世界的に広がるカーシェアリング―自動車のシェアによるCO2削減効果と脱炭素化に向けた事業者の新たな取り組み

近年、世界的に広がりを見せつつあるシェアリングエコノミー。特に、自動車分野における車両のシェア「カーシェアリング」の普及は著しく、市場規模は世界で拡大しています[*1]。

カーシェアリングには、利用者が自動車を必要なときにだけ使うことができるため、過度な自動車の使用を抑えることにつながるという環境へのメリットがあります。また、近年では、電気自動車を活用したり、エネルギー源として再生可能エネルギーを活用したりするなど、環境に配慮したサービスを提供する事業者も増加しています。

それでは具体的に、カーシェアリングにはどれほどのCO2削減効果があるのでしょうか。また、カーシェアリング事業者はどのようなサービスを提供しているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

自動車産業における環境負荷

2020年度の日本において、運輸部門からのCO2排出量は1億8,500万トンと、全体の約17.7%を占めています。運輸部門のうち、45.7%ものCO2排出量を占める自家用乗用車は、特に環境負荷の大きい交通手段と言えます[*2]。

自動車製造時のCO2排出量は、ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池自動車のような次世代自動車の普及や、製造時のエネルギー使用量の削減などにより年々減少しています[*3], (図1)。

図1: 自動車製造工程からのCO2排出量推移
出典: 一般社団法人 日本自動車工業会「次世代自動車・工場CO2排出」
https://www.jama.or.jp/operation/ecology/next_gen_vehicle/index.html

減少傾向にありますが、次世代自動車であっても、製造時にはCO2が排出されてしまいます。例えば、車両のボディは重量1kg当たり6,700g、燃料電池は1kW当たり18,960gに相当するCO2が製造時に発生しています[*4], (表1)。

表1: 車両パーツごとのCO2排出量

出典: 大瀬 佳之「車両電動化及びカーシェア普及が温室効果ガス排出量へ与える影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjser/42/3/42_129/_pdf, p.131

 

カーシェアリングとは

カーシェアリングとは、事業者が所有する車両を会員に貸し出す仕組みのことです[*1], (図2)。

図2: カーシェアリングのイメージ
出典: 株式会社三井住友銀行 コーポレート・アドバイザリー本部 企業調査部「自動車シェアリングの動向」
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport039.pdf, p.

車両を利用したい人は会員登録を行った後、利用したい日時等を予約し、会員カードを使って自動車のロックを解除することで乗車できます[*5]。

自動車の自己所有やレンタカーと比較して、カーシェアリングには利用者にとって様々なメリットがあります。例えば、利用者は車の購入費用やガソリン代・保険料などの維持費がかかりません。また、短時間からの利用が可能なため、必要最小限の料金で自動車を運転できる点も大きなメリットです。

一方で、シェアするために室内清掃が十分でないという点や、予約が埋まっていると借りられない場合があるといったデメリットがあります。また、月額で契約している場合には、利用しない月でも料金が発生してしまう点も、デメリットと言えるでしょう。

 

国内外で普及が進むカーシェアリング

世界全体で広がるカーシェアリング

 
カーシェアリングは、世界全体で広がりを見せています。全世界のカーシェアリング利用者数は2006年から2016年にかけて急増しており、特にアジア地域では2010年に8万人に過ぎなかった会員数が、2016年には872万人にまで増加しました[*6], (図3)。

図3: 世界5地域のカーシェアの会員数及び車両台数の推移
出典: 株式会社大和総研「急拡大するカーシェアと未来のモビリティ社会(1)」
https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/human-society/20181203_020485.pdf, p.2

欧米などでは、自動車メーカーもカーシェアリング事業に参入し始めています。例えば、アメリカのFord社はアメリカ国内やインドで展開しており、ドイツのDaimler社は欧州6か国や北米、中国で展開しています[*1], (表2)。

表2: 欧米自動車メーカーのカーシェアリング事業への参入状況

出典: 株式会社三井住友銀行 コーポレート・アドバイザリー本部 企業調査部「自動車シェアリングの動向」
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport039.pdf, p.9

市場規模も拡大しています。Global Market Insights社の調査では、欧米やアジア太平洋地域など調査対象地域全体の2020年の市場規模は、20億ドルを越えました。また、2027年までの年平均成長率が20%を越える見込みがあるなど、今後も更なる発展が期待されます[*7]。

