はじめに
地球温暖化や化石燃料への依存リスクが高まる中、再生可能エネルギーをはじめとする持続可能なエネルギーへの転換が求められています。
この記事では、「地域共生型再生エネルギー事業」について解説します。
地域共生型再生可能エネルギー事業とは何か
再エネ事業において、地域の雇用や産業の創出、観光振興、まちづくり、災害時の電力供給など、地域に裨益(ひえき)し、地域と共生する取組を実施していくことを、「地域共生型再生可能エネルギー事業」と呼びます。(参照*1)
地域ごとの特性や資源を活用し、単に再生可能エネルギーを導入するだけでなく、その運用を地域の日常生活や経済活動と結び付けるのが特徴です。外部資本による大規模な設備投資だけでなく、地域住民が資金面や運営面で関わりを持ち、経済効果や雇用創出にも寄与することを目指しています。
こうした取り組みは、地球環境負荷の低減を通じて持続可能な社会の実現を目指すと同時に、地域が自らエネルギー供給をコントロールすることで防災面の強化や費用削減にもつながります。
地域共生と従来型エネルギー事業の違い
従来型のエネルギー事業では、大規模な中央電源による発電と全国送電網を通じた大量供給が主流でした。一方、地域共生型再生可能エネルギーでは、小規模分散型の再生可能エネルギー資源を最大限に活かし、地域の合意形成を経て事業を推進する点が特徴です。
都市部のように人口や経済活動が集中する地域では、従来の環境汚染や大量消費への対策が課題でしたが、現在は資材やエネルギーを循環させる都市構築の必要性が提起され、地域のスケールでも効率的にエネルギーを利用する仕組みが求められています(参照*2)。
欧州では、地域と産業をまたぐエネルギー協力や副産物の交換を通じて持続可能な産業団地を形成する「産業共生」の事例が見られます(参照*3)。こうした仕組みは、企業間や自治体との協力によりエネルギーや水資源を共有し、要所に投資を集中させる点が特徴です。要所とは、例えば、複数の企業や自治体が共同で利用するエネルギー供給施設や、資源交換のための集約拠点などです。
地域共生型再エネ事業の類型
地域共生型再エネ事業は、エネルギー資源の種類や事業主体、住民参加の度合いなど多様な形で展開されます。
地域の再エネ発電所を束ね、立地自治体側では地域新電力へ最優先で販売して地産地消を進め、余剰電気は「都市への輸出」に割り振って運用し、運用益を「地域活性化資金」として立地自治体と協議したうえで地元へ還元する枠組みが、横浜市の「e.CYCLE」の説明として掲載されています(参照4)。
また、長野県では企業局が水力発電施設を運営し、中部電力ミライズが販売環境を整備し、セイコーエプソンなどが消費側として参加する仕組みが官民一体で作り上げられています(参照*5)。

図1: 長野県における官民一体型再エネ事業の枠組み
出展: 一般社団法人 新エネルギー財団「長野県内の豊かな水資源による再エネ電源開発加速に向けた官民一体プロジェクト」
https://www.nef.or.jp/award/winner/r04/b_08.html
このように発電する側、売る側、使う側がそれぞれ参画することで、地域全体の再エネ供給を拡大し、経済波及効果を地域内に循環させる事例が確立しつつあります。
住民参加型エネルギー事業の設計
住民参加のスキーム設計
地域共生型再生可能エネルギー事業においては、環境技術や費用対効果だけでなく、住民が納得し主体性を持つ場を用意することが、中長期的に事業を成功させるポイントになります。
また、企業と自治体だけで話を進めるのではなく、家庭や地元組織が出資や資金調達の手法に関わり、ファイナンス面でも主導権を一部担う形を作ることで、住民が主体的にプロジェクトに参画しやすい環境が整います。
実際に茨城県神栖市では、官民連携に加え住民の意見を吸い上げる取り組みが進行し、年間数千万円規模で地域活性化を目指す例があります(参照*6)。この仕組みは再エネ調達や電力供給だけでなく、地元のニーズを探って生活環境や将来のビジョンと一体的に結び付ける点が特徴です。
米国の沿岸地域でも、海洋再生可能エネルギーと漁業コミュニティの共存に向けた研究プロジェクトが公募され、コミュニティエンゲージメントや利害関係者との協働を重視した取り組みが進められています(参照*7)。
情報公開と対話の場
住民参加を進めるには、事業者が周辺地域の住民へ適切に情報提供し、事業によって生じ得る周辺地域への影響に関する懸念へ対応して、理解と信頼を高めることが前提になります(参照*8)。
さらに、説明会等の実施にあたっては、地域の実情を踏まえた追加的な説明や対応を行う考え方も示されています。
自治体との連携と制度・税制の活用
自治体連携の枠組み
地域共生型の再生可能エネルギー事業では、自治体が発電設備の整備・運用に関与することで、事業の土台が作りやすくなります。実際に、地方自治体の公営企業(企業局など)が水力発電所を運営し、発電した電力を小売電気事業者へ供給している例があります(参照*9)。また、再生可能エネルギーとして水力・太陽光・風力を活用した発電事業を公営で行う体制も確認できます(参照*10)。
また、自治体が出資する地域新電力が、市民共同発電所など地域の発電電源を活用して地域内循環を進める事例も示されています(参照*11)。
このように、自治体と地域電力小売が協力し、地域資源を電源として確保しながら地域内供給と外部需要の開拓を組み合わせ、地域経済への波及を狙う構想は、経済産業省の事例集でも「自治体との連携」などの論点として整理されています(参照*12)。
再エネ共生税・法定外税の活用
近年、多くの地方公共団体で検討や施行が進められているのが、再生可能エネルギー共生を目的とする新たな法定外税(再エネ共生税)です。これは、太陽光や風力、バイオマスなどの発電設備を設置する事業者に対し、規模や出力を基準に課税を行い、その税収を地域の環境保全や防災対策に活用する取り組みです。
美作市では太陽光発電設備の総面積を基準に1㎡あたり50円の課税を行い、防災や生活環境対策に税収を活用しています。宮城県では森林内の太陽光・風力・バイオマス設備に対し、設備種別ごとに税率を設定し、5年間の課税期間を設けています。
