国内外の自治体の再エネ普及に向けた取り組みは? 東京都が打ち出した太陽光パネル設置義務化も併せて紹介

東京都は2022年5月、戸建て住宅を含むあらゆる新築の建物に太陽光パネルの設置を義務付ける答申案を打ち出し、世間に大きなインパクトを与えました。都内の建物における太陽光パネルの設置率は5%に留まり、設置義務化によって効果的に再エネを推進できると考えられています。

再生可能エネルギーの普及に向けては、FIT制度(固定価格買取制度)の設置など様々な取り組みが国を挙げて行われていますが、更なる推進を図るためには、東京都の答申案のように、地域の特徴を活かした自治体ごとの取り組みが不可欠です。

国内外の多くの自治体では既に、地域の特性を活かした再エネ推進施策が行われています。それはどのような取り組みでしょうか。詳しくご説明します。

 

国内外における再エネ普及率

温室効果ガス排出量削減に向け、各国で化石燃料から再エネへの転換が加速しています。世界全体を見ると、総発電量に占める再エネ由来の発電割合も増加しています。

海外の再エネ設置状況

世界全体の再エネ由来の発電電力量は年々増加しており、2021年には7,931TWhにまで増加しました。
電源別に見ると、再エネは石炭に次いで2番目に発電量が大きく、全体の27.9%を占めています(小数点第二位を四捨五入)[*1], (図1)。

図1: 世界の発電電力量の推移(電源別)
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「世界の電力」
https://www.renewable-ei.org/statistics/international/

世界全体の電源構成に対する各再エネ比率を見ると、水力が15.0%と最も普及しており、次いで風力6.5%、太陽光3.6%、バイオ・地熱2.7%となっています。また、国別の電力消費量に占める再エネ割合を見ると、スウェーデンが80%で最も高く、次いでブラジルが75%、カナダが74%となっています[*1], (図2)。

図2: 主要国の電力消費量に占める再エネ割合
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「世界の電力」
https://www.renewable-ei.org/statistics/international/

 

日本の再エネ設置状況

図2を見ると分かるように、日本の再エネ割合は22%と、諸外国と比べてまだまだ低いのが現状です[*1], (図2)。
2019年度の温室効果ガス排出量は12.1億tであり、そのうち10.3億tが発電など燃料を燃やすことで発生したエネルギー起源のCO2でした[*2], (図3)。

図3: 日本の温室効果ガス排出量の内訳(2019年度)
出典: 資源エネルギー庁「2021−日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2021_1.html

この数値は排出量全体の85%に及び、削減に向けては、水力や太陽光、風力など様々な再エネを組み合わせながら推進することが求められています。

実際、政府は2050年カーボンニュートラルに向けて、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指しており、電源構成としても再エネ割合を36%~38%程度にまで拡大するとしています。

 

再エネ普及に向けた自治体の取り組み

日本では、再エネの普及に向けてFIT制度が導入されるなど、様々な施策が講じられてきました。2020年実績では、再エネ発電設備の導入容量は世界第6位、太陽光発電設備の導入容量は世界第3位にまで拡大しています[*3]。

しかしながら、先述したように国内の再エネ割合は22%とまだまだ低いのが現状です。今後、再エネをさらに普及させるためには、国だけでなく自治体主導の取り組みも重要になってきます。

海外の自治体による施策

REN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク)[*4]が2021年3月に発表した報告書によると、2020年末までに72か国の834の自治体が発電、冷暖房、交通分野のいずれかで、再エネ導入目標を設定したとされています [*5]。

また、アメリカ及びカナダでは、少なくとも350の自治体が再エネ導入目標を設定しており、欧州では、6,700以上の自治体が再エネの利用を含めた行動計画を作成しているなど、北米や欧州を中心に自治体での再エネ推進に向けた取り組みがスタートしています。

<パリ市―パリ気候計画に基づく実行―>

フランスパリ市では、2007年に「パリ気候計画」を策定(2012年、2018年に改訂)し、2015年のパリ協定に定める温室効果ガス削減目標を達成するため、2030年までに実施するべき建築物、モビリティー、エネルギー、都市計画等さまざまな分野に関する約500の政策と、2050年の市のあるべきビジョンを定めています。

フランスを議長国として採択されたパリ協定は、気温上昇を2℃未満に抑えるために高い目標が設定されました。フランス政府は、それを率先して実行する責任があるとして、パリ気候計画によって国を挙げて再エネ普及に取り組んでいます。[*6]。

2019年には、再エネ協同組合であるEnerCit’IFと協定を締結し、市内にある9つの公共施設の屋根に延べ3,000m2の太陽光パネルを設置しました。設置した太陽光パネルによる年間発電量は480MWhで、約170世帯の1年間の電力消費量分を供給できるとされています[*6]。

