中国、インド、ナイジェリア 人口の多い国におけるエネルギー事情と脱炭素化に向けた取り組み

世界的な気候変動問題を解決するために、全ての国が脱炭素化に向けた取り組みを実践することが求められています。特に、人口増加が著しい国ではエネルギー消費量も多くなることが予測されるため、再生可能エネルギーの活用や省エネ化など、環境に配慮した施策が一段と重要です。

実際に、そのような国や地域においては、どのようなエネルギー政策が実施されているのでしょうか。

本記事では、中国、インド、ナイジェリアの3か国に注目して、各国のエネルギー事情と政策を解説します。

 

世界各地域における人口とエネルギー需要の動向

経済成長とエネルギー消費の相関

20世紀以降、人口増加や工業化、モータリゼーションの進展等によりエネルギー消費量は世界的に急増しています[*1]。

特に近年は、アジア太平洋地域における消費量の伸びが顕著であり、とくに新興国がけん引しています。一方で、人口増加率と経済成長率が新興国(先進国と比較して現在の経済水準はまだ低いものの、高い成長性を秘めた国々)と比べて低い水準である先進国(OECD諸国)では、エネルギー消費量は減少傾向にあります[*2], (図1)。

図1: 地域別のエネルギー消費量の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022) 第1節 エネルギー需給の概要等」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/2-2-1.html

GDP(国内総生産)とエネルギー消費量の関係性を見ると、1人当たりのGDPが高いと、1人当たりの一次エネルギー(石油や水力など加工されない状態で供給されるエネルギー)消費量も高くなる傾向にあります。このように、一般的には、経済成長とともにエネルギー消費量が増加するため、今後新興国ではさらにエネルギー消費量が増加することが予想されます[*2], (図2)。

ただし、1人当たりGDPが同水準のドイツや日本と比べてカナダの消費量が高いのは、エネルギー効率の違いが理由の一つだと考えられています。

図2: 1人当たりの名目GDPと一次エネルギー消費量(2020年)
出典: 資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022) 第1節 エネルギー需給の概要等」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/2-2-1.html

2020年の電源別のエネルギー消費量を見ると、石油が全体の31.2%と最も高く、石炭27.2%、ガス24.7%と続きます。水力や他再生可能エネルギーはともに10%を切っており、依然として化石燃料の消費が大きな割合を占めています[*2], (図3)。

図3: エネルギー源別のエネルギー消費量の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022) 第1節 エネルギー需給の概要等」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/2-2-1.html

 

新興国の人口推移

2020年の推計人口を見ると、上位の多くはBRICsを中心とする新興国が占めています[*3], (表1)。

表1: 人口上位国(2020年)

出典: 外務省「人口の多い国」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/jinko_o.html

 

2020年に中国で行われた国勢調査では、人口の年平均増加率は2000年以降の10年間で0.53%、2010年以降の10年間で0.57%と鈍化していることがわかりましたが、一方で、インドにおいては2010年から2017年の年平均人口増加率が1.2%と、今後さらに人口が増加することが見込まれます[*4, *5]。

また、サブサハラ・アフリカ地域における人口は今後さらに急増し、将来的には中国やインドの人口を追い抜くとされています[*6], (図4)。

図4: サブサハラ・アフリカ、中国、インド、中南米の人口推計
出典: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「サブサハラ・アフリカ経済の現状と今後の展望」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/03/report_190320.pdf, p.2

実際に、サブサハラ・アフリカに含まれるナイジェリアでは、現在およそ2億人の人口を抱え、2050年には3億9,000万人にまで増加すると予測されています[*7]。

 

人口上位国における脱炭素化に向けた対策

表1に挙げる国々では、人口増加や経済発展により、エネルギー需要が急増しています。具体的には、どれほどのエネルギー消費量で、どのような対策が取られているのでしょうか。