青森県では太陽光2000kW以上、風力500kW以上の設備を対象に、区域ごとに税率を設定しています(参照*13)。
これらの税制は、地域と再生可能エネルギー発電事業の共生を目的として導入されており、地域住民の負担抑制や環境保全、地域振興に直接税収を回しやすい環境が整備されています。
補助金・公募事業の活用
エネルギー関連の公募事業や補助金制度も、自治体連携を加速させる大きな要素です。令和6年度・令和7年度の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金などは、民間企業や関係団体が再生可能エネルギー導入を進める際に活用でき、地域共生の観点から追加的な支援措置がとられることもあります(参照*14)。
また、過疎地や自然条件が厳しい地域ほど、公共事業や補助金を活用したインフラ投資が重要です。例えば、地熱発電の掘削調査費用や、木質バイオマスのボイラー導入時の補助金などが挙げられます。自治体がこれらの制度を戦略的に活用し、地域の特性を踏まえた再エネの利活用を後押しすることで、持続可能な地域経済の形成につなげることが期待されます。行政と民間、住民が一体となって公的制度を上手に使いこなすことが、地域共生型再生可能エネルギー事業の成功に直結します。
地域経済を生み出すビジネスモデルと資金循環の事例
再エネアグリゲーションと地産地消
地域共生型の再生可能エネルギー事業では、小規模な分散型電源や需要側リソース(DR等)が単体では市場要件を満たしにくい場面があるため、アグリゲーション(複数リソースの集約)によって一体として運用し、市場取引や需給調整へ参加させる設計もあります。
例えば、需給調整市場では最低入札量が1MW(商品・方式により要件が整理)とされており、単体で満たせないリソースをアグリゲートして参入する考え方が制度側の資料で示されています(参照*15)。
バイオマスや地熱などの地域と密接に結び付いたエネルギーの場合、産業分野との連携が重要です。食品系バイオマスや畜産系廃棄物をメタン発酵してバイオガス発電を行う事例では、発電時に出る排ガスや熱が農業施設で利用され、液体肥料が地域の農地に還元されるなど、総合的な地産地消が実現しています(参照*16)。
また、焼酎廃液や食用に適さない原料を燃料化し、土壌改良剤を生産する取り組みが地域課題の解決につながった例もあり、再エネを経済の循環システムに取り込むアプローチが多様化しています(参照*17)。
バイオマス・地熱等による地域産業連携
再生可能エネルギーの中でも、バイオマス・地熱の導入は地域の産業構造と深く関わります。木質バイオマスを用いた熱利用は、森林資源の利用促進、農林業を核とした雇用創出、さらには地域通貨を活用した社会的価値の可視化といった効果も期待されています(参照*18)。
地熱は発電にとどまらず、地域資源と結び付けた波及効果が具体例として示されています。資源エネルギー庁は、発電後の熱水を農業ハウスへ供給し、通年栽培や地域の経済効果につながった事例を紹介しています(参照*19)。
同庁の地域脱炭素の事例紹介では、温泉地での地熱発電に加え、発電時の温水を活用した養殖による雇用創出や「観光資源としても注目」されている点まで記載されています。このように、再エネ事業が観光と接点を持つ形で地域の取り組みが組み立てられる余地もあります。
おわりに
地域共生型再生可能エネルギー事業は、単なる発電と供給の枠を超え、地域経済や社会、環境との結び付きが深い点に大きな意義があります。住民や自治体、企業がそれぞれの得意分野を活かしながら共同でプロジェクトを設計・運営すれば、さまざまな課題を乗り越えつつ、持続可能性と地域振興を両立しやすくなります。
今後はさらに、新しい技術や資金調達スキームが登場することで、地域共生の選択肢が増えると考えられます。地域特性やステークホルダーの協力関係を重視する視点を持ち、多様な再生可能エネルギーを地域と共に育てていく試みが一層求められるでしょう。
参照・引用を見る
(*1) https://www.chubu.meti.go.jp/d32shinene/page/jigyokensyo.html
(*3) Fedarene – Advancing energy cooperation in industrial parks
(*4) https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/ondanka/etc/zcy-goodaround.html
(*5) 新エネルギー財団会長賞 | 令和4年度 受賞事例 | 新エネ大賞
(*6) https://www.nef.or.jp/award/winner/r06/b_12.html
(*9) https://www.pref.tochigi.lg.jp/j01/kigyokyoku/documents/20250501111640.pdf
(*10) https://www.pref.yamagata.jp/500001/kigyokyoku-top/potal.html
(*11) https://www.kansai.meti.go.jp/3-9enetai/energypolicy/saienejireisyu2025.pdf
(*12) https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/040153.pdf
(*13) RILG 一般財団法人 地方自治研究機構 – 再生可能エネルギー発電設備に対する法定外税条例
(*14) ②建物等における太陽光発電の新たな設置手法活用事業(ソーラーカーポート等)
(*16) 資源エネルギー庁長官賞 | 令和5年度 受賞事例 | 新エネ大賞
(*17) 新エネルギー財団会長賞 | 令和5年度 受賞事例 | 新エネ大賞
(*18) https://www.jst.go.jp/ristex/stipolicy/project/project44.html
(*19) https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/chinetsuhatsuden.html