また、市内では熱の埋蔵量が多いという特徴を活かして、再エネの一種である地中熱の利用も進んでいます。2017年には、パリ水道公社及びパリ都市暖房会社によって地中熱利用施設が設置され、揚水した地下水の熱を熱源として暖房と温水が供給されています。地区の3,400世帯が使用する暖房と温水需要の83%がまかなわれ、通常のガスボイラーと比べてCO2排出量は5分の1まで抑えられています。10年間で見ると、35,000tのCO2排出が削減される見込みです。

さらに、市内の地下に埋設された下水道管を流れる汚水の熱を取り出しエネルギーとして活用する取り組みも行われています。回収した熱は、近隣の学校施設や区役所の暖房に使用され、両施設の暖房のエネルギー消費の半分がまかなわれています。これは年間102tのCO2削減に相当します。

その他、2015年と2017年に、温暖化対策などのプロジェクト資金調達のために発行される債券(グリーンボンド)を発行したり、市内のエコロジー転換を推進するために成長が見込める市内の中小企業への支援を目的とした地域投資ファンド「パリ・グリーンファンド」を設立したり、市が先頭に立って再エネの普及に向けた取り組みを行っています。

<カリフォルニア州―再エネ電力をより安く販売できるCCA制度―>

日本の小売電気事業は、2016年より全国レベルで全面自由化がされていますが、アメリカにおける電力自由化は各州の判断で実施されています。そのため、再エネの普及施策も自治体ごとに進められています[*8]。

例えば、アメリカには、自治体などが住民やビジネス、公共施設用の電力需要をまとめて購入できるCCA(Community Choice Aggregation:コミュニティ・チョイス・アグリゲーション)と呼ばれる法律があります。カリフォルニア州から開始されたCCA制度は、自治体が発電事業者から電力を調達し、地域独占電力会社の送配電網を使ってより手ごろな電気料金「チョイス」をコミュニティに直接提供できるようになっています[*9, *10], (図4)。

図4: CCAのビジネスモデル
出典: CALCCA「CCA IMPACT」
https://cal-cca.org/cca-impact/

カリフォルニア州では現在、州内で24のCCAが運営されており、200以上の市と郡で同州の人口の27%に当たる1,100万人以上の需要家に電力が供給されています。これほどまでシェアが高い理由としては、同制度が「オプト・アウト」と呼ばれるメカニズムを採用しているためです[*8]。

「オプト・アウト」とは、自治体のCCA運営が決まると、地域内の全ての需要家の電力購入先が今まで購入してきた電力会社からCCAに自動的に切り替わる仕組みです。需要家は元の電力会社に戻ることも可能ですが、その場合は手続きを行う必要があります。その結果、CALCCA(カリフォルニアCCA協会)に加盟する州内のCCAにおける平均保有率(CCAを離脱しなかった顧客割合)は93%と高い水準を維持しています。

CCAは非営利の公的機関によって運営されているため、利益の追求ではなく、コミュニティに対する利益を重視したプログラムを実施できます。また、コミュニティレベルでの事業であるため、より迅速に調整でき、コミュニティに最大の価値を提供できます。

カリフォルニアでは、CCAによって新たな再エネ発電所への投資を順調に進め、長期電力購入契約を通じて既に太陽光発電や風力発電、地熱発電など3,600MW以上の再エネ発電容量を獲得しています。地域で電力供給を管理し、安価な価格で提供することにより、再エネ普及を目指すという点がCCAの特徴を示していると言えるでしょう[*11]。

 

日本の自治体による施策

北米や欧州を中心に、自治体における再エネ施策が積極的に推し進められています。国内においても、都心部から地方までの各自治体において様々な取り組みが行われています。

<東京都―太陽光パネル設置の義務化―>

東京都の2022年5月の有識者検討会において、一戸建て住宅を含む新築建物に太陽光パネルの設置を義務付けるよう提言する答申案がまとめられました[*12]。

一戸建てへの太陽光パネル設置義務は、これまで国会における建築物省エネ法改正案でも見送られており、東京都で成立すれば全国初となります。

東京都で設置義務化を推進する理由としては、都内のCO2排出量の7割が建物でのエネルギー使用に起因することが挙げられます。2020年度のCO2排出量部門別構成比を見ると、41.2%が業務部門、32.3%が家庭部門からの排出です。2050年時点では、建物の約半数(住宅は7割)が今後新築される建物に置き換わる見込みであり、太陽光パネルの設置義務化によって効果的に再エネを推進できると考えられています[*13], (図5)。

図5: 都内CO2排出量部門別構成比及び都内住宅の状況
出典: 東京都「太陽光発電設置 解体新書~太陽光発電の”クエスチョン”をひも解く~」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/solar_portal/program.files/qa.pdf, p.6