中国

経済発展の著しい中国では、エネルギー消費量が急速に増加しており、2018年の一次エネルギー消費量は、世界の一次エネルギー需要の約24%を占めました。エネルギー消費構造を見ると、石炭や石油、天然ガスなど化石エネルギーの割合が大きく、特に石油と天然ガスの消費量は年々増加しています[*8], (図5)。

図5: 中国の一次エネルギー消費量推移
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「中国におけるエネルギー構造転換と自然エネルギーの拡大」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/ChinaReport_JP.pdf, p.2

また、2013年をピークに低下している石炭消費量は、エネルギー需要の増加により、2017年から再び上昇しています。中国では石炭火力発電が電力供給の中心であり、石炭消費量の約5割が火力発電向けに使用されています[*8], (図6)。

図6: 中国全体の発電電力量構成の推移
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「中国におけるエネルギー構造転換と自然エネルギーの拡大」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/ChinaReport_JP.pdf, p.11 

石炭を含む化石エネルギーの大量消費によって、2018年のエネルギー由来のCO2排出量が世界最大の約9.5ギガトンとなった中国では、増加する電力需要に対応しつつも、石炭火力発電から再生可能エネルギーへのシフトを図り、CO2排出水準を低下させることが求められています[*8]。

そこで中国政府は、増加するエネルギー需要に安定的に対応できるようエネルギー生産能力を2025年までに年間46億トン標準炭換算以上、発電設備の総容量を30億kWに達するよう取り組むとともに、非化石燃料エネルギー比率をエネルギー消費量ベースで20%前後、発電量で39%前後まで引き上げると発表し、再生可能エネルギーの供給拡大とグリーン・低炭素化を図るとしています[*9, *10], (図7)。

図7: 中国の1次エネルギー消費量の構成比
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「中国が2030年のCO2排出ピークアウトに向けて行動方針を発表」
https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20211207.php

発電設備についても、2030年までに水力発電は80GW新設し、太陽光と風力の合計設備容量は1,200GW以上に拡大する目標を定めています[*10], (図8)。

図8: 中国の発電設備容量
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「中国が2030年のCO2排出ピークアウトに向けて行動方針を発表」
https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20211207.php

このように、中国は、主力である火力発電は維持しつつ、再生可能エネルギーの導入を図ることによって増加するエネルギー需要に対応していこうとしています。実際、習近平国家主席は2021年10月に開催された国連生物多様性サミットにおいて、内陸のゴビ砂漠地域での大規模な風力発電と太陽光発電の建設を加速させること、さらには洋上風力発電も計画的に発展させることを表明しています。

 

インド

国際エネルギー機関(IEA)によると、人口増加が著しいインドは、2030年までにEUを抜いて中国、アメリカに次ぐ世界第3位のエネルギー消費国になると予測されています[*11]。

一次エネルギー消費量は1990年から2018年の間にほぼ3倍になるなど急激な増加傾向にあり、一次エネルギー消費量のうち石炭は58%、石油やその他の液体は26%、天然ガスは6%と化石燃料が大きな割合を占めています[*12], (図9)。

図9: インドの一次エネルギーの割合
出典: 一般社団法人 エネルギー・環境グローバルコンソーシアム「2020年インドのエネルギー事情」
https://gcfen.com/archives/1165

石炭については、2017年から2018年のインド国内における暫定総生産量が6億7,540万トンと、前年と比較して2.7%増加しています。

実際、石炭燃料が電力供給の70%を担っているインドでは、毎年冬になるとニューデリーの空が灰色の煙に覆われるなど、その影響は既に環境問題として深刻な形で表れており、このままではCO2排出量が激増するとされています[*13]。

また、国内石油需要のおよそ76%は輸入により賄われていますが、エネルギー需要の拡大に伴い、化石燃料の輸入依存度はますます高まり、2040年には92%にまで達すると予想されています[*11]。

エネルギー需要への対応及び環境への配慮が同時に要求されているインド政府は、広大な土地と豊富な日射量を活かして、風力発電と太陽光発電施設の建設を進めており、2030年までに電力の4割を再生可能エネルギーで賄うという目標を立てています[*12, *14]。

