世界全体の雇用量は1,000万人以上! 再生可能エネルギー産業における雇用の動向と創出の事例を紹介

1985年から2021年にかけて、世界全体の発電量が2,058TWhから8,539TWhへと、増加傾向にある再生可能エネルギー[*1]。

国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年から2026年にかけて、その設備容量は1,800GW以上の増加が予測されるなど、今後も大きな成長が期待されています[*2]。

また、再生可能エネルギー産業は、製造や原材料の調達、設備の保守運用など、様々な職種によって成り立っています。そのため、産業の成長によってさらなる雇用創出にもつながります[*3, *4]。

それでは、再生可能エネルギーの導入拡大によって、どれほど雇用が創出されているのでしょうか。国内外の状況と併せて、詳しくご説明します。

 

再生可能エネルギー産業における世界の雇用状況

雇用量の推移と各国の状況

  
近年の導入拡大に伴い、再生可能エネルギー産業における雇用量は年々増え続けています。2012年に世界全体で約730万人であった雇用量は、2021年には約1,270万人まで増加しました[*5], (図1)。

図1: 再生可能エネルギー産業における雇用量の推移
出典: IRENA「Renewable Energy and Jobs Annual Review 2022」
https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2022/Sep/IRENA_Renewable_energy_and_jobs_2022.pdf?rev=7c0be3e04bfa4cddaedb4277861b1b61, p.11

中でも最も雇用量を創出しているのが、太陽光発電部門です。2021年には約430万人の雇用量となり、これは再生可能エネルギー分野における労働力の3分の1以上に相当します[*4]。

太陽光発電部門に次いで雇用量が多いのが、バイオエネルギー部門です。2021年には約344万人の雇用量となるなど、2012年時点の約240万人から堅調に推移しています[*5]。

また、国別の再生可能エネルギーの雇用を見ると、中国やEU、ブラジル、アメリカ、インドにおいて多く創出されました[*5], (図2)。

図2: 主要国における再生可能エネルギー分野における雇用量(2021年)
出典: IRENA「Renewable Energy and Jobs Annual Review 2022」
https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2022/Sep/IRENA_Renewable_energy_and_jobs_2022.pdf?rev=7c0be3e04bfa4cddaedb4277861b1b61, p.30

中国では、太陽光発電部門での雇用量が最も多く、水力発電や風力発電、太陽熱部門でも多く創出されています。一方で、ブラジルでは、バイオ燃料が国内全体の再生可能エネルギー分野における雇用量の過半数を占めています[*5], (表1)。

表1: 主要国における再生可能エネルギー分野における雇用量(2020-2021年)出典: IRENA「Renewable Energy and Jobs Annual Review 2022」
https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2022/Sep/IRENA_Renewable_energy_and_jobs_2022.pdf?rev=7c0be3e04bfa4cddaedb4277861b1b61, p.31

太陽光発電産業における雇用の状況

  
2022年末時点の国別の太陽光発電設備容量は、中国が392GWと最も多く、世界全体の3分の1以上を占めます。中国の次に多いのがアメリカであり、日本は世界3位です[*6], (図3)。

図3: 主要国における太陽光発電設備容量(2022年)
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「統計|資源別 太陽光」
https://www.renewable-ei.org/statistics/re/

太陽光発電産業の国別の雇用量を見ても、太陽光発電設備の製造量・導入量・輸出量の多い中国が最大の約270万人で、全体の63%を占めています[*5] , (図4)。

図4: 太陽光発電産業における雇用量の上位10か国(2021年)
出典: IRENA「Renewable Energy and Jobs Annual Review 2022」
https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2022/Sep/IRENA_Renewable_energy_and_jobs_2022.pdf?rev=7c0be3e04bfa4cddaedb4277861b1b61, p.18

また、中国と同様に、アメリカやインド、日本など設備容量の多い国でも、雇用が多く創出されています。具体的には、アメリカでは2021年に約25.5万人、インドでは約21.7万人、日本では約15.1万人が太陽光発電産業で働いていると言われています。

