農村漁村で導入が進む再生可能エネルギー 取り組みを後押しする「農山漁村再生可能エネルギー法」とは?

農村漁村は、私たちの生活に必要な食料を支える基盤であるとともに、農林漁業のような第一次産業が営まれる場として、重要な役割を果たしています[*1]。

一方で現在、農村漁村では高齢化と人口減少が並行して進行しており、第一次産業の担い手不足が深刻化しています。

そこで政府は、2014年5日1日に、「農山漁村再生可能エネルギー法(農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律)」を施行しました[*2]。

本法律は、農山漁村における再生可能エネルギーの導入と農林漁業の健全な発展に資する取り組みを併せて行うことで、農村漁村の活発化を図るものです。

それでは、農山漁村再生可能エネルギー法とは具体的にどのような取り組みを促進する法律なのでしょうか。その意義や取り組み事例を詳しくご説明します。

 

農山漁村を取り巻く情勢
過疎化と集落における課題

日本の総人口が減少傾向にあるなかで、農村漁村における高齢化・人口減少は、都市部に先駆けて進行しています。特に山間地域での人口減少が顕著であり、2045年には2015年から半減すると見込まれています[*3], (図1)。

図1: 農業地域類型別の人口推移と将来予測
出典: 農村振興局「農村をめぐる事情について」
https://www.maff.go.jp/j/study/nouson_kentokai/attach/pdf/farm-village_meetting-146.pdf, p.7

また、高齢化・人口減少の進行により国内で増加する過疎地域集落では、空き家の増加や耕作放棄地の増大、働き口の減少など様々な問題が生じています[*3], (図2)。

図2: 人口減少により過疎地域集落で発生している問題
出典: 農村振興局「農村をめぐる事情について」
https://www.maff.go.jp/j/study/nouson_kentokai/attach/pdf/farm-village_meetting-146.pdf, p.10

農業分野に関して、主に自営農業に従事する基幹的農業従事者数は減少傾向にあり、2022年には約122万6千人と、前年と比べて5.9%減少しました[*1]。

農業従事者の減少に伴い、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている荒廃農地も増加傾向にあります。2021年度には新たに約3万haもの荒廃農地が発生しており、農地面積は年々減少しています[*1], (図3)。

図3: 農地面積・作付け(栽培)延べ面積・耕地利用率の推移
出典: 農林水産省「令和4年度 食料・農業・農村白書」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r4/pdf/zentaiban.pdf, p.154

農村漁村における再生可能エネルギーのポテンシャル

先述したように、厳しい状況にある農村漁村ですが、こうした地域には再生可能エネルギーに活用できる資源が豊富に存在しています[*4, *5], (図4)。

図4: 農村漁村が持つ高い再生可能エネルギー導入ポテンシャル
出典: 農林水産省 大臣官房 環境バイオマス政策課「農山漁村における再生可能エネルギー発電をめぐる情勢」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/index-5.pdf, p.7

日本の国土3,780万haのうち、森林は66.3%、農地は12%を占めています。また、再生利用困難な荒廃農地や森林から発生する未利用間伐材などを利用すれば、太陽光発電やバイオマス発電のさらなる導入が可能です[*4]。

例えば、荒廃農地14.4万haを単純に全て太陽光発電設置に活用した場合、年間発電量は984億kWhになります。これは、2022年度の国内の年間需要電⼒量8,347.億kWhの10分の1以上に相当します[*4, *5]。

また、農業用水利施設を活用して小水力発電を行った場合、年間8.9億kWhもの発電量が見込めます。さらに、バイオマス発電については、未利用間伐材の年間発生量2,000万m3を発電に活用できれば、年間発電量は70億kWhになると試算されています。

再生可能エネルギーの導入による農村漁村への経済効果もメリットの一つです。発電設備の維持管理や木質バイオマスにおけるチップ加工など周辺事業が活発化し、雇用も創出されるため、地域内の所得向上等にもつながると言えます[*6]。

 

農山漁村再生可能エネルギー法とは

以上のような再生可能エネルギーのポテンシャルを有効活用し、農村漁村における課題に対処するため、政府は2014年5日1日に、「農山漁村再生可能エネルギー法」を施行しました[*2]。

本法律は、地域の資源を農業との調和を図りながら再生可能エネルギー発電に活用することで、地域の所得向上など地域の活性化に結び付けることを目的としています[*7]。

市町村と発電事業者にメリットのある枠組み

農山漁村における再生可能エネルギー普及に向けて、「農山漁村再生可能エネルギー法」では、協議会等による地域主導の計画制度や、発電と併せて農業振興の取り組みを促す仕組みを規定しています[*7, *8], (図5)。