再生可能エネルギーの推進にあたっては、インドで伝統的に利用されてきたバイオマスと廃棄物が再度注目を集めています。家畜を多く飼育しているという農村地域の特徴を活かした再生可能エネルギーとして、フードロスや家畜のふん尿などの有機物を利活用するバイオエネルギーシステムの導入も進んでいます。

例えば、日本のアイシン精機株式会社によってベンガルール郊外で実施されている実証実験では、製造した小型ガス発電機を使って、家畜のふん尿を主な原料とするバイオガスシステムが使用されています。同システムは、電力供給のインフラが十分に整っていない農村エリアでの自家発電も可能とされます[*14 *15], (図10)。

図10: バイオガス利用ガスエンジンコジェネレーションシステムの概要
出典: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所「バイオガスを利用した小型高効率6kWガスエンジンコジェネを開発」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2003/pr20030310/pr20030310.html

このように、インド政府では、輸入に依存する化石燃料から、風力や太陽光など国内のポテンシャルを活かした再生可能エネルギーへのシフトを目指しながら、インフラの整っていない農村エリアなどではバイオエネルギーなどを活用することで、環境保全と経済成長を同時に達成できるよう取り組んでいます。

 

ナイジェリア

中国やインドなど既に多くの人口を抱える大国では、主に石炭がエネルギーとして多く活用されていますが、アフリカ諸国など今後更なる人口増加が見込まれる国では、どのようなエネルギー消費構造があるのでしょうか。

例えばナイジェリアでは、2018年の一次エネルギー総需要のうち、バイオエネルギー(赤)が約73%、ガス(緑)が約10%、石油(青)が約17%となっています[*16], (図11)。

図11: ナイジェリアにおける公表政策シナリオに基づく一次エネルギー需要の推移
出典: IEA「Nigeria Energy Outlook」
https://www.iea.org/articles/nigeria-energy-outlook

非化石燃料由来のバイオエネルギーが多く利用されていますが、電力インフラの乏しいナイジェリアでは、調理用燃料の多くを薪や炭に頼っており、過度な使用は森林の伐採や大気汚染につながるおそれがあります[*16, *17]。

また、ナイジェリアの潜在的な電力需要は12,800MW程度と推定されるのに対し、送電容量の制約(2015年12月時点で5,300MW程度)や、発電設備の維持管理の不備やガス供給量の不足などによって発電可能容量は6,600MW程度に留まり(2015年12月時点)、電力供給が不足しているという課題があります[*18]。

実際、発電エネルギー源の82%は天然ガスですが、ストライキや、ガスパイプラインの盗難・穴が開けられるなどの政治的な理由による妨害行為によって供給が度々ストップするほか、未電化率は人口比で61%と、そもそも電力を受けることができない人が多くいます。

このように、インドや中国と異なり、再生可能エネルギーの消費割合は高いナイジェリアですが、電力インフラの整備とエネルギー消費構造変化が求められています。

また、気候変動によって洪水や干ばつの発生、国民の生活の困窮、治安悪化など様々な問題が生じることが懸念されるため、エネルギー政策における環境配慮はますます重要な事項です。ナイジェリア政府は2060年のCO2排出量実質ゼロを目標に掲げ、2021年11月に発表された「2050年に向けた長期排出量削減計画」では、国内に豊富に存在するガスなど低炭素化エネルギーの活用を推進するとしています[*19]。

電力分野においては、既存の発電施設における発電可能容量の向上とともに、新規発電設備の建設を進める必要があります。ナイジェリアでは、2030年における電源構成の目標として、天然ガスはこれまで通り活用しつつも、太陽光を16%、バイオマスを4%、風力を3%まで引き上げるなど、再生可能エネルギーの導入も積極的に行うとしています[*18], (図12)。

図12: 2030年におけるナイジェリア電源構成の目標
出典: 独立行政法人国際協力機構 (JICA)「ナイジェリア国 電力マスタープラン策定プロジェクト ファイナルレポート」
https://libopac.jica.go.jp/images/report/12339578_01.pdf, p.15

