2025年4月8日、世界的な気候・エネルギー分野のシンクタンク「エンバー(Ember)」は、発電における温室効果ガスを排出しないクリーンエネルギーの割合が全世界で4割に達したことを発表しました。これまで主流であった石炭や石油などの化石燃料による発電から、再生可能エネルギーへの転換が世界的に進んでいるようです。
日本でも再生可能エネルギーの主力電源化にむけてさまざまな取り組みをおこなっていますが、海外ではどんなエネルギー政策が進められているのでしょうか。
この記事では、世界の各地域の電力市場の最新動向について、再生可能エネルギー政策に着目して解説します。
世界のクリーンエネルギーの割合が4割に到達!
エネルギーを専門とするイギリスのシンクタンク、エンバーは、2024年の1年間の世界の電力のうち、4割以上が化石燃料を燃やさない方法で発電されているクリーンエネルギーであることを公表しました[*1]。
このクリーンエネルギーには、再生可能エネルギーと原子力発電が含まれ、再生可能エネルギーの割合は前年の30%を上回り、過去最高の32%となりました[*2], [*3]。
とくに安価で比較的設置しやすい太陽光発電が急増しており、「過去20年連続で最も急速に成長した電力源」であると報告されています。エンバーの取締役、フィル・マクドナルド氏は、「気候変動に関する誓約から退く国もあるようだが、再生可能エネルギーの経済的利点が世界的な流れに拍車をかけている」ことを指摘しており、世界のエネルギー転換の要は太陽光であるという見解も示しています[*1], [*2]。
ロイターの記事によると、エンバーの電力・データアナリスト、ユーアン・グレアム氏は米国のトランプ政権の導入した広範囲な関税による貿易戦争でエネルギー安全保障への懸念が高まり、2025年は再生可能エネルギー需要が一段と押し上げられる可能性があると述べています [*3]。
電力需要は世界的に増加傾向
世界の電力需要は、1970年代から2020年代まで増加傾向が続いています[*4], (図1)。
図1: 世界の電力消費量の推移(地域別)
出典: 経済産業省エネルギー白書 「第3節 二次エネルギーの動向」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/2-2-3.html
とくに経済発展が進んでいるアジア地域の電力消費量が増加しており、2004年以降は北米を上回っています。主要国の発電電力量の伸び率をみると、中国、インド、韓国などアジアの国の発電量が伸びています[*5], (図2)。
図2: 主要国の発電電力量の推移(伸び率)
出典: 電気事業連合会「主要国の電力事情」(2023)
https://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/shuyoukoku/
国際エネルギー機関(IEA)によると、2024年の世界のエネルギー需要は前年と比較して2.2%増加しています。2013年から2023年までの年平均伸び率が1.3%であるのに対し、2024年の伸び率が大きいのは、異常気温で冷房需要が増加したことが起因しています。
ほかにもデータセンターや人工知能などのデジタル部門の拡大も電力需要が伸びた原因の一つとされています[*6]。
電力需要は伸びていますが、世界のエネルギー関連のCO2排出量は前年比0.8%増で、世界のGDPの成長率3.2%を大きく下回っています。再生可能エネルギーや電気自動車の普及によって、経済成長とCO2排出量の相関関係が弱まっていると評価されています[*6]。
脱炭素は進んでいる?地域別・世界の電力市場
世界各国の電源構成の比較
次の図3は、世界の主要国の2022年の電源構成です[*7], (図3)。
図3: 主要国の電源構成(2022年度)
出典: 経済産業省「エネルギーを巡る状況について」(2024)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/055/055_004.pdf, p.12
各国の電源構成から、イギリス、ドイツなどの欧州の国々で再生可能エネルギーの導入が進んでいることがわかります。一方で、中国、インド、インドネシアなどの経済成長が著しいアジアの国々では、石炭火力への依存度が高くなっています。
それでは、国別・地域別のエネルギーを取り巻く状況や再生可能エネルギーの政策についてみていきましょう。
日本
欧州と比較して再生可能エネルギーの導入に遅れをとっている日本ですが、2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーをエネルギー安全保障と脱炭素化を両立する電源であると位置づけています。
2023年度の実績では、水力発電を含む再生可能エネルギーの割合は22.9%ですが、再生可能エネルギーの主力電源化を徹底することで、2040年には4割から5割程度まで拡大する方針です[*8], (図4)。
図4: 第7次エネルギー基本計画における2040年度の電源構成(見通し)
出典:日本電機工業会「2040年における再生可能エネルギーの導入見通し」(2025)
https://www.jema-net.or.jp/energy/re-policy/dounyu_kei.html
