はじめに
環境アセスメントは、事業を進める際に生じる可能性のある環境への影響を事前に予測・評価し、地域社会や自然との調和を図るための重要な制度です。近年はまちづくりやエネルギー開発など、さまざまな事業の拡大に伴い、より高度な環境配慮が求められています。法律の改正や技術の進歩も相まって、環境アセスメントの役割はますます拡大しています。
本記事では、環境アセスメントの基本的な仕組みから法改正の歴史、最新の国内外動向までをわかりやすく解説します。特に、日本における建替事業や風力発電の環境アセスメント、WHOによる国際的な健康影響評価との連携など、多角的な観点を取り入れました。この記事を通じて、環境アセスメントの全体像を把握し、将来の環境保全に貢献するための視点を得ることができます。
環境アセスメントとは
概要
環境アセスメントは、事業や政策の採択前に、環境への潜在的な影響を多角的に予測・評価する手続きです。海外ではEIA(Environmental Impact Assessment)の名称が広く知られ、政策レベルから地域レベルまで多層的に実施されることがあります。例えば、WHO(世界保健機関)による健康影響評価(HIA)との連携も進められています(参照*1)。具体的には、開発が大気、水質、生態系、景観、住民の健康などにどのような影響を及ぼすかを分析し、対策や代替案を検討した上で適切な改善策を講じるのが基本です。事業主や地域住民、行政機関、専門家など、多様な利害関係者が参加し、透明性を確保しながら評価を進める点も大きな特徴です。
環境アセスメントは、手法ごとに段階的に進められます。たとえば健康影響評価(HIA)では、スクリーニング、スコーピング、評価、報告、意思決定と提言、モニタリングのステップに分かれ、科学的知見と地域住民の意見を組み合わせて進められます(参照*1)。一方、米国における環境アセスメント(EA)では、提案行為や代替案の影響を公平に示し、必要に応じて環境影響評価書(EIS)の作成へ移行するなど、プロセスが制度化されています(参照*2)。国際的には、戦略的環境アセスメント(SEA)など、政策段階から環境配慮を組み入れる動きも広がっています。
効果
環境アセスメントを実施する最大のメリットは、事業に伴う環境リスクを早期に把握し、問題が顕在化する前に対策を検討できる点です。米国のNEPA(National Environmental Policy Act)制度では、重大な環境影響がない場合にはFONSI(Finding of No Significant Impact)、つまり「環境影響がないという確認」が出され、影響が大きいと判断されればEIS(環境影響評価書)を作成することで、より詳細な検討へと移行します(参照*3)。これにより、不要なコストや紛争を抑えながら、リスク回避が可能となります。
さらに、適切な環境アセスメントは社会的な合意形成を助けます。住民への説明責任や事業計画の正当性を示すうえでも、アセスメントが存在すると、後々の対立を緩和しやすくなります。また、事業完了後のモニタリングデータを蓄積し、将来的な環境施策に活用する枠組みが確立すれば、後続事業の改善にもつながります。日本でも法改正を重ねながら、評価手続きで作成される図書(アセス図書)の継続的な公開や情報の蓄積・分析に力点を置く流れがみられます。今後は、例えば廃棄物や土壌浸出など詳細な領域へ評価を広げる手法としてLEAF(Leaching Environmental Assessment Framework)も注目されており(参照*4)、評価精度のさらなる向上が期待されています。
環境アセスメントの歴史と法改正
環境アセスメントは1960年代から世界的に注目され、1970年に米国でNEPAが成立したことをきっかけに、多くの国で制度化が進みました。日本では1997年に環境影響評価法が成立し、2013年には環境配慮書が制度に組み込まれるなど、段階的な改正が行われてきました(参照*5)。この改正によって、手続きの透明性向上や住民の意見集約プロセスがより重視されるようになったのが特徴です。同法では、事業者が可能な限り環境に配慮した修正案を検討し、それを図書にまとめて公表する仕組みが設けられました。
法施行から四半世紀が経過する中で、建替事業で同規模の施設を近接地に新設する場合でも、初回のアセスメントと同様の手続きを求められる点や、アセス図書が公表期間を過ぎると閲覧しづらくなる点などが課題とされてきました。これを受けて、建替事業の規定を見直し、既設施設の実態を考慮した上で手続きを簡素化する改正が行われています(参照*5)。また、図書の継続公開を促し、後続事業者が累積的な環境影響を検証しやすくする枠組みも整備され始めました。
各地域で独自のアセス条例が設けられるようになったことも大きな変化です。九州・沖縄地方では、改正法施行後、アセスメント制度の強化が図られ、自治体や事業者に向けたセミナーや研究会が実施されています(参照*6)。法令や条例を横断的に整理し、都道府県をまたいだ事例の情報共有が進められています。こうした動きは全国に広がり、地域の自然や住民に根ざした形で策定された条例が、実際の開発行為に的確に対応できるようになっています。
