人々の再生可能エネルギーへの理解促進に向けた取り組み「エネルギーツーリズム」とは?

政府は、2020年10月に、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました[*1]。

カーボンニュートラル実現に向けては、再生可能エネルギーの更なる利用促進が不可欠です。そして、再生可能エネルギーの普及には、国民一人ひとりのエネルギー問題への理解促進が必要です[*2]。

そこで近年、地域経済の活性化と併せて、再生可能エネルギーへの理解促進を図る「エネルギーツーリズム」と呼ばれる取り組みが推進されています。

例えば、神奈川県小田原市では、地域の特性を生かした再生可能エネルギー事業をツーリズムに組み込み、エネルギーの学び場とすることで、地域経済の活性化につなげる施策を推進しています。

この記事では、エネルギーツーリズムの概要と取り組み事例を紹介し、その効果を解説します。 

 

再生可能エネルギーの地産地消の現状

従来の電力システムは、基本的には需要を所与のものとして、需要に合わせて大規模発電所から電力を供給する集中エネルギーシステムが採られてきました。しかしながら、東日本大震災や大型台風の甚大災害に伴う電力需給のひっ迫を契機に、集中エネルギーシステムの脆弱性が顕在化しています[*3, *4]。

また、太陽光発電コストの急激な低下やエネルギーシステム改革の進展、再生可能エネルギーを活用した地域経済の活性化など、電力の需給構造に関する変化により、従来の電力システムから、分散型エネルギーリソースを活用した電力システムへと大きな変化が生まれつつあります[*5]。

地域における分散型エネルギーは、災害時のライフラインの安定的な確保という視点だけでなく、地域活性化にもつながります[*3]。

具体的には、地域での再生可能エネルギーの供給事例として、大分県日田市における木質バイオマス発電があります。林業から発生する未利用材を発電に活用するとともに、発電によって発生した余熱や温排水を隣接する農家と連携し、イチゴ栽培などの農業に活用することで、地域振興も図っています[*6, *7]。

また、各地域では、自治体とエネルギー会社等が共同出資を行い、限られた地域に電力を供給する自治体新電力の設立などを通じて、再生可能エネルギーの供給が進んでいます[*3]。

 

再生可能エネルギーの更なる設置に向けた課題

一方で、再生可能エネルギーの更なる促進に向けて課題もあります。例えば、地域で太陽光パネルなど再生可能エネルギー設備を設置するにあたっては、景観への悪影響や騒音、土砂災害などの問題を懸念する近隣住民等とのトラブルが発生する可能性があります[*8], (図1)。

図1: 再生可能エネルギーの地域トラブルの具体的事例
出典: 山下 紀明「『再エネの地域共生に向けた自治体条例のあるべき姿について』~地域にとって望ましい再エネの推進を見据えて」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/community/dl/02_01.pdf, p.13

地域によっては近年増加する災害に起因した太陽光発電設備への被害や景観への悪影響など、様々なトラブルが既に顕在化しています。このようなトラブルを未然に防ぐため、自治体では、一定規模以上の開発に対して届け出等を義務付ける条例を定める動きがあります[*6], (図2)。

図2: 太陽光発電に係るトラブル事例
出典: 農林水産省 大臣官房 環境バイオマス政策課「農山漁村における再生可能エネルギー発電をめぐる情勢」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/index-5.pdf, p.11

しかしながら、カーボンニュートラル実現に向けては、再生可能エネルギーの促進が不可欠です。適切なルールを設定し安全面をクリアするとともに、地域住民の懸念を払しょくするため、再生可能エネルギーに対する地元住民の理解を得ていくことが求められています[*8]。

 

住民の理解促進に向けた取り組み「エネルギーツーリズム」

以上のような課題を解決するため、観光体験を通じて再生可能エネルギーを学ぶ「エネルギーツーリズム」と呼ばれる取り組みが各自治体で増えています[*9]。

小田原市におけるエネルギーツーリズム

  
小田原市では、太陽光発電や小水力発電事業など、市の特性を生かした再生可能エネルギー事業を観光と結び付けたエネルギーツーリズムを構築し、地域住民の理解促進とともに、地域経済の活性化の促進を目指しています。[*11], (図3)。

