日本はもともと自然災害の多い国ですが、近年は気候変動の影響もあり、全国各地で自然災害による深刻な被害が報告されています。
豪雨災害や地震による長期にわたる大規模停電も発生しており、災害時にどう電力を確保するのかが重要な課題の一つです。
電力システムのレジリエンス強化のために注目されているのが、再生可能エネルギーを活用したソリューションです。
再生可能エネルギーは分散型の電源であることや、太陽光や風力などの常に自然に存在するエネルギーを使用していることから、災害に強く、停電時に非常用電源として役立ちます。
この記事では、激甚化する自然災害に対応するために再生可能エネルギーがどう活用されているのかについて紹介します。
自然災害による停電が長期間に及んだ事例
近年発生した停電のなかでも特に規模が大きかったのが、2018年の台風21号による停電被害です。
近畿地方を中心に発生した大規模停電は、ピーク時には約240万戸にのぼりました。
電柱1,000本以上が倒壊し、倒木などの影響で立ち入りが困難なエリアが広範囲に及んだことから、全ての停電が解消するまでに約2週間もの時間を要しました[*1]。
2024年1月1日に発生した能登半島地震では、配電設備の損傷により、石川県を中心に最大約4万戸が停電しました。
送電線や変電所の損傷を原因とする広域な停電は発生しなかったため、過去の地震被害と比較すると停電戸数自体は少ないですが、復旧にかかった期間は30日と突出しています[*2], (表1)。
表1: 過去の地震被害との比較
出典: 経済産業省「令和6年能登半島地震の対応について」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/denki_setsubi/pdf/020_01_01.pdf, p.6
復旧に時間を要したのは、土砂災害やがれきの発生によって作業車両が侵入できないエリアが存在したことや、幹線道路の道路渋滞が原因でした[*2], (図1)。
図1: 能登半島地震の停電復旧作業における地理的な制約
出典: 経済産業省「令和6年能登半島地震の対応について」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/denki_setsubi/pdf/020_01_01.pdf, p.6
このように自然災害による停電は、復旧に時間がかかることも多く、電気が止まると日常生活を送ることが難しくなります。
街灯がつかなければ夜間に行動することも難しく、スマートフォンの充電ができなければ、災害に関する情報を取得することもできません。
夏場にエアコンが使用できないと熱中症のリスクも高まり、命の危機にさらされることもあるでしょう。
再生可能エネルギーはなぜ災害に強い?
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、温室効果ガス排出削減やエネルギー自給率向上に貢献する以外にも、非常時にエネルギーを確保できるというメリットがあります。
例えば、自宅に太陽光発電が設置されていれば、停電時でもパワーコンディショナによって電力を供給する自立運転に切り替えることで電気を使用することができます[*3], (図2)。
図2: 太陽光発電の自立運転機能
出典: 太陽光発電協会「停電時でも電気が使えます」
https://www.jpea.gr.jp/house/poweroutage/
太陽光発電のみの場合は昼間しか電気を使用できませんが、蓄電池システムと組み合わせることで夜間でも電気を使用することができます。
2018年に発生した北海道胆振東部地震や、2019年に発生した台風15号による大規模停電の際にも、太陽光発電設備の自立運転機能により、住宅太陽光発電ユーザーの約8割が電力利用を継続できたという調査結果もあります。
また、事業用太陽光発電所の自立運転機能を活用して、近隣住民への電力供給をおこなったという事例も報告されています。
「自立運転機能によって助かったもの」という質問に対しては、冷蔵庫、携帯電話という回答が特に多く、近隣の方に携帯の充電等で貢献できたという声もありました[*4], (図3)。
図3: 自立運転機能によって助かったもの
出典: 経済産業省「太陽光発電設備の自立運転機能の周知について」」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/community/dl/04_03.pdf, p.1
再生可能エネルギーによって構成される分散型エネルギーシステムは、災害に強いことから、2020年6月に国会で可決された「エネルギー供給強靭化法」においても、重要な位置付けとなっています。
「エネルギー供給強靭化法」とは、自然災害によって電力供給が脅かされることがないように、電力インフラシステムを強靭にすることを目的とした法律です[*5]。
再生可能エネルギーによる災害時の停電対応の事例
再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、再生可能エネルギーを災害時のソリューションとして活用した取り組みも増えています。
避難所への再生可能エネルギー導入事業
千葉県千葉市では、2019年に発生した台風15号、19号による大規模長期停電や停電に伴う通信障害、断水の経験を教訓とし、災害に強い都市モデルの実現に取り組んでいます。
千葉市の電力強靭化対策の一つが、市内の避難所への太陽光発電設備、蓄電池システムの導入です。
このシステムでは、平常時は太陽光発電で発電した電力を施設内で使用し、停電時は太陽光発電で発電した電力と蓄電池に貯めた電力を非常用コンセントなどから使用することができます[*6], (図4)。
図4: 平常時・災害(停電)時における発電電力の利活用
出典: 千葉市「避難所への再生可能エネルギー等導入事業(市有施設への太陽光発電設備・蓄電池の導入)」(2023)
https://www.city.chiba.jp/kankyo/kankyohozen/datsutanso/hinanjosaiene.html
停電時は、自動的に自立運転に切り替わり、太陽光発電設備から非常用コンセントへ電力が供給されます。
この事業では、2020年から2022年までの3か年で、避難所として指定されている140の学校や公民館に太陽光発電設備・蓄電池を導入しています。
防犯性と災害時の体制を向上するソーラー街路灯
新潟県魚沼市では、夜間の防犯性と災害時の体制向上を目的に、市役所庁舎敷地内に独立電源型のソーラー街路灯を9基設置しています[*7], (図5)。
図5: 市役所庁舎敷地内に設置されたソーラー街路灯
出典: 総務省「公共施設等の脱炭素化の先行事例」(2024)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000941409.pdf, p.7
独立電源のソーラーパネルは電力供給が遮断されても稼働できるため、災害時も市庁舎付近や周辺道路の明るさを保つことができます。
