はじめに 地域マイクログリッドの概要と必要性
近年、災害リスクへの対応や再生可能エネルギー普及の観点から、地域マイクログリッドが大きな注目を集めています。地域マイクログリッドとは、一定範囲内で複数の需要家と発電設備、蓄電システムなどを統合し、外部の大規模送電網から独立しても安定した電力供給を可能とする仕組みを指します(参照*1)。大規模停電などで主系統からの電力が途絶した場合でも、地域内に分散したエネルギー資源を連携させることで自律的に電力をまかなうことができます。
地域マイクログリッドの主な利点として、災害時のレジリエンス強化が挙げられます。台風や豪雨、地震などによる広域停電の被害を軽減できるだけでなく、独立運転が可能なため復旧時間を短縮しやすいという特徴があります。また、地域で生産したエネルギーを地域で消費することで、地産地消の観点から地域経済の活性化にもつながります。さらに分散型電源の導入が進むことで、大規模送電網の負荷が低減され、系統全体の安定度向上も期待できます。
一方で、地域マイクログリッドを機能させるためには、適切な運用設計や制度的支援が重要です。各家庭や事業所の消費動向を統合的に管理し、エネルギー供給と需要を効率的にコントロールする仕組みを整えることで、再生可能エネルギーの変動にも柔軟に対応できます。そのためには地域の理解や協力、資金調達手段の確立など、多角的なアプローチが求められます。本記事では、エネルギー自立を目指すうえで重要な地域マイクログリッドについて、事例や技術面を交えながら詳しく解説します。
地域マイクログリッドの設計と実証事例
設計の基本要素と検討ポイント
地域マイクログリッドを導入する際は、設計段階での綿密な検討が不可欠です。特に、地域の自然エネルギー資源をどのように取り込むか、需要量と発電量をどうバランスさせるかが重要なポイントとなります。地域の気候や日照条件、土地利用状況に合わせて太陽光や風力、小水力などの発電方式を適切に組み合わせ、蓄電池システムを導入することで、夜間や悪天候時にも安定した電力供給が可能となります。各地域の需要特性は異なるため、導入前のマスタープラン作成やシミュレーションが非常に重要です。
設計の要点としては、まず地域での電力需要の調査と、自然エネルギー資源の分布把握が欠かせません。需要家の生活パターンや産業活動から電力ピークがいつ発生するかを予測し、最適な規模の発電・蓄電システムを導入することが求められます。さらに系統安定化のためには、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入し、需要と供給をリアルタイムで制御する仕組みを整える必要があります。
設計検討時に重要となる視点として、以下の点が挙げられます。
- 地域特性に応じた再生可能エネルギーの選定
- 蓄電池の容量設定と管理システムの構築
- メンテナンス体制と財政支援の確保
これらを丁寧に検討し、住民・自治体・事業者が連携して取り組むことで、実効性の高い地域マイクログリッドを形成できます。
国内外の実証事例
国内では、北海道松前町で再生可能エネルギー活用と蓄電網の構築を進め、停電リスクを軽減する地域マイクログリッドの実証が行われています。経済産業省の補助事業の一環として2020年度にマスタープランが策定され、北海道電力ネットワークの送配電網を活用し、大規模停電時にも主要地区へ一定の電力を提供することを目指しています(参照*2)。設備導入だけでなく、一般住民への周知や協同体制づくりにも力を入れ、日常的に電力の地産地消を促すことで地域の防災力強化にも寄与しています。
また、群馬県上野村でも自立分散型の電力供給を志向し、独自のマスタープランを作成して段階的に地域マイクログリッドを構築する動きが進められています(参照*3)。

図1: 地域マイクログリッド構築イメージ
出展: 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT) – 山間地域のマイクログリッド構築~災害時の停電ゼロ~
https://adaptation-platform.nies.go.jp/data/measures/db-185.html
海外では、アメリカのメイン州イーストポートで潮力発電を活用した地域マイクログリッドの構築が進められており、島嶼部の特性を生かして災害に強い電力インフラを目指す取り組みが行われています(参照*4)。
再生可能エネルギーと蓄電池の活用
再生可能エネルギーの多様な活用
地域マイクログリッドの構築では、再生可能エネルギーの多様な活用が大きな柱となります。太陽光や風力、小水力、潮力などは自然条件に左右されやすい一方で、地域に根差したエネルギー資源としての利点も大きいです。これらの発電方式を組み合わせることで、電源の多様化と安定供給が実現しやすくなります。
世界に目を向けると、アメリカのメイン州イーストポートでは潮力発電のポテンシャルが高く、これを地域マイクログリッドに取り入れて災害に強い電力インフラを整える試みが進行中です(参照*4)。また、日本国内でも再生可能エネルギー100パーセントの運用を進める企業が増えており、地域マイクログリッドやPPA(第三者所有による太陽光発電設備リース)などを積極的に推進する事例が見られます(参照*5)。
蓄電池の役割と導入課題
再生可能エネルギーは発電量が天候や時間帯によって変動しやすいため、蓄電池の活用が不可欠です。蓄電池は、需要と発電のタイミングを調整し、地域全体の電力を安定的に供給する中枢として機能します。系統障害時やピーク時にも蓄電池の放電機能によって瞬時に電力を供給できれば、地域住民の安心にもつながります。
