電力会社を変更した人はどのくらい? 「電力自由化の今」を知ろう

2016年4月、電気の小売業への参入が全面自由化され、一般家庭や商店でも、電力会社や料金プランを自由に選択できるようになりました。

電力自由化の目的は、電力の安定供給の確保と市場競争を活発化させ、電気料金を抑制すること、そして消費者の選択肢を増やすことです。さらに、再生可能エネルギーを重視する電力事業者との契約も可能になったことで、再生可能エネルギーの普及促進も期待されています。

2020年からは、電力自由化を推進しながら電力の安定供給を実現するための「容量市場」が開設されました。

電力自由化が始まってから8年、2024年の現状はどのようになっているのでしょうか。この記事では、2016年4月から始まった電力小売全面自由化がどのくらい進められているのか、「電力自由化の今」をご紹介します。

2016年から始まった電力全面自由化

日本では長い間、住んでいる地域を管轄する電力会社からしか、電気を購入することができませんでした。

しかし競争原理が働かない独占体制を続けてきた結果、電気料金は海外と比較して割高になってしまったことから、電力システムの改革が必要となりました[*1]。

1990年代以降、「安定供給の確保」「料金の最大限抑制」「電気利用者の選択肢を増やし、企業の事業機会を拡大」の3つを軸とした電力システム改革が始まり、電力事業の自由化が進められることになりました[*1]。

電力自由化は、2000年から段階的に実施されました。まずは2000年3月から「特別高圧」区分の大規模工場やデパート、オフィスビルを対象に自由化がスタートしました。さらに2004年4月・2005年4月には「高圧」区分の中小ビルや中小規模工場などまで対象が拡大し、2016年4月に一般家庭や商店などの「低圧」区分が自由化され、すべての需要家が電力会社や料金プランを自由に選択できるようになりました[*2], (図1)。

図1: 電力の小売自由化の歴史
出典: 資源エネルギー庁電力の小売全面自由化って何?
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity_liberalization/what/

電力の全面自由化によって、多くの小売電気業者が新規参入し、電力市場の競争が活性化しました。

石油元売会社や再生可能エネルギー発電会社、通信会社などさまざまな分野の事業者が家庭向け電力販売に参入しています[*3], (図2)。

図2: 家庭向け電力販売への参入を行っている事業者
出典: 経済産業省電力及びガスの小売全面自由化について」(2017)
https://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/870639.pdf, p.2

自由化によって新しい小売電気事業者が参入することで、電気料金メニューやサービスが多様化しました。たとえば、燃料や市場価格に応じて料金調整が行われるプランや使用量で料金が変動しない固定料金のみのプラン、基本料金がなく完全従量制のプラン、再生可能エネルギーを100%提供するプランなどが登場しています[*4], (図3)。

図3: 多様な料金メニュー
出典: 資源エネルギー庁料金の仕組みと料金メニュー例のご紹介
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity_liberalization/supply/

他にもガス会社や通信会社とのセット契約でお得になるプランや節電で割引になるプラン、住んでいる地域の発電所で発電した電気を購入できるプラン、地元のスポーツチームを応援できるプランなどもあり、ライフスタイルや価値観に合わせて電力会社を選ぶことができるようになりました[*5]。

電力自由化は実際どのくらい進んでいる?

電力の小売全面自由化が開始されたわずか1年1か月後の2017年5月に、一般家庭の電力契約先のスイッチング率が10%を超えました。

2017年6月の累積のスイッチング件数は約665万件に達し、そのうち約377万件は新電力と呼ばれる新しく誕生した電力会社へのスイッチングです[*6], (図4)。


図4: 小売全面自由化以降のスイッチング件数の推移
出典: 資源エネルギー庁電力小売全面自由化で、何が変わったのか?」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/denryokugaskaikaku/denryokujiyuka.html

電力自由化直後に実際にスイッチングをした利用者の満足度は高く、資源エネルギー庁が実施したアンケートによると、大手電力会社から新電力にスイッチした人の6割以上、大手電力会社内で料金プランをスイッチした人の3割以上が「満足している」と回答しています[*6], (図5)。


図5: 電力自由化アンケート/切替後の満足度
出典: 資源エネルギー庁電力小売全面自由化で、何が変わったのか?」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/denryokugaskaikaku/denryokujiyuka.html

電力自由化は2016年4月の開始直後から広く認知されています。2017年の時点で、家庭用電力の小売自由化の認知は9割以上、電力会社を変更した人に関しては電力自由化の内容についても6割以上が理解しているというというアンケート結果もあります[*3]。

電力自由化が早い段階で世間一般に浸透したこともあり、家庭を含む低圧における新電力のシェアは増減を繰り返しながらも徐々に伸びていきました。

新電力のシェアは2023年11月時点で約16.0%、家庭を含む低圧に関しては約24.1%です[*7], (図6)。

図6: 新電力のシェアの推移
出典: 資源エネルギー庁電力小売全面自由化の進捗状況について」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/071_03_00.pdf, p.2

地域別のデータでは東京電力管内がもっとも新電力のシェアが高く、25.2%となっており、約1/4以上の需要家が電力会社を変更したということになります[*7]。

一方で新電力として参入した小売電気事業者は、自由化以降は増加傾向にあったものの、2021年をピークに減少に転じています[*7], (図7)。

図7: 需要供給実績のある小売電気事業者数の推移
出典: 資源エネルギー庁電力小売全面自由化の進捗状況について」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/071_03_00.pdf, p.8