図5: 農山漁村再生可能エネルギー法の枠組み
出典: 農林水産省「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律の概要」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/pdf/re_ene4.pdf

市町村による基本計画は、法の基本理念に即して、適切かつ速やかな実施が求められていますが作成に当たっては、地域の農林漁業の実情に詳しい関係農林漁業者や団体等の意見を踏まえることが重要です[*9]。

本法律では、設備整備者、農林漁業者、関係住民、学識経験者等の地域の関係者から成る協議会の設置を規定しています。市町村は、協議会を通じて、再生可能エネルギーの導入のあり方や設置にかかる懸念点、具体的な設置方法等について議論することで、地域とのスムーズな合意形成が可能となり、結果として、地域主導の再生可能エネルギー導入を推進することにつながります[*9]。

一方、発電事業者は市町村から設備認定計画の認定を受けることで、出力制御上の優遇措置を受けられるメリットなどがあります。

農山漁村再生可能エネルギー法に基づく取り組みの大まかな流れは次の通りです[*9], (図6)。

図6: 農山漁村再生可能エネルギー法に基づく取組の流れ
出典: 大臣官房環境バイオマス政策課再生可能エネルギー室「農山漁村再生可能エネルギー法に基づく基本計画の作成等の手引き」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/houritu-15.pdf, p.6

市町村は、発電事業者等からの基本計画作成の提案を受けて検討し、実施の場合、地域の再生可能エネルギー導入に向けて協議会を設置します。

その後、市町村は基本計画を作成します。同時に、発電事業者は設備整備計画を市町村へ申請し、認定を受けたら再生可能エネルギー発電設備の整備・運営を農林漁業者と連携して進めていくという流れになります。

 

農山漁村再生可能エネルギー法に基づく取り組み事例

2014年の施行以降、農山漁村再生可能エネルギー法に基づく基本計画を作成し、事業を推進する市町村は増加しています。2023年3月末時点、87の市町村が基本計画済みで、8の市町村は基本計画を作成中です[*10], (図7)。

図7: 都道府県別の基本計画作成状況
出典: 農林水産省「基本計画作成の取組状況について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/kihon_keikaku.html#torikumi

本法律に基づき取り組みを行う地区の増加に伴い、再生可能エネルギー電気・熱に係る経済規模も増加しています[*1], (図8)。

図8: 農山漁村再生可能エネルギー法に基づき取り組みを行う地区における経済規模の推移
出典: 農林水産省「令和4年度 食料・農業・農村白書」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r4/pdf/zentaiban.pdf, p.245

2016年度時点で約187億円であったその経済規模は、2021年度には約521億円と大幅に増加しています。

青森県横浜町における風力発電の導入

青森県横浜町は、日本最大規模の作付面積を誇る菜の花畑があるなど、農業が盛んな地域です。しかしながら近年は、高齢化が進み、耕作放棄地等が増加したことにより、未利用地の有効活用について検討する必要がありました[*11, *12]。

そこで、横浜町では、農山漁村再生可能エネルギー法に基づき、行政と事業者、関係住民で構成された協議会を設置し、2018年度から14基の風力発電の運転を開始しています[*11, *12], (図9)。

図9: 青森県横浜町における風力発電事業スキーム
出典: 農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課再生可能エネルギー室「農山漁村再生可能エネルギー取組事例集2018」
https://www.maff.go.jp/j//shokusan/renewable/energy/attach/pdf/zirei-138.pdf, p.2

同発電所での想定発電量は一般家庭の約1万5,000世帯分に相当し、年間で約3万5,000トンのCO2排出抑制に貢献しています[*13]。

また、同事業では、町と風力発電会社が共同出資でSPC(特別目的会社)を設立し、収入の一部を農林漁業の振興に活用しています[*11]。

さらに、風力発電の設置場所に耕作放棄地を活用することで、耕作放棄地の解消にもつながるなど、地域へ様々な恩恵をもたらしています。

大分県日田市におけるバイオマス発電の導入

阿蘇・くじゅう山系や英彦山系の山々に囲まれ、古くから林業の町として栄えてきた大分県日田市では、木質バイオマス発電を推進しています[*14, *15], (図10)。

図10: 大分県日田市における木質バイオマス発電事業スキーム
出典: 農林水産省「地域資源バイオマスを活用した安定的な発電体制の確立により、 林業と農業の活性化を図る」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/kihon_keikaku-16.pdf

日田市ではこれまで、林業従事者の減少、建築用木材の需要低迷などに伴い、間伐材などの未利用材は放置されるようになっていました。そこで、未利用材を発電の原料として有効活用し、地域の林業を振興するため、2013年に木質バイオマス発電所を稼働開始しています[*15]。