さらに、ソーラー街路灯に搭載されている蓄電池によって、電化製品に給電することも可能です。
企業活動を継続するための「再エネ+蓄電ソリューション」
オムロン フィールドエンジニアリング株式会社が提供する「再エネ+蓄電ソリューション」は、自然災害で停電が発生したときに事業停止を回避するためのシステムです。
このシステムでは、太陽光発電システムが発電した電力を蓄電池に充電し、非常時のバックアップとするだけでなく、平常時でもEMS(エネルギーマネジメントシステム)によって電力を有効活用することができます[*8], (図6)。
図6: エネルギー最適制御システムのイメージ
出典: 環境省「『再エネ+蓄電池 』で災害時に電源を確保。気候変動時代に対応する脱炭素ソリューションとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/re-start/interview/51/
このシステムによって、大規模災害発生時に3日から1週間程度の電力の確保ができ、事業継続に加えて、地域の防災拠点としての役割を果たすことができます。
災害時におけるエネルギー供給途絶を克服するまちづくり
宮城県石巻市では、東日本大震災で1ヶ月近く停電が続いた経験から、エネルギー供給途絶を克服するまちづくりに取り組んでいます。
停電しても再生可能エネルギーによる電気供給が可能なスマートコミュニティを目指し、復興公営住宅が集中するエリアや市内の小中学校、保育園などに太陽光発電・蓄電池・BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)を組み合わせたシステムを導入しています[*9], (図7)。
図7: 東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト
出典: 内閣府 防災情報のページ「災害時におけるエネルギー供給の途絶を克服するまちづくりの実現」
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/fukko/shisai/pdf/ishinomaki.pdf, p.6
導入される機器は、東日本大震災の被災状況に基づいて必要最低限の電力が確保できるようにスペックが設計されています。
さらに、津波による浸水実績をふまえて、蓄電池やコージェネレーションシステムを2階以上に設置したり、設置場所を嵩上げするなどの対策をおこなっています。
再生可能エネルギーによる離島の停電リスク軽減
本土と電力系統がつながっていない離島では、火力発電を中心とした電力供給をおこなっています。そのため、台風や津波によって島内が停電した際に、燃料供給が滞って停電が長期化するリスクを抱えています。
沖縄県の波照間島では、風力発電、蓄電池、モーター発電機(MGセット)を組み合わせて運用することで、島内での電力供給において再生可能エネルギー100%を実現しています[*10], (図8)。
図8: システム構成要素
出典: 環境省「離島における再エネ自給率向上ガイド」(2023)
https://www.env.go.jp/content/000130649.pdf, p.29
これまで使用されていたディーゼル発電機には、最大出力の50%未満では運転することができないという運用上の制約がありました。そのため、ディーゼル発電機側の出力抑制ができず、天候によっては風力発電側の出力制限をしなければなりませんでした。
このような運用上の制約がないモーター発電機を導入することで、風力発電の余剰電力を有効活用でき、停電が長期化した際に対応できる十分な電力供給力を確保することができます。
まとめ
自然災害に強いエネルギーシステムを構築するために、全国各地で再生可能エネルギーを活用した取り組みがおこなわれています。過去の大規模災害の教訓や再生可能エネルギーの導入可能性、災害のリスクなどの地域特性を踏まえて、地域独自のシステムを構築しています。
再生可能エネルギーは非常用電源としてのポテンシャルが高く、蓄電池と組みわせることで長期間の停電にも対応することができます。近年ますます自然災害のリスクが高まっている日本において、再生可能エネルギー導入の重要性はより増していると言えるでしょう。
参照・引用を見る
※参考URLはすべて執筆時の情報です
*1
経済産業省「平成30年度に発生した災害とその対応」(2019)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/pdf/002_02_00.pdf, p.16
*2
経済産業省「令和6年能登半島地震の対応について」」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/denki_setsubi/pdf/020_01_01.pdf, p.6
*3
太陽光発電協会「停電時でも電気が使えます」
https://www.jpea.gr.jp/house/poweroutage/
*4
経済産業省「太陽光発電設備の自立運転機能の周知について」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/community/dl/04_03.pdf, p.1
*5
経済産業省「『法制度』の観点から考える、電力のレジリエンス ①法改正の狙いと意味」(2020)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/denjihokaisei_01.html
*6
千葉市「避難所への再生可能エネルギー等導入事業(市有施設への太陽光発電設備・蓄電池の導入)」(2023)
https://www.city.chiba.jp/kankyo/kankyohozen/datsutanso/hinanjosaiene.html
*7
総務省「公共施設等の脱炭素化の先行事例」(2024)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000941409.pdf, p.7
*8
環境省「『再エネ+蓄電池 』で災害時に電源を確保。気候変動時代に対応する脱炭素ソリューションとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/re-start/interview/51/
*9
内閣府 防災情報のページ「災害時におけるエネルギー供給の途絶を克服するまちづくりの実現」
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/fukko/shisai/pdf/ishinomaki.pdf, p.5, p.6
*10
環境省「離島における再エネ自給率向上ガイド」(2023)
https://www.env.go.jp/content/000130649.pdf, p.4, p.29