一方で、導入コストや蓄電池のライフサイクル、地域事情に合わせた維持管理の課題も存在します。特に人口が少ない地域では資金回収のめどが立ちにくい場合もあり、自治体や関連企業の補助制度、住民合意の形成が重要です。大容量蓄電池の導入による供給安定化が進めば、地域の産業振興や公共インフラの強靱化にも寄与しやすく、エネルギーの地産地消を実現する新たなモデルとしてさらなる普及が期待されています。
災害時のレジリエンス向上と具体策
災害時の電力供給体制と優先順位
地域マイクログリッドが真価を発揮するのは、大規模停電や災害が発生したときです。主系統が停止した場合でも、地域に配置された分散型電源と蓄電池が連携し、重要施設や生活インフラへ最低限の電力を確保することで、被害の拡大を抑えることができます。非常時のバックアップ体制を成立させるには、どの出力をどの範囲に回すかといった優先順位の設定が欠かせません。医療機関や避難所など人命に直結する施設を中心に電力を回す運用が基本ですが、地域にはさまざまな事業所や個人宅があるため、それらをどこまで保護対象とするかは事前に調整しておく必要があります。
国内外のレジリエンス強化事例
海外ではオーストラリア連邦政府が管轄する地域マイクログリッドプログラムを通じて、西オーストラリア州で蓄電池の実証事業を支援し、長寿命蓄電システムによるレジリエンス強化を検討する取り組みが進行しています(参照*6)。また、アメリカ合衆国ノースカロライナ州でも州エネルギー部が約500万ドルを投資し、恒久型や移動型マイクログリッドによる災害復旧モデルに取り組んでいます(参照*7)。大規模な自然災害が頻発する社会情勢を踏まえると、迅速に電力を復旧し、被害の長期化を防ぐための基盤づくりがますます求められています。
地域住民と連携した防災体制の構築
レジリエンス強化には、自治体や企業だけでなく、地域住民が日頃から災害に備えておく協力体制も重要です。具体策としては、定期的に電力供給シミュレーション訓練を行い、主系統がダウンしても地域マイクログリッドへの切り替えがスムーズに進むようマニュアルを整備することが挙げられます。さらに、防災拠点となる建物への太陽光パネルや蓄電池の設置補助を拡充し、モバイル蓄電池のレンタル制度などを導入すれば、緊急時に迅速な対応が取りやすくなります。平時から継続的な調整を行うことで、災害時の電力供給をより確実なものにすることができます。
まとめ 地域マイクログリッドの可能性と今後の展望
ここまで見てきたように、地域マイクログリッドは災害時のレジリエンス向上と地域社会のエネルギー自立を両立する手段として注目されており、世界各国で事例が増えています。再生可能エネルギーを軸に、蓄電池やエネルギーマネジメントシステムを組み合わせることで、主系統からの供給が途絶しても最低限の電力をまかない続けることが可能になります。特に、地域の自然環境や社会情勢に合わせて設計できる柔軟性が大きな強みです。
導入にあたっては多くの課題もありますが、補助制度の活用や地域住民との情報共有を進めることにより、段階的に整備を進めていくケースが増えています。地域マイクログリッドを通じた地産地消のエネルギーモデルが普及すれば、国内外で拡大する環境負荷の軽減と、災害リスク低減の両面に好影響を及ぼす可能性があります。将来的には、小規模から大規模へとさまざまな水準で導入が進むことで、持続的な地域経済と強靱なインフラの両立を実現する一助となるでしょう。
エネルギー自立を実現する地域マイクログリッドは、環境面・経済面・防災面に大きなインパクトを与えるポテンシャルがあります。今後は技術革新による蓄電池コストの低下や効率的なエネルギー管理手法の登場が期待される中で、さらに導入のハードルが下がり、地域全体の取り組みへと広がっていくことが予想されます。自治体や企業、研究機関が協力し、地域の人々が主体的に参画していくことで、持続可能な社会の実現に貢献する仕組みとして、地域マイクログリッドは一層の進化を遂げると考えられます。
参照・引用を見る
(*1) Division of Local Government
(*2) 「再エネ スタート」はじめてみませんか 再エネ活用 – 北海道松前町で地域マイクログリッド事業開始 災害レジリエンス強化と地域活性化を目指す
(*3) 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT) – 山間地域のマイクログリッド構築~災害時の停電ゼロ~
(*4) Resilience at the Edge: City of Eastport Considers Harnessing Tidal Power for Island Microgrid
(*5) 気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative) – 気候変動イニシアティブ – Japan Climate Initiative – JCI
(*6) ジェトロ – 連邦政府と西オーストラリア州、蓄電池実証事業への支援発表(オーストラリア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
(*7) North Carolina Launches Clean Energy Microgrid Initiative to Boost Disaster Resilience