深刻化するプラスチックごみによる地球環境問題を背景に、国内外で「脱プラスチック」の動きが加速しています。一方で、プラスチックを生活から排除することで、利便性や快適性が失われているという声もあります。
近年では、これまで推し進められてきた脱プラスチックの流れに、少しずつ変化が訪れています。
これまで紙製ストローを提供していたスターバックスコーヒージャパンは、植物由来の「バイオマスプラスチック」を使ったストローの導入を2025年3月から全国で開始しています。さらに、2025年5月には日本マクドナルドもバイオマスプラスチックを導入することで、レジ袋有料化を終了することを発表しました。
バイオプラスチックの活用によって、使い心地と環境負荷低減の両立を実現できるのでしょうか。
なぜ脱プラスチックが進められているのか
プラスチックが地球環境に与える被害により、レジ袋有料化やプラスチックストローの廃止など、世界的に脱プラスチックへの機運が高まっています。
プラスチックは石油などの化石燃料を原料として製造されるため、製造から廃棄に至るまで、多量の温室効果ガスを排出します。2050年カーボンニュートラルを実現するためには、プラスチックのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスを削減していく必要があります[*1]。
さらに、ポイ捨てされたプラスチックは、河川を通じて海に流れ着き、海岸に打ち上げられる漂着ごみ、海底に沈む海底ごみ、あるいは水中や水面を浮遊する漂流ごみとなります[*2], (図1)
図1: 海に流れ着いたプラスチックごみ
出典: 環境省 「海洋プラスチックごみ」
https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20230705.html
海洋プラスチックごみのなかでも、特に問題となっているのが「マイクロプラスチック」です。マイクロプラスチックとは、プラスチックごみが波や紫外線によって5mm以下まで細かく粉砕されたものです[*3]。
非常に細かいマイクロプラスチックは回収が難しく、分解されて自然界に戻ることもありません。海の生物が誤って食べてしまうことで、内臓が傷ついたり、腸閉塞を起こして死んでしまうこともあり、海洋生態系への影響が懸念されています。
また、有害物質が含まれるマイクロプラスチックを摂取した魚介類を、食物連鎖を通じて人間が摂取することで、健康への悪影響があるとも考えられています[*3]。マイクロプラスチックによる海洋汚染はすでに世界規模の問題となっており、北極や南極でも観測されています[*4]。
富山県が実施した県内の海岸における実態調査によると、マイクロプラスチックの素材は、私たちの生活に身近なプラスチック製品が多数を占めています[*3], (図2)。
図2: 富山県内の海岸におけるマイクロプラスチック
出典: 富山県 「マイクロプラスチックって何?」(2021)
https://www.npec.or.jp/umigomiportal/news/data/mp_grownups.pdf, p.1
ストローやレジ袋、食品容器などがポイ捨てされ、河川などを通じて海に流れ着き、マイクロプラスチックとなっているのです。
国内外で進む「脱プラスチック」
石油から製造されるプラスチックは、ライフサイクルを通じて多量の温室効果ガスを排出するだけでなく、不適切な方法での廃棄による海洋汚染や生態系の破壊といった深刻な環境課題を抱えています。
プラスチックが引き起こす環境問題の解決に向けて、国連などでも議論が進められています。2019年に開催されたG20大阪サミットでは、2050年までに追加的な汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」がG20首脳間で共有されました[*4]。
2020年7月から始まったレジ袋有料化も、政府主導で推進している「脱プラスチック」の取り組みのひとつです。プラスチックの過剰利用を抑えることを目的としたこの制度では、環境性能が認められている買い物袋は有料化の対象外とされています[*5], (図3)。
図3: 有料化の対象外となる買い物袋
出典: 経済産業省 「2020年7月1日よりレジ袋有料化がスタートします。」
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/plasticbag/plasticbag_top.html
プラスチック製のレジ袋有料化は世界各国で進められており、レジ袋自体が禁止されている国もあります[*6], (表1)。
表1: 各国におけるレジ袋規制
出典: 環境省 「プラスチックを取り巻く国内外の状況」
https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-04/y031204-s1.pdf, p.15
環境問題を解決する? バイオプラスチックとは
プラスチックが抱える環境課題の解決方法のひとつとして、技術開発が進められているのが、「バイオプラスチック」です。
バイオプラスチックとは、トウモロコシやサトウキビなどの再生可能な有機資源を原料とするバイオマスプラスチックと、ある一定の条件で水と二酸化炭素まで分解できる生分解性プラスチックの2つを合わせた総称です。
バイオプラスチックにはさまざまな種類があり、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの両方の性質を兼ね備えたものもあります[*7], (図4)。
図4: バイオプラスチックとは?
