微小なエネルギーを電気に変える! 環境発電(エネルギーハーベスティング)ってなに?

環境発電(エネルギーハーベスティング)とは、身の回りに存在するごくわずかなエネルギーを利用して発電することです。

地球上にある光、熱、風、振動、電波などを電力として活用できる環境発電は、再生可能で環境にやさしく、場所の制約がないというメリットがあります。周辺に存在するエネルギーを利用するため、充電や交換をしなくても、繰り返し使用することができます。環境発電の電力量は微量ではあるものの、IoT機器の電源やウェアラブルタイプの小型医療機器など、さまざまな分野での活用が期待されています。

IoT社会が進展すると、膨大な数のIoTセンサーを駆動させる自立電源が必要になり、より環境発電のニーズが高まるのではないでしょうか。

この記事では、環境発電(エネルギーハーベスティング)の種類や活用例、最新の研究開発事例について紹介します。

100年以上前から存在した環境発電(エネルギーハーベスティング)

環境発電とは、「身の回りのさまざまな環境からの微小な未利用エネルギーを用いた発電」のことです[*1]。

周辺にあるエネルギーを収穫(ハーベスティング)することから、「エネルギーハーベスティング」や「エナジーハーベスティング」とも呼ばれています。

環境発電では、太陽光や振動、熱、電波など、多種多様な形態のエネルギーを電力に変換します。
周辺に存在するエネルギー源から発電するため、充電や取り替えが不要で、長期間利用できる電源として使用できます。

環境発電のエネルギー源となるものは屋内・屋外問わず存在し、たとえばLED照明の光や照明スイッチを押す動作、昼夜に発生する温度差なども含まれます[*2], (図1)。

図1: 環境発電(エネルギーハーベスティング)のイメージ
出典: エネルギーハーベスティングコンソーシアムエネルギーハーベスティングとは」
https://www.nttdata-strategy.com/ehc/about/

 

環境発電の歴史は古く、世界で初めて普及した環境発電技術は、20世紀初頭に発明された鉱石ラジオです。

1930年代には自転車の車輪を回転させて発生した運動エネルギーで発電・点灯するダイナモ発電ランプも発売されています。
1970年代以降は半導体の登場によって電気デバイスの低消費電力化が進んだことで、太陽電池で駆動する電卓や腕時計など、環境発電を利用した小型電子機器が次々と発売されました。

現在では、環境発電技術を活かした多くの製品が世の中に普及しています[*3], (表1)。

 

表1: 主な環境発電技術と実用化事例

出典: 応用物理学会IoT社会を支える自立電源技術:環境発電」
https://www.jsap.or.jp/columns/gx/s-4

いま、環境発電が注目されている理由

環境発電(エネルギーハーベスティング)は、太陽光や風力などの自然界に存在する再生可能なエネルギーも活用されます。ただし、そのエネルギーは非常に希薄・微小なものであるため、電力系統に接続できるほどの大規模発電として活用できるケースは限られています[*3]。

しかし、近年は消費電力がミリワットやマイクロワット、さらにはナノワット、ピコワット単位の超低消費電力デバイスが開発されていることで、環境発電の活用範囲も拡大しています。
IoT社会の到来によって、膨大な数のIoTセンサーがネットワークにつながることが想定されており、電源配線や電池交換が不要な環境発電の活用が期待されています[*4]。

さらに、SDGs(持続可能な開発目標)への世界的な関心の高まりもあり、環境発電は再生可能エネルギーを有効活用し、環境負荷を低減できる電力源としても評価されています。

現時点では、日本での環境発電の認知度は低く、市場規模がまだ小さいものの、世界全体では2030年頃にかけて需要が大きく伸びると予測されています。

環境発電技術の世界市場の成長には、EUにおけるバッテリー規制が関係しています。
EUでは、環境負荷低減を目的にポータブル一次電池の段階的な廃止を掲げており、その代替技術として環境発電技術の研究開発が加速しています。

さらに、2030年ごろに商用化が見込まれている第6世代移動通信システム(6G)に向けて、世界各国で環境発電技術を活かしたゼロエネルギーデバイスの研究開発や実証実験が進められています[*5]。
6Gの商用化によって、より多くのIoTセンサーが同時接続される社会が実現すれば、環境発電を活用したデバイスのニーズも高まります。

環境発電(エネルギーハーベスティング)の研究開発事例
空気中の湿度変化で発電する湿度変動電池

産業総合研究所では、地球上のいたるところに存在する空気中の湿度変化をエネルギー源とした環境発電の技術開発を進めています。

2021年に開発された「湿度変動電池」は、湿度の変動によって生じる電解液の塩分濃度の変化を利用して発電します。
この湿度変動電池では、低湿度では電解液の水分が蒸発して濃度が上昇し、反対に高湿度では空気中の水分を吸収することで電解液の濃度が低下することを利用し、電圧を発生させます[*6], (図2)。

図2: 湿度変動電池の動作原理
出典: 産総研空気中の湿度変化を利用して発電する『湿度変動電池』を開発」(2021)
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2021/pr20210602/pr20210602.html

