CO2排出量が多い? 石炭火力発電におけるCO2削減対策を解説

2024年4月、G7気候・エネルギー・環境相会合は、CO2の排出削減対策のない石炭火力発電を2035年までに段階的に廃止することで合意し、共同声明を発表しました[*1]。

日本は火力発電への依存度が高く、発電量の約7割を占めています。特に、環境負荷の高い石炭火力発電については、全体の約3割を占めており、クリーンな燃料への転換など対策が求められています。

それでは、石炭火力発電の環境負荷はどの程度なのでしょうか。また、脱炭素化に向けて、現在、どのような対策が行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

 石炭火力発電の仕組みと環境負荷
石炭火力発電の仕組み

火力発電は、燃料を燃やした熱で蒸気を作り、その蒸気をタービンにぶつけて回すことで電気を作る発電です。大量の電気を作ることができ、発電する量も調整しやすいのが大きなメリットです[*2], (図1)。

図1: 火力発電の仕組み
出典: 資源エネルギー庁「電気をつくる方法 その1 火力発電・水力発電」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pamph/manga_denki/html/004/

火力発電の燃料には、石油や石炭、天然ガスなど様々な資源が使われていますが、石炭を燃料として使用するものを石炭火力発電と言います。

石炭火力発電には、いくつかの発電方式があります。現在、日本で主に利用されているのは蒸気タービンのみで発電する方式です。「亜臨界圧(SUB-C)」、「超臨界圧(SC)」、「超々臨界圧(USC)」といった種類があり、蒸気の温度や圧力を上げることで発電効率が上がります[*3]。

また、石炭をガス化して燃焼させる「石炭ガス化複合発電(IGCC)」や、IGCCにさらに燃料電池を組み合わせた「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)」などの方式もあります[*3], (表1)。

表1: 石炭火力発電の種類

出典: 資源エネルギー庁「非効率石炭火力発電をどうする? フェードアウトへ向けた取り組み」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/hikouritu_sekitankaryoku.html

石炭火力発電による環境への影響

石炭には、生産国が多様で政情不安定によって安定供給が途絶えるというリスクが化石燃料の中で最も低く、熱量当たりの単価が安いというメリットがあります。一方で、石炭は、燃焼時に温室効果ガス排出量が多いというデメリットがあります[*3]。

電力中央研究所の試算によると、各種発電技術のライフサイクル(発電所の建設等から廃棄までの一連の流れ)におけるCO2排出量は、石炭火力発電が最も多くなっています[*4], (図2)。

図2: 各種発電技術のライフサイクルCO2排出量
出典: 資源エネルギー庁「『CO2排出量』を考える上でおさえておきたい2つの視点」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lifecycle_co2.html

化石燃料を使用する火力発電は、他の発電方法と比較して多くのCO2を排出しています。その中でも、石炭火力発電のCO2排出量は特に多く、LNGを燃料とした火力発電と比較しても2倍近くの差があります。

石炭火力発電を取り巻く国内外の状況
海外における石炭火力発電の動向

世界のエネルギー消費は、経済成長とともに増加しています。石油換算では、1965年から年平均2.4%で増加しており、2022年には144億トンに達しました[*5], (図3)。

図3: 世界のエネルギー消費の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf, p.126

エネルギー消費の増加に伴って、石炭の消費量も増加傾向にあります。2013年以降は増減を繰り返していますが、2022年には過去最高となる84.0億トンが消費されました。

2021年の石炭の消費別の用途を見ると、発電用が67.2%、コークス製造用が12.3%、製紙・パルプ・窯業等の産業用が12.0%となっており、発電への利用が最も多くなっています。

近年、各国は再生可能エネルギーの導入を積極的に進めており、石炭火力への依存度が低下している国もあります。しかしながら、電源別の世界の発電電力量の推移を見ると、石炭火力の割合は依然として最も高く、36.1%となっています[*5], (図4)。

図4: 世界の発電電力量の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)」https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf, p.153

これは、石炭が世界中に偏りなく広く分布しているため、政情不安の影響を受けにくく、価格が安定しているためです。また、可採年数は石油、天然ガスの2.5倍以上と埋蔵量が豊富なため、石炭は安定供給を見込める資源と言えます[*6]。

国別に見ると、イギリスやフランスなど発電電力量に占める石炭火力の割合が低い国がある一方で、日本やドイツ、中国、韓国は3割を超えています。特に中国は6割以上を石炭火力に依存しており、気候変動問題への対応が課題となっています[*5], (図5)。


図5: 主要国の発電電力量と発電電力量に占める各電源の割合
出典: 資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf, p.153

日本における石炭火力発電の動向

国内においては、先述したように発電電力量に占める石炭火力の割合が31.0%と、天然ガスの34.6%に次いで2番目に多い数値となっています[*5 ]。

石炭消費を用途別に見ると、発電用が最も多く、2022年度には約1.1億トン消費されました。石炭火力発電から他の電源への転換が進んだため、1979年度には約700万トンまで減少しましたが、オイルショック後の石油代替政策の一環として、石炭火力発電の新設及び増設が進んだことにより増加に転じ、近年の年間消費量は約1.1億トン前後で推移しています[*5], (図6)。

図6: 石炭消費の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf, p.104

環境負荷の低減に向けた動向

日本を含む多くの国で、電力供給にかかる依存度が高い石炭火力発電ですが、カーボンニュートラルの実現に向けては、石炭火力分野における対策が不可欠です。

そこで、2021年に日本政府は、2030年度の温室効果ガス排出量を46%削減、さらには50%の削減を目指した「第6次エネルギー基本計画」を策定しました。特に、エネルギー需給に関して、石炭火力の割合を2019年時点の32%から19%まで下げることを目指しています[*7], (図7)。