さらに、風力・地熱発電などの再生可能エネルギー導入促進とも連動し、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による実証事業が積極的に行われました(参照*7)。2014年度から環境アセスメント手続期間を半減する取り組みが始まり、2018年2月末に実証を終えています。手戻りリスクを抱えつつも、前倒し調査のノウハウやガイドラインが公開され、風力発電や地熱発電のアセス期間を短縮しつつ質を保つ手法が広まっています。法改正では、こうした実証と並行して手続き面の整備が進められ、今後も定期的な見直しが続く見通しです。
日本における環境アセスメント
建替事業対応と最新動向
日本では、長年運用されてきた施設を建替える際にも現行の環境影響評価法が適用されるため、建替前後の施設が大きく変わらない場合でも、新規事業と同様に詳細な調査が必要とされてきました。近年の法改正では、大幅な位置移動がない建替事業において、既設事業で把握した環境影響を活用する方向で見直しが行われています(参照*5)。これにより、不要な調査コストを削減し、より現実的な環境対策が実施しやすくなると期待されています。
ただし、建替時点で周辺環境がすでに変化しているケースもあるため、現状の調査をすべて省略できるわけではありません。特に、絶滅危惧種の分布状況などは、事業地の周辺状況を再確認する必要があります。九州・沖縄地方などでも地域独自の絶滅危惧種や固有生物が存在するため、建替事業であっても十分な評価が求められています(参照*6)。これらの実例を踏まえ、地域特性に合致した柔軟な運用が今後さらに進む見通しです。
風力発電への事例
日本における再生可能エネルギーの普及拡大の中で、風力発電事業のアセス件数は増加しています。陸上から洋上まで幅広い領域で適地調査の需要が高まり、鳥類調査や騒音・低周波など新たな課題が浮上するケースも多くなっています(参照*8)。こうした状況に対応するため、日本では前倒調査を実施し、事業計画の初期段階から自然環境や住民の声を織り込むアプローチが重要視されています。
NEDOが2014年度から進めた「環境アセスメント調査早期実証事業」では、風力発電事業を中心に、調査期間の短縮と精度向上の両立を目指す指針づくりが進められました。結果、4年程度かかるとされていたアセス期間を半減することを目標に掲げ、有用な前倒調査や迅速な審査手順に関する技術事例集がまとめられています(参照*7)。例えば鳥類の飛来ルート調査や景観影響予測にVR技術を使うなど、効率的かつ公正な評価手法が多数導入されました。こうした取り組みは、風力発電をはじめとする再生可能エネルギー導入のさらなる拡大に向けた大きな一歩となっています。
海外における環境アセスメント
海外では、米国のNEPAが代表的な枠組みとして知られています。連邦機関が重大な行動を提案すると、まずカテゴリー除外(CATEX)に該当しないかを確認し、該当しなければEA(環境アセスメント)を作成します。ここで重大な影響が見込まれる場合には、EIS(環境影響評価書)を作成して、より詳細な分析と公衆意見の募集を行う流れです(参照*3)。米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の地域オフィスが設定するEAのガイドラインに沿って、提案行為や代替案の客観的評価を行い、専門用語や仮定を最小限にするよう求められます(参照*2)。
欧州連合(EU)各国やカナダ、オーストラリアでも環境アセス制度が確立しており、国ごとの法規や地域性に応じた多様な形態をとります。一方、開発途上国では制度整備自体が進行途上の場合が多く、国際機関の支援やODA(政府開発援助)などを通じて評価手法を導入する動きも見られます。WHOが提唱する健康影響評価(HIA)との連携は、特に公衆衛生の視点を重視する計画やプロジェクトで注目されています(参照*1)。呼吸器疾患や水質汚染など直接的な健康リスクが多い地域では、環境と健康の両面を同時に考慮する枠組みが重要です。
さらに米国のEPA(環境保護庁)が推進するLEAFは、固体廃棄物や建材からの無機成分放出を評価するための手法をまとめています。Method1313やMethod1314などを組み合わせることで浸出挙動を把握し、シナリオごとのリスク評価に役立つ仕組みです(参照*4)。このような詳細手法の整備は、廃棄物や汚染物質のライフサイクル全体を通じた環境安全の確保に役立っています。
環境アセスメントの今後
日本では、2020年代に入り風力発電が対象案件全体の約8割を占めるとの報告もあり、意見の集約には継続的な努力が求められています(参照*9)。環境省はアセス図書の継続公開や、報告書を一元管理する仕組みの構築を検討中で、これにより手続き中の情報開示だけでなく、事後評価まで一貫したデータ活用が容易になると期待されています。報告書の集約や後続事業へのフィードバックが進めば、風力発電特有の騒音や景観・鳥類被害といったリスクを軽減する可能性が高まります。一方で、温暖化対策推進法など他の法令との連携や、戦略的環境アセスメント(SEA)の導入に向けたロードマップなど、今後の課題も残されています。
また、大気汚染や騒音などの量的評価にとどまらず、生物多様性やエコシステムサービスの評価方法に関する議論も深まっています。地方自治体のアセス審査担当者に向けたセミナーを活用し、予測手法を実習しながらスキル向上を図る動きが広まっています(参照*10)。生態系評価の分野では、絶滅危惧種や希少種の分布対策だけでなく、植生回復や生態系ネットワークの保全などを総合的に検討する機運が高まっています。今後は自治体・企業・研究機関が連携しながら、高度なシミュレーション技術やビッグデータを活用し、より精密かつ有効なアセスプロセスを実現していくことが期待されます。