さらに、再生可能エネルギーの導入に積極的なアジア諸国においても、雇用量が増えています。例えば、農村部における世帯電化率が35%(2012年時点)と電力インフラが脆弱であったバングラディシュは、未電化地域でも使える分散型ソーラーホームシステムの導入を促進し、2019年には13.7万人の雇用を生み出しました[*7, *8]。

バイオ燃料産業における雇用

  
バイオ燃料とは、バイオマス(生物資源)を原料とした燃料のことです[*9]。ガソリンや軽油等の化石燃料の代替手段として利用拡大が期待されており、エタノールやバイオディーゼルなど様々な種類があります。

さらに、バイオディーゼルは、油脂をメチルエステル化したFAMEと、水素処理したHVO(水素化植物油)の2種類に分類できます。これらは、アメリカやブラジルなどで多く生産されており、特にエタノールは2か国で世界全体の生産量の8割以上を占めます[*10], (図5)。

図5: バイオ燃料の主要な国(地域)別の生産(2020年)
出典: 特定非営利活動法人 国際環境経済研究所「バイオ燃料の現状分析と将来展望」
https://ieei.or.jp/2022/05/expl220527/?doing_wp_cron=1690598113.6952960491180419921875

先述したように、バイオ燃料産業における世界全体の雇用量は約240万人と言われています。国別に見ると、機械化が進む資本集約型のアメリカでは約32.3万人、労働力の投入が多い労働集約型のブラジルでは約86.3万、インドネシアで約55.6万人となっています[*5], (図6)。

図6: バイオ燃料産業における雇用量の上位10か国(2021年)
出典: IRENA「Renewable Energy and Jobs Annual Review 2022」
https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2022/Sep/IRENA_Renewable_energy_and_jobs_2022.pdf?rev=7c0be3e04bfa4cddaedb4277861b1b61, p.26

海外のバイオ燃料産業における雇用創出について、日本企業の取り組みもあります。例えば、トヨタ自動車株式会社は、2023年4月に、ブラジルに所在する工場に新たに450億円を投資し、バイオエタノールを燃料にして走る小型のハイブリッド車の生産を始めると発表しました[*11]。

当事業によって、地元には700人の直接雇用が生まれるとされており、バイオ燃料産業の活発化がさらなる雇用量の増加に繋がると言えるでしょう。

 

国内の再生可能エネルギー産業における雇用の状況

太陽光発電を中心とした再生可能エネルギー導入量が増える一方で、国内における雇用量は減少しています。2019年には再生可能エネルギー産業において約24.1万人の雇用が創出されていましたが、2021年には約15万人にまで減少しています[*5, *8]。

これは、主要な再生可能エネルギーである太陽光発電設備の大半が輸入されており、製造部門における雇用が多く創出されていないためです。

2021年の太陽光発電部門全体における国内製造部門の雇用はわずか10%のみで、大半は建設・設置業務と保守運用業務における雇用となっています。

2010年度の国産パネルのシェアは84%でしたが、世界的なコスト競争に勝てず国産メーカーが次々と撤退した結果、2019年度の国内シェアは17%まで下落しています。また、2021年の第3四半期における太陽光モジュールの88%が海外製品であり、国内シェアの減少が続いていると言えます[*12]。

地域における雇用創出にもつながる再生可能エネルギー

   
国内では再生可能エネルギー産業における雇用が減少傾向にありますが、再生可能エネルギーの地産地消の推進に伴い、地域での雇用創出につながる事例も増えています。

例えば、岩手県久慈市は、木質バイオマス熱供給設備を建設し、2016年度から地域の未利用材を原料とした熱(蒸気、温水)供給事業を開始しました[*13], (図7)。

図7: 久慈市における木質バイオマス熱供給事業
出典: 資源エネルギー庁「2021年度 地域共生型再生可能エネルギー事業顕彰」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/saiene_kensho/doc/case-studies_r3.pdf, p.4

