私たちの暮らしはエネルギー消費によって成り立っており、家庭でも電気やガスなどの多くのエネルギーを使用しています。
便利で快適な生活を追求してきた結果、一般家庭でのエネルギー消費は1973年から2018年の間に約2倍近く増加しています。
近年は省エネ意識の高まりにより、家庭のエネルギー消費は減少しつつありますが、カーボンニュートラルの実現のためにはさらなる省エネが必要です。
家庭でできる省エネ行動は多くありますが、実際にどのくらいCO2を削減できるのかを把握することは、難しいかもしれません。
この記事では、環境省が毎年実施している「家庭部門のCO2排出実態調査」の結果をもとに、家庭のエネルギー消費の傾向と効果的な省エネルギー行動について解説します。
家庭のエネルギー消費の変遷と省エネ意識の高まり
日本のエネルギー消費は経済成長に伴い増加しており、1973年度と2018年度を比較すると大幅に伸びています[*1], (図1)。
図1: 最終エネルギー消費の部門別伸び率
出典: 経済産業省資源エネルギー庁「省エネって何?」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/what/
製造業などを含む産業部門に関しては、世界的な経済の低迷や省エネの推進により減少しているものの、自動車などの運輸部門は1.7倍、オフィスや商業施設などが含まれる業務他部門は2.1倍、そして家庭部門は1.9倍に増加しています[*1, *2]。
家庭でのエネルギー消費は、経済成長や世帯数の増加、利便性・快適性を求めるライフスタイルの変化によって、1965年度から2005年度まで増加傾向にありました。
1973年度の家庭部門のエネルギー消費を100とすると、ピークとなった2005年度の実績は221.4で、2倍以上に増加しています[*2], (図2)。
図2: 家庭部門のエネルギー消費と経済活動等
出典: 経済産業省資源エネルギー庁「第2節 部門別エネルギー消費の動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/2-1-2.html
2005年度から2010年度にかけて家庭部門のエネルギー消費がほぼ横ばいとなっていったのは、家電などの省エネ技術の普及や国民の省エネ意識の向上が背景にあると考えられています。
省エネ家電の商品開発を促進したのは、1998年の省エネ法改正によって導入された「トップランナー制度」です。
トップランナー制度とは、エネルギー消費の多い家電や自動車などの機器を対象とし、目標年度の省エネ基準を達成できるように事業者に求める制度です[*3]。
トップランナー制度における目標値は、現状販売されている商品の中でもっともエネルギー消費効率が優れているものが基準とされます[*4], (図3)。
図3: トップランナー基準の考え方(エアコンの場合)
出典: 経済産業省資源エネルギー庁「機器の買換で省エネ節約」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/choice/
省エネ家電の開発・普及に加えて、2011年の東日本大震災をきっかけに省エネへの意識がさらに高まり、家庭部門のエネルギー消費は低下し始めました。
なお、2020年度に関しては、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに在宅率が高まったことが原因で、エネルギー消費が上昇しています[*2]。
環境省が実施している「CO2排出実態統計調査」とは
進行が進んでいる世界規模の気候変動を食い止めるために、CO2をはじめとした温室効果ガスの削減が急務となっています。
カーボンニュートラルの実現を目指す日本では、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年実績から46%削減することを目指して、以下のような計画を策定しています[*5], (表1)。
表1: 地球温暖化対策推進法に基づく政府の総合計画出典: 環境省「地球温暖化対策計画の改定について」
https://www.env.go.jp/content/900440196.pdf, p.1
家庭部門は、2013年度比から66%減の大幅な削減を目指しており、他部門と比較しても高い目標が掲げられています。
このような背景もあり、環境省では2017年度から「家庭部門のCO2排出実態調査」を毎年実施しています。
この調査は全国の世帯を対象としており、家庭部門のCO2排出量を把握し、効果的な削減対策を検討することが目的です。
詳細な調査を行うことで、どの部分にCO2削減の余地があるのか、目標達成のためにどのような対策が必要なのかを把握することができます[*6]。
調査結果から読み解く家庭のエネルギー消費トレンド
では、環境省が実施している「家庭部門のCO2排出実態調査」の令和4年度(2022年度)版の速報値をもとに、日本の家庭のエネルギー事情についてみていきましょう。
まず、次の図4は世帯あたりの年間エネルギー種別のCO2排出量推移です[*7]。
図4: 世帯当たり年間エネルギー種別 CO2排出量の推移(全国)
出典: 環境省「令和4年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査 結果について(速報値)」(2023)
https://www.env.go.jp/content/000211423.pdf, p.2
2022年度の世帯あたりの年間CO2排出量は2.57トンで、2017年度の3.20トンと比較すると約20%減少しています。
2020年度で一度上昇しているのは、図2で紹介した家庭部門のエネルギー消費のデータと同様に、新型コロナウイルスの感染拡大によって在宅率が上昇したことが原因ではないかと推測できます。
次の図5は、世帯あたりの月別のCO2排出量で、1年を通じて1月がもっとも多くなっています[*7]。
図5: 世帯当たり月別エネルギー種別 CO2排出量
出典: 環境省「令和4年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査 結果について(速報値)」(2023)
https://www.env.go.jp/content/000211423.pdf, p.8
これは冬の暖房需要によるものと考えられ、12月〜2月の3か月で年間排出量の約35%を占めています。
そして次の図6は、住宅の建て方別の世帯あたりのCO2排出量の比較です[*7]。
図6: 建て方別世帯当たり年間エネルギー種別 CO2排出量
出典: 環境省「令和4年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査 結果について(速報値)」(2023)
https://www.env.go.jp/content/000211423.pdf p.5
住宅の建て方別に比較すると、戸建て住宅は集合住宅の約1.8倍ものCO2を排出しています。