国内におけるカーシェアリングの普及状況

 
国内でも、カーシェアリング車両の台数および利用者数は年々増加しています。公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団の調査によると、2022年3月時点のカーシェアリングサービス全体の車両台数は51,745台、会員数は2,636,121人と、前年と比べて車両台数は19.1%、会員数は17.4%増加しました[*8], (図4)。

図4: 日本国内におけるカーシェアリング車両台数と会員数の推移
出典: 公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団「わが国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移」
https://www.ecomo.or.jp/environment/carshare/carshare_graph2022.3.html

カーシェアリング事業には、タイムズモビリティ株式会社やオリックス自動車株式会社などのカーシェアリング事業者とともに、トヨタ自動車株式会社のような自動車メーカーも参入しています[*1, *9], (表3)。

表3: 日本におけるカーシェアリング事業者(2020年3月時点)

出典: 公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団「全国のカーシェアリング事例一覧」を参考に筆者作成
https://www.ecomo.or.jp/environment/carshare/data/carshare_jirei_2020.3.pdf

 

カーシェアリングの普及による環境負荷の低減

カーシェアリング利用によるCO2排出量の削減効果

 
カーシェアリングには利便性や費用の安さのほか、自己所有と比較して環境負荷が低いなど環境へのメリットもあります。

例えば、カーシェアリングによる環境負荷低減効果を調査した公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団によると、カーシェアリングサービスへの加入によって、利用者による過度な自動車依存が見直されたことにより、加入前と比べて利用者全体の年間合計走行距離が減少しました[*10]。

具体的には、加入前の1世帯あたりの燃料消費量は326.6Lでしたが、加入後の燃料消費量は180.0Lと大きく改善しています[*10], (表4)。

表4: カーシェアリングサービス加入前後の年間燃料消費量とCO2排出量比較

出典: 公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団「カーシェアリングによる環境負荷低減効果の検証 報告書」
http://www.ecomo.or.jp/environment/carshare/data/carshare_report2013.pdf, p.34

燃料消費量の減少に伴い、1世帯あたりの年間平均CO2排出量は0.34トン改善されています。したがって、カーシェアリングサービスへの加入によって本当に必要な時にだけ自動車が使用されるようになったため、世帯あたりの環境負荷が低減したと言えます。

また、カーシェアリングの普及によって、自動車を保有する人が減るため、製造台数の減少につながります。実際、カーシェアリングサービス加入前の自動車保有台数は1世帯あたり0.45台でしたが、加入後は0.17台と減少しました[*10], (図5)。

図5: カーシェアリング加入前後で世帯における自動車保有台数
出典: 公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団「カーシェアリングによる環境負荷低減効果の検証 報告書」
http://www.ecomo.or.jp/environment/carshare/data/carshare_report2013.pdf, p.52

先述したように、車両パーツなど自動車製造時にはCO2が排出されるため、製造台数の減少はCO2排出量の削減につながります。

さらに、カーシェアリングで利用される自動車は多くの会員によって利用されるため、一般的に、自己所有の車両と比較して年間走行距離が長くなります。そのため、車両寿命が短くなり、車両更新頻度が高くなりますが、更新頻度が高くなる分、CO2排出量が少なく環境性能の高い最新車両の割合が増えるため、CO2排出量の削減につながります[*4]。

以上のような点をふまえ、日本政府は2016年5月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」に、地球温暖化抑制策としてカーシェアリングの普及促進を盛り込んでいます[*6], (表5)。

表5: 「地球温暖化対策計画」におけるカーシェアリングの普及促進

出典: 株式会社大和総研「急拡大するカーシェアと未来のモビリティ社会(1)」
https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/human-society/20181203_020485.pdf, p.8

政府は普及啓発等を推進することでカーシェアリングの実施率を高め、カーシェアリング普及によるCO2排出削減見込量を2013年度から2030年度にかけて、6.8万トンから55.1万トンにまで増加させるとしています。

事業者による再生可能エネルギーの活用

 
近年は、脱炭素化に向けた取り組みを推進するカーシェアリング事業者も増加しており、カーシェアリングサービスに再生可能エネルギーを導入する事業者も存在します。

例えば、株式会社REXEVは、地域新電力である湘南電力株式会社と連携して、再生可能エネルギー由来の電源から充電した電気自動車を活用したカーシェアリング事業を展開しています[*11], (図6)。