2014年の農山漁村再生可能エネルギー法施行後、木質バイオマス発電のさらなる取り組みを地域一体となって進めるため、2016年には行政や発電事業者、森林組合等で構成される協議会を開催しました。

現在、林業事業者から年間7万トンもの未利用材チップの供給を受け、年4,500万kWhの電力を市内38の公共施設に供給しています。

また、木質バイオマス発電の隣接地で地元農家と連携し、発電時に発生する温排水を利用したイチゴ栽培を行うなど、農業との連携を強化しています[*14], (図11)。

図11: 木質バイオマス発電から発生した温排水を利用したイチゴ栽培
出典: 農林水産省「大分県日田市株式会社モリショウグループ・森山代表に聞く
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/interview/morisho.html

温排水の活用によって、一般的なハウスでの栽培に比べて重油使用量を3分の1程度に抑えられ、温室効果ガスの抑制につながるとともに、コスト削減も実現しています。

 

農村漁村における再生可能エネルギーの導入拡大に向けて

農林水産省は、農村漁村再生可能エネルギー法に基づく取り組みを行う地区における経済規模について、2023年度には600億円にすることを目標としています[*1]。

先述したように、2021年度時点の経済規模は521億円のため、目標を達成するためには、様々な課題を克服する必要があります。例えば、太陽光発電を農地の上部に設置することで農業と両立する営農型太陽光発電の設置件数が近年増加していますが、不適切な事例も増加傾向にあります[*1]。

具体的には、2020年度末時点で存続している取り組み2,535件のうち、458件で太陽光パネル下部の農地において作物の生産がほとんど行われていませんでした。再生可能エネルギーの導入拡大に向けては、農業など一次産業と両立を図りながら進めていくことが求められています。

また、既存の法体系では、農地での再生可能エネルギー設置が難しいケースも多くあります。例えば、再生利用困難な荒廃農地については、農業委員会が非農地判断を行うため、時間を要することがありました[*16]。

さらに、荒廃農地を農地以外の目的に一時的に利用する一時転用の期間が10年以内であるため、再生可能エネルギー事業実施に向けた資金調達が難しいという課題もあります。

以上のような課題を一つひとつ解決し、行政と発電事業者、地域の住民等が連携して取り組みを進めていくことが、農村漁村における再生可能エネルギー導入拡大のカギとなるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
農林水産省「令和4年度 食料・農業・農村白書」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r4/pdf/zentaiban.pdf, p.137, p.154, p.222, p.223, p.245, p.246, p.293

*2
農林水産省「農山漁村再生可能エネルギー法」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/houritu.html

*3
農村振興局「農村をめぐる事情について」
https://www.maff.go.jp/j/study/nouson_kentokai/attach/pdf/farm-village_meetting-146.pdf, p.4, p.7, p.10

*4
食料産業局再生可能エネルギーグループ「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律(農山漁村再生可能エネルギー法)について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/pdf/houritsu.pdf, p.2

*5
資源エネルギー庁「結果概要【2022年度分】」
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/pdf/2022/0-2022.pdf, p.1

*6
農林水産省 大臣官房 環境バイオマス政策課「農山漁村における再生可能エネルギー発電をめぐる情勢」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/index-5.pdf, p.7

*7
農林水産省「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律の特徴(農業関係)」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/pdf/re_ene5.pdf

*8
農林水産省「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律の概要」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/pdf/re_ene4.pdf

*9
大臣官房環境バイオマス政策課再生可能エネルギー室「農山漁村再生可能エネルギー法に基づく基本計画の作成等の手引き」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/houritu-15.pdf, p.5, p.6, p.11, p.19

*10
農林水産省「基本計画作成の取組状況について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/kihon_keikaku.html#torikumi

*11
農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課再生可能エネルギー室「農山漁村再生可能エネルギー取組事例集2018」
https://www.maff.go.jp/j//shokusan/renewable/energy/attach/pdf/zirei-138.pdf, p.2

*12
農林水産省「SPCを創設し、専門家との連携により身の丈を踏まえながら戦略的な取組を目指す」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/kihon_keikaku-12.pdf

*13
日立キャピタル株式会社、よこはま風力発電株式会社「青森県横浜町で32.2MW『横浜町雲雀平(ひばりたいら)風力発電所』が運転開始」
https://www.mitsubishi-hc-capital.com/pdf/investors/hc/newsrelease/2018/20180201.pdf, p.1

*14
農林水産省「大分県日田市株式会社モリショウグループ・森山代表に聞く」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/interview/morisho.html

*15
農林水産省「地域資源バイオマスを活用した安定的な発電体制の確立により、 林業と農業の活性化を図る」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/kihon_keikaku-16.pdf

*16
農林水産省「農山漁村地域の再生可能エネルギーの目標設定について」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20220425/220425energy10.pdf, p.3

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