また、電力需要に関しては、人口減少や節電の効果を考慮しても、データセンターや半導体工場の新設によって、2034年度まで増加傾向が続くことが予測されています。2025年1月に発表された想定では、データセンターや半導体工場の新増設を見込むエリアの拡大などにより、2024年度の想定より上振れの見通しとなっています[*9], (図5)。
図5: 今後10年の電力需要の想定(電力量)
出典:経済産業省「今後の電力需要の見通しについて」(2025)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/085_06_00.pdf, p.3
中国
2021年の実績では電源構成の6割以上が石炭火力である中国は、世界でもっともCO2を排出している国でもあります[*10], (図6)。
図6: 世界のエネルギー起源CO2排出割合(2021年)
出典: 経済産業省「エネルギーに関するさまざまな動きの今がわかる!『エネルギー白書2024』」(2024)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyhakusho2024.html
世界最大のCO2排出量である中国でも、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を進めており、2050年の予測では太陽光・風力・水力の再生可能エネルギーの割合を72%としています[*11], (図7)。
図7: 電力量構成予測
出典: NEDO「中国エネルギー・環境関連政策と中国市場進出の機会」(2021)
https://www.nedo.go.jp/content/100938545.pdf, p.7
発電設備容量に関しても、2050年には太陽光と風力合わせて電源構成の80%となることを見込んでいます[*11]。
米国
中国に次いで多くのCO2を排出している米国でも、クリーンエネルギーや脱炭素に関わる大規模な事業計画が立ち上がっています。この流れを後押ししているのが、2022年にバイデン政権下で成立したIRA法(インフレ削減法)です。IRA法は、クリーンエネルギー・脱炭素事業に対する手厚い税額控除を設けることで、再生可能エネルギーの導入を後押しする法律です[*12]。
IRA法の経済効果により、約3600億ドル以上のクリーン投資が生み出され、2023年以降の10年間で150万人以上の雇用が創出されると見込まれています[*13]。
また、米国は、2035年までに脱炭素電力を100%にするという意欲的な目標を掲げています。太陽光と風力、蓄電池の導入コストが原子力の3分の1以下であることから、経済性と環境の両面で競争力のある、再生可能エネルギーと蓄電池を積極的に拡大していく方針です[*14], (図8)。
図8: 米国の事業用の発電・蓄電設備の導入計画(2023年)
出典: 自然エネルギー財団「米国が2035年に電力を100%脱炭素へ、自然エネルギーに注力」(2023)
https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20230328.php
一方で、2025年1月にトランプ政権が発足し、バイデン前政権下の気候変動・クリーンエネルギー政策を大幅に転換する5つの大統領令が発令されました[*15]。さらにパリ協定からの離脱も表明しており、世界の脱炭素が後退することが懸念されています[*16]。
欧州
再生可能エネルギーの導入が進んでいる欧州では、2019年に公表された「欧州グリーンディール」において、温室効果ガス削減目標を2050年には90年比で100%削減するとしています。さらに、ロシア・ウクライナ情勢をうけて、化石燃料脱却に向けてさらに取り組みを強化しています[*17]。
太陽光に関しては、2000年から2022年までの間に累積で約210GW導入しています。2019年以降は導入量が増加傾向にあり、2022年のEU全体の太陽光発電年間導入量は前年比47%増の41.4GWです[*17], (図9)。
図9: EUの太陽光導入目標と実績
出典: NEDO「欧州におけるエネルギー関連政策の動向」(2023)
https://www.nedo.go.jp/content/100970552.pdf, p.10
また、イギリスでは太陽光発電設置容量を2035年までに、現在の5倍に相当する70GWまで引き上げる目標を掲げています。
東南アジア
経済成長が著しい東南アジアですが、電源構成は国ごとに特徴があります[*18], (図10)。
図10: 東南アジア各国の電源構成
出典: 経済産業省「東南アジアのエネルギー事情」(2024)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/asia_decarbonization.html
図10の円グラフの面積は、各国の発電電力量に比例しています。
電力消費が大きく、高い経済発展を遂げているインドネシア、ベトナム、タイ、マレーシアでは、石炭や天然ガスなどの火力発電が高い割合を示しています。今後も経済成長にともない、電力需要が増大していくことが予想されています。
東南アジアの多くの国が、2050年から2065年までのカーボンニュートラル実現を表明しています。しかし、自然条件から再生可能エネルギーのポテンシャルが決して高いとは言えないことから、様々な脱炭素技術の活用も必要であると考えられています[*18]。
まとめ