最新の制度・法改正の潮流
2023年に公布された環境影響評価法の改正案では、建替事業を対象としたアセス手続きの見直しや、アセス図書の継続公開が盛り込まれました。これにより、既存事業の環境影響を踏まえた上で新設する工作物の環境配慮内容を明示することや、事業者の縦覧期間終了後も環境大臣がアセス図書をインターネット上で継続的に公開できるようになりました(参照*11)。
また、東北地方や九州・沖縄地方などでは、再生可能エネルギー発電所の新設や更新計画が増加しており、地域特性に応じた環境アセスメントの実施が求められています。環境省は地理情報システム(GIS)を活用し、自然環境や社会環境情報の収集・共有を推進しています(参照*12)。
改正のポイント
直近の法改正では、大規模開発を行う際のスコープ設定がより詳細化された点が特徴です。たとえば、風力発電を計画する事業者は、鳥類の飛来状況や騒音レベルの変化を時期ごとに細分化して提出することが求められる場合があります。太陽光発電でも土壌浸食や水質への影響を明確に分析し、防災計画を含めて説明することが指示されています。これらの指針には、持続可能なエネルギー利用の拡大と自然環境保護の両立を目指す最新の考え方が反映されています。
さらに、住民からの意見募集期間が延長されるケースが増えており、意見を踏まえた計画修正が義務付けられる例も見られます。これにより、実質的な合意形成が進めやすくなっています。加えて、アセス図書の継続公開制度が導入されたことで、累積的な環境影響評価や周辺事業者との情報共有が促進されるようになりました(参照*11)。
発電事業者が直面する課題・リスク
発電事業は、エネルギー供給の安定化に寄与する一方で、地域社会や自然環境に大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、事業者は法令順守だけでなく、実践的なリスク管理やコミュニケーション施策を多角的に検討する必要があります。
住民合意・地元理解
住民合意は環境アセスメントを実施するうえで重要な要素です。発電事業では、建設工事による騒音や景観の変化など、地域住民が日常的に感じる影響が少なくありません。事業者が一方的に情報を提示するだけでは理解を得にくく、意見を聞く場を複数回設けるなど、双方向の意思疎通が求められます。
特に風力発電計画では、風車の回転による低周波音への懸念が指摘されることがあり、専門的な調査結果の公開や丁寧な説明が必要とされています。洋上風力発電では、鳥類の飛翔状況を遠隔で継続監視できるシステムが導入され、事後調査や日々の環境監視の手法として活用されています(参照*13)。
太陽光発電の場合も、パネルによる日射や反射光、土地の伐採による景観の変化などに不安を抱く住民がいる場合があります。こうした声を事前に把握し、適切な対応策を示すことで、後々のトラブルや事業停止リスクを減らすことが可能です。
生物多様性・景観
発電所の建設により生息環境を失う動植物も存在します。特に風力発電の稼働エリアでは、渡り鳥など貴重な鳥類の生息域を脅かすリスクが議論されており、太陽光発電の大規模パネル設置では森林伐採の影響が懸念されています。これらは生物多様性だけでなく、観光資源や住民の愛着を支える景観にも影響を及ぼします。
そのため、事業計画の段階で自然環境調査や保全対策の具体案を示すことが重要です。さらに、生物の移動経路や植生の再生力といった科学的根拠に基づく評価を行うことで、地域との良好な関係や事業の安定運営につながります。
おわりに
環境アセスメントは、社会全体で持続可能な発展を目指すうえで重要な制度です。事業者や自治体が評価結果を活用することで、地域の自然や住民との調和を図りつつ、経済活動を進めていく基盤を築くことができます。
今後は技術的な進歩や法改正の動向を踏まえ、より効率的かつ包括的な評価方法が求められます。風力発電や建替事業などに対する最新の取り組み事例を参考にしながら、実践的なノウハウを積み上げていくことで、環境にやさしい社会基盤の形成が期待されます。
参照・引用を見る
(*1) Health impact assessments
(*2) Anatomy of an Environmental Assessment
(*3) US EPA – National Environmental Policy Act Review Process
(*4) US EPA – Leaching Environmental Assessment Framework (LEAF) Methods and Guidance
(*5) https://www.env.go.jp/content/000290803.pdf
(*7) 環境アセスメント迅速化手法のガイド
(*8) 再生可能エネルギーの導入支援
(*9) 日本自然保護協会オフィシャルサイト
(*10) 環境省 – 環境アセスメントにおける定量的予測手法に関するセミナー
(*11)https://www.env.go.jp/content/000290803.pdf
(*12)https://tohoku.env.go.jp/earth/mat/post_5.html
(*13)https://www.jwa.or.jp/service/energy-management/assessment-04/
(*14)https://www.kensetsukankyo.co.jp/business/environment/energy/renewable.html