出典: 環境省「バイオプラスチックとは?」
https://plastic-circulation.env.go.jp/shien/bio/bio
生物由来のバイオマスプラスチックに含まれる炭素成分は、もともと原料となる植物など
が大気中の二酸化炭素を固定したものです。そのため、バイオマスプラスチックを焼却して廃棄したとしても、大気中の二酸化炭素は増加しません。さらに、バイオマスの活用によって、枯渇資源である化石燃料の使用を抑えられるところもメリットの一つです。
生分解性プラスチックは、微生物などの働きによって最終的に二酸化炭素と水に分解できるため、もし誤って海に流出してしまっても自然に還ることができます。なお、樹脂ごとに生分解に必要となる温度や時間などが異なるため、完全に分解されるかどうかは環境の条件にも左右されます[*7]。
ほかにも、土中などで分解できる特性を活かして、生ゴミ用の袋や農業用のフィルムにも活用されており、廃棄物処理の手間やコストを削減することもできます[*8]。
環境に優しいバイオプラスチックは急速に普及が進んでおり、国内出荷量は2010年度から2019年度の10年間で約4.2倍に増加しています[*9], (図5)。
図5: バイオプラスチックの国内出荷量の推移
出典: 経済産業省「バイオ製品の普及に向けた取り組み」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/bio/pdf/011_10_00.pdf, p.6
2019年に策定された「プラスチック資源循環戦略」では、2030年までにバイオプラスチック導入量を最大約200万トンまで伸ばすことを目標としています。
バイオプラスチックの導入事例
スターバックスコーヒージャパン株式会社では、2018年から石油由来のプラスチック製のストローの全廃を進めており、2020年からは紙製ストローが導入されていました。
2025年3月からは、飲み心地の良さと環境負荷低減の両立を目指し、バイオマス素材である「カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet®(グリーンプラネット)」を使用したストローを全国の店舗で順次導入しました[*10], (図6)。
図6: スターバックスのアイスビバレッジに使用するストロー
出典: スターバックス「飲み心地の良さと、環境負荷低減を両立 」(2024)
https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2025-5333.php?srsltid=AfmBOorKa_JX1vPkPWv8eL8wsiHrPv8PqmpH8E7MyzYz4Nn2edoXNMmG
スターバックスで導入される新しいストローは、なめらかな飲み心地を実現し、問題視されていた時間経過で味がかわることもありません。従来の紙製ストローと比較して、ライフサイクル全体で二酸化炭素排出量を低減できるうえに、店舗から出るストローの廃棄物量を半分近く削減できる見込みです。
さらに、生分解性プラスチックであるため、自然界に存在する微生物などによって分解され、最終的には二酸化炭素と水になります[*10]。
カネカ生分解性バイオポリマーの特徴は、土中だけでなく、これまで難しいとされていた海水中での生分解を実現しているところです。2017年には、海水中における生分解性を証明する国際的な認証 である「OK Biodegradable MARINE」を取得しています[*11]。
日本マクドナルド株式会社では、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにする「ネット・ゼロ・エミッション」の達成を目指し、2025年にプラスチック製手さげ袋の素材をバイオマスプラスチック95%へ変更することを発表しています。これまではバイオマスプラスチックが50%でしたが、95%に変更することで、原料製造時の温室効果ガス排出量を半減させることができます[*12], (図7)。
図7: プラスチック製手さげ袋の素材をバイオマスプラスチック95%へ変更
出典: マクドナルド「<2050年までにネット・ゼロ・エミッション達成に向けて、気候変動対策を推進>」(2025)
https://www.mcdonalds.co.jp/company/news/2025/0509a/
手提げ袋の使用感自体は変わらないため、消費者の負担なく温室効果ガスを削減できる取り組みです。
また、米どころである新潟県新潟市では、新潟市産の米を原料に使用したバイオマスプラスチック製の指定ごみ袋を製造しています[*13], (図8)。
図8: 新潟市産の米を原料に使用した指定ごみ袋(20L)の製造