エネルギー消費量は世帯人数に比例して多くなることが、この調査によってわかっているため、その影響である可能性が考えられます[*7]。
ではさらに詳しく、エネルギーの使用用途別のCO2排出量について、住宅の建て方別に見ていきましょう[*7], (図7)。
図7: 建て方別世帯当たり年間用途別 CO2排出量
出典: 環境省「令和4年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査 結果について(速報値)」(2023)
https://www.env.go.jp/content/000211423.pdf p.27
このデータをみると、戸建て住宅は集合住宅に対して照明や家電のCO2排出量が約1.6倍であるのに対し、暖房のCO2排出量は約2.9倍と大きく差が開いています。
これは、一戸建てと比較して集合住宅は一定の断熱性能が確保されていることと、外気に接する表面積が小さいことが関係していると考えられます。
他にも集合住宅と戸建て住宅で違いが見られるのは、太陽光発電システムの設置状況です。戸建て住宅は12.2%の割合で設置されているのに対し、集合住宅ではわずか0.1%です。
太陽光発電システムは省エネ効果が高く、使用している戸建て住宅は使用していない戸建に比べて、約20%のエネルギー消費が抑えられています[*7], (図8)。
図8: 太陽光発電システム使用の有無別世帯当たり年間エネルギー種別消費量(戸建)
出典: 環境省「令和4年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査 結果について(速報値)」(2023)
https://www.env.go.jp/content/000211423.pdf, p.9
環境省が実施した調査結果から、2017年度以降は家庭からのCO2排出は減少傾向にあるものの、エネルギー消費の多い冬季に関してはまだ省エネの余地があることが窺えます。
さらに、一戸建て住宅は集合住宅と比較してCO2排出量が多いことから、暖房の使用を抑えるための住宅性能の向上や太陽光発電システムの導入が、省エネ促進の鍵であると読み取ることができます。
生活の中で省エネ行動を実施するヒント
家庭でのCO2排出を減らしていくには、エネルギー消費の多い家電の使用方法を見直すことが効果的です。
次の図9は家電製品別のエネルギー消費割合で、夏季はエアコン、冷蔵庫、照明、給湯、冬季はエアコン、冷蔵庫、給湯、照明の順で多くなっています[*8]。
図9: 家庭における家電製品の1日での電力消費割合
出典: 経済産業省資源エネルギー庁「家庭でできる省エネ」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/
環境省が実施した「家庭部門のCO2排出実態調査」では、省エネ行動の実施状況と省エネによるCO2排出量の変化についても調査しています。
省エネ行動の実施状況を調査した結果、「冷蔵庫を開けたままにしたり、むやみに開閉しないようにしている」を88%、「エアコンの室外機の吹き出し口に物を置かないようにしている」を85%、「短時間でも場所を離れるときは消灯を心がけている」を78%、「シャワーを使うときは、不必要に流したままにしない」を77%の人が実践していることがわかりました。
一方、エネルギー消費の多いエアコン、冷蔵庫、照明、給湯に関する省エネ行動に注目すると、「冷蔵庫の温度設定を夏は“中”以下、他の季節は“弱”にしている」、「家族が続けて入浴するようにしている」「給湯器を使用しないときは、コントローラー(リモコン)の電源を切るようにしている」などに関して実施していると回答した人は5割以下にとどまり、省エネ行動によって実施状況に差が見られます[*7]。
「冷蔵庫の温度設定を夏は“中”以下、他の季節は“弱”にしている」を実施している世帯は47%でしたが、実施していない世帯と比較するとCO2排出量が約10%減少しています。
図10: 省エネルギー行動実施状況別世帯当たり年間エネルギー種別 CO2排出量<冷蔵庫の温度設定を夏は“中”以下、他の季節は“弱”にしている>
出典: 環境省「令和4年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査 結果について(速報値)」(2023)
https://www.env.go.jp/content/000211423.pdf, p.17
「家族が続けて入浴するようにしている」も同様で、実施している世帯では、CO2排出量が約10%減少するというデータが得られています[*7]。
環境省の調査の結果、現状あまり実践されていない省エネ行動も、十分にCO2削減効果があることがわかりました。
省エネ行動には、生活の中で無理なくできるものが多くあります。省エネ行動によってどのくらいCO2排出量が削減できるのかに関しては、環境省以外にも経済産業省や各自治体、家電メーカーなどがそれぞれ定量的な評価を公表しています。
さまざまなデータを読み解くことで、より効果的な省エネ行動を効率的に選択することができるようになるかもしれません。
参照・引用を見る
*1
経済産業省資源エネルギー庁「省エネって何?
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/what/
*2
経済産業省資源エネルギー庁「第2節 部門別エネルギー消費の動向」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/2-1-2.html
*3
経済産業省資源エネルギー庁「省エネ大国・ニッポン ~省エネ政策はなぜ始まった?そして、今求められている取り組みとは?~」(2018)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/shoenetaikoku.html
*4
経済産業省資源エネルギー庁「機器の買換で省エネ節約
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/choice/
*5
環境省「地球温暖化対策計画の改定について」
https://www.env.go.jp/content/900440196.pdf, p.1
*6
環境省「家庭部門のCO2排出実態統計調査(家庭CO2統計)とは?」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/kateico2tokei/about/
*7
環境省「令和4年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査 結果について(速報値)」(2023)
https://www.env.go.jp/content/000211423.pdf, p.2, p.5, p.7, p.8, p.9, p.15, p.17, p.16, p.27
*8
経済産業省資源エネルギー庁「家庭でできる省エネ」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/