図6: 電気自動車を活用したカーシェアリング事業
出典: 小田原市「EVを活用した新たな地域エネルギーマネジメントに取り組みます」
https://www.city.odawara.kanagawa.jp/field/envi/energy/electric_vehicle/main.html

株式会社REXEVは2020年6月からカーシェアリングサービス「eemo(イーモ)」を小田原、箱根で開始し、2021年6月には車両台数47台(27か所)にまで事業を拡大しています[*12], (図7)。

図7: カーシェアリングサービス「eemo」の概況
出典: 株式会社REXEV「小田原・箱根の電気自動車カーシェアリング eemoの歩み」
https://rexev.co.jp/content/wp-content/uploads/2021/06/eemo_report_202106.pdf, p.2

「eemo」の開始により、「eemo」で導入された電気自動車の電力消費量のうち67%を再生可能エネルギー由来の電気で賄うことができ、再生可能エネルギーの需要を創出することに成功しています。また、ガソリン車から電気自動車にシフトしたことで、CO2排出量を1年間で約14トン削減できるなど、地球温暖化問題の解決にもつながっています。

 

カーシェアリング事業の脱炭素化の展望

電気自動車のような次世代自動車が今後さらに普及することによって、自動車産業全体のCO2排出量の削減が進むと予測されていますが、カーシェアリングを推進することによって、より多くのCO2排出量を削減できます[*4], (図8)。

図8: カーシェアリング普及によるCO2排出量の推移シナリオ
出典: 大瀬 佳之「車両電動化及びカーシェア普及が温室効果ガス排出量へ与える影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjser/42/3/42_129/_pdf, p.134

ある研究では、カーシェアリング普及率が1~4%の場合のCO2排出量削減量は、カーシェアリングが全く普及していないケースと比較して16~25%低くなると試算しています。また、3~12%普及した場合には全く普及していないケースと比較して 48~75%の CO2排出量削減効果があるとされており、カーシェアリングはCO2排出量削減の効果的な手段です。

今後はカーシェアリングの経済面と併せて環境面のメリットを訴求し、消費者のカーシェアリング利用促進を図ることが、CO2排出量の多い自動車産業の更なる環境負荷低減に向けたカギとなるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
株式会社三井住友銀行 コーポレート・アドバイザリー本部 企業調査部「自動車シェアリングの動向」
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport039.pdf, p.3, p.4, p.7, p.9, p.11

*2
国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

*3
一般社団法人 日本自動車工業会「次世代自動車・工場CO2排出」
https://www.jama.or.jp/operation/ecology/next_gen_vehicle/index.html

*4
大瀬 佳之「車両電動化及びカーシェア普及が温室効果ガス排出量へ与える影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjser/42/3/42_129/_pdf, p.131, p.132, p.134, p.136

*5
株式会社常陽銀行「カーシェアリングとは?その仕組みとメリット・デメリットを徹底解説」
https://www.joyobank.co.jp/woman/column/201508_01.html

*6
株式会社大和総研「急拡大するカーシェアと未来のモビリティ社会(1)」
https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/human-society/20181203_020485.pdf, p.2, p.8

*7
Global Market Insights「Car Sharing Market」
https://www.gminsights.com/industry-analysis/carsharing-market

*8
公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団「わが国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移」
https://www.ecomo.or.jp/environment/carshare/carshare_graph2022.3.html

*9
公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団「全国のカーシェアリング事例一覧」
https://www.ecomo.or.jp/environment/carshare/data/carshare_jirei_2020.3.pdf

*10
公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団「カーシェアリングによる環境負荷低減効果の検証 報告書」
http://www.ecomo.or.jp/environment/carshare/data/carshare_report2013.pdf, p.32, p.34, p.52, p.57

*11
小田原市「EVを活用した新たな地域エネルギーマネジメントに取り組みます」
https://www.city.odawara.kanagawa.jp/field/envi/energy/electric_vehicle/main.html

*12
株式会社REXEV「小田原・箱根の電気自動車カーシェアリング eemoの歩み」
https://rexev.co.jp/content/wp-content/uploads/2021/06/eemo_report_202106.pdf, p.2, p.4

 

 

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