2023年現在、総人口約1億2,454万人の日本。各国と比較すると、2021年時点で世界11位の人口を抱える人口上位国です[*1, *2]。
一方で、エネルギー起源のCO2排出量については、中国、アメリカ、EU27か国、インド、ロシアに次いで世界6位と、人口と比較してより多くのCO2を排出しています[*3]。
それでは、日本は人口が多い国と比較して、なぜCO2排出量が多いのでしょうか。また、CO2排出削減に向けて、現在どのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。
国内外におけるCO2排出の現状
世界各国のCO2排出量
国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年のエネルギー分野における世界のCO2排出量は、前年から0.9%増加し、368億トンと過去最高を記録しました[*4]。
2020年のエネルギー起源CO2排出量を国別に見ると、中国が100.8億トンと最も多く、全体の31.8%を占めます。次いでアメリカが42.6億トン、EU27か国が23.9億トンと続きます。日本は9.9億トンと、世界の国や地域の中では6番目にエネルギー起源CO2排出量の多い国となっています[*3], (図1)。
図1: 世界各国のエネルギー起源CO2排出量(2020年)
出典: 環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量(2020年)」
https://www.env.go.jp/content/000098246.pdf, p.1
また、国別の一人当たりエネルギー起源CO2排出量を見ると、日本は一人当たり7.87トンと9番目に多く、インドネシアやブラジルなどの人口上位国を上回っています[*3], (図2)。
図2: 主な国別一人当たりエネルギー起源CO2排出量(2020年)
出典: 環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量(2020年)」
https://www.env.go.jp/content/000098246.pdf, p.2
国内におけるCO2排出量
2021年度の国内におけるCO2排出量は約10億6,400トンでした。部門別排出量割合を見ると、産業部門が35.1%と最も高く、運輸部門、業務その他部門と続いており、経済活動におけるCO2排出量が大きな割合を占めていると言えます[*5], (図3)。
図3: 電気・熱配分後の部門別CO2排出量(2021年度)
出典: 全国地球温暖化防止活動推進センター「4-04 日本の部門別二酸化炭素排出量(2021年度)」
https://www.jccca.org/download/65477
CO2排出量が増加する要因とは
CO2排出量の増減要因
エネルギー起源のCO2排出量は、一般的にエネルギー消費量のほか、GDP(国内総生産)や人口などによって増減すると言われています[*6], (図4)。
図4: エネルギー起源CO2排出量の増減要因
出典: 環境省「(参考資料)エネルギー起源CO2排出量の増減要因」
https://www.env.go.jp/content/000150034.pdf, p.2
日本のCO2排出量は、2013年度から2021年度にかけて約2億4,720万トン減少しました。この期間中、人口の減少によってCO2排出量は約2,080万トン減少しており、人口がCO2排出量増減の大きな要因の一つであることは間違いありません[*6], (図5)。
図5: エネルギー起源CO2排出量の増減要因
出典: 環境省「(参考資料)エネルギー起源CO2排出量の増減要因」
https://www.env.go.jp/contentい/000150034.pdf, p.5
日本と人口上位国の主なCO2排出要因の違い
人口はCO2排出量増減要因の一つであるため、人口上位国がCO2排出量も多くなる傾向にあります。しかしながら、先述したように、日本はインドネシアやブラジルのような人口上位国よりCO2排出量が多いのが現状です[*3]。
これは、CO2排出量は人口の多さのみならず、経済成長によって増加する傾向にあるためです。世界全体のGDPとCO2排出量の関係を見ると、正の相関関係(GDPが高くなるとCO2排出量も高くなる関係)が見られます[*7], (図6)。
図6: 世界全体のGDPとCO2排出量の関係性
出典: 公益財団法人 地球環境産業技術研究機構「消費ベースCO2排出量の動向: 製造業の国際拠点の変化の影響」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/kankyo_innovation_finance/pdf/001_05_00.pdf, p.3
インドネシアの2022年の名目GDPは約1兆3,190億ドル、ブラジルは約1兆9,200億でしたが、日本は約4兆2,311億ドルと大きな差があります[*8, *9, *10]。
そして、先述したように、日本における部門別のCO2排出量は、産業部門が全体の35.1%と最も高く、運輸部門17.4%、業務その他部門17.9%と続きます[*11], (図7)。
図7: 部門別のCO2排出量の推移
出典: 環境省 脱炭素社会移行推進室、国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要」
https://www.env.go.jp/content/000128749.pdf, p.6
このように、日本のCO2排出量が多いのは、製造部門や運輸部門などの経済部門からの排出量が多いためと言えます。
CO2排出量削減に向けた日本の取り組み
CO2排出量は経済成長と正の相関関係にあります。しかしながら、イギリスやスウェーデンのように、経済の堅調さを維持しながらCO2排出削減を実現している国もあり、日本でも経済成長とCO2排出量削減の両立に向けた取り組みが始まっています[*12]。
例えば、産業部門のCO2排出量の約4割を占める鉄鋼業界において、JFEスチール株式会社は2050年までのカーボンニュートラル達成に向けて、2030年度までに2013年度比でCO2を30%削減する計画を発表しました[*13]。
削減に向けては、洋上風力発電ビジネスへの取り組みや、鋼材を生産する高炉には、カーボンリサイクル高炉や電気炉の活用を推進するとしています[*14], (図8)。
図8: JFEスチール株式会社による2050年カーボンニュートラルビジョン
出典: JFEスチール株式会社「カーボンニュートラルに向けた取り組み」
https://www.jfe-steel.co.jp/company/carbon.html