図7: 2030年度におけるエネルギー需給の見通し
出典: 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画の概要」
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-2.pdf, p.12

石炭火力の依存度を下げるためには、再生可能エネルギーのさらなる活用が不可欠です。また、脱炭素化の推進に向けては、石炭に代わる代替燃料の活用や、石炭火力発電から排出されたCO2を大気中に出さない技術の活用も求められています。

それでは石炭火力発電のCO2排出量削減等に向けて、日本ではどのような対策がとられているのでしょうか。今回は、石炭火力分野における脱炭素の取り組みとして、燃料としてのアンモニア活用や、CO2を分離・回収して地中に貯留するCCSと呼ばれる技術について紹介します。

アンモニア火力発電実用化に向けた動き

アンモニアといえば、刺激臭のある有害物質というイメージを思い浮かべるかもしれませんが、肥料や工業用など様々な場面で活躍しています。現在、世界全体でその約8割が肥料として消費されており、残りの2割は合成繊維のナイロンなど工業用に使われています[*8], (図8)。

図8: アンモニアの用途
出典: 資源エネルギー庁「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_01.html

アンモニアは燃焼してもCO2が発生しないカーボンフリーの物質であるため、石炭火力発電の燃料として活用する取り組みも始まっています。

例えば、国内では、石炭火力にアンモニアを20%混焼する実証実験が行われています。国内の大手電力会社が保有するすべての石炭火力発電所で20%混焼が行われた場合、CO2排出削減量は約4,000万トンになると試算されています[*8], (表2)。 

表2: 国内全ての石炭火力発電所でアンモニア燃料を使用した場合のCO2排出削減量試算

出典: 資源エネルギー庁「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_01.html

石炭をすべてアンモニア燃料に代替した場合には、CO2排出削減量が約2億トンになるため、脱炭素化に大きく貢献することができます。

一方で、アンモニアの活用に向けては、安定的な供給量の確保が課題となっています。20%混焼を行う場合でも約2,000万トンのアンモニアが必要となりますが、これは、現在の世界のアンモニア輸出入量とほぼ同じ量であるため、どのように燃料を確保するかの検討が不可欠です。

CCS実用化に向けた動き

稼働によってCO2が排出される火力発電ですが、天候に左右されず、すぐに発電できるため、安定的なエネルギー供給を行うためには不可欠な電源です[*9]。

そのため、火力発電は稼働させながらも大気中へのCO2排出量を抑えるため、様々な取り組みが行われており、特に「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」と呼ばれる技術の普及が期待されています。

CCSとは、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術のことで、発電所等から排出されたCO2を他の気体から分離して集め、地中深くに貯留するものです[*9], (図9)。

図9: CCSの流れ
出典: 資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html 

文献調査によると、日本の沿岸域には約1,500~2,400億トンのCO2貯留ポテンシャルがあるとされています。2021年度の国内全体の温室効果ガス排出量はCO2換算で11億7,000万トンであったため、そのポテンシャルの高さがうかがえます[*10, *11]

現在、日本では2030年までの商用化を目指し、各地で実証事業が行われています。例えば、北海道の苫小牧で行われた実証試験では、目標であったCO2の30万トンの貯留を達成しました[*10]。

一方で、CCSの実用化に向けては、CO2を多く排出する工業地帯と貯留に適した場所が離れているといった点や、必要な法制度が整備されていないなどの課題もあります。

 今後のCCS商用化に向けては、実証試験のさらなる実施に加え、山積する課題に対応していくことが不可欠と言えます。

 まとめ

石炭火力発電廃止の動きは世界的な潮流となっていますが、石炭火力発電への依存度の高い日本にとって、ゼロにすることは容易ではありません。

日本政府は、G7気候・エネルギー・環境相会合の共同声明にも盛り込まれた石炭火力の排出削減対策について、今回紹介したアンモニア混焼の取り組み等も該当しているとしています。そのため、今後は石炭火力発電自体の廃止に加え、アンモニア混焼等の実用化に向けた動きが活発化することが予想されます[*1]。

今回、アンモニア燃料やCCS等の課題について解説しましたが、これらの課題の克服が石炭火力発電分野におけるCO2排出量削減のカギになるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
国立研究開発法人 科学技術振興機構「G7環境相会合が『石炭火力35年までに廃止』で合意 日本のエネルギー政策への影響必至」
https://scienceportal.jst.go.jp/explore/review/20240516_e01/

*2
資源エネルギー庁「電気をつくる方法 その1 火力発電・水力発電」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pamph/manga_denki/html/004/

*3
資源エネルギー庁「非効率石炭火力発電をどうする? フェードアウトへ向けた取り組み」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/hikouritu_sekitankaryoku.htm 


*4
資源エネルギー庁「『CO2排出量』を考える上でおさえておきたい2つの視点」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lifecycle_co2.html

*5
資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/pdf/whitepaper2024_all.pdf, p.103, p.104, p.126, p.137, p.138, p.153

*6
電源開発株式会社「日本と世界中の電力供給を担う石炭火力発電」
https://www.jpower.co.jp/bs/karyoku/sekitan/sekitan_q01.html

*7
資源エネルギー庁「エネルギー基本計画の概要」
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-2.pdf, p.3, p.12

*8
資源エネルギー庁「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_01.html

*9
資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html

*10
資源エネルギー庁「CO2を回収して埋める『CCS』、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(後編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccs_tomakomai_2.html

*11
環境省「2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について」
https://www.env.go.jp/content/000150033.pdf, p.2

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