発電事業者と小売事業者が電力の売買をおこなう日本卸電力取引所の取引量に関しては、全面自由化直後の2016年は総需要の約2%であったのに対して、2023年11月には約30%程度まで伸びています[*7], (図8)。

図8: JPEX取引量(約定量)のシェアの推移
出典: 資源エネルギー庁電力小売全面自由化の進捗状況について」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/071_03_00.pdf, p.11

一時期は40%を超えていた取引量が約30%程度まで減少したのは、グロス・ビディングが休止したことも影響しています。

グロス・ビディングとは、市場の流動性向上や価格変動の抑制、透明性の向上を目的に、沖縄電力を除く大手電力会社9社が社内取引分に関しても取引所を介して売電することで、2017年4月以降に順次開始されました[*8]。

当初期待されていた目的は達成できたことから、2023年10月からグロス・ビディングは休止しています[*8]。

電力自由化と再生可能エネルギー主力電源化の両立を目指す「容量市場」

電力自由化によって、再生可能エネルギーを積極的に活用する電力会社が多く参入しました。しかし、電力自由化と再生可能エネルギー導入拡大の両方を推進していくためには、電力の安定供給において課題があります。

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、季節や天候によって出力が変動するため、需給バランスをとるために火力発電などの調整力が必要です[*9], (図9)。


図9: 再生可能エネルギー導入時の調整力の役割
出典: 資源エネルギー庁くわしく知りたい!4年後の未来の電力を取引する 『容量市場』」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/youryou.html

調整力となる火力発電所建設には10年ほどのリードタイムが必要になるため、適切なタイミングでの電源投資をおこなわなければなりません。

しかし、卸電力市場の取引拡大と市場価格の低下によって、電源開発のコストが回収できる予測がつかず、新たな投資が進まなくなってしまうことが懸念されています。

電力自由化と再生可能エネルギー導入拡大の両方を進めながら、電力の安定供給を実現するために、海外の制度を参考に導入されたのが、電力の容量市場です。

電力広域的運営推進機関(広域機関)が取引をおこなう容量市場では、卸電力市場で取引する需要家に供給する電力量(kWh)ではなく、国全体で必要となる将来の供給力(kW)が取引の対象となります[*10], (図10)。

図10: 容量市場開始後の市場におけるkWhとkWの取引の流れ
出典: 電力広域的運営推進機関容量市場メインオークションの概要について」(2023)
https://www.occto.or.jp/market-board/market/files/20230711_youryou_gaiyousetsumei.pdf,p.2

広域機関が4年後に使われる見込みの電気の最大量を試算し、その需要を満たすために必要な供給力を算定します。なお、この試算には電力の供給不足を引き起こす気象や災害によるリスクも考慮されています。

容量市場では、4年後に電力を供給できる電源を募集し、オークション形式で価格が安い順に落札されます。

落札された電源は発電事業者によって将来に向けた必要なメンテナンスが行われ、そのコストは小売電気事業者が負担します[*9]。

容量市場のメリットには、調整力を確保することで再生可能エネルギーの主力電源化に貢献すること、小売電気事業者の事業環境を安定させることなどが挙げられます。

将来にわたって電力の安定供給を維持していくことは、電力不足による停電や電気料金の高騰などを防ぐことにつながり、私たち消費者にとっても大きなメリットをもたらします[*9]。

まとめ

2016年4月から始まった電力の小売全面自由化は、広く世間に浸透し、電力会社や料金プランのスイッチングも進んでいます。

2020年に開設された容量市場は、電力の安定供給を実現しつつ市場競争によってコストを抑え、消費者の選択肢を増やすという電力自由化の意義を損なわないための仕組みです。

電力自由化によって選択肢が増えたことは、これまでなにげなく使っていたエネルギーについて見つめ直すきっかけにもつながります。

契約する電力がどのように作られたものなのかを意識することで、再生可能エネルギーの導入促進やエネルギーの地産地消に貢献することができるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁【日本のエネルギー、150年の歴史⑤】『地球温暖化対策』と『電力・ガス自由化』が始まる」(2018)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/gjohoteikyo/history5heisei.html

*2
資源エネルギー庁電力の小売全面自由化って何?
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity_liberalization/what/

*3
経済産業省電力及びガスの小売全面自由化について」(2017)
https://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/870639.pdf, p.2, p.16

*4
資源エネルギー庁料金の仕組みと料金メニュー例のご紹介
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity_liberalization/supply/

*5
消費者庁「第2部 第1章 第5節(5)電力・ガスの小売全面自由化」(2017)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2017/white_paper_224.html

*6
資源エネルギー庁「電力小売全面自由化で、何が変わったのか?」(2017)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/denryokugaskaikaku/denryokujiyuka.html

*7
資源エネルギー庁電力小売全面自由化の進捗状況について」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/071_03_00.pdf, p.2, p.4, p.8, p.11

*8
経済産業省グロス・ビディングの休止について」(2023)
https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/090_05_00.pdf, p.2, p.4

*9
資源エネルギー庁くわしく知りたい!4年後の未来の電力を取引する 『容量市場』」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/youryou.html

*10
電力広域的運営推進機関容量市場メインオークションの概要について」(2023)
https://www.occto.or.jp/market-board/market/files/20230711_youryou_gaiyousetsumei.pdf,p.2

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