なぜ上がったの? 電気料金値上げの背景と今後の見通しを解説

ウクライナ情勢等によって発生した世界的なエネルギー危機を背景に、近年、電気料金は上昇傾向にあります。2023年6月には、電気料金のうち「規制料金」と呼ばれる種類の料金が値上げされました[*1]。

また、2024年7月に請求される電力大手10社の電気料金は、現在の料金モデルと比べて10社中8社で最も高い水準となるなど、電力を取り巻く環境は厳しいものとなっています[*2]。

電気料金と密接に関連する燃料価格の動向が不透明ななかで、今後電気料金はどうなるのでしょうか。本記事では、これまでの電気料金値上げの背景や、政府の対策等について詳しくご説明します。

電気料金の仕組み

電気料金には、自由料金と規制料金の2種類があります。2016年4月1日より前には、一般家庭など低圧で電気を使用する需要家は、地域の電力会社から供給を受け、その料金は法律で定められた方法で決定されていました[*3]。

このように、法律によって定められた方法で決定された料金を「規制料金」と言います。規制料金は、電気事業の運営に必要であると見込まれる原価に利潤を加えた額を算定し、その額と収入が一致するように設定された料金です。設定した料金について規定された約款は、有識者による厳正な審査を経て、経済産業大臣による認可を受ける必要があります[*4], (図1)。

 図1: 規制料金と自由料金の仕組み
出典: 資源エネルギー庁「電気料金の改定について(2023年6月実施)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/kaitei_2023/

 しかしながら、2016年4月1日以降、電気の小売業への参入が全面自由化されたことで、全ての消費者が、電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになりました[*3], (図2)。

 図2: 電力自由化とは
出典: 資源エネルギー庁「電力自由化で料金設定はどうなったの?」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/stracture/liberalization.html

自由料金は、法令等により算定された費用を踏まえつつも、原則として事業者の裁量で設定できるものであり、規制料金のような認可等は不要です[*4]。

ただ、2016年4月1日から電力自由化は始まりましたが、すぐに規制料金がなくなったというわけではありません。消費者保護のため、小売電気事業者間の競争が十分に発展するまでの間は、料金規制経過措置として、規制料金も引き続き提供されています[*3]。

電気料金値上げの背景
電気料金と燃料価格の推移

東日本大震災以降、電気料金は上昇傾向にあります。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により2020年度は一旦低下しましたが、それ以降は再度上昇しています[*5], (図3)。

図3: 電気料金平均単価の推移
出典: 資源エネルギー庁「2.経済性」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2023/02.html

電気料金は、石炭やLNGなどの燃料価格の影響を大きく受けます。2021年以降、石炭やLNGの輸入価格は上昇しました[*5], (図4)。

図4: 燃料価格の推移
出典: 資源エネルギー庁「2.経済性」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2023/02.html

これは、ウクライナ情勢にともなうロシア産資源の禁輸措置、新興国のエネルギー需要の高まりなどが要因とされています。これに加えて、輸入コストの上昇につながる円安の進行など為替の影響もあり、日本の燃料輸入価格は、2022年の最も高いときで、LNGは対2022年1月比1.7倍、石炭は同2.8倍、原油は同1.7倍まで上昇しました[*1]。

2023年6月に改定された電気料金

2016年4月の電力自由化以降、全国平均で見た自由料金は規制料金より低く推移していました。しかしながら、先述した燃料価格の高騰を受けて、2022年9月以降、自由料金が規制料金より高くなるという事象が発生しています[*1], (図5)。

図5: 家庭用電気料金月別単価の推移
出典: 資源エネルギー庁「2023年6月の電気料金、なぜ値上がりするの? いくらになるの?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/denkidai_kaitei.html

これは、電気料金の算定に反映されている燃料の調達価格が増えているためです。規制料金では、上乗せできる金額の上限が設定されていますが、自由料金には上限設定の義務がありません。そのため、燃料費高騰を受けて自由料金が高くなりました。

 一方で、規制料金については、燃料費高騰にも関わらず、その値上がりは2022年2月以降、順次止まっていました。しかし、規制料金で賄いきれない調達コストは、電力会社の負担となってしまいます。

 こうした背景もあり、大手電力会社7社は、規制料金について約3割から5割の値上げを「電力・ガス取引監視等委員会」に申請しました。同委員会の査定の結果、申請額よりも低くなりましたが、改定後の電気料金の値上げ幅は14%から42%となりました[*1], (表1)。

 表1: 申請前・電力各社の申請値・査定結果の料金でくらべた、標準的な家庭における電気料金

出典: 資源エネルギー庁「2023年6月の電気料金、なぜ値上がりするの? いくらになるの?
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/denkidai_kaitei.html