欧州が脱炭素の取り組みを加速させていることから、全世界の再生可能エネルギーの割合も増加しています。米国はトランプ政権下で、これまで進めてきた脱炭素の取り組みにブレーキがかかることが懸念されていますが、関税政策によってエネルギー安全保障への意識が高まり、国産エネルギーの重要性が増すことで、他国の再生可能エネルギー需要はかえって高まるとの見方もあります。
また、経済成長によって電力需要が増加し、化石燃料への依存度が高くなっているアジアの各国も、カーボンニュートラルの実現に向けて意欲的な目標を掲げています。
世界の電力市場の主役は化石燃料ではなく、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへと着実に変わりつつあるようです。
参照・引用を見る
※参考URLはすべて執筆時の情報です
*1
BBC NEWS JAPAN「クリーンエネルギーの割合、世界の電力の4割に シンクタンクが報告」(2025)
https://www.bbc.com/japanese/articles/cgqvv09j294o
*2
Forbes JAPAN「全世界で低炭素電力の割合が4割の大台を突破、2024年 太陽光がけん引」(2025)
https://forbesjapan.com/articles/detail/78405
*3
Reuters「24年世界電源構成、再生可能エネが過去最高の32%=シンクタンク」(2022)
https://jp.reuters.com/markets/commodities/XSUXAMBUFRL2LKNIBO6M7CIMVE-2025-04-08/
*4
経済産業省エネルギー白書 「第3節 二次エネルギーの動向」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/2-2-3.html
*5
電気事業連合会「主要国の電力事情」(2023)
https://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/shuyoukoku/
*6
JETRO「2024年の世界のエネルギー需要は2.2%増、異常気温で電力需要が増加」(2025)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/03/43673a75f7832315.html
*7
経済産業省「エネルギーを巡る状況について」(2024)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/055/055_004.pdf, p.12
*8
日本電機工業会「2040年における再生可能エネルギーの導入見通し」(2025)
https://www.jema-net.or.jp/energy/re-policy/dounyu_kei.html
*9
経済産業省「今後の電力需要の見通しについて」(2025)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/085_06_00.pdf, p.3
*10
経済産業省「エネルギーに関するさまざまな動きの今がわかる!『エネルギー白書2024』」(2024)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyhakusho2024.html
*11
NEDO「中国エネルギー・環境関連政策と中国市場進出の機会」(2021)
https://www.nedo.go.jp/content/100938545.pdf, p.7
*12
JOGMEC「米国のエネルギー・トランジション ―インフレ削減法(IRA)がもたらす新たなエネルギーの波―」(2024)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009992/1010071.html
*13
経済産業省「エネルギーを巡る状況について」(2024)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/055/055_004.pdf, p.24
*14
自然エネルギー財団「米国が2035年に電力を100%脱炭素へ、自然エネルギーに注力」(2023)
https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20230328.php
*15
JETRO「トランプ米大統領、気候変動・クリーンエネルギー政策を大転換、ジェトロ環境エネルギー月例レポート(2025年1月)」(2025)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/02/181a47d49baed9f7.html
*16
NHK「「パリ協定」アメリカの正式な離脱は来年1月に 国連発表」(2025)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250129/k10014706541000.html
*17
NEDO「欧州におけるエネルギー関連政策の動向」(2023)
https://www.nedo.go.jp/content/100970552.pdf, p.3, p.10
*18
経済産業省「東南アジアのエネルギー事情」(2024)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/asia_decarbonization.htm