また、現時点で都内にある約95%の建物は太陽光パネル未設置であり、太陽光発電の設置場所として建物の屋根には大きなポテンシャルがあると言えます。4kWの太陽光パネルで1年間発電した場合のCO2削減量は、スギ林約200本分の吸収量に相当するとされており、設備の導入によって脱炭素型社会の実現に大きく貢献できると言えます。

都は、パブリックコメントなどを経て関係条例の改正案をまとめ、2022年度中の成立を目指すとしており、成立すれば、2030年「カーボンハーフ」、2050年「ゼロエミッション東京」の目標に向けて大きく前進すると言えるでしょう[*12]。

<岐阜県―地産地消型エネルギーシステムの構築―>

東京都では、住宅など建物が集中する都心部という特徴を生かして屋根への太陽光パネル設置促進を行っていますが、地方自治体ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。

例えば、岐阜県は年間の日照時間が全国8位という地理的特性を持っており、太陽光発電を積極的に活用することで他県に比べてより多くの電力を生み出すことができます。また、森林面積は全国5位と、木質バイオマス発電や熱利用に活用できる森林資源が豊富にあるとともに、包蔵水力(開発可能な発電水力資源の量)は全国1位と、水力発電を導入できる環境が整っています[*14]。

このように様々な再エネ導入のポテンシャルを有する岐阜県は、2016年3月に「岐阜県次世代エネルギービジョン」を策定し、県の特徴を活かした地産地消型エネルギーシステムの構築を進めており、県有地を活用した太陽光発電推進事業などが行われています[*15]。

また、2013年度からは県立高校の屋根を有効に活用するため「県立高校屋根貸し事業」が実施され、県内6校に合計248kWの太陽光発電設備が設置されています。

さらに、岐阜県では2012年から、豊かな自然環境の保全と再生に向けた取組みを推進するための費用を県民から徴収する「清流の国ぎふ森林・環境税」が導入されています[*16]。

そして、その税を活用し、市町村や農業協同組合、地域住民が中心となって小水力発電の設置に対する補助を行っています[*17]。

令和2年度には、揖斐川町における設備設置(年間発電電力量237kWh)に係る補助や、郡上市における設備設置(年間発電電力量1,000kWh)に係る補助を行うなど、地産地消型の再エネ普及に取り組んでいます[*18]。

 

まとめ

以上のように、再エネの普及に向けた取り組みは、国内外の自治体で盛んに行われるようになっています。自然の力を利用する再エネは、地方自治体が主体となって各地方・地域に適用した地産地消型のエネルギーシステムを構築し、運用することが効果的です。

東京都や岐阜県のような地域の特性を活かした再エネ施策は、日本社会の脱炭素化をさらに加速させることでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
公益財団法人 自然エネルギー財団「世界の電力」
https://www.renewable-ei.org/statistics/international/

*2
資源エネルギー庁「2021−日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2021_1.html

*3
資源エネルギー庁「2021−日本が抱えているエネルギー問題(後編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2021_2.html

*4
新電力ネット「REN21」
https://pps-net.org/glossary/43187

*5
一般財団法人 新エネルギー財団「海外の再エネ事情(2020年 自治体の取り組み)」
https://www.nef.or.jp/keyword/ka/articles_ka_15.html

*6
一般財団法人 自治体国際化協会「パリ市の地球温暖化対策」
http://www.clair.or.jp/j/forum/docs/02_Paris_globalwarming.pdf, p.1, p.7, p.8, p.9, p.10

*7
一般社団法人 海外電力調査会「フランス」
https://jepic.or.jp/data/w2019/w04frnc.html

*8
新・公民連携最前線「『自動切り替え』『非営利』を背景にコミュニティに再投資 (前編)カリフォルニア州『地域新電力』成功の秘密」
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/060600213/

https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/060600213/?P=2

https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/060600213/?P=3

*9
日経XTECH「再エネ電力を電力会社より安く販売できる『CCA制度』(後半)」
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/column/15/286991/102900005/

*10
CALCCA「CCA IMPACT」
https://cal-cca.org/cca-impact/

*11
京都大学大学院 経済学研究科「No.184 CCAによる再生可能エネルギー供給」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0184.html

*12
東京新聞「東京都、新築一戸建てに太陽光発電パネルの設置義務化 全国初、年度内にも条例制定へ」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/176761

*13
東京都「太陽光発電設置 解体新書~太陽光発電の”クエスチョン”をひも解く~」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/solar_portal/program.files/factsheet.pdf, p.6, p.39

*14
岐阜県「岐阜県次世代エネルギービジョン」
https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/292242.pdf, p.19

*15
岐阜県「県有地等での太陽光発電事業」
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/16384.html

*16
岐阜県「清流の国ぎふ森林・環境税について」
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/7767.html

*17
岐阜県「岐阜県小水力発電による環境保全推進事業」
https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/216536.pdf, p.1

*18
岐阜県「令和2年度清流の国ぎふ森林・環境基金事業成果報告書」
https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/277340.pdf, p.52

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