電気料金値上げに対する政府の対策
電気・ガス価格激変緩和対策

家計・企業などの需要家にとって、電気料金の上昇は大きな負担となります。そこで政府は、需要家の負担を軽減することを目的として、2024年5月使用分まで電気・ガス料金の激変緩和対策を実施しました[*6], (図6)。


 図6: 電気・ガス価格激変緩和対策事業の概要
出典: 経済産業省「令和5年度補正予算の事業概要(PR資料)」
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2023/hosei/pdf/pr.pdf, p.2

2024年4月使用分までの電気については、低圧の値引き単価を1kWh当たり3.5円、高圧は1.8円とし、都市ガスは1立方メートルあたり15円分値引きの補助を行いました。2024年5月使用分については、低圧は1kWh当たり1.8円、高圧は0.9円、都市ガスは1立方メートルあたり7.5円の補助を実施しています[*7], (図7)。



図7: 電気・ガス価格激変緩和対策事業における値引きについて
出典: 資源エネルギー庁「電気・都市ガスをご利用するみなさまへ」
https://denkigas-gekihenkanwa.go.jp/

酷暑乗り切り緊急支援

冒頭で先述したように、電気・ガス価格激変緩和対策がいったん終了したことに伴い、2024年7月に請求される電力大手10社の電気料金は、前の月と比べて値上がりしました[*2]。

10社中8社で、現在のモデルとなる料金で比較すると、最も高い水準となっています。具体的には、各社の発表によると、東京電力で392円上がって8,930円、関西電力で468円上がって7,664円、沖縄電力が616円上がって9,663円となっています。

需要家の負担を軽減するため、政府は6月21日に、8月~10月使用分について、引き続き電気料金・ガス料金の値引きを行う「酷暑乗り切り緊急支援」の実施を発表しました[*7], (図8)。


図8: 酷暑乗り切り緊急支援における値引きについて
出典: 資源エネルギー庁「電気・都市ガスをご利用するみなさまへ」
https://denkigas-gekihenkanwa.go.jp/

8月・9月使用分の電気料金については、低圧は1kWh当たり4.0円、高圧は2.0円、都市ガスは1立方メートル当たり17.5円分支援します。また、10月使用分の値引き単価については、低圧が2.5円、高圧が1.3円、都市ガスが10.0円となっています。

同補助事業により、9月請求の電気料金は、大手電力10社すべてで値下がりし、前月と比べて平均的な家庭で東京電力は1,055円下がって7,818円、関西電力で1,040円下がって6,624円になるとされています[*8]。

このように、2024年夏の需要家負担は軽減されていますが、同支援は10月使用分までとなっています。特に、岸田総理は2024年6月の記者会見において、「電気・ガスへの補助金は、脱炭素の流れに逆行することもあり、いつまでも続けるべきものではない」と発言しており、今後の先行きは不透明です[*9]。

先述したように、電気料金は燃料価格と連動しています。国際情勢によっては、補助金終了に伴って再度上昇する可能性もあるため、今後の動向を注視する必要があります。

まとめ

私たちの生活になくてはならない電気。その料金は、燃料価格の変動や政府の対応によって大きく変動します。

近年国際的なエネルギー危機など不安定な情勢が目まぐるしく続くなかで、政府も補助金交付など対策を強化しています。

今後の動向は不透明と言えますが、電気料金の先行きを理解するためには、国際情勢や政府の施策など、最新情報を確認することが重要と言えるでしょう。

 

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「2023年6月の電気料金、なぜ値上がりするの? いくらになるの?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/denkidai_kaitei.html

*2
NHK「7月請求の電気・ガス料金 大手全社が値上げ 今後はどうなる?」
https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/005/43/

*3
資源エネルギー庁「電力自由化で料金設定はどうなったの?
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/stracture/liberalization.html

*4
資源エネルギー庁「電気料金の改定について(2023年6月実施)」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/kaitei_2023/

*5
資源エネルギー庁「2.経済性」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2023/02.html

*6
経済産業省「令和5年度補正予算の事業概要(PR資料)」
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2023/hosei/pdf/pr.pdf, p.2

*7
資源エネルギー庁「電気・都市ガスをご利用するみなさまへ」
https://denkigas-gekihenkanwa.go.jp/

*8
NHK「9月請求の電気料金 大手10社すべてで値下がり 補助追加実施で」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240730/k10014529831000.html

*9
内閣官房内閣広報室「岸田内閣総理大臣記者会見」
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2024/0621kaiken.html

メルマガ登録