一般的に品質の高い鋼材を大量生産するには、鉄鉱石と石炭を原料とする高炉が向いていますが、高炉は鉄鉱石に含まれる酸素を石炭で取り除くため、大量のCO2が排出されます[*13]。
そこでJFEグループでは、カーボンリサイクル高炉とCCU(二酸化炭素の分離回収と有効利用)を軸とした技術開発を進めています[*15], (図9)。
図9: カーボンリサイクル高炉とは
出典: 一般社団法人 日本経済団体連合会「『カーボンリサイクル高炉+CCU』を軸とした超革新的技術開発への挑戦」
https://www.challenge-zero.jp/jp/casestudy/811
カーボンリサイクル高炉とは、製鉄プロセスから排出されるCO2を、再生可能エネルギーなどで生成したグリーン水素を用いてメタン(カーボンニュートラルメタン)に変換し、石炭由来還元材と置き換える高炉のことです。高炉で使用できなかった余剰のCO2は、メタノールなどの基礎化学品製造に用いることで削減することを予定しています。
JFEグループが進めるカーボンニュートラルメタンを酸素とともに吹き込み、CO2を削減する技術は世界初の試みであり、大規模メタネーション設備との連動操業も世界初の試みです。
また、高炉ではなく、鉄スクラップなどを電気で溶かして再利用することでCO2排出量を減らせる電炉の活用も計画されています。電炉は大量の電気を使いますが、洋上風力などカーボンフリー電力を用いることで、CO2排出量の削減につながると期待されています[*13]。
JFEスチール株式会社は、岡山県の製鉄所で高炉を電炉に置き換える日本の鉄鋼大手としては初の試みを計画しており、実現すればCO2排出削減に大きく貢献できると予想されます。
まとめ
経済的な要因もあり、人口一人当たりのCO2排出量が世界平均より多い日本ですが、先述したように、CO2排出量の多い製造業分野における取り組みも積極的に行われています。その結果、2013年度から2021年度にかけて実質GDPは増加した一方で、製造業部門におけるCO2排出量は9,090万トン(20.8%)減少しました[*6, *16], (図10)。
図10: 排出量変化の要因分析(製造業)(2013年度から2021年度)
出典: 環境省「(参考資料)エネルギー起源CO2排出量の増減要因」
https://www.env.go.jp/content/000150034.pdf, p.16
今回紹介した取り組みのように、経済成長とCO2排出削減というバランスの取れた「グリーン成長」の実現が期待されます[*12]。
参照・引用を見る
*1
総務省統計局「人口推計(令和5年(2023年)3月確定値、令和5年(2023年)8月概算値) (2023年8月21日公表)」
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.htm
*2
外務省「人口の多い国」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/jinko_o.html
*3
環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量(2020年)」
https://www.env.go.jp/content/000098246.pdf, p.1, p.2
*4
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター「729. 2022年世界における温室効果ガス排出」
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20230303
*5
全国地球温暖化防止活動推進センター「4-04 日本の部門別二酸化炭素排出量(2021年度)」
https://www.jccca.org/download/65477
*6
環境省「(参考資料)エネルギー起源CO2排出量の増減要因」
https://www.env.go.jp/content/000150034.pdf, p.2, p.5, p.16
*7
公益財団法人 地球環境産業技術研究機構「消費ベースCO2排出量の動向: 製造業の国際拠点の変化の影響」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/kankyo_innovation_finance/pdf/001_05_00.pdf, p.2, p.3
*8
独立行政法人日本貿易振興機構「概況・基本統計」
https://www.jetro.go.jp/world/asia/idn/basic_01.html
*9
外務省「ブラジル連邦共和国(Federative Republic of Brazil) 基礎データ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/brazil/data.html
*10
外務省 経済局国際経済課「主要経済指標」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100405131.pdf, p.2
*11
環境省 脱炭素社会移行推進室、国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要」
https://www.env.go.jp/content/000128749.pdf, p.5, p.6
*12
資源エネルギー庁「【インタビュー】『温暖化対策を持続可能にする、CO2削減と経済性の同時追求』―秋元圭吾氏(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/interview04akimoto01.html
*13
株式会社 日本経済新聞社「[社説]鉄鋼業は環境技術で世界をリードせよ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0234Y0S2A900C2000000/
*14
JFEスチール株式会社「カーボンニュートラルに向けた取り組み」
https://www.jfe-steel.co.jp/company/carbon.html
*15
一般社団法人 日本経済団体連合会「『カーボンリサイクル高炉+CCU』を軸とした超革新的技術開発への挑戦」
https://www.challenge-zero.jp/jp/casestudy/811
*16
内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部「四半期別GDP速報 時系列表 2023年4~6月期(2次速報値)」
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2023/qe232_2/pdf/jikei_1.pdf, p.20