出典: 新潟市「新潟市産のお米を原料にしたバイオマスプラスチック製『指定ごみ袋』」(2025)
https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/gomi/recycle/plastic_genryo/bioplaHP.html
この指定ごみ袋には新潟市産の米が10%配合されており、従来品と比較すると柔軟性が高い点が特徴です。このプロジェクトでは、原料である資源米の稲刈りに地元企業や学生なども参加しており、環境講座や出前授業なども開催されています。地元の企業と住民が協働することで、バイオプラ製品の普及と正しい理解に向けた啓発活動にもつながります。
おわりに
軽くて丈夫で加工しやすいプラスチックは、私たちの生活に欠かせない素材です。
一方でプラスチックは化石燃料を原料としているうえに、自然に還らない素材であることから、地球環境問題の原因となっています。
環境に優しいバイオプラスチックは技術開発によって性能が向上しており、導入する企業や自治体も増えています。今後は、バイオプラスチックを使用した商品がますます増えていくかもしれません。
参照・引用を見る
※参考URLはすべて執筆時の情報です
*1
経済産業省「カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編) 」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/plastics_01.html
*2
環境省 「海洋プラスチックごみ」
https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20230705.html
*3
富山県 「マイクロプラスチックって何?」(2021)
https://www.npec.or.jp/umigomiportal/news/data/mp_grownups.pdf, p.1, p.2
*4
環境省 令和2年度版 環境 循環型社会 生物多様性白書 「第3節 海洋プラスチックごみ汚染・生物多様性の損失」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r02/html/hj20010103.html
*5
経済産業省 「2020年7月1日よりレジ袋有料化がスタートします。」
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/plasticbag/plasticbag_top.html
*6
環境省 「プラスチックを取り巻く国内外の状況」
https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-04/y031204-s1.pdf, p.15
*7
環境省「バイオプラスチックとは?」
https://plastic-circulation.env.go.jp/shien/bio/bio
*8
プラスチック資源循環 「バイオプラスチックのメリット」
https://plastic-circulation.env.go.jp/shien/bio/merit
*9
経済産業省「バイオ製品の普及に向けた取り組み」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/bio/pdf/011_10_00.pdf, p.6
*10
スターバックス「飲み心地の良さと、環境負荷低減を両立 」(2024)
https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2025-5333.php?srsltid=AfmBOorKa_JX1vPkPWv8eL8wsiHrPv8PqmpH8E7MyzYz4Nn2edoXNMmG
*11
カネカ「100%バイオマス由来で、海水中でも生分解される カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet®」
https://www.kaneka.co.jp/solutions/phbh/
*12
マクドナルド「<2050年までにネット・ゼロ・エミッション達成に向けて、気候変動対策を推進>」(2025)
https://www.mcdonalds.co.jp/company/news/2025/0509a/
*13
新潟市「新潟市産のお米を原料にしたバイオマスプラスチック製「指定ごみ袋」(2025)
https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/gomi/recycle/plastic_genryo/bioplaHP.html