世界のエネルギー資源の分布はどうなってる? エネルギー安全保障を確保するためには

日本は資源に乏しく、エネルギー自給率の低い国であることは、広く認知されている事実です。海外からの輸入に頼っている石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料によって、国内のエネルギーの大半がまかなわれています。

世界にはエネルギー資源に恵まれた国も多くありますが、資源には限りがあります。今後世界のエネルギー消費量が増え続けることで、国際的なエネルギー資源の争奪戦が激化してしまう恐れもあります。

この記事では世界のエネルギー資源の分布のデータを読み解き、日本のエネルギー安全保障を確保するための課題について紹介します。

 

エネルギー資源に恵まれているのはどこ? 世界の分布

世界のエネルギー消費量は、経済成長とともに増加し続けており、2021年には142億トンに達しています[*1], (図1)。

図1: 世界のエネルギー消費量の推移(地域別、一次エネルギー消費量)
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2023 第1節 エネルギー需給の概要」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/2-2-1.html

今後は気候変動対策によって、再生可能エネルギーの割合が増えていく見込みですが、現状の具体的政策を反映した公表政策シナリオでは、石油の需要も依然として増加していく予想です。一方で石炭はCO2を多く排出することから、再生可能エネルギーや天然ガスに置き換えられていくことで、消費量は減少していく見込みです[*1]。

世界のエネルギー需要は今後も経済成長によって伸びていくと予測されますが、エネルギー資源には限りがあります。

次の図2は、世界のエネルギー資源確認埋蔵量です。資源を使い切ってしまうまでに残された時間は、石油が54年、天然ガスが49年、石炭が139年、ウランが115年と試算されています[*2]。

図2: 世界のエネルギー資源確認埋蔵量
出典: 電気事業連合会「世界のエネルギー消費と資源」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/world/index.html

それでは、次に世界のエネルギー資源の分布についてみていきましょう。
図3は、エネルギー資源として多く使用される原油、石炭、天然ガス、ウランの分布です[*2]。

図3: 原油、石炭、天然ガス、ウランの可採埋蔵量
出典: 電気事業連合会「世界のエネルギー消費と資源」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/world/index.html

一次エネルギーのなかでも特に依存度の高い原油の埋蔵量は、5割近く中東に集中しています。
天然ガスも同様に地域にやや偏りがありますが、石炭とウランは比較的さまざまな地域に分布しています。

次の図4は、近年注目が高まっているシェールオイル・シェールガスの埋蔵量の世界分布です[*3]。

図4: EIAによるシェールオイル・シェールガス資源量評価マップ
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2020 第2部 エネルギー動向 第2章 国際エネルギー動向」(2020年)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020pdf/whitepaper2020pdf_2_2.pdf, p.173

従来の石油や天然ガスとは異なった生産手法で生産されるシェールオイル・シェールガスは、2000年代後半から米国で本格的に実用化され、世界のエネルギー事情に大きな変革をもたらしました。

シェールオイル・シェールガスは、米国の他にもロシア、中国、オーストラリアなどに埋蔵しています。

そして次に紹介するのは、日本の化石燃料輸入先です[*4], (図5)。

図5: 日本の化石燃料輸入先(2021年)
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「2022—日本が抱えているエネルギ―問題(前編)」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2022_1.html

日本では、原油の調達を90%以上中東地域からの輸入に依存しているため、情勢不安によって、安定供給に支障が出る恐れがあります。

天然ガスや石炭は、原油と比較すると多角化が進んでおり、オーストラリアをはじめとしたアジア・オセアニア地域から輸入しています。

 

日本と世界のエネルギー自給率の比較

日本のエネルギー自給率が低いことは知られていますが、主要国と比較するとその差は歴然です[*5], (図6)。

図6: 主要国の一次エネルギー自給率比較(2020年)
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2022/001/

エネルギー自給率が高い国は、自国で採れる資源が豊富にあります。原油や天然ガス、石炭などが豊富で、エネルギー輸出国であるノルウェーやオーストラリアは、国内で消費するエネルギーの3倍〜7倍もの資源に恵まれています。

そして次の図7は、2005年から2017年までの、主要国の一次エネルギー自給率の変化です[*6]。一次エネルギーとは、自然から採取できる、加工されていない状態のエネルギーのことです。

図7: 一次エネルギー自給率の変化
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2019 第3節 データで見る各国エネルギー事情」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2019html/1-2-3.html

主要国のエネルギー自給率の変化を見ると、米国が直近10年で20%近く上昇しています。これは、シェール革命によって化石燃料の国内生産量が増加したことと、再生可能エネルギーの導入が進んだことが理由です。

日本は2011年に発生した東日本大震災以降、原子力発電所の発電量が減少し、エネルギー自給率は10%以下まで落ち込みました。

近年は省エネの推進と再生可能エネルギーの導入促進によって、わずかに増加傾向にあります。

エネルギー自給率が低い日本が抱えるリスク

他国にエネルギー資源を依存していると、輸入先の国で災害や紛争などの問題が起きたときに、供給が絶たれてしまうリスクがあります。

たとえば、1970年代に発生した二度のオイルショックは、日本経済に大きな混乱をもたらしました。

石油の値上がりによって瞬く間に物価が上昇し、戦後の高度経済成長期に終わりを告げる、時代の転換点となりました[*7]。

近年では、ロシアによるウクライナ侵攻によって、国際エネルギー市場の混乱が深刻なものとなっています。

エネルギー大国であるロシアが西側諸国に圧力をかけるために輸出量を絞ったり、西側諸国側も経済制裁として禁輸措置をとったことが原因です。

結果的に、欧州やアジアでの天然ガスの価格が急激に高騰し、2022年には市場最高値を更新しました[*8], (図8)。

図8: 天然ガス・LNG価格の推移
出典:  経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー危機の今、あらためて考えたい『エネルギー安全保障』」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/anzenhosho2023.html