隣接するしいたけ栽培ハウスへ熱を供給するとともに、ヒートポンプでの冷水製造による夏季冷房の追加で完全空調化を実現しました。雇用の観点からは、ハウス運用等のため、正規社員約50名の新規雇用を創出するなど、地域活性にも貢献しています。

 

再生可能エネルギー産業における雇用についての展望

再生可能エネルギー産業が発展する一方で、炭鉱や石炭火力発電所など既存産業における雇用へのマイナスの影響も懸念されます[*14]。

例えば、2020年7月にドイツ連邦議会は、2038年までに石炭・褐炭による発電を廃止することを決定しました。ドイツは世界有数の褐炭の採掘国であり、産炭地では2019年時点で約2万人弱が雇用されているため、閉山に伴う失業の問題が浮上します。

そこで、連邦政府は、石炭・褐炭産業への依存比率が高い州に対して、閉鎖に伴う補償金約400億ユーロ(約4.8兆円)を準備しています。補償金は、各自治体、労働者への補償、再就職などの支援に加えて、今後、火力発電に代わる再生可能エネルギーの新たなインフラ開発に充てられる予定です。

また、既に紹介したように、世界全体の再生可能エネルギー産業における雇用量は年々増加しています。特に、新たな雇用の創出によって、再生可能エネルギー産業における女性雇用の割合が拡大するなど、ジェンダー平等にも貢献しています[*4]。

国内においては、コスト低減のため海外からの輸入は行いつつも、地域の雇用を創出できるような仕組みづくりを行うことが今後求められると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
公益財団法人 自然エネルギー財団「統計|国際エネルギー」
https://www.renewable-ei.org/statistics/international/

*2
独立行政法人 日本貿易振興機構「IEA、2026年までの世界の再エネ導入見通しを発表」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/12/20be98adea447f39.html

*3
森泉 由恵「再生可能エネルギーと雇用」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/13/4/13_311/_pdf/-char/ja. p.313, p.314

*4
国際連合広報センター「再生可能エネルギー分野での雇用が拡大、1年で70万人増え1,300万人に迫る(UN News 記事・日本語訳)」
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/45212/

*5
IRENA「Renewable Energy and Jobs Annual Review 2022」
https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2022/Sep/IRENA_Renewable_energy_and_jobs_2022.pdf?rev=7c0be3e04bfa4cddaedb4277861b1b61, p.11, p.16, p.17, p.18, p.19, p.26, p.30, p.31, p.47

*6
公益財団法人 自然エネルギー財団「統計|資源別 太陽光」
https://www.renewable-ei.org/statistics/re/

*7
独立行政法人 国際協力機構「2020年度 外部事後評価報告書 円借款『再生可能エネルギー開発事業』」
https://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/pdf/2020_BD-P75_4_f.pdf, p.2

*8
IRENA「Renewable Energy and Jobs Annual Review 2020」
https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2020/Sep/IRENA_RE_Jobs_2020.pdf?rev=db153791a7744a33913b553e02a1e5b0, p.28, p.29

*9
国立研究開発法人 国立環境研究所「バイオ燃料」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=107

*10
特定非営利活動法人 国際環境経済研究所「バイオ燃料の現状分析と将来展望」
https://ieei.or.jp/2022/05/expl220527/?doing_wp_cron=1690598113.6952960491180419921875

*11
NHK「トヨタ バイオ燃料で走る小型ハイブリッド車 ブラジルで生産へ」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230420/k10014043701000.html

*12
特定非営利活動法人 国際経済研究所「太陽光大量導入の不都合な真実」
https://ieei.or.jp/2021/07/expl210720/

*13
資源エネルギー庁「2021年度 地域共生型再生可能エネルギー事業顕彰」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/saiene_kensho/doc/case-studies_r3.pdf, p.4

*14
独立行政法人日本貿易振興機構「『脱石炭』がもたらすもの――地域社会・気候変動・雇用(後編)」
https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Overseas/2020/ISQ202030_011.html

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