風力タービンの仕組みから考える、風力発電のこれからの可能性について

「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(2009年7月成立)」で、自然エネルギー(再生可能エネルギー)は、「非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用できると認められるもの」と定められています。代表的な自然エネルギーとして、太陽光、風力、バイオマス、水力、地熱などが挙げられます。本記事では風力発電について説明します。

風力発電とは、風の運動エネルギーをプロペラ等で回転エネルギーに変換し、発電機で電気エネルギーに変換する発電方式です。国内での導入実績は、2016年度末で2,203基、累積設備容量は335.7万kwまで増加しています(*1)。 風力発電がより普及するためには、継続して発電コストを下げる必要があります。

 本記事では風力発電を広く知って頂くため、風力発電の国内外の状況、及び風力発電における主要技術の1つ「風力タービン」の仕組みについて説明します。

風力発電の特徴

地球は太陽からの熱エネルギーを受けています。この熱エネルギーは地表や海の温度を上げます。地表や海の温度が上がると、空気の温度が上がります。空気の温度が上がると、空気は膨張して軽くなり、上昇気流が発生します。逆に空気の温度が下がると、空気は収縮して重くなり、下降気流が発生します。地上付近では、下降気流の発生している場所から上昇気流が発生している場所へと空気が移動します。つまり風が発生します。地表と海、赤道付近と極付近、季節、地球の自転など様々な要因で風が発生します。よって風力は自然エネルギーとして永続的に利用可能です。次に風力発電の特徴を説明します。

陸上と洋上のどちらでも発電できる

風力発電の導入には風況の良い場所の選定が重要であり、年間平均風速7m/秒以上が目安とされています(*2)。陸上で風力発電を導入する場合、設置やメンテナンスが容易である反面、風況、地形、近隣住民の合意などにより適地が限定的です。洋上風力発電の場合、陸上と比較して発電コストが大きくなりますが、適地が広く、今後の技術革新により導入が進むポテンシャルがあります。

技術革新により経済性を確保できる

大規模な風力発電が実現できれば、火力発電並みの安価な発電コストが見込めます。その他、風力発電設備の発電効率向上、構成部品の信頼性向上、風況予測の精度アップ、設備の制御システム開発などにより発電コストの低減が進められています。

ライフサイクルCO2排出量が少ない

発電時に必要な燃焼時のCO2発生に加え、原料の採掘、発電設備の建設、燃料輸送、精製などに消費される全てのエネルギーを対象に算出したCO2排出量を「ライフサイクルCO2排出量」と呼びます。風力発電は火力発電と比較して、圧倒的にライフサイクルCO2排出量が少ない発電方式です。

引用:JAERO 日本原子力財団  原子力・エネルギー図面集【2-1-9】各種電源別のライフサイクルCO₂排出量
 https://www.ene100.jp/zumen_cat/chap2

風力発電全体の構成

風力発電全体の構成を陸上風力発電、洋上風力発電に分けて説明します。

陸上風力発電

引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書(第2版)  第3章 風力発電_7P
https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf

一般的に、風力発電設備は、風の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する風力発電機(風力タービン)、風力発電機を制御・管理する運転監視施設、電力系統に配電するための陸上変電所、送電線、通信ケーブルから構成されています。

運転監視施設では、風力発電機の稼働状況をリアルタイムに把握し、必要に応じて風力発電機(風力タービン)の運転・停止を行います。変電所では、電力系統に配電するための電圧変換だけでなく、風力発電にトラブルが発生した際、電力系統に悪影響を及ぼすことを防ぐため、電力系統から風力発電設備を切り離す機能を有しています。

洋上風力発電

引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書(第2版)第3章_7P
https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf

洋上風力発電では、陸上風力発電設備に加えて、洋上変電所、海底送電線、湾岸設備などが必要になります。湾岸設備では、洋上の風力発電機の建設や運転保守などの目的で、作業船の出航・停泊、運搬物の保管等を行います。また海底送電線のコスト削減(例:高圧ケーブル使用による海底ケーブル本数の削減)のため、洋上変電所を建設することがあります。

風力タービンの仕組み

風力発電機は、風力タービン(Wind turbine)とも呼ばれます。発電コストを下げるために、発電効率向上に加えて、メンテンナンスの容易化、故障のしにくさ(信頼性)が求められます。今後導入が増加すると予想される洋上風力発電ではより重要です。

風力タービンの形式は、回転軸の地面に対する方向によって「水平軸」と「垂直軸」に分けられます。また、翼の揚力を利用する「揚力形」、風の押す力を利用する「抗力形」があります。

引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書(第2版)第3章 風力発_6P
https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf

「水平軸」で「揚力形」の例として、プロペラ型の風力タービンの構造を説明します。

プロペラ型の風力タービンの構造

引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書(第2版)第3章 風力発_7P
https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf

ブレードにより風の運動エネルギーが回転エネルギーに変換されます。また発電効率アップのため、ブレードの大型化が進んでいます。定格出力1~2MWの場合、ロータ(羽根車)直径は60~90mが一般的です(*2_47P)

 ロータ軸の回転は、増速機によって回転数を上げて発電機に伝達されます。増速機は歯車とベアリングで構成されています。高速状態では不具合が生じやすいため、定期的なメンテナンスが必要です。近年、特にメンテナンスにコストがかかる洋上での運用を考慮し、増速機のないダイレクトドライブ方式の採用が強まっています。ロータ軸の回転数を上げずに低速で発電する必要があるため、極数の多い発電機を採用して対応します。風力タービンの生産コストはアップしますが、軽量化などのメリットもあります。