 

空気中の湿度変化は、昼夜の温度変化に伴い自然に発生します。つまり湿度変動電池は、置いておくだけでどこでも発電でき、理論上では半永久的に電気エネルギーを取り出すことができます。

湿度変動電池の実用化に向けて、より高い性能を目指して技術開発が進められています。
2025年には、4ヶ月以上の長期にわたってワイヤレスセンサーを駆動させることに世界で初めて成功しました。

湿度が変動する環境であれば場所を選ばず発電できるため、IoTセンサーの電源としての活用が期待されています[*7]。

わずかな動きで発電する電磁誘導発電モジュール

2025年2月、三菱電機では、そよ風や弱い水流、人が床を踏む動きなどの微小な振動を利用して発電する電磁誘導発電モジュールを開発しました。

このモジュールは、風車(かざぐるま)をうちわで扇ぐ程度の低速かつ軽い動きでも、発電できることが確認されています。これまでは発電が難しかった、少ない流量や不規則な風、水流、人の往来、窓や扉の開閉などでも発電が可能で、さまざまなシーンで活用されることが期待されています。

次の図34は、今回開発された電磁誘導発電モジュールを用いて、無線式IoTセンサーの動作を実証する世界初の床発電システムです[*8], (図3)。

図3: 電磁誘導発電モジュールを使用した床発電システム
出典: 三菱電機わずかな動きで発電する電磁誘導発電モジュールを開発」(2025)
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/pr/2025/pdf/0212.pdf, p.3

 

この床発電システムは、床板を踏むことで磁石が上下して磁極が入れ替わることを利用して発電します。

床板と発電素子は非接触の構造になっているため、長く使用しても劣化せず、発電量が低下したり、部品を交換したりする必要もありません。
この電磁誘導発電モジュールは、配線や電池交換が不要なIoTセンサー用の電源としてさらなる実証実験を進め、2027年度までに実用化することを目指しています。

微弱な電波を利用した環境発電技術の実証実験

身の回りに飛び交っているWi-FiやBluetoothなどの通信用電波も、環境発電のエネルギー源の一つです。

2024年8月、東北大学の研究チームは、スピントロニクスの原理を利用して微弱な通信用電波を電気エネルギーに変換する実証実験に成功しました。
スピントロニクスとは電子の電気的な性質(電荷)と磁気的な性質(スピン)を協調させ、工学分野に応用することで、デバイスの開発に貢献する技術です。

この実証実験では、極めて微弱な電波を直流電圧に変換し、市販の温度センサーを駆動させることに成功しました[*9], (図4)。

図4:  無線通信用の高周波(RF)信号を用いた環境発電の模式図。電磁誘導発電モジュールを使用した床発電システム
出典: 東北大学微弱な無線通信用電波からの環境発電をスピントロニクスで実現」(2024)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/08/press20240805-02-spin.html

 

微弱な電波を利用した環境発電は、スマートスピーカーやセキュリティカメラ、各種センサーなど、ネットワークの末端に位置して現場でのデータ収集をおこなうエッジ端末への応用が期待されています。

まとめ

環境発電(エネルギーハーベスティング)は、低消費電力デバイス向けの電源として古くから存在する技術です。

メンテナンスフリーで場所を選ばず設置できることから、IoT社会に欠かせないセンサーネットワークを支える技術として注目されています。
環境発電で得られる電力は、従来の発電方法と比較すると微量ではありますが、そのエネルギー源は多岐にわたり、大きな可能性を秘めています。

発電効率の向上を目指して技術開発も進められており、今後ますますセンサーや小型デバイス、IoT機器への活用が広がることが期待されます。

 

参照・引用を見る

※参考URLはすべて執筆時の情報です

*1
人とシステム環境発電」
https://www.nttd-es.co.jp/magazine/backnumber/no108/no108-refresh-energy-1.html

*2
エネルギーハーベスティングコンソーシアムエネルギーハーベスティングとは」
https://www.nttdata-strategy.com/ehc/about/

*3
応用物理学会IoT社会を支える自立電源技術:環境発電」
https://www.jsap.or.jp/columns/gx/s-4

*4
MRIエネルギーハーベスティングが拓くIoTの世界」(2017)
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20170120.html

*5
精密工学会誌エネルギーハーベスティング技術の現状と未来」(2022)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/88/11/88_805/_pdf, p.808

*6
産総研空気中の湿度変化を利用して発電する『湿度変動電池』を開発」(2021)
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2021/pr20210602/pr20210602.html

*7
産総研湿度変化で発電できる『湿度変動電池』の性能がアップ」(2025)
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250122/pr20250122.html

*8
三菱電機わずかな動きで発電する電磁誘導発電モジュールを開発」(2025)
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/pr/2025/pdf/0212.pdf, p.2, p.3

*9
東北大学微弱な無線通信用電波からの環境発電をスピントロニクスで実現」(2024)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/08/press20240805-02-spin.html

メルマガ登録