図3: 小田原市におけるエネルギーツーリズムイメージ
出典: 小田原市エネルギー政策推進課「優先施策『エネルギーツーリズムの実現』について」
https://www.city.odawara.kanagawa.jp/global-image/units/237078/1-20150925155353.pdf, p.1

具体的には、市の広報広聴課が出版社や旅行業者等の事業者向けに行っているプレスツアーにおいて、エネルギーツーリズムを実施しています。例えば、2016年のプレスツアーでは、エネルギー地産地消をテーマに、太陽熱や太陽光発電、コージェネレーションシステム、地中熱・地下水などのエネルギーを効果的に活用し、同規模建物に比べて約54%もエネルギー消費を削減した市内企業のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)や、太陽光発電所、小水力発電所などの施設訪問が行われました[*12]。

福島市におけるエネルギーツーリズム

  
福島市においても、東日本大震災により被害を受けた土湯温泉町の復興と地域活性化に向け、温泉地の特色を活用した再生可能エネルギー体験ツアーを実施しています[*13]。

土湯温泉町には、地域に豊富に存在する温泉熱を活用した地熱バイナリー発電や、急峻な地形を活用した小水力発電などの再生可能エネルギー施設が設置されています。

これらの施設を活用し、再生可能エネルギー体験ツアーとして観光客等を呼び込むことで、土湯温泉町の魅力発信にもつなげています。ツアー参加者は、2015年には2,328人、2016年には2,372人となっており、従来の温泉を目的とした客層とは異なる分野からの誘客や、新たな観光資源の創出にもつながっています。

また、小中高生を対象とした地熱発電所見学ツアーも実施されています。プログラムでは、現地見学のほか、再生可能エネルギーの種類や発電システム、土湯温泉町の取り組みについて学習する時間が設けられており、日本の再生可能エネルギーの全体像について考えるきっかけとなっています[*14]。

 

次世代エネルギーパークの推進

各自治体におけるエネルギーツーリズムのほか、国の施策として、次世代エネルギーパークと呼ばれる取り組みが推進されています[*2]。

次世代エネルギーパークは、国民が再生可能エネルギーを中心にエネルギー問題への理解を深めることを通じて、エネルギー政策の推進に寄与することを目的としています。

再生可能エネルギー設備で発電した電気・熱が、パーク内や周辺地区で使用されていることや、複数の種類の再生可能エネルギー設備が設置されていることを条件に、国が次世代エネルギーパーク計画として認定・公表を行います。

2022年4月時点で、全国66自治体の次世代エネルギーパーク計画が認定されています。資源エネルギー庁は、全国の次世代エネルギーパークの概要やおすすめ見学コースを紹介するガイドブックを発行しており、どこの地域にどのような次世代エネルギーパークがあるかを調べることができます。

茨城県における次世代エネルギーパーク

  
茨城県は、次世代エネルギーの最先端の技術開発を行う研究機関があり、また、太陽光・風力・バイオマス発電施設などの再生可能エネルギー施設が集積しているという特徴から、県全体がエネルギーパークとして国に認定されています[*15, *16]。

県内は大きく3地区に分けられ、研究機関が多く集積する「県南・県西地区」では、バイオ燃料や水素利用に係る先端的な研究が行われており、研究成果を見学したり、研究者から直接話を聞いたりすることができます[*16], (図4)。


図4: 3地区を連携させたネットワーク型のエネルギーパーク
出典: 茨城県次世代エネルギーパーク推進協議会「茨城県次世代エネルギーパークとは」
https://www.ibaraki-energypark.jp/aboutus/

「鹿行地区」では、県内最大の工業地帯である鹿島臨海工業地帯を中心に、エネルギー関連施設やコンビナートでの省エネ対策、風力発電等を見学することができます。

液化天然ガスや太陽光発電、バイオマスエネルギー産業の現場が多く立地する「県北・県央地区」では、再生可能エネルギー利用の全体像を把握できるとともに、産業利用の現場を見学できます。

次世代エネルギーパークガイドブックでは、例えば、風力・太陽光発電設備の実機を間近で見ることができる株式会社日立パワーソリューションズ大沼工場や、天然ガスの環境性について学ぶことができる東京ガス株式会社日立LNG基地、バイオマス発電における工程を知ることができる北越コーポレーション株式会社バイオマス発電施設などが紹介されています[*15], (図5)。