さらにダイレクトドライブ方式に用いられる発電機に対して、小型化、軽量化の開発が進められています。発電の際、外部から発電機の回転子に駆動電力を供給する方式から、永久磁石を採用して電力供給を不要にする構造が検討されています。

なお、タワーが高いほど、風の運動エネルギーは大きくなります。つまり発電量が増加し、発電コスト低減につながります。定格出力1~2MWの場合、タワーの高さは60~80mが一般的です(*2_47P)

 ベッツの法則とは

その風力発電における発電効率を考える上で、無くてはならない考え方があります。ベッツの法則です。

自然界のエネルギーをすべて電気エネルギーに変換することができれば、変換効率100%となります。風力発電の場合、風の運動エネルギーを風力タービンのブレードで受けますが、ブレードを通過する風が存在するため、風の全運動エネルギーを回転エネルギーに変換することはできません。その他、増速機、発電機で損失が発生するため、風力発電の変換効率は30~40%と言われています。(*2_4P)

一方で、「薄い羽根車状の回転機械を用いて、流体の運動エネルギーから取り出せるエネルギー」に言及したベッツの法則についてです。風力発電の場合、流体は風にあたります。この風の運動エネルギーから取り出せるエネルギーの割合を計算することになります。

ベッツの法則によると、プロペラに向かう風速がプロペラ通過後に1/3になるとき、風の運動エネルギーから取り出すことのできるエネルギーが最大になるとされています。

そしてその割合は59.3%です(*3)。この値は理論的な最大値であり、実際にはこの値より小さくなりますが、言い方を変えれば、現在30~40%に留まっている風力タービンの発電効率を、さらに向上するポテンシャルがあると言えるでしょう。

将来の技術力向上により、風力発電の可能性がさらに広がっていきそうです。

国内における風力発電の状況

風力発電の導入について、2016年度末で2,203基、累積設備容量は335.7万kw(3,357MW)まで増加していることは先述のとおりです(*1)。2030年に発電する電力の内、1.7%程度を風力発電とすることを目指していますが、2016年度末時点では2030年見通しに対して約34%しか導入が進んでいません。なお、太陽光発電は2030年見通しに対して約61%の導入が進められています(*4)。 

下図は2017年度までの日本における風力発電の導入推移です。2017年度では、設備容量3,502,787kW,  設置基数 2253基に達しています。

引用:NEDO 日本における風力発電導入量の推移のグラフ
https://www.nedo.go.jp/library/fuuryoku/pdf/02_dounyuu_suii.pdf

これまでは陸上風力発電が国内の適地に導入されてきました。さらなる風力発電の普及のためには洋上風力発電の推進が必要で、洋上風力発電に関する法律「一般海域における洋上風力開発を促進する洋上新法」が2018年11月6日に閣議決定されています。(*5)

また、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が千葉県銚子沖、福岡県北九州市沖に洋上風力発電の設備を設置し、実用に向けての技術開発を行いました。技術開発は完了し、2018年3月に「着床式洋上風力発電導入ガイドブック(最終版)」が公開されました。(*6)

海底に基礎を設置する着床式風力発電は50m以浅の海域が適地とされています。今後は、水深50m以上に対応した、基礎を必要としない浮体式洋上風力発電の技術開発、及び経済性の確立が必要です。

海外における風力発電の状況

世界全体の風力発電累積導入量は堅調に伸びており、2012年末までで282.6GWに達しています。下記グラフの通り、中国、米国、ドイツ、スペイン、インドが牽引しています。

引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書(第2版)第3章 風力発_32P
https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf

下図は世界の洋上風力発電の累積導入量(青色)、及び単年導入量(赤色)の推移グラフです。洋上風力発電の導入も進んでいることを示しています。

引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書(第2版)第3章 風力発_35P
https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf

現在は、英国、デンマーク、ベルギー、ドイツ、フィンランドが中心ですが、今後は米国、中国、その他新興国においても導入が進むと予想されています。

まとめ

風力発電の普及には発電コストを下げ、健全な事業化が可能となる経済性の確立が必須です。そのためには、風力発電設備の発電効率向上、構成部品の信頼性向上、風況予測の精度アップ、設備の制御システム開発などの確立が必要となります。

さらに、風力タービンに対してはメンテナンスコストの低減が重要です。今後導入が増加する可能性のある洋上風力発電では特に重要となってきます。具体的には増速機のないダイレクトドライブ方式の採用が挙げられます。

日本は世界6位の面積を持つ海洋国家です。洋上風力発電の導入ポテンシャルは大きいと言えます。しかし、事業化に向けて、台風や地震への備えも必須です。海外技術の単なる展開ではなく、日本特有の気候や災害が風力発電設備に与える影響を把握し、これらに対応していく必要があるでしょう。

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参照・引用を見る
  1. 経済産業省 資源エネルギー庁 ホームページ 「再生エネルギーとは  風力発電」
    https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/wind/index.html
  2. 国立研究開発法人 NEDO 「NEDO 再生可能エネルギー術白書  第2版 第3章 風力発電」
    https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf
  3. 国立研究開発法人 NEDO 「風力発電の最大発電効率-ベッツの法則」
    https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/jyoushi_2010/fujijyuukou/colum01.html?height=400&width=610
  4. 経済産業省 資源エネルギー庁 ホームページ 「これからの再エネとして期待される風力発電」
    https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/huryokuhatuden.html
  5. 一般社団法人 日本風力発電協会「洋上新法が国会で承認されました (2018/11/30)」
    http://log.jwpa.jp/content/0000289630.html
  6. 国立研究開発法人 NEDO 2018年3月に「着床式洋上風力発電導入ガイドブック(最終版)」
    https://www.nedo.go.jp/library/fuuryoku_d.htm<Photo:Håkan Dahlström>
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