実際、2022年9月には大手石油企業であるシェルのナイジェリア子会社がソーラー発電事業を手掛けるデイスター・パワーを買収するなど、民間企業による再生可能エネルギー事業への参入の動きも出てきています[*19]。今後は、官民連携を図りながら再生可能エネルギーの導入が進んでいくことでしょう。

 

まとめ

今回は、人口の多い国におけるエネルギー消費動向や脱炭素化に向けた政策について見てきました。

人口増加に対応するためのエネルギー政策が求められる一方で、環境への配慮は欠かせません。いずれの国も各国で再生可能エネルギーの導入を増やすことが目標に盛り込まれており、脱炭素化に向けた動きは世界的に加速しています。

人口上位国の中でも、中国やインドなど電力供給インフラ等が比較的整っている国とそうでないナイジェリアのような国では、エネルギー事情は大きく異なります。気候条件や国内情勢を考慮し、それぞれの国・地域に合った取り組みが求められていると言えるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「平成24年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2013)  第1節 人類の歩みとエネルギー」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2013html/1-1-1.html

*2
資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022) 第1節 エネルギー需給の概要等」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/2-2-1.html

*3
外務省「人口の多い国」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/jinko_o.html

*4
西日本新聞「中国の人口増加率、過去最低に 14億1178万人、少子高齢化加速」
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/737143/

*5
Diamond Online「2027年にインドが人口世界一に!? 日本の1億人割れはいつ?」
https://diamond.jp/articles/-/275196

*6
三菱UFJリサーチ&コンサルティング「サブサハラ・アフリカ経済の現状と今後の展望」(2019)
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/03/report_190320.pdf, p.2

*7
Business Journal「ナイジェリア、世界第3位の人口大国に…アフリカの人口急増、世界的食糧不足で価格高騰」
https://biz-journal.jp/2019/12/post_130470.html

*8
公益財団法人 自然エネルギー財団「中国におけるエネルギー構造転換と自然エネルギーの拡大」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/ChinaReport_JP.pdf, p.1, p.2, p.8, p.10, p.11

*9
日本貿易振興機構(ジェトロ)「2025年までのエネルギー政策の方針発表、石炭のクリーン利用も推進」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/03/076127dfa2b3bc2f.html

*10
公益財団法人 自然エネルギー財団「中国が2030年のCO2排出ピークアウトに向けて行動方針を発表」
https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20211207.php

*11
REUTERS「インド、2030年に世界3位のエネルギー消費国へ=IEA見通し」
https://jp.reuters.com/article/india-iea-idJPKBN2A934U

*12
一般社団法人 エネルギー・環境グローバルコンソーシアム「2020年インドのエネルギー事情」
https://gcfen.com/archives/1165

*13
AFPBB News「石炭火力『廃止ではなく削減』 COP26文書トーンダウンさせたインドの内情」
https://www.afpbb.com/articles/-/3376453

*14
日本貿易振興機構(ジェトロ)「拡大目指すインドの再生可能エネルギー」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/6fe004fdb7a9cddc.html

*15
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「バイオガスを利用した小型高効率6kWガスエンジンコジェネを開発」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2003/pr20030310/pr20030310.html

*16
IEA「Nigeria Energy Outlook」
https://www.iea.org/articles/nigeria-energy-outlook

*17
AFPBB News「ナイジェリアの森林は12年後に全消滅、専門家が警告」
https://www.afpbb.com/articles/-/2372238

*18
独立行政法人国際協力機構 (JICA)「ナイジェリア国 電力マスタープラン策定プロジェクト ファイナルレポート」
https://libopac.jica.go.jp/images/report/12339578_01.pdf, p.1, p.4, p.5,  p.12, p.15

*19
日本貿易振興機構(ジェトロ)「2060年のCO2排出量ゼロを目標に(ナイジェリア)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2022/1003/36005fa47a691241.html

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