天然ガス価格の高騰によって、ロシアへの依存度が高かったドイツでは天然ガスの輸入価格が10倍近くまで上昇しました。アジアでは天然ガスの購入を見送り、計画停電を実施する国もありました[*9]。

ロシアのウクライナ侵攻は依然として続いており、エネルギー価格の上昇は一過性のものではない可能性もあります。

エネルギー自給率の低い日本においても、国際情勢の電気料金への影響は避けられません。

次の図9は、2010年度から2021年度までの家庭向けと産業向けの電気料金平均単価の推移です[*4], (図9)。

図9: 電気料金の平均単価の推移
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「2022—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2022_1.html

東日本大震災以降の電気料金の上昇は、エネルギー自給率が下がり、海外から輸入する化石燃料への依存が高まったのが原因です。

2014年度から2016年度にかけての一時的な電気料金の低下は、原油価格の下落ですが、その後は再び上昇傾向にあります。

このように燃料費の変動は、家庭の電気料金にもダイレクトに影響を及ぼします。

2010年度から2021年度までの10年あまりで、家庭向けの電気料金は約31%も上昇しており、家計への影響は無視できるものではありません。

 

エネルギーの安定供給を確保する取り組み
燃料の調達先多角化による地政学リスクの低減

化石燃料を輸入に頼らざるを得ない日本では、さまざまな国、ルートから化石燃料を輸入することで、安定供給を確保しています[*10], (図10)。

図10: 化石燃料の調達先多角化と権益確保
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「2022—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/1-3-1.html

天然ガスはもともとさまざまな国から輸入していましたが、2017年からは、米国で生産されるシェールガス由来の天然ガスの輸入を開始しています。

シェールガスを米国から輸入することによって、中東への依存度を下げ、国際情勢の影響を受けるリスクを低減しました。

調達先の多角化以外にも、燃料種の多様化とチョークポイントのリスク低減の取り組みもおこなっています。

チョークポイントとは、スエズ運河やパナマ運河などの物資の海上輸送ルートとして広く使われている狭い海峡のことです。

このチョークポイントで事故が起これば輸送が難しくなってしまうため、チョークポイントを通らないルートで輸送することが望まれます[*10]。

GX推進による再生可能エネルギーの導入促進

CO2を排出しない、クリーンなエネルギーである太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、国際情勢に左右されることのない重要な国産エネルギー源です。

日本では、これまでの化石燃料に頼り切った産業構造、社会構造を変革させ、再生可能エネルギー中心のものに転換するGX(グリーントランスフォーメーション)を推進しています。

GXの基本方針は、「エネルギーの安定供給」「経済成長」「脱炭素」です[*11]。

2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、GXを加速させることで、エネルギー安定供給と脱炭素分野での日本経済の産業競争力強化・経済成長につなげていく方針が示されました[*12]。

再生可能エネルギーの導入目標としては、電源構成比率36%〜38%を目標とし、実現に向けて導入推進の取り組みを図ります(表1)。

表1: 再生可能エネルギー導入推移

出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について」(2023)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/052_01_00.pdf, p.13

安価なエネルギーを安定して供給していくためには、緊急避難的な緩和措置だけではなく、抜本的にエネルギー需給構造を変化させていかなければなりません。

化石燃料などの資源が乏しい日本では、エネルギー自給率の向上に寄与する再生可能エネルギーの導入促進が急務と言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2023 第1節 エネルギー需給の概要」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/2-2-1.html

*2
電気事業連合会「世界のエネルギー消費と資源」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/world/index.html

*3
経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2020 第2部 エネルギー動向 第2章 国際エネルギー動向」(2020年)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020pdf/whitepaper2020pdf_2_2.pdf, p.173

*4
経済産業省 資源エネルギー庁「2022—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2022_1.html

*5
経済産業省 資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2022年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2022/001/

*6
経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2019 第3節 データで見る各国エネルギー事情」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2019html/1-2-3.html

*7
経済産業省 資源エネルギー庁「【日本のエネルギー、150年の歴史④】2度のオイルショックを経て、エネルギー政策の見直しが進む」(2018)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/history4shouwa2.html

*8
経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー危機の今、あらためて考えたい『エネルギー安全保障』」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/anzenhosho2023.html

*9
経済産業省 資源エネルギー庁「激動するエネルギーの『今』を知る!『これから』を考える!『エネルギー白書2023』」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyhakusho2023.html

*10
経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2021 第1節 化石資源に係るエネルギーセキュリティ」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/1-3-1.html

*11
経済産業省 資源エネルギー庁「『GX実現』に向けた日本のエネルギー政策(前編)安定供給を前提に脱炭素を進める」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gx_01.html

*12
経済産業省 資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について」(2023)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/052_01_00.pdf, p.1, p.13

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