図5: 茨城県次世代エネルギーパークのおすすめ見学コース
出典: 資源エネルギー庁「次世代エネルギーパーク ガイドブック2022」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/park/enepa2022.pdf, p.28

北海道下川町における次世代エネルギーパーク

  
林業の町として知られる北海道下川町では、町全体が一丸となって取り組む木質バイオマス利用の推進を知ることができます[*15]。

下川町は、木くず等を原料とする木質ボイラー導入に道内で最初に取り組み、町役場周辺の複数施設や集落に対する地域熱供給システムの導入など、木質バイオマスを軸とする再生可能エネルギーの導入を積極的に展開しています[*17]。

こうした取り組みを国内外の自治体等へ移出するため、町外から視察を受け入れるとともに、町民向けツアーも実施しています。

例えば、林地残材を収集し、木質バイオマスボイラー用の木くず燃料を製造できる施設や、地中熱ヒートポンプやペレットストーブが設置されたエコハウス、町役場周辺の地域熱供給システム施設を見学できます[*15], (図6)。


図6: 下川町次世代エネルギーパークのおすすめ見学コース
出典: 資源エネルギー庁「次世代エネルギーパーク ガイドブック2022」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/park/enepa2022.pdf, p.6

 

まとめ

エネルギーツーリズムを実施している自治体や、次世代エネルギーパークとして認定を受けた地域など、再生可能エネルギーを中心としたエネルギーについて知ることのできる地域は全国各地にあります。 

次世代エネルギーパークガイドブックなどを活用し、様々なエネルギー施設を見学してみてはいかがでしょうか。

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参照・引用を見る

*1
環境省「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/ 

*2
資源エネルギー庁「次世代エネルギーパークとは」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/park/ 

*3
資源エネルギー庁「知ってる?『電力の地産地消』 地域貢献で選ぶ、卒FITの新たな選択肢」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/solar-2019after/regional.html

*4
資源エネルギー庁「VPP・DRとは」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/about.html

*5
資源エネルギー庁「分散型エネルギープラットフォーム」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/bunsan_plat/

*6
農林水産省 大臣官房 環境バイオマス政策課「農山漁村における再生可能エネルギー発電をめぐる情勢」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/index-5.pdf, p.11, p.55 

*7
農林水産省「大分県日田市株式会社モリショウグループ・森山代表に聞く」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/interview/morisho.html

*8
山下 紀明「『再エネの地域共生に向けた自治体条例のあるべき姿について』~地域にとって望ましい再エネの推進を見据えて」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/community/dl/02_01.pdf, p.13 

*9
再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース「地域と共生する再生可能エネルギー導入に関する提言」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210907/210907energy13.pdf, p.1, p.3 

*10
株式会社中日新聞社「産業や観光、再生可能エネルギー事業を積極推進へ 美浜町ビジョン改定」
https://www.chunichi.co.jp/article/270490 

*11
小田原市エネルギー政策推進課「優先施策『エネルギーツーリズムの実現』について」
https://www.city.odawara.kanagawa.jp/global-image/units/237078/1-20150925155353.pdf, p.1 

*12
株式会社バリュープレス「【小田原プレスツアー】“エネルギー地産地消”の最前線!編」
https://www.value-press.com/pressrelease/158499 

*13
国土交通省・官公庁「観光地域づくり事例集~グッドプラクティス2018~ 第六章 災害からの観光復興」
https://www.mlit.go.jp/common/001237083.pdf, p.222, p.223 

*14
公益財団法人 福島県観光物産交流協会「再生可能エネルギー(地熱発電所)見学ツアー(福島市)」
https://tif.ne.jp/kyoiku/program/disp.html?id=644 

*15
資源エネルギー庁「次世代エネルギーパーク ガイドブック2022」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/park/enepa2022.pdf, p.6, p.28 

*16
茨城県次世代エネルギーパーク推進協議会「茨城県次世代エネルギーパークとは」
https://www.ibaraki-energypark.jp/aboutus/ 

*17
下川町「下川町次世代エネルギーパーク計画」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/park/pdf/02_shimokawa.pdf, p.1

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