/_pdf, p.108, p.110, p.111

*5
海洋政策研究所「『海はみんなのもの』について考える」
https://www.spf.org/opri/newsletter/161_2.html

*6
資源エネルギー庁「日本でも、海の上の風力発電を拡大するために」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/yojohuryokuhatuden.html

*7
経済産業省資源エネルギー庁「洋上風力発電による地域・漁業振興策事例集」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/kyougi/akita_oga/02_docs06.pdf, p.2, p.6, p.13

*8
NHK「動き出した国策 洋上風力で海はどうなる? 千葉・銚子」
https://www.nhk.or.jp/shutoken/chiba/article/005/20/

*9
日本経済新聞「洋上風力、足元を漁場に 千葉・銚子市漁協が調査会社」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC05BD30V00C22A7000000/

*10
株式会社野村総合研究所「洋上風力事業における地域共生のあり方」
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/region/2021/06/2_vol215.pdf?la=ja-JP&hash=68B8C101CEE50ABA20A1D2D96AE0D4BAF5C6632A, p.5, p.6, p.7

*11
NHK「千葉 銚子沖の洋上風力発電事業体 2漁協に100億円支出へ」
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20220624/1000081308.html 

*12
海洋生物環境研究所「海生研シンポジウム2021 洋上風力発電の大規模導入に向けた課題~漁業,海洋環境への対応~」
https://www.kaiseiken.or.jp/publish/reports/lib/2022_27_symposium2021.pdf, p.68

 

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